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BLの丘
あの日の夢 1
2012-11-16-Fri  CATEGORY: あの日の夢
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。


うつ伏せだった姿勢から、ベッドのシーツに背中が押し付けられる。
三条燕(さんじょう つばめ)は拡げられた足の間、解された後孔に灼熱が当てられるのを感じて息を飲んだ。
ずっと見えてはいなかったが、改めてその熱を視界にいれれば、大きさと質量感に喉が鳴った。
「力、抜いていろよ」
強張った体が分かったのだろう。
掠れた声が降り注いできた。
両腕でもっと大きく足を抱え上げられて、逃げを打つこともできなくなった。
知らない世界ではない…。もう何度も経験してきたこと…。
一夜限りの逢瀬。目の前の相手とも、この場だけのことなのだと、漠然と分かっていて、受け入れたこと。

行き慣れた飲み屋で、マイノリティな人間が互いに交渉する。
燕にとってあたりまえの世界だった。
そこから恋人同士になる人間たちもいたが、燕は巡り合えていなかった。
それより、独り歩きした『噂』のほうだろうか。
『燕は抱かせてくれる』…。
尻軽な人間だと思われている方が強くて、相手のほうが、一時的な性欲処理としてしか捉えてくれなかったのだ。
それでも『相手』を求めてしまうのは、肌の温もりを感じたいからだろう。
また、夢の中に落としてくれるような甘い囁きが、そこにあったから…。

ホテル備えつけの袋式のローションを全部使い切って、濡らされた秘孔はヒクついていたけれど…。
改めて見た熱棒は想像していたものを上回っている。
「あっ…っ、だめっ、はいっんなぃっ」
「入んないじゃない。挿れるんだよ」
咄嗟の拒絶は、当たり前だが受け入れられることもなく、あっさりと却下される。
燕の後孔を解す間だけで、興奮をまとっていたのか、先走りの蜜がまぶされたローションと混じり合った。
グッと体を畳まれて、熱が喰い込んでくる。
「あっ」
「力抜けって言ってんだろ」
高圧的な言葉が注がれた。
それでも挿入の瞬間は慣れるものでもない。裂けてしまうような恐怖心がつきまとう。
カリの部分が差し込まれれば、それだけで何故かホッとしてしまう。
あとは飲み込んでいくだけ…。

ゆっくりと押し進められることには、酷い扱いにされない安堵感が広がった。
だから余計に力が抜けられた。

「やっべぇ、おまえん中、超キモチいい…」
下生えが尻の狭間に触れる。
奥まで全てが収まったことが分かる。
「ん…っ」
苦しいが充足感に息が漏れていく。
抱いてくれる肌の温もりが気持ち良い…。
相手が満足してくれることがまた、喜びに繋がっていく。

「五泉(いつみ)…」
本名だろうか。
出会ってわずか二時間後の出来事に、聞いた名前を呼んでみた。
30歳だと聞いた。そのとおりなら7歳は年上の逞しい体格の持ち主だ。
左右から後ろへと流した髪も、今では汗に濡れて額にかかっている。
燕の呼びかけに口角を上げた男は、切れ長の目を細めて「おまえ、可愛いな」とポツリ呟いた。
甘えるための手段はすでに身に付けられている。
年上だというのに、呼び捨てにできる、『近さ』のようなものもその手管。
その場だけの、見せかけの、雰囲気作りとでもいうのだろうか。

背を抱いても良いだろうか…。行き場を失っていた、シーツを掴んだ手を重ねられたことで、また新たな安堵が広がった。
「ツバメ…」
耳元で囁かれた低い声にゾクリとし、胎内が蠢く。
少し顔を歪めた五泉が腰を回した。
「あっ、ぅんっ」
「動くぞ」
欲望に溺れていく。
吐き出したい思いを、共に抱えていた。
それだけで繋がった関係…。

イイ部分を見つけた五泉は執拗にそこを責めて、燕は喘ぎ声を堪えることができなくなっていく。
両手をまとめられてシーツに押さえつけられて、自身で扱くこともできずに、性器を相手の腹に擦りつけたく、腰が浮く。
「あっ、ぁぁっ、っ…っ、イ、…イきた…っ」
願いを口に乗せた時、やっぱり口角を上げた五泉が、腰の動きを激しくする。
濡れた眦を撫でてくれた指は、それから燕の性器を握り込んでくれた。
先端を指の腹で撫でられ、適度な強弱をつけて射精を促す。
同時に抜き差しされる後孔が相手を締め付けて、同じように絶頂に導いた。
「あぁぁっ、いつ…みっ」
「ツバメ…」
吐き出せる快楽。注がれる熱欲…。
湿った体が重なった。

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新作。いきなりこんな始まり…。
『あ』つみ の次は『い』つみ ってことで(←どうでもいい回答)
五十音でいったら『た』つみまではとおいいなぁ。
きえちんはどんだけベッドの写真を持っているのか…(そこもどうでもいい)
まぁ、ゲストルームだと思ってください。
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あの日の夢 2
2012-11-17-Sat  CATEGORY: あの日の夢
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。


数度にもおよぶ抽挿の末、燕は意識を失ったらしい。
幾度も熱を放出する行為を繰り返されて、ドロドロに汚れた、…汚された体があった。
夕飯時…ともいえる時間帯にホテルに入り込んで、深夜まで行為は続けられて…。
気付けば外は明るくなり始めている。
隣で眠っている人間を確かめては、『ヤり逃げ』の状態で放置されたわけではないのだと知れた。
過去の逢瀬の中、置き去りにされたことは少ない数ではなかったから。

虚しい…。そう分かるのに、誰かと体を重ねたくなるのは、自分の本質なのだろうか。
視界に写り込んでくるような、仲睦まじい世界に憧れていた。
だけど、心だけがついてこない。相手の心は、体とは違って燕を見てくれなかった。

汚れた体のままではいたくなくて、シャワーでも浴びようとベッドから抜け出そうとする。
その動きに気付いたのか、目覚めた五泉が太い腕を燕の細い腰に巻き付けてきた。
あっというまに体は押さえつけられて、気付けば仰向けの体の上に五泉が跨っている姿勢だった。
「な…っ?!」
「もう一回、ヤらせて…」
耳朶にかじりつくように唇を寄せた男の声が、欲望を露わにする。
重なった下肢は、すでに力をつけていて、擦りつけられては燕も自然と兆しを見せ始めた。
「やぁ…っ」
それと同時に放置された、流れ出るものを後孔に感じる。
後処理まではしてくれなかったようだ。…まぁ、そんなものだろう…と諦めの境地。

「嫌がるなよ。ゆうべだって善がって啼いていたの、おまえだろ」
浅ましさを堂々と告げられて、羞恥に体が火照った。
同意の上でおよんだ行為だとは分かっていても…。
改めて突き付けられる身の軽さ。
プルプルと首を振っても、体の反応のほうが早かった。
嘲笑うかのような笑みが、五泉の口端に浮かぶ。
「いいだろう?欲しいって言えよ」
両手をシーツに留められて、性器だけが腰使いで擦りあわされる。
その微妙な加減に、疼く体の芯がもっと強烈な刺激を求め始めてしまう。
“征服される”…。
どこかで、そんな環境を求めていたのだろうか。
恥ずかしい体勢も、恥ずかしい言葉も、自分自身を煽るもので、また相手を満足させるもので…。
誰かを求めてしまう証のようなものだろうか。
捕まえられそうで、でも手には入らない人。
「あっ、やぁ…っ」
「足、広げろ。気持ち良くさせてやるから」

続きを…。
そう願ったのは誰よりも燕だったのかもしれない。
重なった体の下で、燕は足を広げて膝を立てる。
それは、燕から求めていると相手に告げているようなものだった。
燕自身を、”征服”したと、思わせるようなもの…。
そうすることで、燕は相手のものになれる錯覚に陥る。

後孔に宛がわれた雄芯は、擦りつけられていた時よりももっと熱を増しているようだった。もちろん、硬さも。
「あぁっ」
開かれる…。拡がる感覚に燕から吐息が零れていった。
ゆっくりと潜り込んでくる灼熱が、覚えた胎内の膨らみにわざとらしく当ててきた。
あまりにも緩慢な動きに燕のほうが翻弄されていく。
…もっとほしい…。
眦に浮かぶ滴に、何を望んでいるのかすでにわかっているのだろうに…。
口角をあげただけの男は、自分のペースを保ち、燕の両手を解放することもなく、また体を重ねて燕の性器に腹筋を当ててくることもしなかった。
後ろだけでイける衝撃を知ってはいても、それすらも与えてくれない緩やかな動きだった。
「あぁぁっ、あっ、…っやぁっ…。…も…っ」
まるで苦しみ抜く燕の反応を伺うかのように…。

この男の絶頂はいつやってくるのだろう…。
気が遠くなる…。
ポロポロと涙を流す燕を見てから、五泉の腰が激しく動き出した。
抜けるかというところまで引き抜かれて、また勢いよく戻ってくる。
「あぅっ…っ」
両手が解放されては、燕はその背に回していた。
自分を抱いてくれている腰の手にも力がこもる。
「ツバメ…」
耳朶を撫でる声と、下肢に響く振動。厭らしいほどの挿入の水音に、今だけは『愛されている』気分に浸れた。
「五泉…」
返した言葉に苦しげに眉根を寄せた間近な顔があった。
そこから到達までは、時間の問題だというように…。すぐに訪れては、吐き出すことのできた熱欲に脱力した。
過去の生活を振り返ってみれば、朝になっても抱かれたのが久し振りだったと気付かされる。
だから余計に、求められたことに嫌な気分は微塵もなかったのだろう。
伸びたストレートの髪が濡れた頬に張り付く。
喘いだ紅い唇が、苦しげに空気を求める。
体と同じく細面の顔は紅潮して、虚ろな眼差しを『五泉』という男に向けていた。

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あの日の夢 3
2012-11-18-Sun  CATEGORY: あの日の夢
世の中の慌ただしい喧騒が聞こえてくる頃になって、ようやくホテルを出ることができた。
先に部屋を出ていった五泉は、ここに来た時と同じ、仕立ての良いスーツを身に纏って、去り際に名刺を投げ置いていった。
外見は上役だと見せてくれる姿だった。
その頃まだベッドのシーツにくるまれていた燕は硬い紙を拾い上げる。
『△△商事 専務 頸城五泉(くびき いつみ)』
目で追いかけた肩書と名前に、呼んでいた名前が偽りではなかったのだと気付くが…。
「せ、せんむっ?!」
『年寄り』が得られる役職というイメージが強かった燕には、衝撃な存在となってしまった。
聞いていた年齢は30歳だったはずだ。
多少サバを読んでいたとしても、大きく離れることはない体つきだった。
その体力は、現在ピンと立っている振る舞いが証明していることでもあるだろう。
フッと口角を上げた五泉は大したことでもないように、簡単に説明した。
「兄が事業を起こしてその使い走りにさせられているだけだ。…ツバメ、連絡してこい。それとあの店にはもう行くな」

それが何を意味しているのか漠然と判断がつく。
良く知りもしない相手を手元に置く目的は一つだ。
『都合の良い性欲処理』。
そんなことは何回も繰り返されてきた。
一時的にそばには置いてくれるけれど、最終的には野放しにされる。飽きられる。
気付けばあの店で、また新しい相手を求める…。
その噂を…、燕がどんな人間であるのかは、あの店に出入りしている以上、知らないはずがないだろうと思われた。

名刺を突き返そうとした。
連絡をすることはないという意味を込めて…。
その手を押し返される。
それから身をかがめてきた五泉は、不意に自分の唇で燕のそれを塞いできた。
目を閉じることも忘れて、また抵抗することも忘れて、呆然と口蓋を蹂躙されていた。
わずか一舐め…。それくらいの短い時間だったのかもしれない。
だけど一度もかわすことのなかったくちづけには、なんだ?という疑問まで生まれた。
燕は、相手に望まれれば唇も与えたが、五泉はそれを求めなかった。
当然、燕が想像していたような、『一夜だけ』のものだと思っていた。
なのに、名を明かし、また勤務先まで教えて、拘束されようとしている。
腰を上げた五泉が呆けている燕に視線を落とした。
「言っている意味が分からないバカではないだろう?それともそんなに、誰にでも尻を振る存在でいたいのか?」
やっぱり分かっている…。
燕がどんな立場であったのか…。
使い古し、とも言われてもおかしくないのに、囲おうとするのは、それだけ手軽な存在だと思っているからだろうか。

悲しくなった。
どんどん堕ち潰れていく人間になっていくようだ。
手にした名刺を握りつぶしそうになる。
「ツバメ」
呼ばれた名前に、また注がれた鋭い眼差しに手から力が抜けていく。
「いいか。必ず連絡しろ。都合はできるだけおまえに合わせてやるから」

真意は探れない。
後ろ姿をただ見送った。
どこまで本気で言っているのか…。

ヨロヨロと立ち上がってシャワーを浴びて…。身支度を整えて…。とはいえ、カットソーとパーカー、ジーンズを合わせただけの軽装だったが。
何故か名刺を捨てることもできず、燕もホテルを後にした。
燕の心を引き止めたのは、『朝から』という先程の行為にあるのだろう。
求められている意識のようなものか…。
こうして何度も同じ過ちを繰り返しているというのに、まだ懲りないとも言えた。

安アパートに辿り着いて、ベッドにくたりと崩れ落ちる。
大学の留年をしているのも、こんな性生活に原因があるように思われた。
23歳。燕は大学2年生という学生だった。

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あの日の夢 4
2012-11-19-Mon  CATEGORY: あの日の夢
この日は夕方から居酒屋のバイトが入っていた。
そこで大学が同じ栃尾越路(とちお こしじ)と出会う。男らしく引き締まった筋肉をつけていて、面長な顔に肉厚の唇が印象的だ。
茶色く染められた髪は緩いパーマがかけられていた。
彼と並ぶと燕の身長の低さが晒されるのか、栃尾の背の高さが際立つのか…。
同じ大学…とは言っても、栃尾は20歳と燕より年下で、でも学年は一つ上だった。
昨年は一緒に講義を受けていたというのに…。
ブルーのシャツに黒のエプロンというユニフォームで、客の入り具合を見た。
チェーン店であるこの店は、ほとんどが座敷ではないテーブル席だった。

「三条さん、お久しぶりっス」
くったくのない笑顔で話しかけてくる。
客はまだ少なく、従業員の中にも慌ただしさは見られない。その余裕ぶりから私語も自然と多くなっていた。
「越路、最近合わなかったよなぁ」
「俺、カテキョ増やしたんですよ。あっちのほうが時給の割りもいいんで」
「あ、そうなんだ…」
高額なバイトに憧れるところはあるが、いかせん、留年続きの燕のもとにやってくる話などない。
そういう点でも、どこか話題が違って、関係性が薄れていくのだろうか。
友人だったはずの人間も、何人卒業していったか…。

いつもの動きとの違いを見つけるのも素早かった。そこからは小声だ。
「三条さん、いつまでヤってたの?」
「いつまで…って別に…」
こうもあからさまな話ができるのも、栃尾とは数度寝たことがあったからだった。
もちろん、単純な欲求不満のはけ口であって、友人としての延長の戯れにすぎなかった。
そして、長時間に渡って行為に耽ることがない燕の環境も知ってのことである。
それほど貪られる相手として、見てもらっていないことを自らの体験で栃尾は知っていたのだ。
栃尾は一瞬何かを考えたようで、でも突っ込む気はないのか、「ふーん」とだけ呟いた。
一拍の間をおいてから、顔を近付けては耳元で囁く。
「今度、俺とも付き合ってよ」
誘いの言葉はいつものもので…。また慣れたものでもある。
わざわざ探す手間がないのは、時間の無駄がないのでいいのだが…。
こんな”お手軽”な存在でいたくない思いも、当たり前だが燕の中には渦巻いていた。
曖昧に笑って新しく入ってきた客の応対に向かう。

きちんとした意味で”付き合った”人間は何人かいた。
しかしそう思っていたのは燕だけだったのだろうか。
相手の期待に応えるべく、呼ばれれば向かい、相手に奉仕して、生活時間はどんどんと崩れていった。
挙句には燕の気持ちが『重い』と言われて、プツリと連絡が途絶える。
無茶な要求にも応えてしまう…。それこそがまさに『都合の良い人間』だったのだ。
誰かを求めて…。抱かせた数は何人になるのか。
これが『燕なら抱かせてくれる』という噂の根源になってしまう。

五泉は連絡しろ、と身分を明かして行ったが、今度もどんな扱いに落とされるのかを思うと、燕からまた会いたいと思う気持ちは抱けなかった。
ただ、やはり朝までそばにいて、尚且つ求めてくれたことが引っ掛かりとなっている。
本当にここしばらく、こんなことはなかったから…。

数日後、キャンパス内でも栃尾とは顔を合わせた。
日当たりの良い明るいカフェテリアで、4年生の名立秋葉(なだち あきは)とサンドイッチを食べていた時のことだ。
就職先に悩む愚痴を聞かされていて、ここの食事も「おごってやる」と言われたが、その代償がなんであるのかは簡単に想像できてしまった。
スポーツ刈りのいかにも『体育会系』男。太い眉に威圧的な視線は力強い。
名立も燕を手にかけたことがある一人だった。
燕はその『おごり』を丁寧に辞退した。ストレスの捌け口も混じっていたのだろう。
栃尾が通りすがり、燕に声をかけてきた。
「うっす。こんちは~」
燕を通じてだが、栃尾と名立もすでに面識はある。
その関係性もお互いに知っていて、顔を合わせれば隠すこともない。
若さもあるのか…。
「名立さん、口説いているんですか?」
燕の存在とは、その程度のものなのかと思わされるものでもある。
顔が合えば『抱く、抱かない』の話題しかないのかと…。
「そう。でも見事に断られた」
「あらら。俺もこの前誘ったんですけれどね~」
恨みがましい視線を向けられる謂れはないだろう…と、燕は内心でごちていた。
「へぇ」
「なんだか、すっげぇお疲れ~って感じでしたよ」
「燕、相手でもできたのか?」
「そんなんじゃ…」
「だったらたまにはいいじゃないですか」
「あぁ、栃尾とだったら3Pでもいいか…」
「ふたりともっ。何の話して…っ」
淡々と、赤裸々に語られる内容に、いくらなんでも…と顔を染めた燕が席を立とうとした。
それに重なったいいタイミングで燕の電話が鳴り、足が止まる。
登録されていない番号に、眉間が寄ってしまったが、とりあえず出てみた。燕の行動を二人は黙って見守っている。
「はい…」
『ツバメ?おまえ、連絡してこいって言ったのに、いつまで待たせる気だ?!』
電話の声は響いて目の前のふたりにも届いたのか、無言で目配せしていた。
「あ…っと…」
一瞬話されることが理解できなくて、戸惑いの返事が漏れると、状況を悟ったのかすぐに名乗り出てきた。
『頸城だ。頸城五泉。まさか忘れたとか言わないだろうな』
威圧的な強い口調は聞いたことがある。
『まさか』はなかったが、しかし疑問がすぐに湧いた。
五泉からの連絡先は聞いていたが、燕が伝えた記憶はない。
「あ…と、…あの、なんで俺の番号…」
『そんなもの、おまえが眠っている間に盗ったに決まっているだろう』
当然だと言わんばかりの答え方に、プライバシーなど微塵もなかったのだと知らされた。
さらにそこから、彼の性格が否応なく見えてくるようだった。
命令口調に弱い、燕自身の性格を、燕が密かに呪っていた。

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あの日の夢 5
2012-11-20-Tue  CATEGORY: あの日の夢
そう。燕はどうしたって、自分が必要とされている状況に弱かった。
望まれれば応える。せめてもの、自分のそばにいてほしい思いが強くて相手に従ってしまう。
それを繰り返した過ちが山ほどある過去を認めながら、縋ってしまう弱さを持っていた。
耳元で吐かれる言葉を、どうにか拒絶したいとも思うのに、勇気が持てない。
自分を拘束してくれる…つまりはその人のものだと思わせてくれる台詞が、嬉しく感じられてしまうのだから…。

『今、どこにいる?』
電話機の向こうの声は、燕を縛り付けてくるものとなってしまっていた。
「あ…、がっこ…」
『K大だったな。何時に終わる?迎えに行く』
素直に答えたことが幸いしたのか、少しばかり五泉の声音が穏やかになったような気がした。
矢継ぎ早な質問と五泉が下した決定に、拒絶は許されないものだというような雰囲気が漂ってきていた。
当たり前だが、目の前の二人の『3P』なるものは却下である。
まぁ、都合良く断れる理由づけにもなっていたけれど…。
いつ、学校の情報まで与えたのかも疑問だが、この男に隠し事ができない現状が、逆に理解されている錯覚に陥らせた。
そして、答えたことには、小さな望みが隠されていた。
「5時には…」
『もしかしたら…』という、過去とは違うのではないかという期待である。
五泉が燕の状況を確認してくれる、あたりまえのことなのに、それすらも燕には甘い囁きに響いた。

五泉は『分かった』と短く答えた。
『正門脇で待っている。分からなかったらこの番号に電話しろ』
連絡手段をすでにとった五泉に、二の句もつげない…。

自分の意思など全く無視して、あっというまに切れた電話に、黙っていた二人が口を開くのは時間の問題でもあった。
「何?結局新しい相手が見つかったのか?」
「でも三条さん、すぐだし~」
ひどい言われ様なのだとは理解できている。
その悔しさもあったから、見返してやりたい思いも浮かんでくる。だから余計に慌てて相手を探そうとするのだろか…。
『頸城五泉』という男がどこまで本気で言っているのか、確かめるために一度会うのもいいのではないかと…。

指定した時間、校外に出れば、場違いとも思える、黒の横も縦も大きな外国車が停まっていた。
車になど詳しくなかった燕は、通り過ぎる人たちの視線だけで、その貴重さを味わう。
オフロードも平気で走れるのではないかと思えるような、四角いボディのがっちりとした車だった。
『まさか』…それこそ、まさか、と思いながら、他に停まっている車はないかとキョロキョロとしてしまう。
すると突然、左側の運転席ドアが開いて、男が道路に降り立った。
シャツにジャケットを合わせた男はサングラスをかけていて、その表情の全ては見られなかった。
「ツバメ」
聞き覚えのある声が響く。
以前見た時よりもずっとカジュアルな格好で、名前を呼ばれなければ気付かないだろう。
こんな形で現れられるとは思っていなかった燕は、周りの視線も気になって、すぐにその答えに応じていた。
何せ、目立ち過ぎている。そこにある視線のほとんどが自分たちに向けられているのだ。
燕の存在自体、少々有名になっているところもあって、これ以上注目は浴びたくない。
「来い」
命令口調ではあるが、雰囲気は電話で聞いていたほどの威圧感は伺えなかった。どちらかといえば穏やかさすら醸し出されているほど。
半ば小走り気味に近寄ると、五泉は燕を車道側のドアに案内した。
…そっか、左右逆なんだ…と気付いたのは左ハンドルを見た時だった。
周囲を確認した上でドアを開けてくれて、燕はステップのある車高に手をかけた。
それを五泉が腰を力強く持ち上げてくれて、シートに座ればドアを閉めてくれる。
こんなふうにエスコートされたことがなく驚いているうちに、サッと車体を回り込んだ五泉は乗り込み、慣れた動きで車をスタートさせた。

「何故連絡してこなかった?」
静かな語りかけだったが、開口一番の詰問に、どう答えようか黙ってしまうと、「まぁ、いい」とそれ以上の時間をかけず引き下がった。
一度寝ただけの相手に考えることがあったのだと思ってもらえたのだろうか。
明らかな目的を持って走り出した行き先を、燕はこの時間からいきなりホテルだろうか…と不安になって聞いてみた。
「あ、あの…、どこへ…?」
「俺の家だ」
「家っ?!」
「何だ?ゆっくり話をするのに最適な場所だろう」
チラッと燕を見た五泉の口角が少しだけ上がって、笑みを浮かべる。
家に案内する…ということは、次からは自宅に呼び出そうと考えているつもりなのか…。
結局は同じ、『都合の良い存在』になりそうな予感に、淡い期待が霧散していくのを感じた。
「おまえの家は?大学がここだと、住まいもこの周辺か?」
話ぶりは世間話をしているようだった。こんなところに威圧感は見受けられない。
少しだけホッとできる部分でもあったけれど…。
一度会っただけの人間に、どうして自宅を教えなければならないのか…。
まだ何も知らないことだらけだというのに…。
またの燕の沈黙の回答に、こちらも五泉はそれ以上問うてくることはなかった。
五泉が何を考えているのか想像もつかない。
不安だけが燕を包んでいく。
少なくともこの後、何が行われるのかだけは、漠然と想像ができた。
呼ばれる理由なんて、そんなものだろう…。

少し走ったところで燕の電話が鳴った。音からしてメールなのだと判断出来る。
「遠慮せずに」と言う五泉に甘えて、画面を開けば名立からで、『ハマーに乗ったのが燕って本当か?』という先程の出来事の確認だった。
「ハマー?」
逆にこちらのほうが疑問で、思わず声に出てしまえば、フッと隣で笑ったのが分かった。
「おまえは車には詳しくなさそうだな」
別に馬鹿にしているわけではないのは、口調から感じられることだったし、ある意味、燕の知識の確認も含んでいた。
「あ…、うん…」
「この車だ。車種は様々あるからボディは全てが同じではないが。軍用型もあるしな」
「軍?!」
自分の生活では無縁のような言葉が漏れれば、素っ頓狂な声があがってしまう。
パッと見た感じだけでの判断だが、燕には国産車より大きい、一般道を走っていても違和感もない形に見えた。
「これは全く関係ない。種類があるってことだ」
「はぁ…」
実際には『H2』というモデルであると教えられたのはその直後だった。

20分も走らずに五泉の家だという、高層マンションに辿り着いた。

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