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BLの丘
珍客の訪れ 3
2013-07-04-Thu  CATEGORY: 珍客
滝沢と呼ばれた青年の本来の勤務場所は建物の中であって、こうして車両が駆け抜ける地面に降りてくることは滅多にないそうだ。
トラックの荷台と同じ高さに造られた建築物の床は、そばに寄れば見上げるほどの高さがある。
トラックへの荷積みの作業をしていたところ、迷走する車を見つけて、飛び降りてきたのだとか。
そこはやはり、『安全第一』の作業現場なのだ。
久志が怪我をしたことは社内ではとうの昔に知れ渡ったことで、内輪事情に詳しいのは一緒に働いていた社員だからこそ。
また那智を以前見かけたことがあった滝沢は、一連の事柄を結びつけるのも早かった。
滝沢から連絡を受けた久志は、てっきり現場も現場、まさに久志が怪我をしたその場所に那智が入りこんだと勘違いしていたようだ。
いくらなんでも勝手にそんなところに入っていくかっ!と那智は内心で毒づいていたが声にはしなかった。
…というより、口を挟む隙がなかった。

ガーガー言っていたはずのトランシーバー無線は、何人もの声を届けてきた。
先程まで暗号でも伝えあっていたかのようなやりとりは鳴りを潜め、「滝沢、どこにいるんだ?」とか「(作業)ラインを止めて休憩にしよう」だとか、「姫ちゃん、上にあげちゃえよ」など、私語と思われる会話で埋め尽くされる。
見やった建物では、トラックとトラックの間から数人単位の塊がこちらを見下ろしているのが視界に入った。
さすがに降りてくる人物はいなかったが、滝沢の一言で仕事に対する注意が削がれたのは確かなようだ。

黒川や久志の声も混じり、「とりあえず事務所へ」と指示を受けた滝沢の案内で、中條は車をUターンさせ、敷地内の隅を塀沿いに回り込んで建物の反対側に出た。
そちらが本来、誰でも出入りできる『入口』だったようで、何故大型トラック専用の門をくぐってしまったかと言えば…、目の前を見慣れたトラックが走っていたから…というしかない。
だだっ広い敷地は車で走っても入口が見つけづらかったのだ。
ガラスの自動ドアが取り付けられた建物の入り口前には、来客者用の駐車スペースが数十台分用意されていた。
充分広いのだが、大型トラックが行き交う場所を見た後だからか、妙にこじんまりとしたスペースに見えてくる。
またもや全力疾走したらしい滝沢が、自動ドアの前で待っていてくれた。
中條と磯部は降りることをためらったが、見知らぬ場所に単身飛び込んでいく勇気はないと目で訴えた那智に苦笑して後を追ってきた。
そんなウブな神経は、とっくの昔に中條が指導して削ぎ落していたとは、誰も言いはしなかった。
あとは入る機会もない所へ足を踏み入れられる好奇心か…。

フロアごとに幾つかの部署があるらしく、エレベーターで2階へと案内されると、左右に分かれる廊下の片方へと向かう。
すぐにドアがあり、こちらも大きく『関係者以外立入禁止』の看板が掲げられていた。
『事務所』と一口に言っても、久志たちがいるところは、『現場管理事務所』として存在しているそうで、直接現場構内に行けるよう、隔てられているとのことだった。
そのドアを開けるとベランダのような通路に出て、荷仕分けの現場を上から望むことができる。
下の階につながる階段もあり、現場の人間はこの階段を使って行き来しているのだと思われた。
ビルで言うなら4階分のスペースが一つの空間となっているために、より一層の広さを感じる。最奥までは数百メートルといったところか。
更に続く扉を開けると、事務デスクが並ぶ、本当の事務所になっていた。
ただ、作業現場側はガラス張りで、構内が見渡せる。そちらは現場上部に出られる渡り廊下まで造られていて、中央地点まで行けるようだった。

滝沢に続いて那智たちが入るとカウンター台に迎えられた。
その奥に事務机が適当な『島』を作って並べられている。
そこに居た人間たちが一斉に振り返り…(というより、手ぐすね引いて待っていた印象だ)視線の集中攻撃を浴びた。
女性事務員が3名、他、ユニフォームを着用した人からスーツ姿の男性社員が数倍の人数で待機している。
事務所内で"働いている"雰囲気は全く見受けられない。
目を見開く者、「おーっ」と歓声を上げる者、それらを無視し、素早く室内を確認するように動いた那智の瞳は、ほぼ中央に位置していた久志の姿を真っ先に捉えたが、すぐ横に座った黒川のほうが先に声をあげた。
「ご苦労さん」
黒川は苦笑を浮かべ、久志は明らかに不貞腐れていた。
怪我をしたと聞いていても見た目はいつも通りでホッと胸を撫で下ろしてしまう。
まずは手間をかけたことの詫びを上司にするべきだろうと、那智はペコリと頭を下げた。
「黒川さん、このたびはご迷惑をおかけいたしました」
「いや、これといって、ねぇ」
「別に那智、呼ぶほどのことじゃないって言うのに」
久志の反論をきっかけに、あちこちからくだけた口調の言葉が次々と発され始めた。
「那智君っていうの?」
「噂以上の美人さんだなぁ」
「わざわざ来てもらって文句言う奴がいるかよ」……などなど。
この場にいる人たちの興味が那智にあることは、中條たちも気付くことができる。
久志からの情報だけではなく、実際に自分の目で確認したい心理は、久志の外見があるからこそ湧くものだとも理解できた。
それにしても、初対面にも関わらず、取り繕わない気さくさはこの社の人間ならではなのだろうか…。

中條や磯部も交えて、「大変でしたね~」とか「お仕事中だったんでしょ」などと話の輪に引っ張り込み、また、即対応できる営業マンとしての話術にも感心させられた。
そんな彼らを黒川がある程度の所で切り上げさせ、現場に戻るよう促している。
どうやら公然と仕事をさぼっていた連中のようだった。
人で埋まっていた事務所内はあっという間にガランと静けさを取り戻し、久志と黒川、スーツの男性2人と女子事務員だけになった。
机の数に全く比例しない在籍人数にも驚かされるが、黒川は隅のほうにある長テーブルの一角に那智たちを呼んだ。
さすがに中條たちは遠慮したそうだったが、「まぁ、いいから」と言われては従うしかない。
5人が囲んで座る光景を、他の人間が遠巻きに見て耳をダンボにしている。
たった僅かな移動でも右足をかばった久志の動きは、那智には隠すことなどできるはずもなく、ため息とともにバツの悪さを浮かべていた。

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村から来てくださっている方、新着記事が妙な時間になっていて、心配してくださいましてありがとうございます。
予約しているんですけれど、私の希望通りにupしてくれていない(>_<)
でもまぁ載ってくれているからいいかぁと思っています。
真夜中に起きていられる体力はありませんのでご安心くださいね。ちゃんと寝ています。
とはいえ、必ずしも定時でupできるわけではないのでご了承ください。
3話目まではできた…。三日坊主にならないことを祈って (―人―)ナムー
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コメント

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コメントけいったん | URL | 2013-07-04-Thu 13:39 [編集]
美人さんの恋人をもつと 大変だね、久志v(`ゝω・´)キャピィ☆

まるで 動物園のパンダ?コアラ?状態の那智は、大勢の社員の注目の的!

その中に 場違いな掃除腐が 紛れているのは どうか お気になさらずに♪
「生・那智」、やっぱり 綺麗だわぁ~♡|壁|ω-o*)゚+. ポッ
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-04-Thu 20:53 [編集]
けいったんさま こんばんは~。

> まるで 動物園のパンダ?コアラ?状態の那智は、大勢の社員の注目の的!

大変だねぇ。檻の中でちゃんと飼育しないと。
営業社員らしく、愛敬振りまいて、ヤキモキしている飼育員が…ヽ(`Д´)ノ

> その中に 場違いな掃除腐が 紛れているのは どうか お気になさらずに♪
> 「生・那智」、やっぱり 綺麗だわぁ~♡|壁|ω-o*)゚+. ポッ

掃除腐さんも怪我しないようにね~。
混雑したところでよそ見は危険だよ~。
でも久志と那智が揃うのなら、埃の一つもないようにがんばっちゃうよね(^^)v
コメントありがとうございました。
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