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BLの丘
冬の珍客 同級会 1
2013-12-06-Fri  CATEGORY: 珍客
 武田成俊は大きめのボストンバッグに必要なものを詰めた。
 着替えが主だ。
 別に家出を企てているわけではない。
 今年は、同年代の友達が集まっての『冬の遠足』はないそうだ。
 みんながそれぞれ忙しい立場で、状況は理解できている。
 恋人の佐貫光也も、昨日は帰ってこなかった。いらない事件が起こってくれたおかげで、貴重な連休の一日を潰された。
 不貞腐れているわけでもないし、仕事のことについて文句を言う成俊でもない。
 でも、楽しみにしていた時間を待っていたことは確かで、子供じみた我が儘が胸の内に湧き起こる。
 決して、自分の自由にはならない恋人だとは、付き合い始める前から知っていたけれど…。

 成俊が勤めるインテリアショップは元旦以外の日は『営業日』だった。だから日をずらして連休が取れたりもする。
 つまり、光也の動きに合わせられるのだ。
 そうして練られた計画も、一つの事件で覆ってしまうのだから…。ここは、拗ねても良いのだろうか…。
 もちろん、そんなことは出来なかったけれど。
『平和』を望む人が就いた職に、何の口出しができようか…。

 ピンポーンと来客を告げる音が響いた。
 モニターを覗きこむと、『休暇中』を思わせる、ラフな格好をした譲原と栗本が映し出された。
 譲原は普段はスーツ姿だが、さすがに今日はざっくりと編まれた濃紺のセーターにグレーのダウンコートを羽織っている。栗本も白衣の代わりに保温性の高そうなこげ茶色のウールのコートを身に着けていた。
 光也はまだ帰ってこない…。

「はい…」
 返事をして、成俊は部屋に栗本と譲原を迎え入れた。

 26歳みんなでの『遠足』は無くなってしまったけれど、栗本がなにかの伝手で、良い温泉旅館を取ってくれたと聞いたのは数日前。
 別に、栗本と譲原のふたりきりで行けばいいじゃん…と内心で文句をたれたけれど、光也と一緒に出かけることが少ない成俊は、言葉にしなくても願望を眼差しで告げていたらしい。
 それを汲み取って、光也は暇そうな(←失礼だ)同級生と旅行することに決めていた。
 結局は『現地集合』で、光也の同級会が開かれることになっていた。
 年上の輪の中に入るのは気が引けても、安住の恋人である朝比奈一葉が来るのだと分かれば少しばかり心も安らぐ。
 年上とはいえ、今更、気を使うような人たちでもない。
 だから成俊も、落ちつけた。

 雪がチラチラと目の前を通って、地面に辿りついては消えた。
「こりゃ、明日は凍るな…」
 最寄駅から送迎してくれるマイクロバスの中で、光也は外を眺めながらポツリと呟く。
 普段とは違う光景が、心なしか成俊のテンションをあげていたが、騒がない人たちを前にしたら、自然と口は閉じられた。
 自分が子供っぽいと言われているようだ。

 マンションに栗本たちがやってきて間もなく、光也は帰宅した。
 急いて着替えたのは、予約した列車の時間がギリギリだったこともある。
 温泉地まで、幾つか電車を乗り換えなければならなかった。地方に行くごとに、本数が減る事実は、同時に一本遅れたら、とてつもなく時間を無駄にする結果になる。
 ギリギリまで仕事をして、帰ってきてくれたことに成俊は瞼の奥が熱くなりかけた。
 我が儘を言ったつもりはないが、どこかで感情を読みとってくれるのは、やはり年の差なのだろうか。
 栗本と譲原が先に現れたことで、半分諦めていたところがあった。
 ドタキャンに慣れてしまった…といったら、光也に悪いだろうか…。

 駈け足で乗り込んだ新幹線。
 午後の日差しは低く、横から差し込んでこられて、眩しさにブラインドを下ろした。
 手近なところで買った駅弁と缶ビールを流し込みながら、向かい合わせの指定席は、早くも宴会気味になる。
 光也は忙しさで、まともに食事もとっていなかったのだろうか。心配になって様子を伺ってしまう。
 しかし、疲弊した感じは微塵も見当たらなかった。これが"佐貫光也"という人間の意地なのだろうか。

 旅館に辿りつく前に酔いつぶられては困ると、酒量を気にしながら、成俊は買いこんだつまみを差し出す。
 まだあと二時間近くかかる予定だ。
 もう、安住と一葉は到着しているのだろうか…。
 そんなことが過ったが、空気を壊すようで口には出せない。

 そうしてようやくたどり着いた最寄駅。もう日は影っていて、一日の終わりの速さを感じる。
 成俊では想像しなかった高級旅館だった。
 赤いじゅうたんには花柄があしらわれていて、持ってきたボストンバッグを仲居の女性が持ってくれようとする。
「あ…」
 女性に荷物を持たせるのはどうかと抵抗が生まれれば、横から栗本が「そういえぱ、佐貫、宿泊の準備ってしたの?」と声がかかった。慌ただしかったのは、家で待っていた人には充分なくらい知られている。
 一日くらい、着替えがなくてもどうにかなる…とは、現場で生きていた人間の持論なのだろうか。
 すぐ成俊が「光也の分は、用意してきたから…」と告げると、譲原は「できた嫁だねぇ」と皮肉気に呟いてくれた。
 大きめのボストンバッグに詰められた、二人分。
 日常生活に、特にこだわるわけではない光也の性格は、また成俊にとっても気が楽なところだった。
 旅館に最低限必要なものが用意されているという甘えもあった。

 一度、それぞれの部屋に案内されて、個室となる夕食会場の説明を受ける。つまりは、宴会なのだけれど。
 部屋に樽風呂の温泉があったことに、何よりも驚かされた成俊だった。

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3パターン(成俊、望、一葉)で進んでもいいですか?
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コメント

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拍手コメ う様
コメントたつみきえ | URL | 2013-12-07-Sat 07:47 [編集]
おはようございます。

> 先日 テレビのニュースで 道後温泉のすす払いの様子やってたよ(笑) あー温泉行きたいな~

まさにその時に行っていたのです。
お掃除風景、撮ってくればよかったねぇ。
撮れたかは分からないけれど。
一年の貴重な日を体験したと言われればそれまで…。
温泉、いいですよ~。
私、地元が温泉国なので、暇さえあれば温泉に浸かっておりますが。
でも、泉質違うところを求めてしまいますね。

一番近い有名どころは草津温泉でしょう。
是非、来てくださいね。(←何気に宣伝している)
日本三大うどん(←らしい)食い尽した。
群馬のこちらは伊香保温泉近くの水沢うどんです。
さぬきうどん みずさわうどん いなにわうどん
どれも腰があって美味しい(#^.^#)
コメントありがとうございました。
のんびり~ゆったり~♪
コメントけいったん | URL | 2013-12-07-Sat 09:53 [編集]
お子ちゃま達が集まった時 一歩下がった感があるナルと 他の保護者たちよりは 口を出さずに 見守っている光也

落ち着いた雰囲気を醸し出してる譲と佳史

そして いつものメンバーの中では 比較的静かな方の一葉と安住

英人と千城、那智とヒサが、賑やかすぎるのもあるけど、
今回は、少し大人で 静かな旅行になるのかな?
ノホォォン (*´ω`)旦~┳┳~旦(´ω`*) ノホォォン


Re: のんびり~ゆったり~♪
コメントたつみきえ | URL | 2013-12-07-Sat 18:58 [編集]
けいったん様
こんばんは~。

> お子ちゃま達が集まった時 一歩下がった感があるナルと 他の保護者たちよりは 口を出さずに 見守っている光也
>
> 落ち着いた雰囲気を醸し出してる譲と佳史
>
> そして いつものメンバーの中では 比較的静かな方の一葉と安住
>
> 英人と千城、那智とヒサが、賑やかすぎるのもあるけど、
> 今回は、少し大人で 静かな旅行になるのかな?
> ノホォォン (*´ω`)旦~┳┳~旦(´ω`*) ノホォォン

いつもとは違う『遠足』ですね。
大人の宴会に付き合わされていますけれど。
オヤジって温泉、好きだよね~(←え、違う?!)
まさに、のんびり、ゆったりとくつろぐ人々です。
他のお子ちゃまがいないから、成俊と一葉はまた違った意味で可愛いのだろうけれど…。
進む話題は…。
なんだか暴露大会だよね。
コメントありがとうございました。
拍手コメ n様
コメントたつみきえ | URL | 2013-12-07-Sat 19:03 [編集]
こんばんは。

> もちろん~きえちんの赴くままに!何パターンでもお願い

ありがとうございますっ。
妄想があれやこれやと浮かんでいる所でして…。
まとめて、旅行させてしまえっとこんな書き方になりました。
この後、何が起こるかは疑問ですが(←)
コメントありがとうございました。
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