本荘由利(ほんじょう ゆり)は会社帰り、同僚たちと飲みに来ていた。とはいえ、部署が同じく、気の知れた同僚計七人の男所帯。
場所も、会社の人間が良く使う、近くの居酒屋だったが、後を継いだ若大将が小洒落た和風の店に改装したので、酒を飲まない女子会などでも人気がある。
全て小あがりの席は、掘り炬燵式のテーブル席と足を伸ばせる和室であり、襖を取ってしまえば大人数の宴会も可能だった。
つまり、人数によっていかようにでも個室を作ってくれるので便利と言えば便利。
昔から馴染みにしていた年齢層の高い上役たちは、雰囲気に「行きづらくなったなぁ」なんてぼやいていたけれど、会社の名前一つで店を貸切にまでしてくれるなど、対応は変わらない。
そんな時は引退した(?)はずの先代も顔を出してくる。
というか、昔馴染みの客が赴けば、必ず顔を出してくる先代だったので、本当に引退しているのかは謎だ。
一番の御贔屓様なのだから、サービスも当然のように良くて、他の店に行ってはがっかりさせられることを、由利は覚えてしまった。
入社三年目、25歳の由利は、先輩方に勧められるまま、いや、先輩たちのペースに引きずられて飲んでいた感があって、少し飲みすぎたかな…と、トイレへと席を立った。
酒に弱いわけではないと思うが、学生の頃、まだ飲み方も分からなく、どんな飲み方をしたのだか、記憶がないことが何度かあった。
若気の至り…と言ってしまえばそれまでだが、社会人にまでなって、そんな恥さらしはできないと自制心が働く。
よく道端で転んでいたり、人に絡んでいる人を見かけるが、あれほどみっともない大人もないだろう。
歩きだして、やっぱりふらふらすることを感じ、今日のこれ以上の酒はやめておこうと思った。
トイレは店の一番奥にあり、手前が男子トイレ、奥が女子トイレとなっている。
由利が慣れたようにドアを開けると、ちょうど出ようとしていたのか、上着を脱ぎ、ネクタイも外され、ワイシャツだけになった背の高い男と鉢合わせした。
「おっ、と」
由利が俯いていたこともあって、男の声が上から降ってくる。
…あ、出さなきゃ…と咄嗟に由利の体が脇に避けた。
だけどやっぱりおぼつかない脚は動きが鈍っている。
待たせていることもあって、すぐに出ていくだろうと踏んだのに、男は動かなかった。
「ねぇ、君。こっち、男子トイレだよ」
由利は一瞬、言われた意味が分からなくて顔を上げて、目の前に立つ男に視線を送る。
確かに170センチに満たない身長は高いとは言えないし、忙しさにかまけて散髪にも行っていなかった黒髪は睫毛に被さってくるし、襟足まで伸びている。
一部には以前染めた焦げ茶色の髪が残っている始末だ。
くっきりとした目鼻立ち、色白の肌の上にある黒目と少し紅すぎるのではないかと思える唇が妙に目立つようで、由利は自分の顔をあまり気に入っていなかった。
私服を着れば、今でも学生扱いだ。
でもだからって…、由利も上着は脱いでいたけれど、ネクタイはまだ締めたままで、服装からしたって女性に間違えられるのは不本意だ。
一気に機嫌が急降下した。
「僕、男ですけど…っ」
マジマジと見てくるその視線も不愉快で、脇をすり抜ける。
用を足したかった生理現象もあった。
トイレの中は暖色系の灯りがふんわりと包んでくれる、こちらもお洒落な場所。
ブラウンの荷物代のある手洗い台は二つ並んで花が生けてあった。その奥にやはり二つの小便器と後ろに二つの個室。
由利はすぐに三つ揃っているうちのスリッパの一つに足を突っ込んだ。
いつものように向かった先、スラックスのファスナーを降ろして中身を取り出す。
その時、何故か背後からの視線を感じて、放出したいものも止めて振り返ったら、先程の男が由利の下半身を堂々と覗きこんでいた。
「ちょっ…っ、あっ…、なーっっっ」
宴会席からも離れて、店の中で一番静かな場所のはずなのに、由利の絶叫が響き渡る。
男同士、隣に並んじゃった時に、チラ見するくらいのことは常識だが、こうまであからさまな態度は、悪戯心を持っていた時代に置いてきた。
明らかに、…明らかに年上のはずだ。たぶん三十歳前後。縦長の顔つきに切れ長の目。地毛なのか染めているのか、由利の黒髪よりも茶色く、大雑把に後ろに向けて撫でつけている印象があるのは、仕事が終わったからなのか…。
親指と人差し指で顎をつまんだ男は、珍しいものを見て驚いた時の反応のように感心していた。
「いやぁ、本当に付いているんだぁ。本当に男?」
それでもまだ納得できないと言いたげに確認を求めてくる。
人の大事な部分をこれだけ他人に晒したことのない由利は、一気に顔が火照ってくる。
それが羞恥だったのか怒りだったのか、酔いのまわっていた由利には判別がつかなかった。
「うるさいっ!出ていけっ!見せ物じゃないんだよーっ!!」
さすがに人前で放尿できる図々しさも、開き直りもなく、また恥知らずでもない。
それなのに、この男は…っ!!クスリと笑ったかと思うと、「君、可愛過ぎ」と由利の尻を一撫でしてから、ようやく外に出ていった。
「くそーっっっ!!!」
何が起きたのか分からなかった由利が声を出せたのは、男の姿が完全に見えなくなった後のことだった。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
暇を見つけて書いていきますm(__)m
場所も、会社の人間が良く使う、近くの居酒屋だったが、後を継いだ若大将が小洒落た和風の店に改装したので、酒を飲まない女子会などでも人気がある。
全て小あがりの席は、掘り炬燵式のテーブル席と足を伸ばせる和室であり、襖を取ってしまえば大人数の宴会も可能だった。
つまり、人数によっていかようにでも個室を作ってくれるので便利と言えば便利。
昔から馴染みにしていた年齢層の高い上役たちは、雰囲気に「行きづらくなったなぁ」なんてぼやいていたけれど、会社の名前一つで店を貸切にまでしてくれるなど、対応は変わらない。
そんな時は引退した(?)はずの先代も顔を出してくる。
というか、昔馴染みの客が赴けば、必ず顔を出してくる先代だったので、本当に引退しているのかは謎だ。
一番の御贔屓様なのだから、サービスも当然のように良くて、他の店に行ってはがっかりさせられることを、由利は覚えてしまった。
入社三年目、25歳の由利は、先輩方に勧められるまま、いや、先輩たちのペースに引きずられて飲んでいた感があって、少し飲みすぎたかな…と、トイレへと席を立った。
酒に弱いわけではないと思うが、学生の頃、まだ飲み方も分からなく、どんな飲み方をしたのだか、記憶がないことが何度かあった。
若気の至り…と言ってしまえばそれまでだが、社会人にまでなって、そんな恥さらしはできないと自制心が働く。
よく道端で転んでいたり、人に絡んでいる人を見かけるが、あれほどみっともない大人もないだろう。
歩きだして、やっぱりふらふらすることを感じ、今日のこれ以上の酒はやめておこうと思った。
トイレは店の一番奥にあり、手前が男子トイレ、奥が女子トイレとなっている。
由利が慣れたようにドアを開けると、ちょうど出ようとしていたのか、上着を脱ぎ、ネクタイも外され、ワイシャツだけになった背の高い男と鉢合わせした。
「おっ、と」
由利が俯いていたこともあって、男の声が上から降ってくる。
…あ、出さなきゃ…と咄嗟に由利の体が脇に避けた。
だけどやっぱりおぼつかない脚は動きが鈍っている。
待たせていることもあって、すぐに出ていくだろうと踏んだのに、男は動かなかった。
「ねぇ、君。こっち、男子トイレだよ」
由利は一瞬、言われた意味が分からなくて顔を上げて、目の前に立つ男に視線を送る。
確かに170センチに満たない身長は高いとは言えないし、忙しさにかまけて散髪にも行っていなかった黒髪は睫毛に被さってくるし、襟足まで伸びている。
一部には以前染めた焦げ茶色の髪が残っている始末だ。
くっきりとした目鼻立ち、色白の肌の上にある黒目と少し紅すぎるのではないかと思える唇が妙に目立つようで、由利は自分の顔をあまり気に入っていなかった。
私服を着れば、今でも学生扱いだ。
でもだからって…、由利も上着は脱いでいたけれど、ネクタイはまだ締めたままで、服装からしたって女性に間違えられるのは不本意だ。
一気に機嫌が急降下した。
「僕、男ですけど…っ」
マジマジと見てくるその視線も不愉快で、脇をすり抜ける。
用を足したかった生理現象もあった。
トイレの中は暖色系の灯りがふんわりと包んでくれる、こちらもお洒落な場所。
ブラウンの荷物代のある手洗い台は二つ並んで花が生けてあった。その奥にやはり二つの小便器と後ろに二つの個室。
由利はすぐに三つ揃っているうちのスリッパの一つに足を突っ込んだ。
いつものように向かった先、スラックスのファスナーを降ろして中身を取り出す。
その時、何故か背後からの視線を感じて、放出したいものも止めて振り返ったら、先程の男が由利の下半身を堂々と覗きこんでいた。
「ちょっ…っ、あっ…、なーっっっ」
宴会席からも離れて、店の中で一番静かな場所のはずなのに、由利の絶叫が響き渡る。
男同士、隣に並んじゃった時に、チラ見するくらいのことは常識だが、こうまであからさまな態度は、悪戯心を持っていた時代に置いてきた。
明らかに、…明らかに年上のはずだ。たぶん三十歳前後。縦長の顔つきに切れ長の目。地毛なのか染めているのか、由利の黒髪よりも茶色く、大雑把に後ろに向けて撫でつけている印象があるのは、仕事が終わったからなのか…。
親指と人差し指で顎をつまんだ男は、珍しいものを見て驚いた時の反応のように感心していた。
「いやぁ、本当に付いているんだぁ。本当に男?」
それでもまだ納得できないと言いたげに確認を求めてくる。
人の大事な部分をこれだけ他人に晒したことのない由利は、一気に顔が火照ってくる。
それが羞恥だったのか怒りだったのか、酔いのまわっていた由利には判別がつかなかった。
「うるさいっ!出ていけっ!見せ物じゃないんだよーっ!!」
さすがに人前で放尿できる図々しさも、開き直りもなく、また恥知らずでもない。
それなのに、この男は…っ!!クスリと笑ったかと思うと、「君、可愛過ぎ」と由利の尻を一撫でしてから、ようやく外に出ていった。
「くそーっっっ!!!」
何が起きたのか分からなかった由利が声を出せたのは、男の姿が完全に見えなくなった後のことだった。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
暇を見つけて書いていきますm(__)m
怒りの中で用を足せば、一気に酔いが醒めた気分になってしまった。
そう、気分良く飲んでいたのが全くもって台無しだ。
明らかに不機嫌さを表して席に戻れば、席を移動して隣に来ていた三十代半ばの係長、赤倉(あかくら)が訝しがってきた。
この人もあまり背は高くないが、誰にでも気さくに話しかけてくれる雰囲気が好きだ。
部長などの上役と下の人間のパイプ役も担ってくれる細やかさがある。ただ、最近前頭部が広くなってきたカナ…とは誰も口にしないけど。
問われて由利も、まさか半痴漢行為にあった…と口にするのはあまりにも悔しく、でも答えなきゃ仕方がない。
「女性と間違われたんです…」と頬を膨らませた。
するとクスクスと「本荘は可愛いからなぁ」と、またここでも聞きたくない台詞を聞いた。
先ほどの男も去り際に『可愛い』と言い捨てて行った…、と思い返しながら、ふとその『可愛い』は赤倉が言う容姿のことではなく…。
見られた部分の事を言うのか…?と顔が俯き、視線がきちんと閉められたファスナーに落ちた。
そりゃ…そんなのは…そんなのは言われなくったって…っっ!!
笑われた顔まで浮かんでくる。
もうここまでくれば、ヤケ酒したい気分になってくる。
先程は自制しようとした気分も吹っ飛んでおり、早々におかわりのハイボールを注文していた。
それが三回繰り返されようとした時、さすがに目の前にいた一つ上の高畠萩生(たかはた はぎお)が止めに入った。
短く刈り上げた髪としっかりした体躯は、何かのスポーツをやっていました、と告げてくる。
闘争心がある性格でありながら、面倒見が良いところもきちんと持っている。
「ユーリ、もうやめておけよ。ぶっ倒れるぞ。それでなくったって、今まで何杯空けているんだよ」
そんなことを言われても自分は充分なくらいしっかりしていると言い張った。
「大丈夫ですよ。じゃあ、これで終わりにしますから」
思いのほか、しっかりとした口調で話す由利に、その微笑まれる表情も相まって、高畠も苦笑で諦めてしまう。
しかし、これが悪かった…。
グラスの中身を半分ほど空けたところで、一気に酔いが回りだし、天地が分からなくなった。
眠い…というように目を閉じて、上半身が数回回転することにすぐに気付いたのは高畠だ。
「ユーリっ」
その声に反応して、咄嗟に赤倉が由利の体を支え、かろうじてテーブルの上に突っ伏す惨事を回避してくれた。
丸まる猫のように横に倒された時には、由利はドロップアウトしていて、誰の問いかけも耳に届いていない状態になっていた。
全員から溜め息が漏れたのは言うまでもない…。
由利が目を覚ましたのは明け方前だった。
周りの世界はまだ太陽の光をあびていない。うっすらと、東の空が白くなりはじめていた。
あまりにも喉が渇いて、水が飲みたくて目が覚めたのだ。
何も考えることなく、普段の行動を取るように、ベッドから降りてキッチンに行って、水でも飲んでこよう…という感覚だった。
だが、思った以上にアルコールは分解されていなかったようで、動かした体に力は入らなく、派手な音を立てて床の上に転がり落ちた。
その時、由利の脳内は、何故こんなことになっているのかさえ、考える力を失っていた。
「いったぁ…」
寝ていた位置が、まずベッドの端のほうだったのが悪い。寝返りを打ったつもりがそのまま落下。
体のだるさと痛みとでしばらく動けずにいると、部屋のドアが開いた。
「ユーリッ?!」
聞きなれた自分と良く似た声が響いてくる。
パッと電気がつけられ、咄嗟の眩しさに硬く目を瞑ってしまうが、近寄ってきた人物が誰なのかは理解できた。
自分と同じ顔、同じ体型、双子の兄である、由良(ゆら)だ。
双子は学部こそ違ったが、同じ大学に進んだ。実家を離れるのは仕方がなく、だからといって同じ敷地内に通うことになる二人が、離れて暮らす理由もない。
一人にされるよりは二人でいたほうが安心だった。
更に、入社した会社まで同じとくれば、どちらも引っ越す必要性を見つけられなかった。
一部では、双子という物珍しさで採用された…などという陰口もあったが、それぞれの上司が「言わせておけ」と一蹴してくれたものだ。
「ユーリっ、何してんのーっ?!」
由良に抱き起こされても由利の体はぐにゃあと崩れていく。
「ユーリっ!!しっかりしてっ。とにかくベッドに戻ってっ」
「ゆらぁ、お水…」
「水?!…あぁ、そうだろうね、あれだけ飲めばっ。待ってて、持ってくるから。…ほらっ、よいしょっ」
夜中だから大声をあげることはないけれど、声音には苛立ち、呆れが顕著に表れている。それでもしっかり最後まで面倒を見てくれるのは、昔からだった。
由良の細い腕に支えられてどうにかベッドの上にのぼった。
分かるから由利も甘えた態度に出てしまうのだ…。とくにこんな時には…。
胸がムカムカしている。
でも由良が持ってきてくれたペットボトルの水を一気に飲み干してしまえば、少しは楽になれた気がした。
由良が胸で支えながら起こしてくれた背中も、目的を果たせばまたクタリとシーツの上に転がった。
端に腰かけたままの由良の掌が、伸びた前髪をかきわけてくれる。
「何があったの?ユーリがこんな飲み方するなんて、滅多にないことじゃない」
心配してくれているのか…。
何もかもを理解してくれている双子の兄に、隠し事なんかしたこと、あったっけ…?と由利は漠然と振り返ってしまった。
いや、隠し事なんてできたっけ…というほうだ…。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
やっと出てきた…、色々な人…。
(*゚ロ゚)ハッ!兄弟の次は双子かぁ?!……いや、べつに…ヾ(- -;)マアマアマア
もう一話書けたので、今日のお詫びを込めて、明日0時に次のをupしますね。
気ままに読みにきてください。
そう、気分良く飲んでいたのが全くもって台無しだ。
明らかに不機嫌さを表して席に戻れば、席を移動して隣に来ていた三十代半ばの係長、赤倉(あかくら)が訝しがってきた。
この人もあまり背は高くないが、誰にでも気さくに話しかけてくれる雰囲気が好きだ。
部長などの上役と下の人間のパイプ役も担ってくれる細やかさがある。ただ、最近前頭部が広くなってきたカナ…とは誰も口にしないけど。
問われて由利も、まさか半痴漢行為にあった…と口にするのはあまりにも悔しく、でも答えなきゃ仕方がない。
「女性と間違われたんです…」と頬を膨らませた。
するとクスクスと「本荘は可愛いからなぁ」と、またここでも聞きたくない台詞を聞いた。
先ほどの男も去り際に『可愛い』と言い捨てて行った…、と思い返しながら、ふとその『可愛い』は赤倉が言う容姿のことではなく…。
見られた部分の事を言うのか…?と顔が俯き、視線がきちんと閉められたファスナーに落ちた。
そりゃ…そんなのは…そんなのは言われなくったって…っっ!!
笑われた顔まで浮かんでくる。
もうここまでくれば、ヤケ酒したい気分になってくる。
先程は自制しようとした気分も吹っ飛んでおり、早々におかわりのハイボールを注文していた。
それが三回繰り返されようとした時、さすがに目の前にいた一つ上の高畠萩生(たかはた はぎお)が止めに入った。
短く刈り上げた髪としっかりした体躯は、何かのスポーツをやっていました、と告げてくる。
闘争心がある性格でありながら、面倒見が良いところもきちんと持っている。
「ユーリ、もうやめておけよ。ぶっ倒れるぞ。それでなくったって、今まで何杯空けているんだよ」
そんなことを言われても自分は充分なくらいしっかりしていると言い張った。
「大丈夫ですよ。じゃあ、これで終わりにしますから」
思いのほか、しっかりとした口調で話す由利に、その微笑まれる表情も相まって、高畠も苦笑で諦めてしまう。
しかし、これが悪かった…。
グラスの中身を半分ほど空けたところで、一気に酔いが回りだし、天地が分からなくなった。
眠い…というように目を閉じて、上半身が数回回転することにすぐに気付いたのは高畠だ。
「ユーリっ」
その声に反応して、咄嗟に赤倉が由利の体を支え、かろうじてテーブルの上に突っ伏す惨事を回避してくれた。
丸まる猫のように横に倒された時には、由利はドロップアウトしていて、誰の問いかけも耳に届いていない状態になっていた。
全員から溜め息が漏れたのは言うまでもない…。
由利が目を覚ましたのは明け方前だった。
周りの世界はまだ太陽の光をあびていない。うっすらと、東の空が白くなりはじめていた。
あまりにも喉が渇いて、水が飲みたくて目が覚めたのだ。
何も考えることなく、普段の行動を取るように、ベッドから降りてキッチンに行って、水でも飲んでこよう…という感覚だった。
だが、思った以上にアルコールは分解されていなかったようで、動かした体に力は入らなく、派手な音を立てて床の上に転がり落ちた。
その時、由利の脳内は、何故こんなことになっているのかさえ、考える力を失っていた。
「いったぁ…」
寝ていた位置が、まずベッドの端のほうだったのが悪い。寝返りを打ったつもりがそのまま落下。
体のだるさと痛みとでしばらく動けずにいると、部屋のドアが開いた。
「ユーリッ?!」
聞きなれた自分と良く似た声が響いてくる。
パッと電気がつけられ、咄嗟の眩しさに硬く目を瞑ってしまうが、近寄ってきた人物が誰なのかは理解できた。
自分と同じ顔、同じ体型、双子の兄である、由良(ゆら)だ。
双子は学部こそ違ったが、同じ大学に進んだ。実家を離れるのは仕方がなく、だからといって同じ敷地内に通うことになる二人が、離れて暮らす理由もない。
一人にされるよりは二人でいたほうが安心だった。
更に、入社した会社まで同じとくれば、どちらも引っ越す必要性を見つけられなかった。
一部では、双子という物珍しさで採用された…などという陰口もあったが、それぞれの上司が「言わせておけ」と一蹴してくれたものだ。
「ユーリっ、何してんのーっ?!」
由良に抱き起こされても由利の体はぐにゃあと崩れていく。
「ユーリっ!!しっかりしてっ。とにかくベッドに戻ってっ」
「ゆらぁ、お水…」
「水?!…あぁ、そうだろうね、あれだけ飲めばっ。待ってて、持ってくるから。…ほらっ、よいしょっ」
夜中だから大声をあげることはないけれど、声音には苛立ち、呆れが顕著に表れている。それでもしっかり最後まで面倒を見てくれるのは、昔からだった。
由良の細い腕に支えられてどうにかベッドの上にのぼった。
分かるから由利も甘えた態度に出てしまうのだ…。とくにこんな時には…。
胸がムカムカしている。
でも由良が持ってきてくれたペットボトルの水を一気に飲み干してしまえば、少しは楽になれた気がした。
由良が胸で支えながら起こしてくれた背中も、目的を果たせばまたクタリとシーツの上に転がった。
端に腰かけたままの由良の掌が、伸びた前髪をかきわけてくれる。
「何があったの?ユーリがこんな飲み方するなんて、滅多にないことじゃない」
心配してくれているのか…。
何もかもを理解してくれている双子の兄に、隠し事なんかしたこと、あったっけ…?と由利は漠然と振り返ってしまった。
いや、隠し事なんてできたっけ…というほうだ…。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
やっと出てきた…、色々な人…。
(*゚ロ゚)ハッ!兄弟の次は双子かぁ?!……いや、べつに…ヾ(- -;)マアマアマア
もう一話書けたので、今日のお詫びを込めて、明日0時に次のをupしますね。
気ままに読みにきてください。
意思の疎通の良さは誰にでも言われることだったけれど。由利よりも由良のほうが優れているとは、長年の経験で知れることである。
言おうかどうしようか悩んで、結局ボソボソと由利は口を開く。
「…痴漢、された…」
すぐに理解してくれるのは、同じ容姿を持つおかげだろうか。
眉間に皺を寄せて「どこで?」と尋ねられる。
同僚と飲んでいて、もちろんいくら酔ったからといって、由利に手出しをする人間がいないことは、由良も知っている。
それ以前に、そんな場所で由利は飲み続けないだろう。
さらに一番『安全』とも言える居酒屋のはず…。
詳しい説明などせずとも状況を悟ってくれる由良に、簡単な言葉が漏れる。
「トイレ…。女の子に間違われて、アレ見られて、…お尻まで触られた…」
「うわっ、最低なヤツ。相手、何、どんな酔っ払いだったのっ」
「…そんなに、酔ってるようには見えなかったけれど…」
「だったらもっと悪いよっ。眼科とか精神科行くべきじゃんっ。相手の頭がおかしいんだよっ。ユーリ、そんなヤツのために自分がヤケ酒することになるなんて…。もう忘れちゃって、ゆっくり寝なよ」
一緒になって怒ってくれることにも安堵する。
由利は小さく頷いて眠りに落ちようとした。
どうにか思考が働いてきたのか、ふと気付く。
「…ゆら…、僕、どうやって帰って来たの…?」
由良が相変わらず髪を撫で続けている。その手は、心配しなくていいと言われているようで、またホッとしてしまう。
万事うまく片付けてしまうのもどちらかといえば由良のほうだった。
「高畠さんがタクシーに乗せて送ってきてくれたよ。俺が住所、教えたから。そんでもってここまで運んでくれた」
「え?」
「だって俺、運べないもん」
そりゃ…、体格を思えば、同じ背格好の、また筋肉の付き方も似た由良には、タクシーから引きずり下ろすことが精一杯だろう。
エレベーターがあるとはいえ、部屋は五階のマンションである。
「高畠さんもそのつもりで送ってきてくれたんだよ」
同じ会社にいれば、誰がどこの部署で、どれだけ親しいか…など、普段の会話の中に出てくる機会も多い。
そう多く話したことがなくても、その人の性格まで本人と同じくらい知られているものだ。
当然由良も、高畠の面倒見の良いしっかり者だと把握していた。
だからこそ、由利のことを頼めたのだろう。
「あとでお礼、ちゃんと言っておきなよ」
由良は撫でていた手をポンポンと叩く仕草に変えて、この話はもう終わり…と立ち上がった。
由利にしてみたら、週末の飲み会は、痴漢にあうわ、飲み過ぎるわ、先輩に迷惑はかけるわ…と散々な結果に終わった。
…酔っ払って正体なくしている、一番みっともない大人…って、自分のことじゃん…。
深い自己嫌悪を抱えながら、だけど正直な体は眠りについていった。
由利と由良が勤める会社は、文具メーカーである。由利は企画開発室に在籍し、由良は在庫管理室に所属している。
お互いほとんどデスクワークだったが、勤務階が違うため社内で出会うことは滅多になかった。
それぞれ揃うことがないように意識しているせいもあるかもしれない。
しかし、ふたりが並べば、良く知った同僚ですら見分けがつかない時がある。
その時に役立つのはネックストラップである。
部署と名前を確認してから話しかけられる一瞬の間にも、すっかり慣れた就業生活だった。
それでも敏感な人間は、髪型が違うとか、すぐ親指を口に当てる…とかのクセを見抜いてくれる。
特に今は、”髪を伸ばしっぱなしの弟”で見分けているらしい。
次から次へと新商品が企画される開発室はいつも雑多な雰囲気があった。
山のように積み上がった書類や写真、また他社商品など、一番広いフロアを占拠しているといっても過言ではない。
もちろん関係者以外立入禁止の、セキュリティが一番厳しいところでもある。
最終的な試作品などはまた別の場所で執り行われ、由利はそこには、入社した時の社内案内時に一度入れてもらったことがあるだけだった。
午前中の雑務を終えたところで、高畠と、彼の同期だという湯田川あつみ(ゆだがわ あつみ)が、「昼飯、食いに行こうぜ」と声をかけてきた。
湯田川も高畠と変わらない長身と筋肉の持ち主だ。
ふたりは由利の入社時から、なにかと構ってくれている存在で、たぶん歳が一つしか違わないことがあげられる。
それに、由利の下に新入社員は入ってきていなかった。つまり、一番の下っ端で手がかかる存在という意識があるのか…。
どこか浮いてしまいそうになる雰囲気を、簡単に蹴散らしてくれた。
だから昼食は、他の人間が混じることはあっても、三人の誰かが欠けることはない。
社員食堂に入っていこうかとしたところで、「ユーリっ」と遠くから呼ばれる声に振り返った。
周りにいた人間も数人はその方向に視線を向ける。
社内で由利のことを『ユーリ』と呼ぶのは、目の前にいる高畠と湯田川、それと由良だけだった。
勢いよく走ってくる、小柄な青年は、もちろん由利と同じ顔。
こんなところで、何を慌てているのかと不思議になる光景だった。それこそ珍しい。
「ユーリ、ちょっと一緒に来てよ。あのバカ男、勘違いしたままで帰ろうともしないんだ」
「「バカ男?!」」
由利の隣でハモった高畠と湯田川に応えることもなく、由良は由利の腕を掴む。
「『トイレで会った』って言うからすぐ分かったよ。アイツだろ、あの変態男。俺のこと、ユーリだと思い込んでんのっ」
由良が何を言いたいのか、それだけで通じる。
「なんでうちの会社にいるの?」
「端末の調子が悪くてメンテナンス呼んだの。いきなり俺のこと、つかまえるんだよ。『覚えてない?』だって。なんだよ、あの図々しい男っ」
それだけで、由良にも失礼な態度を取ったのだとは判断できることだった。
こういう時に変な連帯感を持つのが由良と由利である。相手から与えられた屈辱は二人がかりで返すのだ。
ニコリと由利の破顔した笑顔は、由良がいてくれるからこそ生み出される。
どこかで”お返し”をしたかった燻りまで感じ取ってくれる。だからこそ”共犯”になれる意味。
人を引き寄せる風貌を持ち、魅惑的な笑みを浮かべ…。無意識に誘う人間に捕らわれた人に、どこか同情の念が生まれた。
あんな表情、誰が見たことがあっただろうか…。
見ていた人、全てがドキリとした。
二人が揃うことの恐ろしさ…。
全く状況が見えなかった高畠たちも面白そうな展開だと勘が働く。
由利が高畠たちを見ると、もちろん目配せで『行け』と促される。
あたりまえだが、その後をついていかない先輩でもない。
そして廊下を進む二人を見かけた人たちは、滅多にないレアな光景に、誰もが目をパチクリとさせ、年に一度の限定品(お正月の福袋)を手に入れたような高揚感をもっていた。
しかもおててつないでいるのである。(正確には引っ張られている)
双子が揃わないことは社員の誰もが承知していること。
何があったかは知らずとも、ふたりで故意的に作られた状況は、あっというまに社内を伝わり、由良が連れた先がどこなのか、陰の連絡網が活発に動いていた。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
言おうかどうしようか悩んで、結局ボソボソと由利は口を開く。
「…痴漢、された…」
すぐに理解してくれるのは、同じ容姿を持つおかげだろうか。
眉間に皺を寄せて「どこで?」と尋ねられる。
同僚と飲んでいて、もちろんいくら酔ったからといって、由利に手出しをする人間がいないことは、由良も知っている。
それ以前に、そんな場所で由利は飲み続けないだろう。
さらに一番『安全』とも言える居酒屋のはず…。
詳しい説明などせずとも状況を悟ってくれる由良に、簡単な言葉が漏れる。
「トイレ…。女の子に間違われて、アレ見られて、…お尻まで触られた…」
「うわっ、最低なヤツ。相手、何、どんな酔っ払いだったのっ」
「…そんなに、酔ってるようには見えなかったけれど…」
「だったらもっと悪いよっ。眼科とか精神科行くべきじゃんっ。相手の頭がおかしいんだよっ。ユーリ、そんなヤツのために自分がヤケ酒することになるなんて…。もう忘れちゃって、ゆっくり寝なよ」
一緒になって怒ってくれることにも安堵する。
由利は小さく頷いて眠りに落ちようとした。
どうにか思考が働いてきたのか、ふと気付く。
「…ゆら…、僕、どうやって帰って来たの…?」
由良が相変わらず髪を撫で続けている。その手は、心配しなくていいと言われているようで、またホッとしてしまう。
万事うまく片付けてしまうのもどちらかといえば由良のほうだった。
「高畠さんがタクシーに乗せて送ってきてくれたよ。俺が住所、教えたから。そんでもってここまで運んでくれた」
「え?」
「だって俺、運べないもん」
そりゃ…、体格を思えば、同じ背格好の、また筋肉の付き方も似た由良には、タクシーから引きずり下ろすことが精一杯だろう。
エレベーターがあるとはいえ、部屋は五階のマンションである。
「高畠さんもそのつもりで送ってきてくれたんだよ」
同じ会社にいれば、誰がどこの部署で、どれだけ親しいか…など、普段の会話の中に出てくる機会も多い。
そう多く話したことがなくても、その人の性格まで本人と同じくらい知られているものだ。
当然由良も、高畠の面倒見の良いしっかり者だと把握していた。
だからこそ、由利のことを頼めたのだろう。
「あとでお礼、ちゃんと言っておきなよ」
由良は撫でていた手をポンポンと叩く仕草に変えて、この話はもう終わり…と立ち上がった。
由利にしてみたら、週末の飲み会は、痴漢にあうわ、飲み過ぎるわ、先輩に迷惑はかけるわ…と散々な結果に終わった。
…酔っ払って正体なくしている、一番みっともない大人…って、自分のことじゃん…。
深い自己嫌悪を抱えながら、だけど正直な体は眠りについていった。
由利と由良が勤める会社は、文具メーカーである。由利は企画開発室に在籍し、由良は在庫管理室に所属している。
お互いほとんどデスクワークだったが、勤務階が違うため社内で出会うことは滅多になかった。
それぞれ揃うことがないように意識しているせいもあるかもしれない。
しかし、ふたりが並べば、良く知った同僚ですら見分けがつかない時がある。
その時に役立つのはネックストラップである。
部署と名前を確認してから話しかけられる一瞬の間にも、すっかり慣れた就業生活だった。
それでも敏感な人間は、髪型が違うとか、すぐ親指を口に当てる…とかのクセを見抜いてくれる。
特に今は、”髪を伸ばしっぱなしの弟”で見分けているらしい。
次から次へと新商品が企画される開発室はいつも雑多な雰囲気があった。
山のように積み上がった書類や写真、また他社商品など、一番広いフロアを占拠しているといっても過言ではない。
もちろん関係者以外立入禁止の、セキュリティが一番厳しいところでもある。
最終的な試作品などはまた別の場所で執り行われ、由利はそこには、入社した時の社内案内時に一度入れてもらったことがあるだけだった。
午前中の雑務を終えたところで、高畠と、彼の同期だという湯田川あつみ(ゆだがわ あつみ)が、「昼飯、食いに行こうぜ」と声をかけてきた。
湯田川も高畠と変わらない長身と筋肉の持ち主だ。
ふたりは由利の入社時から、なにかと構ってくれている存在で、たぶん歳が一つしか違わないことがあげられる。
それに、由利の下に新入社員は入ってきていなかった。つまり、一番の下っ端で手がかかる存在という意識があるのか…。
どこか浮いてしまいそうになる雰囲気を、簡単に蹴散らしてくれた。
だから昼食は、他の人間が混じることはあっても、三人の誰かが欠けることはない。
社員食堂に入っていこうかとしたところで、「ユーリっ」と遠くから呼ばれる声に振り返った。
周りにいた人間も数人はその方向に視線を向ける。
社内で由利のことを『ユーリ』と呼ぶのは、目の前にいる高畠と湯田川、それと由良だけだった。
勢いよく走ってくる、小柄な青年は、もちろん由利と同じ顔。
こんなところで、何を慌てているのかと不思議になる光景だった。それこそ珍しい。
「ユーリ、ちょっと一緒に来てよ。あのバカ男、勘違いしたままで帰ろうともしないんだ」
「「バカ男?!」」
由利の隣でハモった高畠と湯田川に応えることもなく、由良は由利の腕を掴む。
「『トイレで会った』って言うからすぐ分かったよ。アイツだろ、あの変態男。俺のこと、ユーリだと思い込んでんのっ」
由良が何を言いたいのか、それだけで通じる。
「なんでうちの会社にいるの?」
「端末の調子が悪くてメンテナンス呼んだの。いきなり俺のこと、つかまえるんだよ。『覚えてない?』だって。なんだよ、あの図々しい男っ」
それだけで、由良にも失礼な態度を取ったのだとは判断できることだった。
こういう時に変な連帯感を持つのが由良と由利である。相手から与えられた屈辱は二人がかりで返すのだ。
ニコリと由利の破顔した笑顔は、由良がいてくれるからこそ生み出される。
どこかで”お返し”をしたかった燻りまで感じ取ってくれる。だからこそ”共犯”になれる意味。
人を引き寄せる風貌を持ち、魅惑的な笑みを浮かべ…。無意識に誘う人間に捕らわれた人に、どこか同情の念が生まれた。
あんな表情、誰が見たことがあっただろうか…。
見ていた人、全てがドキリとした。
二人が揃うことの恐ろしさ…。
全く状況が見えなかった高畠たちも面白そうな展開だと勘が働く。
由利が高畠たちを見ると、もちろん目配せで『行け』と促される。
あたりまえだが、その後をついていかない先輩でもない。
そして廊下を進む二人を見かけた人たちは、滅多にないレアな光景に、誰もが目をパチクリとさせ、年に一度の限定品(お正月の福袋)を手に入れたような高揚感をもっていた。
しかもおててつないでいるのである。(正確には引っ張られている)
双子が揃わないことは社員の誰もが承知していること。
何があったかは知らずとも、ふたりで故意的に作られた状況は、あっというまに社内を伝わり、由良が連れた先がどこなのか、陰の連絡網が活発に動いていた。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
在庫管理室の、本支社を繋ぐ端末の動きが鈍ったのは午前中らしい。
あちこちから入る注文などに対応しなければいけないのだが、たった数分のシャットダウンでもあればおおごとになる。
その状況を、乗り込んできたスケベ男は、いとも簡単に解決したようだった。
社員証および入社許可証を見せて、現場に辿り着くと、即座に点検と修理に取りかかった男がいた。メンテナンス員といっても作業着などではなく、きちんとスーツを着こなしている人だった。
その端にいたのが、由良だったようだ。
すぐに目に付いた…というのが正しい。
※視点変わります。すみませんm(__)m(こんな中途半端で~っ汗)
一瞬仕事を忘れたのかというような、甘酸っぱい視線を投げかけてきた男がいる。
その手の視線には慣れている由良は適当に誤魔化そうとした。
何か親しげに語られている眼差しだが、由良には分かるわけがない。(あたりまえだ。面識がないのだから)
更にしつこく迫ってくる存在に、先輩方を差し置いて、由良からは強い口調が出た。
過去の面識があるのならともかく…。初対面の人間に、追いかけられる筋合いはない。
「何っ?」
所詮、他社のメンテナンス員である。相手が年上だろうが、こちらが下手に出る必要はない、と、由良は判断していた。
執拗な視線が何よりも不愉快だったのだ。
その避け方は過去の経験もあるかもしれないが…。キツイ態度に出れば、食指が動かないと判断されるはずだ。
設備点検をしつつも、男はその場から離れられない由良の存在を知ったのだろうか。
忙しい他の人間に代わって、この場を任されている立場…。
作業員として当然といえる、平然と過ごそうとする態度でいながら、ほんの隙、さり気なく由良の耳元に寄せてきて唇がふぅっと息を吐く。
由良が体を捩ろうとしながらも、フッと笑う口元と耳に囁かれる口調が骨に疼いたのが早かったか…。
『トイレの君、可愛かったよ…』
誰にも聞かれていないだろう…。いないだろうが、それだけで由良の怒りの沸点は越えていた。
体験はなくても言いたい意味は充分なほど理解できる。
これこそ由利が味わったものだ。
吐息に快感は感じたが、虫唾にもなった。相反するものをこの男は持っている…。
ゾクリとする耳元の感触は、きっと由利も同じように感じるはずだ。
由利はたぶん分かっていないが、苦しめるものになる。
触れたら、必ず火傷をするという危機感が、由良の胸を襲う。
軽すぎる…そんな環境に由利を追いこみたくはない。
恨んでいるはずの人間…、その印象だけでいい。
まさか、こんなところで出会おうとは…。
そこにあったのは慕情なのか家族愛情なのか…、弟を護りたい越えた愛だったのか…。由良も分からなかった。
冷たい笑みが由良の頬に浮かんだ。…守るべきものを知っている強み…。
ねっとりとした、普段では絶対に流れない声音が相手の耳元だけに降った。
「あのさぁ…。本人と他人との違いも気付かない奴が何言ってんの?悪いけど、俺、由利じゃないし」
「なに、とぼけてんだよ…」
自信満々に言い放つ相手にけしかければ、掴まれた腕が何かの意思を込めた瞳を送ってくる。
明らかに由利に狙いを定めたものだ。たった一瞬の出会いが、この男に何を植え付けたのだろうか。
今、本人を前にしたら、どんな反応をするのかな…。
内心でクスリと微笑んだ。同時に不安もあった。
何が彼をここまで変えるのだろうか…。
自分しか知らなかったはずの由利の隠れた魅力を、この男は見出してしまった…ということなのだろうか。
そして、置いていかれる不安が湧きあがってくる。
完璧に追い詰めてくるもの…。
小さな震えが走る。
「俺、マジで、由利じゃない…」
「『由利』って誰だよ…?」
明らかに疑問を持って、目の前の不思議な状況を問うてくる。
まるで囁き合うような声が、束の間響いた。
穏やかだけど声音は狩りをする獲物を追った人物。優しそうな客相手の笑みを浮かべながら、その奥に秘められたものは…なんなのだろう。
腕の力だけで、再会できた偶然を”奇跡”として逃したくない意思がうかがえた。
『分からないなら詮索するな…』…とも言えたはずだ。でも声が出なかった。
この眼差しに逃す気がさらさらないのだと伝わってくる。どう言ったって聞かないだろう。
…証拠を突き出すまで…。
危機感があった…。
二人が揃ったなら…。
間違えたことを盾に叩きのめせばいい。
自分は絶対に由利のそばにいる。由利はこの男を選ぶことはない。
ただの”痴漢男”のままでいいのだから。
由良は口角を上げた。
その妖艶とも言える笑みに、一瞬怯んだのは男の方だ。
違いを由良は悟る。
…馬鹿が…。
「今、呼んでくるから待っていろよっ」
あんな馬鹿男につかまるか…っ。
この時間なら由利は食堂だろう。繋がるはずの携帯なんて使わなくったって、居場所くらい思い浮かんだ。
走った食堂までの廊下の先に由利の姿を見つけた。
ビンゴっ!!
「ユーリっ!」
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
なんだか最近、視点が変わることばかりで読みづらいですよね…(汗)
ちょっとした裏話ってことだったんです。
次回からまたユーリ視点になりますので…ペコm(__)mペコ
過去と全然書き方が変わっているな…と痛感しているのですが…。
こんな調子でしか物事を進められません。
本当にごめんなさい。
「隊長~ぉ。今度は双子が狙われたようです」
「ちー隊員っ、そんなところまで調べるのかっ」(←監視係)
『ちー隊員もいろいろ大変な時期だろう…』
「いや…過去のくだらない記事を読んでいる余裕があるらしぃすよ」
『なんだと~(/□≦、)エーン!! おいらわ…オイラは…』
部隊「隊長がお忙しいのは、みんな分かっております~~~っっっっ」
すみません…。勝手な書きこみです…。
あちこちから入る注文などに対応しなければいけないのだが、たった数分のシャットダウンでもあればおおごとになる。
その状況を、乗り込んできたスケベ男は、いとも簡単に解決したようだった。
社員証および入社許可証を見せて、現場に辿り着くと、即座に点検と修理に取りかかった男がいた。メンテナンス員といっても作業着などではなく、きちんとスーツを着こなしている人だった。
その端にいたのが、由良だったようだ。
すぐに目に付いた…というのが正しい。
※視点変わります。すみませんm(__)m(こんな中途半端で~っ汗)
一瞬仕事を忘れたのかというような、甘酸っぱい視線を投げかけてきた男がいる。
その手の視線には慣れている由良は適当に誤魔化そうとした。
何か親しげに語られている眼差しだが、由良には分かるわけがない。(あたりまえだ。面識がないのだから)
更にしつこく迫ってくる存在に、先輩方を差し置いて、由良からは強い口調が出た。
過去の面識があるのならともかく…。初対面の人間に、追いかけられる筋合いはない。
「何っ?」
所詮、他社のメンテナンス員である。相手が年上だろうが、こちらが下手に出る必要はない、と、由良は判断していた。
執拗な視線が何よりも不愉快だったのだ。
その避け方は過去の経験もあるかもしれないが…。キツイ態度に出れば、食指が動かないと判断されるはずだ。
設備点検をしつつも、男はその場から離れられない由良の存在を知ったのだろうか。
忙しい他の人間に代わって、この場を任されている立場…。
作業員として当然といえる、平然と過ごそうとする態度でいながら、ほんの隙、さり気なく由良の耳元に寄せてきて唇がふぅっと息を吐く。
由良が体を捩ろうとしながらも、フッと笑う口元と耳に囁かれる口調が骨に疼いたのが早かったか…。
『トイレの君、可愛かったよ…』
誰にも聞かれていないだろう…。いないだろうが、それだけで由良の怒りの沸点は越えていた。
体験はなくても言いたい意味は充分なほど理解できる。
これこそ由利が味わったものだ。
吐息に快感は感じたが、虫唾にもなった。相反するものをこの男は持っている…。
ゾクリとする耳元の感触は、きっと由利も同じように感じるはずだ。
由利はたぶん分かっていないが、苦しめるものになる。
触れたら、必ず火傷をするという危機感が、由良の胸を襲う。
軽すぎる…そんな環境に由利を追いこみたくはない。
恨んでいるはずの人間…、その印象だけでいい。
まさか、こんなところで出会おうとは…。
そこにあったのは慕情なのか家族愛情なのか…、弟を護りたい越えた愛だったのか…。由良も分からなかった。
冷たい笑みが由良の頬に浮かんだ。…守るべきものを知っている強み…。
ねっとりとした、普段では絶対に流れない声音が相手の耳元だけに降った。
「あのさぁ…。本人と他人との違いも気付かない奴が何言ってんの?悪いけど、俺、由利じゃないし」
「なに、とぼけてんだよ…」
自信満々に言い放つ相手にけしかければ、掴まれた腕が何かの意思を込めた瞳を送ってくる。
明らかに由利に狙いを定めたものだ。たった一瞬の出会いが、この男に何を植え付けたのだろうか。
今、本人を前にしたら、どんな反応をするのかな…。
内心でクスリと微笑んだ。同時に不安もあった。
何が彼をここまで変えるのだろうか…。
自分しか知らなかったはずの由利の隠れた魅力を、この男は見出してしまった…ということなのだろうか。
そして、置いていかれる不安が湧きあがってくる。
完璧に追い詰めてくるもの…。
小さな震えが走る。
「俺、マジで、由利じゃない…」
「『由利』って誰だよ…?」
明らかに疑問を持って、目の前の不思議な状況を問うてくる。
まるで囁き合うような声が、束の間響いた。
穏やかだけど声音は狩りをする獲物を追った人物。優しそうな客相手の笑みを浮かべながら、その奥に秘められたものは…なんなのだろう。
腕の力だけで、再会できた偶然を”奇跡”として逃したくない意思がうかがえた。
『分からないなら詮索するな…』…とも言えたはずだ。でも声が出なかった。
この眼差しに逃す気がさらさらないのだと伝わってくる。どう言ったって聞かないだろう。
…証拠を突き出すまで…。
危機感があった…。
二人が揃ったなら…。
間違えたことを盾に叩きのめせばいい。
自分は絶対に由利のそばにいる。由利はこの男を選ぶことはない。
ただの”痴漢男”のままでいいのだから。
由良は口角を上げた。
その妖艶とも言える笑みに、一瞬怯んだのは男の方だ。
違いを由良は悟る。
…馬鹿が…。
「今、呼んでくるから待っていろよっ」
あんな馬鹿男につかまるか…っ。
この時間なら由利は食堂だろう。繋がるはずの携帯なんて使わなくったって、居場所くらい思い浮かんだ。
走った食堂までの廊下の先に由利の姿を見つけた。
ビンゴっ!!
「ユーリっ!」
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
なんだか最近、視点が変わることばかりで読みづらいですよね…(汗)
ちょっとした裏話ってことだったんです。
次回からまたユーリ視点になりますので…ペコm(__)mペコ
過去と全然書き方が変わっているな…と痛感しているのですが…。
こんな調子でしか物事を進められません。
本当にごめんなさい。
「隊長~ぉ。今度は双子が狙われたようです」
「ちー隊員っ、そんなところまで調べるのかっ」(←監視係)
『ちー隊員もいろいろ大変な時期だろう…』
「いや…過去のくだらない記事を読んでいる余裕があるらしぃすよ」
『なんだと~(/□≦、)エーン!! おいらわ…オイラは…』
部隊「隊長がお忙しいのは、みんな分かっております~~~っっっっ」
すみません…。勝手な書きこみです…。
一人で出会うなら不安もあったけれど、由良が隣にいてくれることで由利にも精神的な余裕が生まれた。
在庫管理室は機械に囲まれている。
パソコンのモニターなどはもちろん、受発注を受けるファックスや電話がズラリ。
簡単に入れてしまうことに由利は驚いてもいたが…。
つながれた手に促されて、その場所に入っていく。
さりげなく、仕事を続けているらしい姿…。
スーツをきちんと着こなした男が、何やら点検するように色々な機械をいじっていた。
全ての動作は単に、この場にいたい、言い訳だろう。
見た姿は、あのトイレで出会ったものとは違う凛々しさがあって、正直、由利は戸惑ったくらいだった。
そして振り向いた顔は、ふたりを確認して固まった。
由良が自信満々に声を発する。
「分かった?あなた、勘違いしていたこと。どっちかの区別もつかないなら、声なんかかけるなっ」
冷たく退ける由良の言葉に、由利は今更ながら動揺してしまった。
自分本位に物事を進める、勝手な男だとは理解していたけれど…。
改めて見た印象が、第一印象とかけ離れ過ぎているせいだろうか。
今、目の前にいる人物は、人生を充実させた、凛々しい姿の男。
着崩したものもなく、ピシッと整えられた”働く”姿に、何故か惹かれてしまう。
「ゆ、由良…」
袖口を掴んで責め立てようとする由良を押し留めてしまう。
その態度に由良が苛立ちを含めたのが分かった。
「ユーリ?」
…分かる…。由良がどうしてこの男に対して怒るのか、充分なほど知れた。
屈辱を味あわせてくれた男だから…。憎たらしく思う人なのだとも。
自分だって、ここにくる直前まで、絶対に許しはしない存在だったはずなのに…。
何が惹きつけるものになるのか、由利も分かりはしない。
戸惑いの一つ。それを双子は敏感に感じ取ってしまうのだ…。
「ユーリっ!!」
「マジかよ…。双子…?」
呆然としたような男の声がその場に響いた。
由利と由良、交互に見比べた男は、すぐさまその違いを感じ取ってしまった。
焦点を由利に当ててくる。
見つめられることの熱さを、背筋を駆け上がってくるものと同時に受け止めるしかない。
嫌悪は次の瞬間、憧憬へと変わる。
あれほど憎らしかった人物のはずなのに…。
訳のわからない感情に襲われて、由利は居辛さを覚えた。
まっすぐに見つめてくる視線から逃れたい思いもあった。
おかしくなりそうで、怖くなる。
「由良…、僕、ごはん…」
振り返ったら何故か高畠と湯田川がいた。
まるで引き渡すかのように、由良が由利の背を押して、この場から去るように促してくる。
「ちょっと待てよっ、オイっ」
男の声が背後に突き刺さって、由利は一瞬動きを止めた。
その声を由良が止めた。
「関わるな。ユーリは絶対に渡さない」
「おまえに話はねーよっ」
「ナンパ男っ!!ユーリは嫌だって言ってんのっ」
言い争う口調の中、求められるもの、護ろうとするものを切実に感じる。
そして、ふたりが並んだことで、はっきりと違いを認めて、求めるものが何になるのかを男は理解したようだった。
求められるものが自分だと分かれば、余計に精神がそちらに靡いてしまうのは性なのだろうか…。
だけど、由良も大事な人のひとり…。
このまま由良の言う通り、何もなかったことにして別れるのが一番良い結果になると判断ができた。
「ユーリ。今日はお兄さんが何かおごってあげるよ~」
茶化した高畠の声が鼓膜を通り抜けていく。
嬉しいはずの言葉なのにあの男に聞こえている状況が、酷く嫌だった。
自分は、誰にでも尻を振る、軽い人間ではないと、たったこんなことですら思ってしまう。
由利と由良を、僅かな間だけで見比べられた強さにも心が傾いたのかもしれない。
だけど、由良が嫌だって言うのなら…。
自分だって、なんていう男だ…って思っていたはずなのに…。
改めて出会って、違うものを感じて、戸惑いは由利のほうが大きい。
在庫管理室の機械部屋を後にするとき、「由利っ」と呼びかけられた声にビクンっと震えた。
でもその声に振り返れなかった。
そこにいる由良が分かったから…。
護ろうとする存在。そして大事にしたい存在。
切っても切り離せない存在を知るからこそ、由良に従うべきだろうと由利は判断した。
僅かに揺れ動いた心は、隠せばいい。
あんなに嫌な人間だったのだから…。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
アンケ…いつの間に佐貫が安住を抜いていたの…?
猛攻ってこのことだね…。
トップは相変わらずみこっちゃんだけど…。
締め切り、いつにするかなぁ。今の話が終わるころ?!
在庫管理室は機械に囲まれている。
パソコンのモニターなどはもちろん、受発注を受けるファックスや電話がズラリ。
簡単に入れてしまうことに由利は驚いてもいたが…。
つながれた手に促されて、その場所に入っていく。
さりげなく、仕事を続けているらしい姿…。
スーツをきちんと着こなした男が、何やら点検するように色々な機械をいじっていた。
全ての動作は単に、この場にいたい、言い訳だろう。
見た姿は、あのトイレで出会ったものとは違う凛々しさがあって、正直、由利は戸惑ったくらいだった。
そして振り向いた顔は、ふたりを確認して固まった。
由良が自信満々に声を発する。
「分かった?あなた、勘違いしていたこと。どっちかの区別もつかないなら、声なんかかけるなっ」
冷たく退ける由良の言葉に、由利は今更ながら動揺してしまった。
自分本位に物事を進める、勝手な男だとは理解していたけれど…。
改めて見た印象が、第一印象とかけ離れ過ぎているせいだろうか。
今、目の前にいる人物は、人生を充実させた、凛々しい姿の男。
着崩したものもなく、ピシッと整えられた”働く”姿に、何故か惹かれてしまう。
「ゆ、由良…」
袖口を掴んで責め立てようとする由良を押し留めてしまう。
その態度に由良が苛立ちを含めたのが分かった。
「ユーリ?」
…分かる…。由良がどうしてこの男に対して怒るのか、充分なほど知れた。
屈辱を味あわせてくれた男だから…。憎たらしく思う人なのだとも。
自分だって、ここにくる直前まで、絶対に許しはしない存在だったはずなのに…。
何が惹きつけるものになるのか、由利も分かりはしない。
戸惑いの一つ。それを双子は敏感に感じ取ってしまうのだ…。
「ユーリっ!!」
「マジかよ…。双子…?」
呆然としたような男の声がその場に響いた。
由利と由良、交互に見比べた男は、すぐさまその違いを感じ取ってしまった。
焦点を由利に当ててくる。
見つめられることの熱さを、背筋を駆け上がってくるものと同時に受け止めるしかない。
嫌悪は次の瞬間、憧憬へと変わる。
あれほど憎らしかった人物のはずなのに…。
訳のわからない感情に襲われて、由利は居辛さを覚えた。
まっすぐに見つめてくる視線から逃れたい思いもあった。
おかしくなりそうで、怖くなる。
「由良…、僕、ごはん…」
振り返ったら何故か高畠と湯田川がいた。
まるで引き渡すかのように、由良が由利の背を押して、この場から去るように促してくる。
「ちょっと待てよっ、オイっ」
男の声が背後に突き刺さって、由利は一瞬動きを止めた。
その声を由良が止めた。
「関わるな。ユーリは絶対に渡さない」
「おまえに話はねーよっ」
「ナンパ男っ!!ユーリは嫌だって言ってんのっ」
言い争う口調の中、求められるもの、護ろうとするものを切実に感じる。
そして、ふたりが並んだことで、はっきりと違いを認めて、求めるものが何になるのかを男は理解したようだった。
求められるものが自分だと分かれば、余計に精神がそちらに靡いてしまうのは性なのだろうか…。
だけど、由良も大事な人のひとり…。
このまま由良の言う通り、何もなかったことにして別れるのが一番良い結果になると判断ができた。
「ユーリ。今日はお兄さんが何かおごってあげるよ~」
茶化した高畠の声が鼓膜を通り抜けていく。
嬉しいはずの言葉なのにあの男に聞こえている状況が、酷く嫌だった。
自分は、誰にでも尻を振る、軽い人間ではないと、たったこんなことですら思ってしまう。
由利と由良を、僅かな間だけで見比べられた強さにも心が傾いたのかもしれない。
だけど、由良が嫌だって言うのなら…。
自分だって、なんていう男だ…って思っていたはずなのに…。
改めて出会って、違うものを感じて、戸惑いは由利のほうが大きい。
在庫管理室の機械部屋を後にするとき、「由利っ」と呼びかけられた声にビクンっと震えた。
でもその声に振り返れなかった。
そこにいる由良が分かったから…。
護ろうとする存在。そして大事にしたい存在。
切っても切り離せない存在を知るからこそ、由良に従うべきだろうと由利は判断した。
僅かに揺れ動いた心は、隠せばいい。
あんなに嫌な人間だったのだから…。
にほんブログ村
ポチってしていただけると嬉しいです(///∇//)
アンケ…いつの間に佐貫が安住を抜いていたの…?
猛攻ってこのことだね…。
トップは相変わらずみこっちゃんだけど…。
締め切り、いつにするかなぁ。今の話が終わるころ?!