勝手ながら2011年度版アンケートを閉じさせていただきました。
あとでアンケート結果の報告をさせていただきますね。ダントツ一位が《栗本&譲原》で、これはもう覆らないだろうとさっさと書くことにしました。
年末に向けての【予告】を兼ねて(もう充分年末ですが)、不定期で進めていきたいと思います。
年内中には完結する方向で…。 (多忙になりつつあるのでそこは多目にみてやってください)
今受けている離婚問題の件に、譲原望(ゆずはらのぞむ)は同情の念を抱いていた。
三十代も後半の男は、38歳の自分と年齢が変わらない。
長年勤めてきた社会的地位があり、年齢と共に培った貫禄も滲ませている。きっちりとスーツを着こなした姿は、誰からも好かれる『デキる上司』を感じさせた。
シャープな顔立ちの中にある二重の瞳といい、通った鼻筋は女性を惹きつけるものになるだろう。
それが仇になったのか…。
世間体を考えてもあって結婚したはいいが、結局彼は女性を愛することはできなかった。
その昔、女性と付き合っていた期間もあったらしく、生活していくことは可能だろうという曖昧な考えが、結婚当時の彼にはあったらしい。
しかし彼はもともと女性よりも同性に目が向く性癖だったそうだ。
現実問題、夫婦生活は持てなく、溝は広がるばかりだった。
生活を拘束される不自由さにもやがて辟易するようになり、三年の結婚生活の中、この一年は別居生活だったという。
結局彼女が求めたのは慰謝料で、愛情を持てなかった彼を責めたかったのだろう。
もしくは彼を取り戻したかったのか…。
望の勤めるビルの事務室。各個人に割り当てられた部屋はセキュリティのしっかりしたものである。
もとより警備員が常駐しているため、無関係な人間が入ってくることも難しいのだが。
その部屋の中で相談に訪れた江嶋晃人(えしま こうと)と向かいあってソファに座っていた。
自分の性癖のことまで伝えてくるとは度胸のいることであっただろう。
ただ真実を伝えてもらえない限り、こちらも弁護することはできない。その点では正直に口にしてもらってありがたく、判断材料になる。
こんな状況にあるからなのか、見栄えのいい体面とは対照的に、悩み事を打ち明ける弱さを見せる。
入ってきた時の、挨拶を交わした時より肩を落としていた。
「最初の頃は彼女、『別れない』って言い張っていたんですよね。それで結局ズルズルここまで来てしまって…。それが突然、別れてもいいという話になりまして…」
「ご自身のお気持ちは話されたのですか?え…と、その…、女性、男性について…とか…」
望が突っ込んだ質問をすると、江嶋は「まさかっ」と目を見開いて両手を胸の前で横に振った。
「向こうには恨みの気持ちが強いんです。どこで何を言われるか…」
まぁ、当然の意見である。自分たちのような関係を世間的に、はいそうですか、と受け入れてくれる人間はまだ少ない。
迂闊なことを口走りされて職場や住処を追われる危険は孕んでくる。
ずっと意地を張っていた彼女が掌を返したように決断したのは何故なのだろう。彼の性癖を知ったのであれば理由も分かるところだが…。
「そうですね。…失礼ですが、別居中にどちらかの方と…ということはございましたか?」
つまり『浮気』のことである。
相手側が調査している可能性は高い。女性と共にいれば怪しまれるだろうが、同性であればどう捉えられるだろうか。
こちらの質問には明らかな動揺が見られた。肯定したようなものだ。
そこからバレた可能性も否めない。
「気付かれている可能性は…?」
「いや、そんなことは…。たぶんないかと…。彼女の性格を考えたら必ず言ってきます。鬼の首を取ったように現れるでしょうね」
それこそ『騙された』くらいの意識は持つだろう。
どちらにせよ、江嶋に非がないとは言い切れない状況で、不利なのは変わらない。
「そうですか。相手の方ともお話をさせていただかないとですしね。江嶋さんのご要望があれば選択肢に優先順位をつけて進ませていただきたいと思いますが」
「俺の意見て聞いてもらえるんですか?」
「もちろんです。一方的な話し合いにはしませんよ」
江嶋の発言に、どんなつもりでここまで来たのかと驚いてしまった。
彼女に財産を譲るための書類作成でもしにきたのだろうか。
望がはっきりと告げると、ホッとしたように笑顔を見せた。
「良かった…。ダメ元でここまで来たんです」
不安だったのは、江嶋が告白した内容にあったのか。自分のような人間は受け入れられないと思っていたのか…。
望はできるだけ穏やかな声で返した。
そうすることで少しでも江嶋の抱える狭められた空間を広げてやりたかったのかもしれない。
思うほど問題視するものではないと…。
「世の中には色々な状況が発生します。可能な限りお力になれるよう努力させていただきますので」
「ありがとうございます。どうか宜しくお願いします」
望の言い分を理解し、かといってあえて口に乗せてくるわけでもなく。
座ったままきちっと頭を下げた男は、社会の中を確実に前に進んでいる人間なのだと、改めて感じた望だった。
にほんブログ村
ポチッとしていただけると嬉しいです。
あとでアンケート結果の報告をさせていただきますね。ダントツ一位が《栗本&譲原》で、これはもう覆らないだろうとさっさと書くことにしました。
年末に向けての【予告】を兼ねて(もう充分年末ですが)、不定期で進めていきたいと思います。
年内中には完結する方向で…。 (多忙になりつつあるのでそこは多目にみてやってください)
今受けている離婚問題の件に、譲原望(ゆずはらのぞむ)は同情の念を抱いていた。
三十代も後半の男は、38歳の自分と年齢が変わらない。
長年勤めてきた社会的地位があり、年齢と共に培った貫禄も滲ませている。きっちりとスーツを着こなした姿は、誰からも好かれる『デキる上司』を感じさせた。
シャープな顔立ちの中にある二重の瞳といい、通った鼻筋は女性を惹きつけるものになるだろう。
それが仇になったのか…。
世間体を考えてもあって結婚したはいいが、結局彼は女性を愛することはできなかった。
その昔、女性と付き合っていた期間もあったらしく、生活していくことは可能だろうという曖昧な考えが、結婚当時の彼にはあったらしい。
しかし彼はもともと女性よりも同性に目が向く性癖だったそうだ。
現実問題、夫婦生活は持てなく、溝は広がるばかりだった。
生活を拘束される不自由さにもやがて辟易するようになり、三年の結婚生活の中、この一年は別居生活だったという。
結局彼女が求めたのは慰謝料で、愛情を持てなかった彼を責めたかったのだろう。
もしくは彼を取り戻したかったのか…。
望の勤めるビルの事務室。各個人に割り当てられた部屋はセキュリティのしっかりしたものである。
もとより警備員が常駐しているため、無関係な人間が入ってくることも難しいのだが。
その部屋の中で相談に訪れた江嶋晃人(えしま こうと)と向かいあってソファに座っていた。
自分の性癖のことまで伝えてくるとは度胸のいることであっただろう。
ただ真実を伝えてもらえない限り、こちらも弁護することはできない。その点では正直に口にしてもらってありがたく、判断材料になる。
こんな状況にあるからなのか、見栄えのいい体面とは対照的に、悩み事を打ち明ける弱さを見せる。
入ってきた時の、挨拶を交わした時より肩を落としていた。
「最初の頃は彼女、『別れない』って言い張っていたんですよね。それで結局ズルズルここまで来てしまって…。それが突然、別れてもいいという話になりまして…」
「ご自身のお気持ちは話されたのですか?え…と、その…、女性、男性について…とか…」
望が突っ込んだ質問をすると、江嶋は「まさかっ」と目を見開いて両手を胸の前で横に振った。
「向こうには恨みの気持ちが強いんです。どこで何を言われるか…」
まぁ、当然の意見である。自分たちのような関係を世間的に、はいそうですか、と受け入れてくれる人間はまだ少ない。
迂闊なことを口走りされて職場や住処を追われる危険は孕んでくる。
ずっと意地を張っていた彼女が掌を返したように決断したのは何故なのだろう。彼の性癖を知ったのであれば理由も分かるところだが…。
「そうですね。…失礼ですが、別居中にどちらかの方と…ということはございましたか?」
つまり『浮気』のことである。
相手側が調査している可能性は高い。女性と共にいれば怪しまれるだろうが、同性であればどう捉えられるだろうか。
こちらの質問には明らかな動揺が見られた。肯定したようなものだ。
そこからバレた可能性も否めない。
「気付かれている可能性は…?」
「いや、そんなことは…。たぶんないかと…。彼女の性格を考えたら必ず言ってきます。鬼の首を取ったように現れるでしょうね」
それこそ『騙された』くらいの意識は持つだろう。
どちらにせよ、江嶋に非がないとは言い切れない状況で、不利なのは変わらない。
「そうですか。相手の方ともお話をさせていただかないとですしね。江嶋さんのご要望があれば選択肢に優先順位をつけて進ませていただきたいと思いますが」
「俺の意見て聞いてもらえるんですか?」
「もちろんです。一方的な話し合いにはしませんよ」
江嶋の発言に、どんなつもりでここまで来たのかと驚いてしまった。
彼女に財産を譲るための書類作成でもしにきたのだろうか。
望がはっきりと告げると、ホッとしたように笑顔を見せた。
「良かった…。ダメ元でここまで来たんです」
不安だったのは、江嶋が告白した内容にあったのか。自分のような人間は受け入れられないと思っていたのか…。
望はできるだけ穏やかな声で返した。
そうすることで少しでも江嶋の抱える狭められた空間を広げてやりたかったのかもしれない。
思うほど問題視するものではないと…。
「世の中には色々な状況が発生します。可能な限りお力になれるよう努力させていただきますので」
「ありがとうございます。どうか宜しくお願いします」
望の言い分を理解し、かといってあえて口に乗せてくるわけでもなく。
座ったままきちっと頭を下げた男は、社会の中を確実に前に進んでいる人間なのだと、改めて感じた望だった。
にほんブログ村
ポチッとしていただけると嬉しいです。
- 関連記事
何やら不思議なタイトルですね~(*o´・∞・`)?
前作の「あやつるもの」と言い、誰にでも どの様にでも取れるタイトル!
読者の興味をそそるタイトルをつけるなんて きえ様、素晴らしい~♪
ケーキ食べたくなったのは、私だけ?
エヘヘ(*´・∀・`*)ゞ...byebye☆
前作の「あやつるもの」と言い、誰にでも どの様にでも取れるタイトル!
読者の興味をそそるタイトルをつけるなんて きえ様、素晴らしい~♪
ケーキ食べたくなったのは、私だけ?
エヘヘ(*´・∀・`*)ゞ...byebye☆
頼れる護士さまですね
『眼差し』で初登場したときのことを思い出しました
甘い…
何が甘いんでしょうね
顔?
性格?
それともラブラブ甘々?
楽しみです
『眼差し』で初登場したときのことを思い出しました
甘い…
何が甘いんでしょうね
顔?
性格?
それともラブラブ甘々?
楽しみです
けいったん様
おはようございます。
> 何やら不思議なタイトルですね~(*o´・∞・`)?
> 前作の「あやつるもの」と言い、誰にでも どの様にでも取れるタイトル!
> 読者の興味をそそるタイトルをつけるなんて きえ様、素晴らしい~♪
>
> ケーキ食べたくなったのは、私だけ?
> エヘヘ(*´・∀・`*)ゞ...byebye☆
タイトルはいつも悩みます。
文章は書けたけどタイトルが決まらなくて保留…なんてことも。
曖昧なタイトルをつけるのは、先が見えないからどうにでもなるように~です(?!)
…いや、タイトルに見合うように話を持っていくのか…???
ケーキ? そこにイチゴがあったから?
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 何やら不思議なタイトルですね~(*o´・∞・`)?
> 前作の「あやつるもの」と言い、誰にでも どの様にでも取れるタイトル!
> 読者の興味をそそるタイトルをつけるなんて きえ様、素晴らしい~♪
>
> ケーキ食べたくなったのは、私だけ?
> エヘヘ(*´・∀・`*)ゞ...byebye☆
タイトルはいつも悩みます。
文章は書けたけどタイトルが決まらなくて保留…なんてことも。
曖昧なタイトルをつけるのは、先が見えないからどうにでもなるように~です(?!)
…いや、タイトルに見合うように話を持っていくのか…???
ケーキ? そこにイチゴがあったから?
コメントありがとうございました。
甲斐様
おはようございます。
> 頼れる護士さまですね
> 『眼差し』で初登場したときのことを思い出しました
『眼差し』でもがんばってくれました。
辛い立場でもお仕事はきちんとしてくれる人です。
> 甘い…
> 何が甘いんでしょうね
> 顔?
> 性格?
> それともラブラブ甘々?
> 楽しみです
さぁ、なんでしょう。
この先を考えねば…(←)
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> 頼れる護士さまですね
> 『眼差し』で初登場したときのことを思い出しました
『眼差し』でもがんばってくれました。
辛い立場でもお仕事はきちんとしてくれる人です。
> 甘い…
> 何が甘いんでしょうね
> 顔?
> 性格?
> それともラブラブ甘々?
> 楽しみです
さぁ、なんでしょう。
この先を考えねば…(←)
コメントありがとうございました。
| ホーム |