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BLの丘
策略はどこまでも 19
2009-07-09-Thu  CATEGORY: 策略はどこまでも
嫌な予感がした。椅子に一度腰を下ろした那智は咄嗟に立ちあがる。
「あの…、俺やっぱり…」
帰ります、と言いかけたのに、目の前に立ちはだかる威圧感に気押された。
先ほどまでの人の良い笑みなどどこにもなく、卑猥な眼が那智を舐めまわすように見ていた。
「せっかく二人きりになれたのにぃ?ここには邪魔する者なんていないから安心していいよ」

全身に悪寒が走った。あまりの恐怖に鳥肌が広がった。じんわりと嫌な汗が背中を伝い落ちた。
誰もいないからこそ不安なのだ。那智の頭の中に思い描かれた人物はただ一人。
「く…るな…、」
「そんなこと言うなよ。冷たいねぇ。久志とはキスしてたじゃん。しかもネットリとしたのを。男、イケるんだろ?是非お相手願いたいね」
久志と…って、あの時の合コンにいたってことか…? だから見たことがあると思ったんだ…。
その場に居合わせられてしまったことを愕然と思いながらも、続いた言葉の意味が分からない。那智は頭を振りながら、壮絶に拒否感を表した。
気持ち悪い、吐き気がする、そばに寄るな…。
渦巻く言葉が一つも音にならなくて、代わりに、男のゴクリと鳴らした喉の音がさらに那智の恐怖心を煽った。

後ずさったつもりで下がれば、カタッと那智の座っていた椅子にぶつかりひっくり返った。それに足を取られた那智が床の上に転がる。
「いい子だねぇ。そうやって自ら身体を横にしてくれるなんてさ。チョーそそる」
逃げ場をなくした那智の上に、近づいた男が馬乗りになってきた。
「ヒッ!」
喉が潰れたような悲鳴が那智の口から漏れた。

首筋に降りてきた男の息が、湿り気を帯びていて何とも気持ち悪い。
嫌だ、嫌だっ、いやだっっ!!
組敷かれているものの、必死の抵抗でその下から逃れようとするのに、体格の差は歴然で、抑え込まれた体はピクリともしなかった。
あまり肉のない、細い顎先をつままれると、那智の目には恐怖のあまり涙が浮かんだ。
「可愛いね。なんて可愛いんだろう。誰かが君のことを『アイドル』だと言ったけど、本当にその通りだと思うよ」
冷たいコンクリートの床に横たわっているはずなのに、とめどなく冷や汗が全身から噴き出した。
身動きの取れない那智の顔の上に、悪魔のような笑みを浮かべた男の顔が近付く。
全てが終わりだ…。まるで地獄の入口にさしかかったような気分で、近づいてくる男の顔を見たくなくて、ギュッと瞼に力を込めて閉じた。

「那智、那智っ?!いるんだろ?!返事しろっ、那智っ!!! 開けろ、このクソバカヤローっ!!」
突然、ドンドンドンと扉を立て続けに叩く音と、聞いたことのある声が響いてきた。
近づきかけた男の動きが止まる。
どうして今ここに?という感じだった。
我を取り戻した那智は、必死に声を振り絞った。
「ひ、さ…、ヒサっ! ヒサーっ!!」

体当たりしたらしいドアがバリンと割れた。鬼すらも逃げ出すような形相の高柳がバッと近寄ると、那智の上に乗っていた男を引き剥がす。
「てっめぇーっ!」
男は高柳の拳を受けて、クブッという音と共に部室の隅の方まで吹っ飛んだ。
再度飛びかかろうとした高柳を、後から追ってきた部員が身体を張って止めた。
「お前が殴ったら死んじまうからっ」
「かまうもんかっ!!」
「おちつけっ」
数人がかりで抑えつけられて、高柳は男を殴ることをやめた。

ようやく恐怖から解放され、半身を起こした那智に高柳が近付き、そっとその頬に手を差し伸べてきた。
その時、那智は伸びてきた手が、同じユニフォームを着た男だったというだけで、ビクンと全身を強張らせてしまった。
気付いた時には、高柳は悲しそうに瞳を曇らせ、黙って手を引っ込めた。
憂いを帯びた悲哀を物語る瞳が、あまりにも痛々しそうだったのに、那智は何の言葉もかけることもできず、ただその場に泣き崩れるしかなかった。

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