翌朝、ホテルの本館で朝食…というよりはブランチを食したのは時計の二本の針が頂点を僅かにずらしたころだった。
月あかりに照らされて、情事に溺れて、いつの間にか朝日が昇っていて…。
うつらうつらと、眠りを貪った。
移動で疲れた体があったのだが、それ以上に疲れさせてくれたのは和紀だ。
現在、和紀は寝不足でもないのか平然と、また、堂々としているが…。
飛行機内で充分寝たというが、それほど眠れる状況だっただろうか…と振り返ってしまう。
うるさい音は睡眠妨害ではなかっただろうか…。
腰回りが痛い日生は、昨夜、自分が強請った結果と思って、何も言わなかった。
何度も和紀を求めてしまったのだ…。痛くても充実している時間だった。
食事をとっていると、日生たちがつくテーブル席に、見たことのある民族衣装を着た男が近づいた。
レストランの給仕係りとはちがうのは、衣装と態度で知られてくる。
ボーイは全て洋服のはずだ。
「コンニチハ」
ニコニコと微笑まれて、初対面ではないだけに、こちらからも愛想笑いが浮かぶ。
最低限の日本語はわかるのだろうか…。そんなことはどうでも良かったけれど。
和紀と男は親しげに英語で会話を交わしていた。
時間がどうとか、準備は万全だとか、外国語に困らない日生は聞きかじる。
何かを企てていることはすぐにでも悟れた。
「和紀くん?」
男が去ると同時に疑問の声を吐き出せば、「ご飯を食べたら、民族衣装を買いにいこう」と誤魔化された。
日生があの衣装に気を取られたのを知ったのだろうか。
きっと滞在中しか身につけないものは、無駄遣いに思われるのに、和紀にしてみたら、雰囲気を愉しむものにしかなっていないようだ。
…2週間分の衣類の一部と思ったなら、まぁ、良いかもしれないけれど…。
どうせこの地からでることはない、"休暇"だ。
島内の景勝地を巡るツアーを頼んでも、海で泳いでも、時間はあまり余るほど余っていた。
ただぽぅっと過ごすだけでもいいと思ってしまう。全ては和紀がいるから。
その自由時間が、裕福さを浮かばせる。
ブランチ後、日生はホテル内にある、衣装ショップに連れられた。
日生が客室係りに目を留めたように、並ぶ衣類に視線が向く。買い求めたい客はいるのか、需要があるというように艶やかな民即衣装が並んでいた。
何人もの観光客がひきりなしに訪れて購入していく。
和紀と店員に薦められて、白地に鳥が舞うものを手にした。
日生も肌の色が白かったが、それとは違う光沢がある。裾で羽を広げるのは白鳥だろうか。袖口の赤い花はハイビスカスだ。
自然豊かな色彩に目を奪われた。
和紀は濃紺の青色の生地の服。胸に月のあかりがあって、そこから広がる明るさがグラデーションで表されていた。それこそ、日本版甚平だろうか。しかし、厳かな印象は保たれている。失われない趣き。
幾何学模様が幾重にも絡んで、何かを纏わせる輝きがあった。
「なんか、変…」
「なにが?」
華やかであり、目を引かれる誘惑的なものは、和紀が身につけているからだろう。一層幻想的なものが宿る。あまりにも馴染んでいた。
店員も手放しで喜んでいる始末だ。
洋装の多い日々からしたら、意外性の高いものになった。見慣れないせいか…。日本の民族衣装に似るところがあり、あまりにもしっくりと似合いすぎているところが、また目を惹く。
その場で抱き寄せられては、くちづけを贈られて幸せを味わった。
日生の心臓は、激しく動いて色っぽさを一層漂わせる。ドキドキと心臓が跳ねる。
和紀の逞しさに見惚れていた日生も、袖口から白い肌を覗かせて、項には昨夜和紀が付けた痕を晒しているのだが…。
着付けをしてもらって、和紀とホテルの中を横切る。
和紀の手は日生の腰を掴んでいた。
すれ違う人が目を輝かせて、拍手と「Congratulations(おめでとう)!!」と言ってくれることが、日生にはわけが分からなかった。
言葉の意味は理解できても、何故に自分たちに目を留められるのか…。
だけど、通路を横切り、行きついた先に見えた教会には…。
いたずらを施したと思われる和紀を見上げれば、今更隠す気はないように肩をすくめて見せるけれど。はっきりとは言わない。
着せられたこれは、結婚式の衣装なのだな…と、今更ながらに知った。
だからすれ違う人は、おめでたいと喜んでくれたのか…。
日本で言うなら、白無垢といったところだろうか。
…本当に結婚式を挙げる気だったんだ…。
観音開きの扉は、日生が初めて『三隅家』に訪れたときのようだ。あのマンションにあるリビングの入り口も、観音開きだった。
開かれると同時に、ぱぁっと差し込む太陽光。神々しい光りはスポットライトのようだ。
目の前のガラス窓の向こう、広がるのは、弧を描く水平線。
正面に磔にされたキリストが、見守るように掲げられている。
誰もいない、静かな、空間。
窓の一部には、ステンドグラスがはめ込まれていて、天井では天使がラッパを吹いている。
ギシッと最奥から木製のドアが重みのある音を立てて開いた。
天から注ぐ光りは、今度は彼を照らす。
黒の衣装と、胸元に飾られるシルバーの十字架。
随分と年齢が重ねられているとは、目尻の皺と、雰囲気だけで伝わってくる。
牧師は静かに「結婚式ですか…? ようこそ」とこちらを尋ねた。
地元の人間に比べたら肌の色素が薄い。それがより、日本人に近いものをうかがわせる。
目の前に広げられる優しい笑みと、包み込む温かさ、黙って受け入れてくれる雰囲気は、周防だ…。
言葉を失ったのは、日生だけではない。
「親父…?」
和紀もそう呟いてしまうほど、良く似た人間が、そこに佇んでいた。
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みこっちゃん、とうとう安住&一葉を抜いたんですね~。
現在5位争いですけれど。
(強いなぁ。ホント、何がいいんだか不思議です)
あ、一位はダントツ和紀日生で二位は千城英人です。
三位はヒサなっちで、四位は何故か(←こっちも分からない)神戸日野でした。
あと、佳史にコメありがとうございました。
『佳史がいいんです』ってどこかのサッカー解説者を思い浮かべてしまった私でした(笑)
夏の『珍客』に続いて、冬の『珍客』が書けるかな。
いっぱい妄想しながら旅行してきますね。
予約投稿しておきますので、とりあえず日生をもてあそんでください。
月あかりに照らされて、情事に溺れて、いつの間にか朝日が昇っていて…。
うつらうつらと、眠りを貪った。
移動で疲れた体があったのだが、それ以上に疲れさせてくれたのは和紀だ。
現在、和紀は寝不足でもないのか平然と、また、堂々としているが…。
飛行機内で充分寝たというが、それほど眠れる状況だっただろうか…と振り返ってしまう。
うるさい音は睡眠妨害ではなかっただろうか…。
腰回りが痛い日生は、昨夜、自分が強請った結果と思って、何も言わなかった。
何度も和紀を求めてしまったのだ…。痛くても充実している時間だった。
食事をとっていると、日生たちがつくテーブル席に、見たことのある民族衣装を着た男が近づいた。
レストランの給仕係りとはちがうのは、衣装と態度で知られてくる。
ボーイは全て洋服のはずだ。
「コンニチハ」
ニコニコと微笑まれて、初対面ではないだけに、こちらからも愛想笑いが浮かぶ。
最低限の日本語はわかるのだろうか…。そんなことはどうでも良かったけれど。
和紀と男は親しげに英語で会話を交わしていた。
時間がどうとか、準備は万全だとか、外国語に困らない日生は聞きかじる。
何かを企てていることはすぐにでも悟れた。
「和紀くん?」
男が去ると同時に疑問の声を吐き出せば、「ご飯を食べたら、民族衣装を買いにいこう」と誤魔化された。
日生があの衣装に気を取られたのを知ったのだろうか。
きっと滞在中しか身につけないものは、無駄遣いに思われるのに、和紀にしてみたら、雰囲気を愉しむものにしかなっていないようだ。
…2週間分の衣類の一部と思ったなら、まぁ、良いかもしれないけれど…。
どうせこの地からでることはない、"休暇"だ。
島内の景勝地を巡るツアーを頼んでも、海で泳いでも、時間はあまり余るほど余っていた。
ただぽぅっと過ごすだけでもいいと思ってしまう。全ては和紀がいるから。
その自由時間が、裕福さを浮かばせる。
ブランチ後、日生はホテル内にある、衣装ショップに連れられた。
日生が客室係りに目を留めたように、並ぶ衣類に視線が向く。買い求めたい客はいるのか、需要があるというように艶やかな民即衣装が並んでいた。
何人もの観光客がひきりなしに訪れて購入していく。
和紀と店員に薦められて、白地に鳥が舞うものを手にした。
日生も肌の色が白かったが、それとは違う光沢がある。裾で羽を広げるのは白鳥だろうか。袖口の赤い花はハイビスカスだ。
自然豊かな色彩に目を奪われた。
和紀は濃紺の青色の生地の服。胸に月のあかりがあって、そこから広がる明るさがグラデーションで表されていた。それこそ、日本版甚平だろうか。しかし、厳かな印象は保たれている。失われない趣き。
幾何学模様が幾重にも絡んで、何かを纏わせる輝きがあった。
「なんか、変…」
「なにが?」
華やかであり、目を引かれる誘惑的なものは、和紀が身につけているからだろう。一層幻想的なものが宿る。あまりにも馴染んでいた。
店員も手放しで喜んでいる始末だ。
洋装の多い日々からしたら、意外性の高いものになった。見慣れないせいか…。日本の民族衣装に似るところがあり、あまりにもしっくりと似合いすぎているところが、また目を惹く。
その場で抱き寄せられては、くちづけを贈られて幸せを味わった。
日生の心臓は、激しく動いて色っぽさを一層漂わせる。ドキドキと心臓が跳ねる。
和紀の逞しさに見惚れていた日生も、袖口から白い肌を覗かせて、項には昨夜和紀が付けた痕を晒しているのだが…。
着付けをしてもらって、和紀とホテルの中を横切る。
和紀の手は日生の腰を掴んでいた。
すれ違う人が目を輝かせて、拍手と「Congratulations(おめでとう)!!」と言ってくれることが、日生にはわけが分からなかった。
言葉の意味は理解できても、何故に自分たちに目を留められるのか…。
だけど、通路を横切り、行きついた先に見えた教会には…。
いたずらを施したと思われる和紀を見上げれば、今更隠す気はないように肩をすくめて見せるけれど。はっきりとは言わない。
着せられたこれは、結婚式の衣装なのだな…と、今更ながらに知った。
だからすれ違う人は、おめでたいと喜んでくれたのか…。
日本で言うなら、白無垢といったところだろうか。
…本当に結婚式を挙げる気だったんだ…。
観音開きの扉は、日生が初めて『三隅家』に訪れたときのようだ。あのマンションにあるリビングの入り口も、観音開きだった。
開かれると同時に、ぱぁっと差し込む太陽光。神々しい光りはスポットライトのようだ。
目の前のガラス窓の向こう、広がるのは、弧を描く水平線。
正面に磔にされたキリストが、見守るように掲げられている。
誰もいない、静かな、空間。
窓の一部には、ステンドグラスがはめ込まれていて、天井では天使がラッパを吹いている。
ギシッと最奥から木製のドアが重みのある音を立てて開いた。
天から注ぐ光りは、今度は彼を照らす。
黒の衣装と、胸元に飾られるシルバーの十字架。
随分と年齢が重ねられているとは、目尻の皺と、雰囲気だけで伝わってくる。
牧師は静かに「結婚式ですか…? ようこそ」とこちらを尋ねた。
地元の人間に比べたら肌の色素が薄い。それがより、日本人に近いものをうかがわせる。
目の前に広げられる優しい笑みと、包み込む温かさ、黙って受け入れてくれる雰囲気は、周防だ…。
言葉を失ったのは、日生だけではない。
「親父…?」
和紀もそう呟いてしまうほど、良く似た人間が、そこに佇んでいた。
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みこっちゃん、とうとう安住&一葉を抜いたんですね~。
現在5位争いですけれど。
(強いなぁ。ホント、何がいいんだか不思議です)
あ、一位はダントツ和紀日生で二位は千城英人です。
三位はヒサなっちで、四位は何故か(←こっちも分からない)神戸日野でした。
あと、佳史にコメありがとうございました。
『佳史がいいんです』ってどこかのサッカー解説者を思い浮かべてしまった私でした(笑)
夏の『珍客』に続いて、冬の『珍客』が書けるかな。
いっぱい妄想しながら旅行してきますね。
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