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BLの丘
珍客の訪れ 1
2013-07-02-Tue  CATEGORY: 珍客
【策略はどこまでも】の番外SSです。




その日、桜庭那智(さくらば なち)は、上司の中條誠(なかじょう まこと)と外回りの仕事に出ていた。
午前中に2件の得意先を回り、社屋を背後に駐車場に向かいながら、「ランチでも食べて戻ろうか」と話に花が咲く。
午後は二人とも自社の会社内で書類とにらめっこの予定でおり、これといって急ぐ必要もなかった。
中條と一緒の時は車で移動することが多かった。
気兼ねなく会話ができるところと、資料などの荷物が増えても、重さを気にせずに移動できるところは利点である。
ペーパードライバーの那智が運転することは無いに等しく、一人であれば何の迷いもなく公共交通機関を利用した。
今日も中條が運転席に乗り込み、那智は助手席に収まる。
その時、那智の携帯電話が鳴り、中條は気にした様子もなく出るよう促してくる。
行き先が決まっていない中條は、車を発進させずにいた。

那智は発信者を見て眉をひそめた。
見慣れた会社名だったが、この名前が表示されることは非常に珍しい。
その会社に出入りする人間を嫌というほど知っていても、ほとんど本人の携帯電話からかかってくるので、見たことがないと言えるくらいだった。
那智の反応に中條は少なからず疑問を持ったようだが、口を出してくることはない。
「はい、桜庭です」
一応、営業用の口調で出てみると、『あぁ、姫君(ひめぎみ)?』と快活でありながら低音の声が届けられた。
相手の呼び方を聞いて、より一層那智の眉間は寄せられた。
そう呼ぶ人間を数名知っている。

電話をかけてきたのは、那智の恋人、高柳久志(たかやなぎ ひさし)が勤務する運送会社の上司で、黒川という部長だった。
那智も何度か直接顔を合わせたことがあるので、すぐに容姿が脳裏に浮かんだ。
50歳代だと聞いたが、仕事柄か今だもって筋肉をきちんと付けた肉体(だと思われる)は、その年齢を感じさせない。
明朗快活な性格は裏表がなく付き合いやすかったが、この呼ばれ方だけは気に入るものにはならない。
中條も『さくらちゃん』という、可愛さ丸出しのニックネームを付けてくれていて、こちらも何度言っても直る気配は見えなかった。
黒川に対しては、あからさまに文句を言うわけにもいかず、久志を通して不満を訴えているのだが、馬耳東風と聞き流されている。
頻繁に会うわけでもなく、強く出ないのも訂正されない理由だろう。
久志からの電話ならしょっちゅうだし、たとえ会社の電話を使われても気にも留めないのだが、上司からともなれば嫌な予感が走り抜けた。

「えーと、どうしましたか?」
この際、呼び名の件は後回しにしようと、脳は現状確認を求める。
黒川も面倒な前置きは省いて本題に入ってくれた。
『実は高柳が事故ってさぁ…』
「事故ぉっ?!」
予想もしなかった回答は那智を瞠目させるには充分だった。
中條も「えっ?!」と聞き耳を立ててきた。
ただ黒川の声音に慌てた様子は感じられず、那智の動揺とは対照的に淡々と続きを語った。
その口調は、いたって穏やかで、差し迫った状況ではないと伝わり、最初の焦りが徐々に鎮められていく。
話の内容はこうだ。
荷物仕分けの構内現場で、荷物の積まれた可動式のコンテナに体をぶつけて、足を挟んだという。
重量のあるソレは人の力で充分動かせるものだったが、少しでも勢いがつけばただの凶器に変貌する。
久志の職場では荷扱いの関係上、それらに触れないわけにはいかず、安全に関してはどれだけ注意していても、怪我をする確率は高かった。
擦り傷を作ったとか、指を挟んだ、くらいの報告は過去にも本人からされていたので、その程度は那智にしてみたら、紙で指を切ったのと同等の感覚だった。
怪我をしたことを『事故った』と大げさに表現するのはこの会社の人間ならではなのかもしれないが、那智にとっては非常に心臓に悪い言葉となって響く。
黒川自ら電話をしてきたことで、違いに気付くが、それでも生命にかかわるほど酷くないと思えた。
とはいえ、心配なのは変わりない。

説明では、多忙極める現場から人員の応援要請をもらい、いつものごとく久志を送りこんだらこんな事態になってしまったそうだ。
普段よりも多い人数と物量に囲まれて、スムーズに事が運ばれなかった不運もあったのだろう。
人間でも時間でも、追われるものがある時ほど余裕がなくなり、注意力は散漫になる。
『本人は"問題ない"って言い張っているんだけれどさぁ。単純な事故ほどデカイ怪我だったりするんだよ。まぁピンピンしていることはしているんだけどねぇ。一応病院行けって言っても聞かないし。今日はもう退社させるんだけど、運転して帰るってふざけたこと言うし…』
吐きだされるのは心配なのか呆れなのか…。
このまま一人帰して、途中で交通事故にでも合われたら、それこそ困るのは"運送会社"のほうだった。
もう一つは、那智に黙ったままでいられても面倒を生むだけと判断されたからだろう。
久志は那智の友人である朝比奈一葉(あさひな かずは)から車を購入して以来、通勤に使用していたから、置いて帰りたくない心理も理解できたが…。
どう答えたら良いものかと声を発せないでいる那智に、黒川はまた続けた。
『こっちで誰かに付き添わせて病院連れて行ってもいいんだけど、あいにく人が足りないところでさ。高柳が元気すぎるだけに表立って人を割けないから、まあ、今日でも明日でもいいから、病院に行くこと、説得してもらえないかと思って、ね』
久志が誰に弱いかを良く知る上司だった。
そこにはもちろん、自ら運転して帰らないように、との約束を取り付けてほしい願いが込められている。
どっちを向いても人手が足りないのは、『夏のご挨拶』が出回る時期だけに仕方がない。
久志の我が儘に、那智は一つのため息をこぼしてしまった。

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数話で終わる予定…(←いつものごとく言っておく)
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コメント

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私の初恋の人・那智♡(//▽//)
コメントけいったん | URL | 2013-07-02-Tue 19:20 [編集]
きえちんの作品で 最初に好きになったのが、那智でした!
まだ ブログを開設されて 間もない頃だったと、記憶しております。
「ツンデレ」って 那智みたいな人と知ったのも この頃です。(←遅いでしょ(笑))

ネット小説歴は、長いですが、
あの頃は、コメを書き込む勇気なんて 全く無く ただ ひたすらに読むだけの読者でした。
それが 今じゃぁ~( ̄∇ ̄*)ゞエヘヘ♪

続き楽しみに ノンビリとお待ちしてます♪v(`ゝω・´)キャピィ☆

拍手コメ kさま
コメントきえ | URL | 2013-07-02-Tue 20:38 [編集]
こんばんは~。

> ええーー!!怪我したの?ねえ、本人ピンピンしてるって言うけど、怪我はどんな具合なのか気になるー。まさか、那智に運転させないよね?その方が心配(苦笑)

私の頭の中が読まれているようなので、何も語らずにサヨナラしますね~。
(みんな、スルドイんだもん (^_^;)ヒヤアセ)
肝心のヒサが出てこずに終わってしまいましたね。
さぁ、どんな登場をしてくれるのでしょうか(笑)
コメントありがとうございました。
Re: 私の初恋の人・那智♡(//▽//)
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-02-Tue 20:53 [編集]
けいったん様
こんばんは~。

> きえちんの作品で 最初に好きになったのが、那智でした!
> まだ ブログを開設されて 間もない頃だったと、記憶しております。

おー、そんな前から…(汗)
はっきりいって、失敗作と言える『策略~』はもう下ろしたいくらいなのです。
いえ、他の作品もそうなのですが…。
恥ずかしすぎて×2…。

> あの頃は、コメを書き込む勇気なんて 全く無く ただ ひたすらに読むだけの読者でした。
> それが 今じゃぁ~( ̄∇ ̄*)ゞエヘヘ♪

じゃんじゃん書き込んじゃってください。
とても楽しんでいますよ~。
それにいただきものも多くて、涙が出ます。

もうここのところ、『想』での那智しか出していなかったから、書いている私も新鮮です。
ツンデレ那智…になるかどうか、ちょっと疑問ですけど。
コメントありがとうございました。
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