一人で定食屋に訪れたのだと分かる素振りに、軽く挨拶を交わしただけで、自分たちの会話に水をさすようなこともなく、安住と呼ばれた男はカウンター席へと落ちついた。
年上の落ち着きぶりなのか、さりげない仕草のひとつひとつに、去っていく後ろ姿にまで目が向いてしまう。
営業という職業柄、どこにつながりがあってもおかしくない日常には違和感もないが、どことなく那智との繋がりが気になってしまう。
ただの知り合い…というより、もっと深い部分がありそうな、そんな気がしたから…。
それでも声に出せないまま、届けられた料理に箸をつけながら、話を戻した。
「だからさぁ、車ぁ…」
「まだ言ってんの?300万円する車が100万円で買えるっていうなら、まぁ考えてもいいけどさぁ」
「それ、鬼?!悪魔?!それこそ、俺の給料なくなるっつうのっ」
そんな金額設定が設けられるわけがない。
あー、こんなときに、那智の要求する建設機械を扱ってくれる取引先でもあればなぁ…と心から願うところだが、生憎そんな都合のよい話もなかった。
紹介すらできないとなれば、引き下がるしかないのか…。
昔からの付き合いのある那智だからこそ、あれこれと色々な言い分を立ててみるのだが、さすがに営業職なだけに口達者なのか言う一言ごとに返される。
どうみたって、営業成績は那智のほうが格段に上らしい…。
昔からの人付き合いの良さもこういうところに表れるのかなぁ。
ガックリと肩を落とし、食後のお茶をすすっていると、先程の男が声をかけてきた。
「まだ忙しいのかな?もし差し支えが無ければコーヒーでもどう?」
明らかに那智を誘っているのだと思う声に、自分は遠慮しようと頭が働く。
恋人がいるのに、こんな誘いに乗っていていいのかよ…と浮かびはするものの、色々な事情があると思えば自然と口も閉じた。
断れないことは世の中たくさんある。
「安住さん、時間大丈夫なんですか?今ね、二人して営業成績足りなくて干されそうなとこなの」
「今日は出掛ける用事も来客もないからね。また何か協力できることでもあればいいんだけど。二人とも干されるだなんてね…。彼のお話も聞こうか。…難しい話はうちに行ってからにしようね」
「一葉、時間平気でしょ。安住さんが淹れてくるコーヒー、すっごく美味しいから付き合いなよ」
ほとんど命令口調と言っていい。
しかも『干されそう』って干されるのは自分であって那智ではないだろう????
強引なまでの誘いに断る一瞬すら見失った。
…那智のボディガードだ、うん、そうだ。そう思おう…。
きっと那智も断れずにいるから自分も同行しろと暗に訴えているのだ…と勝手な解釈をつけて二人の後を追う。
気弱な性格ははっきりと物事も伝えられず、結局周りの人間に従わされる。
定食屋から僅かな距離。
辿り着いたただの一般住宅のような民家に、小さく『安住法律事務所』という看板が見える。
那智はすでに来慣れたようすだったが、初めて訪れる一葉には驚きの連続だった。
玄関扉をくぐっても、靴を脱ぐようなスペースはなく、重厚な作りのソファセットが迎えてくれる。
那智はまるで慣れたように、ソファの一角に腰を下ろしたし、立ちすくむ一葉を呼び寄せてくる。
隣り合って作られたようなキッチンから安住も「座っていてね」と声をかけられ、逃げようのなくなった一葉は那智の隣に腰を下ろした。
「ねぇ、なに、どういうつながりなの…?」
聞きたかったことがついに音となる。
那智は一瞬考えるような仕草を取ったが、アヤシイことは何一つないというように、状況を説明してきた。
「俺の上司の同級生。それでもって、今取引させてもらっている会社の仲介役」
そこまで言われれば誘われて断りようのない那智の立場もなんとなく理解できた。
だけど繰り広げられるあまりにも気さくな会話のやりとりに言葉を失ってしまう。
それはまるで親しい友人のようでもあったから…。
「カズハちゃんだっけ?あまり緊張しないでね。喫茶店代わりに使ってくれればいいんだよ」
ほんわりとしたコーヒーの香りを漂わせながら近づいてきた男は、慣れ親しんだ友人のように名前を呼んだ。
年の差を全く感じさせないほどの親しみやすさ。
バリスタの資格まで持つという弁護士の口調はとても滑らかで、時間を忘れるほど惹きこまれた。
さりげなく、一葉の泣き事まで聞いてしまう度量の大きさ。
売り上げが無いと思わず泣き縋ってしまえば、「知り合いにも当たってあげるね」と答えられて逆に恐縮する。
どことなく差し出すよう命じられたような仕草に名刺を出し、代わりに安住と呼ばれた弁護士の名刺も受け取る。
初対面であるというのに、彼の名前を知れたことが、何故か一葉は嬉しかった。
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年上の落ち着きぶりなのか、さりげない仕草のひとつひとつに、去っていく後ろ姿にまで目が向いてしまう。
営業という職業柄、どこにつながりがあってもおかしくない日常には違和感もないが、どことなく那智との繋がりが気になってしまう。
ただの知り合い…というより、もっと深い部分がありそうな、そんな気がしたから…。
それでも声に出せないまま、届けられた料理に箸をつけながら、話を戻した。
「だからさぁ、車ぁ…」
「まだ言ってんの?300万円する車が100万円で買えるっていうなら、まぁ考えてもいいけどさぁ」
「それ、鬼?!悪魔?!それこそ、俺の給料なくなるっつうのっ」
そんな金額設定が設けられるわけがない。
あー、こんなときに、那智の要求する建設機械を扱ってくれる取引先でもあればなぁ…と心から願うところだが、生憎そんな都合のよい話もなかった。
紹介すらできないとなれば、引き下がるしかないのか…。
昔からの付き合いのある那智だからこそ、あれこれと色々な言い分を立ててみるのだが、さすがに営業職なだけに口達者なのか言う一言ごとに返される。
どうみたって、営業成績は那智のほうが格段に上らしい…。
昔からの人付き合いの良さもこういうところに表れるのかなぁ。
ガックリと肩を落とし、食後のお茶をすすっていると、先程の男が声をかけてきた。
「まだ忙しいのかな?もし差し支えが無ければコーヒーでもどう?」
明らかに那智を誘っているのだと思う声に、自分は遠慮しようと頭が働く。
恋人がいるのに、こんな誘いに乗っていていいのかよ…と浮かびはするものの、色々な事情があると思えば自然と口も閉じた。
断れないことは世の中たくさんある。
「安住さん、時間大丈夫なんですか?今ね、二人して営業成績足りなくて干されそうなとこなの」
「今日は出掛ける用事も来客もないからね。また何か協力できることでもあればいいんだけど。二人とも干されるだなんてね…。彼のお話も聞こうか。…難しい話はうちに行ってからにしようね」
「一葉、時間平気でしょ。安住さんが淹れてくるコーヒー、すっごく美味しいから付き合いなよ」
ほとんど命令口調と言っていい。
しかも『干されそう』って干されるのは自分であって那智ではないだろう????
強引なまでの誘いに断る一瞬すら見失った。
…那智のボディガードだ、うん、そうだ。そう思おう…。
きっと那智も断れずにいるから自分も同行しろと暗に訴えているのだ…と勝手な解釈をつけて二人の後を追う。
気弱な性格ははっきりと物事も伝えられず、結局周りの人間に従わされる。
定食屋から僅かな距離。
辿り着いたただの一般住宅のような民家に、小さく『安住法律事務所』という看板が見える。
那智はすでに来慣れたようすだったが、初めて訪れる一葉には驚きの連続だった。
玄関扉をくぐっても、靴を脱ぐようなスペースはなく、重厚な作りのソファセットが迎えてくれる。
那智はまるで慣れたように、ソファの一角に腰を下ろしたし、立ちすくむ一葉を呼び寄せてくる。
隣り合って作られたようなキッチンから安住も「座っていてね」と声をかけられ、逃げようのなくなった一葉は那智の隣に腰を下ろした。
「ねぇ、なに、どういうつながりなの…?」
聞きたかったことがついに音となる。
那智は一瞬考えるような仕草を取ったが、アヤシイことは何一つないというように、状況を説明してきた。
「俺の上司の同級生。それでもって、今取引させてもらっている会社の仲介役」
そこまで言われれば誘われて断りようのない那智の立場もなんとなく理解できた。
だけど繰り広げられるあまりにも気さくな会話のやりとりに言葉を失ってしまう。
それはまるで親しい友人のようでもあったから…。
「カズハちゃんだっけ?あまり緊張しないでね。喫茶店代わりに使ってくれればいいんだよ」
ほんわりとしたコーヒーの香りを漂わせながら近づいてきた男は、慣れ親しんだ友人のように名前を呼んだ。
年の差を全く感じさせないほどの親しみやすさ。
バリスタの資格まで持つという弁護士の口調はとても滑らかで、時間を忘れるほど惹きこまれた。
さりげなく、一葉の泣き事まで聞いてしまう度量の大きさ。
売り上げが無いと思わず泣き縋ってしまえば、「知り合いにも当たってあげるね」と答えられて逆に恐縮する。
どことなく差し出すよう命じられたような仕草に名刺を出し、代わりに安住と呼ばれた弁護士の名刺も受け取る。
初対面であるというのに、彼の名前を知れたことが、何故か一葉は嬉しかった。
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安住さん、いいひとだ~
大人の落ち着きと弁護士としての貫禄。
がっついてないところとか、最高に美味しいコーヒーを入れてくれるところとか・・・。
いいとこばっかりで、誰も要らないならワタシがほしい。
いや、誰がほしくてもいただきたい!!ってくらい惚れこんでます。
可愛い英人くんは、頭なでて抱きしめてペットのように可愛がりたい。
安住さんには仔犬のように懐きたい、、、、だめですか??
大人の落ち着きと弁護士としての貫禄。
がっついてないところとか、最高に美味しいコーヒーを入れてくれるところとか・・・。
いいとこばっかりで、誰も要らないならワタシがほしい。
いや、誰がほしくてもいただきたい!!ってくらい惚れこんでます。
可愛い英人くんは、頭なでて抱きしめてペットのように可愛がりたい。
安住さんには仔犬のように懐きたい、、、、だめですか??
甲斐様
こんにちは。
> 安住さん、いいひとだ~
> 大人の落ち着きと弁護士としての貫禄。
何気にこの方、年齢設定が高かったんですね。
見た目はともかく、間もなく40代(過去の記事を読み返してきた…)らしく、一葉たちと一回りも違うということにビビっています。
安住、いいですか~?
うん、まぁ落ち着いてはいますから。
惚れこまれて男冥利につきますね。
> 可愛い英人くんは、頭なでて抱きしめてペットのように可愛がりたい。
> 安住さんには仔犬のように懐きたい、、、、だめですか??
どうぞどうぞ。
安住って間違いなく懐の中に入れてくれるタイプですよね。
それこそ、猫可愛がりしてくれる人だと思います。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 安住さん、いいひとだ~
> 大人の落ち着きと弁護士としての貫禄。
何気にこの方、年齢設定が高かったんですね。
見た目はともかく、間もなく40代(過去の記事を読み返してきた…)らしく、一葉たちと一回りも違うということにビビっています。
安住、いいですか~?
うん、まぁ落ち着いてはいますから。
惚れこまれて男冥利につきますね。
> 可愛い英人くんは、頭なでて抱きしめてペットのように可愛がりたい。
> 安住さんには仔犬のように懐きたい、、、、だめですか??
どうぞどうぞ。
安住って間違いなく懐の中に入れてくれるタイプですよね。
それこそ、猫可愛がりしてくれる人だと思います。
コメントありがとうございました。
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