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BLの丘
珍客に憧れ
2013-07-22-Mon  CATEGORY: 珍客
神戸長流(かんべ たける)は広告制作を生業としているのだが、その伝手を生かして、ギャラリーを所有していたりイベントの演出を請け負ったり、はたまたバーを経営したりと、手広く事業をこなしていた。
ほとんど自由業とも言える職種のため、休みは好きに選択できる…はずなのだが、取り囲んでくれる人間はどうにも勝手な人が多い。

夕日

夏に向けて、長期的な休みを確保するために、秒単位のスケジュールを本日もこなしていた、とある国で、撮影中にやかましく携帯電話が鳴り響いた。
呼出人を見ては眉間に皺が寄ってしまう。
それでも無視するわけにはいかないだろう。
「ハイ、千城~?何、どうしたの?」
相手は学生時代からの悪友で、現在は『社長』という役職についているせいか、知る限りの中で一番の傲慢男だと思っている。
それでも嫌わずに付き合いがあるのは、人となりを熟知できているからだ。
洞察力も判断力も群を抜いており、人を惹き付ける魅力を充分なほど備えている。
育った環境ももちろんあるのだが、闘争心の高い男は長流にとっても損となる存在にはならない。

千城からはちょうど請け負っていた仕事があった。
千城の恋人は、長流の下で働く傍ら、画家としての名声も持っていた。
たまに長流が作品を展示するのだが、ある程度作品がまとまってくれば、『個展』というかたちで披露している。
何せ本人たちが一切こだわらないのだから、好きに出来るところは良しとしても…。
大概の人間なら我先にと口を出してくるところだが、長流が何も言わなければ埃に埋もれて終わる作品になるほど関心がない。

それはさておき。
おかげで展示に関する全ては長流の腕に委ねられていた。
そんな状態なのに、千城から連絡をもらうような事柄が今の長流には他に思い浮かばない。
何やら問題でも発生したのかと、影ながら焦る心は、本人を目の前にしていなくて良かったと思わず安堵してしまったくらいだ。
深層心理くらい簡単に読みとられてしまう恐ろしさの持ち主なのだから。
電話の向こうでは不機嫌そうな声が上げられた。
『個展に配置した人員に欠員が出たそうだぞ』
今回の個展は長流が個人的に手配している。
ちょうど知り合いのホテル経営者から、空きスペースとなっているバンケットホールの使い道を相談された時で、お互いの利害が一致しては話の進みも早かった。
臨時のアルバイトを雇い、自社の社員を差し向ける必要もないので、スケジュールを変更せずに済んだ。
唯一心配したことといえば、長流が国外に移動する予定があり、その間、緊急事態が発生した場合の対応だった。
とはいえ、ホテル側の協力もあるので、これといって事件になるようなことはないと思っていたし、万が一の時の連絡先として千城の秘書である野崎を紹介しておいた。
『万が一の事件』なんて、作品に関することしかないだろうと、そうなれば千城への伝わりも早いほうがいい。
雑用を押し付けるようで申し訳なかったが、全ての物事を自身で把握したい性格を考慮すれば、『個展が開かれている』ことを伝えるのは正しい判断だと思えた。
今疑問なのは、何がまかり間違って、たかが人員の件などが千城の耳に入ったのかというほうだ。
野崎であれば、新しいアルバイトを入れるなり、ホテル側に交渉するなり、なんてことなく処理してしまう内容のはずで、こんなふうにわざわざ電話をしてくる時間の無駄もない。
事後報告でも必ず「ありがとう」と素直に言える処置を施してくれる。
だからこそ安心していたのに…。

「欠員っ?!うちが手配しているの、受付と専属の警備員だけのはずだけど」
パンフレットを配り芳名録への記帳をお願いする仕事と、不審な動きをとるものを見張る仕事は、たとえ一人欠けたところでさほど問題視されることではなかった。
置いておくだけで、興味があれば紙類は持ち帰ったり書きこんだりするだろうし、ホテルには監視カメラも設置されている。
最低限の人数でも配備させたのは、作家が千城の恋人だったからだ。
どんな難癖をつけて大金をせしめられるか分かったものではない(←金より精神的なものが強いだろうけれど)と、用意周到さを見せたつもりだったのだが…。
『ホテルから、どうしたらいいかと問い合わせがきたぞ。契約内容もあるから勝手に判断できなかったんだろ』
「なんで千城に連絡がいくの?」
『おまえが緊急連絡先に野崎を指定していたからだろ』
「で、野崎さんは?」
『休養中』
「とうとう過労で倒れたの?」
『おまえが余計な仕事を押し付けるからだ』
…自分の酷使ぶりを棚に上げられて言われることか…とぼやきたいところをグッと押さえた。
機嫌が悪いのは野崎さんがいないからか…と察することもできた。
こんな時は何を言ったところでもっと辛辣な言葉でやり込められるのが目に見える。
野崎を代理の連絡先にしたところで所詮『会社内』だ。不在であれば千城の耳に入るのも時間の問題と言えた。
野崎が不在ということの方がよっぽどの緊急事態だった。

「えーと、あぁ、じゃあ」
『新しい人間を入れておけばいいだろう?あとで請求書見ても文句言うなよ』
何かを言いかければ、遮られて通話は終わっていた。
思わぬ出来事には長流も唖然としてしまう。
…それはつまり…、千城が自ら手配する、ということだろうか…。
恋人のためともなればそれくらいの手間は惜しまない男だとは理解していたが、何かにつけて人に物事を押し付ける人でもある。
長流が言いだした個展であり、千城の機嫌の悪さを考慮しても、『なんとかしろ』の一言しか聞かれないと思っていただけに、事態が飲み込めなかった。
千城がやってくれるのなら、それはそれでいいけれど…。
まぁ、懐事情は承知しているのだから目を剥くような請求にはならないだろうと安心もしている。
しかし野崎の容体を確認する理由もあって、長流は野崎に連絡をとった。
何より野崎の耳に入れておく方が重大事項に思えたからだった。(きっと本来の仕事など後回しにするのだろうから)

『こちらのことはお任せください』という、なんとも頼れる言葉を聞いて、長流は自分の仕事に戻っていく。
野崎は怪我をしたらしいが、心身ともににいたって健康体でいるらしい。
長流からの連絡を喜んでくれたくらいだ。
こちらも千城の行動を気にかけてヤキモキしていた口だろう。
野崎がどのように扱ったのかを、確認する必要はない。
刻一刻と変化していく情景を前に、無駄な時間をとられることもなく、一つの問題が解決していた。

Tur撮影

「撮れるだけ撮っておいて~っ!!同じシーンは二度と撮れないんだからねっ」
長流の声が撮影現場に響き渡った。
夕焼けは瞬く間にその姿を消してしまう。
仕事に夢中になる一方で、笑みも浮かんだ。
物分かりの良い千城も、大人しく休養をとっている野崎も、長流にとっては珍客だった。

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コメント

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コメントnichika | URL | 2013-07-22-Mon 06:09 [編集]
おはよございます 「Tyr撮影」 夕景グラデーションがきれい
よっし!!!今週も のんびり張り切ります?
にっちん おはよー
コメントたつみきえ | URL | 2013-07-22-Mon 07:27 [編集]
また新たな一週間の始まりですね。
熱中症には充分注意して、のんびりして(いられないだろうけど)頑張ってね~。

写真、お褒めいただきありがとうございます。
別宅、『夕日特集』やっているので、良かったら行ってあげてください。
http://kiehan.exblog.jp/18143238/
お体に気を付けてね。
コメントありがとうございました。
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