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BLの丘
春が来てくれるなら 1
2013-04-22-Mon  CATEGORY: 春が来てくれるなら
順調なくらいに、大学の卒業も、就職も決まっていた。
御坂大月(みさか だいき)は、新入社員として就職の決まった会社の前で、苦笑すら浮かべていた。
就職難で路頭にさまよい出た人間はどれほどいたのだろう。
父親であり、また社長の御坂都留(みさか つる)が、その人生だけは避けた結果の、大月の就職。

つまりのところ、コネ就職なので、風の当たりは強いのは覚悟の上だったのだが。

総務部に配属され、その場では、『社長の息子』という特別な目で見られていたが、それもあからさまには漂ってこない。
実力が伴っていないと分かれば、否応なく、精神的に潰されていくだろう。
父である社長も、分かっていながら口をはさんでくることはない。
そこは、『一社会人』として見離した部分なのだろうし、揉まれて成長しろという期待も感じられる。
変に気にかけられないだけ、まだ救われるというものか。

こんな空間に押し込められること、それすら嫌であったのだが、自分で仕事口を探せない情けなさもあり、今は『収入』という点で甘えるしかない。
仕事に対するやりがいはみつけられなかったが、組織というしがらみを勉強させてもらうには十分な環境だった。

ちょっとした休憩のつもりだった。
トイレで用をたして、手洗い場の前の鏡に自分の姿をうつす。
大学を卒業したころより、少し、痩せただろうか。
もともと細面の顔だったが、その頬は、またコケたようにも見える。
額に流れ落ちてくるストレートの髪は黒く、見つめる瞳も漆黒だ。
『クールビューティー』と誰かが名付けてくれたっけ・・・と、苦笑すら浮かんでしまう。
その呼び名は大学時代から変わらないが、就職した現在は、ただの嫌味だと知れる。
もっとも、そんな噂話に惑わされるほど気弱な神経ではなかった。

父の働きぶりも、5つ離れた兄の出来も、いつも比べられるものとなっていた。
火付け役であったのだろうが、答えられる根性も、大月にはなかったのかもしれない。
大月は執着するタイプではなかった。
自分自身が投げ出すことで、親族の諦めを誘ったものの、すんなりとはいっていない。
世間体もあるのか、それがこの就職であり、恥の上塗りをさけさせていた。

もう、ずっと随分昔に、『就職などしない』と思っていたはずなのに。
負けたのは金銭面で、だったのか・・・それとも・・・。

見つめた鏡の奥に、滅多に姿を表さない人物が写って息をのんだ。
「なんだ、サボリか?」

大月よりも5つ年上、つまり兄と同じ年の男は、精悍な表情を崩さずに、そっと大月の脇による。
自動で流れ出てくる水道水で両手を洗って、スラックスのポケットから取り出したハンカチで水滴をふき取っていた。
両サイドから後ろに流した髪型だけで、顔の作りの良さをはっきりと浮かび上がらせる。
兄の明野(あけの)と大月の、ほとんど身長差のない二人より、頭一つ分は大きな人。
滅多に階下には降りてこない・・・雲の上の人間と言われるような人が何故にこんなところにいるのか、その疑問さえ、大月からは消えていた。
兄、明野が入社する時に、強引に呼び込んだ人物。
それゆえ、大きな顔をしているのかもしれない。
韮崎巨摩(にらさき きょうま)。
さらに、大月の就職に、社長以上に采配を振るった人間でもある。
彼がいなければ、大月は『フリーター』という、くらげのような存在のままであっただろう。

父の仕事のせいもあったのか、どこか、人生を冷めきった目で見ていた。
いざとなったら、どうにかしてくれるだろう。
・・・全ては甘えなのだけれど。
それらを打ち消したのも韮崎だったのだが。

『親や兄弟の財産を狙うな。おまえをホームレスとして世に送り出してやることは簡単だ。親父さんも明野も、おまえの力は見出していない。俺が全部面倒みてやるから、見返してやれよ』

発破をかけられたのだろうか。
渋った就職を、たったその一言で受け入れることになった。

ただ、代償は大きかった。
大月の全てを見守る代わりに、韮崎が求めたものは、大月の体だった。

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新連載・・・おっぱじめたようです。
溜めたものを出すのならともかく、なんとなーくしか頭にないし。
いきあたりばったりですからねぇ。
止まらないようにがんばります。
目指せ、5月中完結。(短期決戦)
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春が来てくれるなら 2
2013-04-23-Tue  CATEGORY: 春が来てくれるなら
昔から『綺麗』だとか『可愛い』だとか言われたことは多々あった。
持ち前の気の強さであしらってきてはいたが。
それゆえ、付き合った人数も半端ない。
後腐れない関係性を求めていることを理解している人間を選んでいたこともあって、特に問題もなかった。
それを義兄である韮崎(兄の明野と同居している時点で韮崎がどんな存在かは知れたし、今更問い詰めるほどヤボでもない)に咎められた。
そちらがうまくいっているのなら、こちらに構うことはないだろうという開き直りもあったが。

大月が住むマンションにやって来た韮崎は開口一番、本題を切り出した。
「どんな生活が送りたいんだ?就職させてやるから、全部の男を切ってこい。必要があれば弁護士と慰謝料くらい用意してやる」
「はぁぁ???あんた、なに考えてんのっ?そんなの、親父や兄貴の耳に入ったらタダじゃすまないだろ?」
若気のいたり・・・といえるか、大月の行動は目に余っていたのだろう。
韮崎の言動に、大月が目をむくのは当然のことでもある。
しかし、見つめ返した先の眼差しはあまりにも真剣な光を宿していて、大月は声を失っていた。
全ての内容は、極秘に進められるのだということが、眼光の奥から届けられる。
野垂れ死にさせるわけにはいかない、父親の見栄はすでに知っていたが、韮崎まで関わってくるとは思ってもいなかった。
それは、兄の明野のためもあるのだろうか。
心配事は一つでも取り除いてあげたい、愛情なのだろうか。

ますますやさぐれていく大月をかばうこともなかった。
「男が欲しいか?抱いてやるさ、いつだって」
フッと口角を上げて笑った男に対していだいた感情は何だったのだろう。
今更、家族の間に波風は立てたくなかったが、危険な橋を渡ってみたい興味はある。
就職の面倒まで見てくれるなら、これ以上ない条件でもある。

「兄貴になんて言うの?」
「どうにでも」

ただの遊びで付き合うつもりだった。
だが、一度身体を重ねただけで、その手管に堕ちたのは大月のほうだろう。
また、それは韮崎も同じだったのか・・・。
「俺の"駒"になれ」
ベッドの中でつぶやかれた言葉に、無意識に頷いていた。

どこまでが本気で、どれだけもてあそばれるのだろうか。
韮崎が何をたくらんでいるのかも分からないまま。

大月が自社に入社する覚悟を決めたことだけでも、父親も兄も満足していたところがあった。
高層マンションの上層階に、それぞれの部屋を持つ暮らしぶり。
階がちがうのがせめてもの救いか・・・。
これも韮崎が手配したものだったのだが、『会社に近いから』という理由を誰もが鵜呑みにしていた。

韮崎が通うのに便利だから・・・などということは誰も思いつきもしないだろう。


社内のトイレで出会った人物、韮崎は、さりげない仕草で手を伸ばすと、大月の前髪をはじいた。
「揉め事は起こしていないようだな。気が強いのもほどほどにしておけよ。かばいきれなくなる」
「あんたに言われることかよっ」
社内に流れる"風"は韮崎の方が知るのだろうに。
『社長の息子』という立場だけで浮いた存在なのに、そこに追い込んだ真実。

韮崎はこの会社を踏み台にして、起業することを目論んでいた。
あの"兄"はどこまで知るのだろう。

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春が来てくれるなら 3
2013-04-23-Tue  CATEGORY: 春が来てくれるなら
現在、きえちんはHD使えなくて、じかうち状態です。
何か足踏みとかさせていたようで 申し訳ございません。
書け次第、短くてもupしていこうと思います。




51階。そこは両親が住み、また管理する階であり、直通のエレベーターは家族ですら早々足を踏み入れさせなかった。
その下の階に兄の明野と韮崎が居を構える。
さらにその下に、大月は身を寄せることとなっていた。
ワンフロアごと仕切っているところが、贅沢極まりないのだが、安全面まで考慮したら、さほど問題でもないらしい。
父の都留に言わせれば、「各階にボディーガードを置くよりマシだろう」とのことだが。
狙われるような、どんなあくどいことをしているのかは聞かずにいる。

いずれ、こんな場所から離れたいとは、韮崎に言われなくても望むところだった。
ただ、韮崎には、バックをきにかけるのか、どこまでも連れまわしたい風情はある。
それが、何故兄の明野でないのか、不思議なところでもあった。

疑われないのだろうか・・・。
週末の夜はたいがい韮崎は大月の部屋にいた。
一緒に仕事をすれば、その繁忙ぶりは嫌でも目につく。
明野の片腕として同行することは多々あったし、帰る場所が同じとなれば、途中で息抜きをしたい性格も知られているのだろう。
明野にどう言い訳を付けているのかは知らないが、韮崎の堂々とした立ち振る舞いは変わることがなかった。

玄関の鍵も大月の知るところではない。
勝手に入ってくるし、勝手に出ていく。

「大月、風呂は?」
「わいてる」
上着を脱ぎ、ネクタイを外す。
そんなさりげない仕草なのに、時折視線を奪われる。
声をかけられて、慌てたように視線をそらす。

ウブなガキではない・・・。
分かっていても、『大人の魅力』は大月を魅了するに充分だった。
知っているのだろう。フッと笑うにとどめて、韮崎はバスルームに消えた。

兄の明野が聞いたなら、どんな反応を示すのだろう。
自社に入社させるために必死になった父と兄。
韮崎がいなかったら、今頃、どこを彷徨うかも分からないクラゲだ。

韮崎は決して、今の会社をつぶす気はない。
ただ、自分の力を試したいだけのこと。
成功してもしなくても、全ては、会社の新事業としかとらえられない。

バスルームから出てきた韮崎はバスローブをはおっただけの恰好だ。
すでにシャワーを浴びていた大月は黙って寝室までの扉をあける。

兄のものだと分かっていても、今まで抱かれた中で、一番丁寧で優しい愛撫を繰り広げてくれた。
安心して、全身を投げ出せるもの。

「ダイ・・・。おまえは本当に可愛いな」
どこまで本気なのか。
ただ耳元でささやかれることに戦慄く。

この男に抱かれることが、一つのステータスになっていた。

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春が来てくれるなら 4
2013-04-24-Wed  CATEGORY: 春が来てくれるなら
R18 ちょっとだけ性描写があります。閲覧にはご注意ください。

韮崎が過去に抱いた数は、大月が相手をした数と変わらないか、多いほうだろう。
そんなことを比べる気にもなれなかったが。
きっと兄の明野も知っている範囲だ。韮崎のことも、大月のことも。

ただ、もてあそばれているのではないかと思える兄に同情はしていた。
自分のように開き直って受け流すことができる性格ではないと、弟ながらに知る。
信じている部分があると分かるからこそ・・・。
自ら告げたくないのは、兄の傷を深めたくないからだろう。
どんな形であれ、韮崎が明野を想っていることは、端々で感じられた。
それは、大月には向けられるものとは違っている。
それなのに、平気で他人に手を伸ばせる韮崎の精神状態は、理解しがたい。

その半面で裏切っているのは自分だとも理解しながら、危険なぬかるみに足をとられている。
韮崎が本当に欲しいものは何だろうか。

兄にバラしてもいいだろう。
韮崎が何をたくらんでいるのか、父や兄が聞いたなら、間違いなく罵倒するはずだ。
明野が入社する際に引き寄せた存在は、恩を返すように動いてきた。
今では、この組織の中で、大きくなりすぎてもいた。

大月、一人など、自由に扱えるほど。

大月が韮崎の魂胆を口にしなかったのは、同情にも似た、父と兄を守るためだったのかもしれない。
韮崎が会社自体に危害が及ばないように動いていることも知っていたから、ある意味、自由にさせていた。
無駄口をたたかなければ、守ってくれるだろうということを大月なりに理解していたのだ。
どれだけ嫌っても、やはり家族は大切にしたかった。
また、どんなことをするのか、興味の対象でもある。

『会社』という中に収まりたくなかった大月にとって、次々と繰り広げられるものは、リスクを負うほどに興奮するものでもあった。
順風満帆。そんな言葉は長続きしないと、胸の内でつぶやく。


週末の夜。
韮崎は大月の部屋にいる。
共に暮らす兄の明野に、どのような言い訳をしているのかは知るところではない。
過去の奔放な、また、韮崎の人間関係を思っても、一泊や二泊の外泊は、容認できる範囲なのだろうか。

ベッドのシーツに背を預けて、抱いてくれる人を迎える。
特別な言葉などなにも必要としていなかった。
お互い、単に欲求をはらす、存在なのだろう。
韮崎に抱かれて、恋人の気分になる人もいたが、それは韮崎が認めていない。
ただ、韮崎に『抱いてもらった』ということは、ひとつの自慢になるらしい。

バカバカしい、と大月は思っていたが・・・。
それほど魅力的な男なのだとは、否定できないだろう。

韮崎は幾度も大月を求めてくれた。
後腐れない存在だと理解しているからかもしれない。
他の人間なら、『その気』になる危険性があるからだろうが。

大きく足を開いて、後孔に忍び込んでくる指に、続けられる快楽を求めていた。
何もかもを投げ出して、ひたすら、悦楽を味わえる。
「あっ・・・」
敏感な部分を擦られて全身が震える。
分かったように、韮崎の口角が上がった。
「相変わらず、イヤラシイ身体だな」
悔しくても反論できない疼きに襲われていた。

「巨摩・・・」
こんな時でしか呼ぶことのできない名前を口にすると、さらに満足げに微笑まれた。
「挿れるぞ」
「あぁ、うん・・・」
灼熱が秘部に当てられる。

抱きついて、受け止めてくれる腕があること。
単なる欲求不満の解消だけではない違いがここにはあって、そこにも溺れていたのかもしれない。
でも、韮崎は明野の恋人であって、今の時間は気分転換でしかないことも理解している。
『危険な橋』を渡ってみたかった、それだけだ。
その危険度が、また興奮を産んでくる。

きっと、韮崎も同じ感覚だろう。

体内を擦られる激しさに、大月は気付かずに射精していた。
週末の夜はそうやって、腰がたたないほど、翻弄される。
気付けば、韮崎は部屋を出て、"自宅"に帰っていた。

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春が来てくれるなら 5
2013-04-25-Thu  CATEGORY: 春が来てくれるなら
週末が明ければ、当然のように日常に戻る。
大月は総務部の中で、降り注がれる仕事に没頭したし、時々顔を見せる巨摩には誰もが神経を張ってつませていた。

「新人からの提出書類があっただろう?」
こちらで処分できることであっても、全てに目を通さないと気が済まない韮崎の性格なのか。
事務室に訪れられては確認事項のように資料提出を求められた。

「はい、どうぞ。こちらです。中途採用の人間も入っていますからね」
大月はつっけんどんに、どうでもいいという態度を崩さないまま、数人分の資料を手渡した。
その時、ふと、手のひらの肌が触れあってビクリとする。
社内でこんな緊迫した状態には出会ったことがなかった。
「ありがとう」
何もなかったように韮崎はこの場を去った。

今の間隔はなんなのだろう・・・

フと笑った仕草や、さりげない指の動きまで、社内の女性を魅了している。
・・・女性だけではないだろう。

上にたつ韮崎だけに、懐に潜り込みたい人間が山といるのは、入社してから知ったことでもある。
当然、明野との関係性にも気付いている人は多いだろう。
あえて、口にしないのは、自分の立場や今後の危険性を知るからこそ。
韮崎から、排除命令をくだされたなら、この社にはとどまれない。
誰もが黙って、『一族』の成り行きを見守っていた。

こんなとき、口をはさんでこない存在はありがたいことなのか、憎むべきなのか。

父や兄の起こす会社に入社したくないとは、随分前から思っていたことだ。
しかし、どこにも寄りつかない性格が災いしたのか、結果的に韮崎に宥められて、拾われる形でここの会社に落ちついた。
「今だけ我慢しろ」とは入社時に言われたこと。
それは、明野につれられて、この社に入社した当時の韮崎自身の思いなのだろうか。

どこか、似ているのかもしれない。
"束縛"という枷の中で。

韮崎が事務所を去れば、全体から安堵にも似た息がこぼれおちた。
できることなら、大月ごと、別の部署に行ってくれ、というのが本音だろう。
気ままに、自分たちのペースで仕事をしていたものが、一気に覆される。
"ウミ"を産まないための配置だとは、既存の社員には分からないのかもしれないが。

会社を大事にする。その想いがあるからこその、『社長の息子』の配置だったのだが。

新入社員の研修を兼ねた一泊の旅程の中に、大月の名前が刻まれていたことに気付くのは数日後だ。
事務所の中では、『うるさいハエがいなくなってせいせいする』くらいの感覚だ。
総務部は、申請書類に、大盤振る舞いでハンコを押しまくった。

後日、見極めることもできない無能さを指摘されて、数人が減給処分となっていたことを、大月は知らないままに過ごした。

逆上した上司にトイレで襲われたのも、また数日後だった。
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