次に目覚めた時、身体のだるさはまだあったが、押し潰されそうなほど痛かった頭痛は治まっていた。
介抱してもらって更にしっかり寝込んでしまった自分の図々しさに呆れながら、時計を見ればおやつの時間をとっくに過ぎている。
もう夕方になるんじゃんっ!と焦ってベッドから抜け出て、安住のパジャマの上着しか着ていない姿に気付き動きを止めた。
起き上がってみれば、裾は膝上まであるし、肩は必ずどちらか側かにずり落ちて丸出しになる。
極めつけは下着すら穿いていないこと。
いくらなんでもこの格好で部屋を飛び出す勇気はなかった。
部屋をキョロキョロと見回しても、午後には届くと聞いた一葉の衣類はどこにも見当たらない。
「あ、ずみ、さん…?」
一葉から今にも泣き出しそうな情けない小さな声が漏れた。
こういった、『予想もしていなかった現実』に一葉はとても弱い。
安住本人がここにいないのだから声をあげてみたところで意味がないのだが、どうしたらいいのか判断すらできない。
勝手に人の家を出歩くのも気が引ける。
とはいえ、ここに居続けるわけにもいかず、一葉は部屋のドアをそっと開けると、首だけを外に出した。
一番奥の部屋だったらしく、長い廊下と一直線に伸びた階段が見えた。
階段は下に繋がっているということは、ここは2階なのか…と漠然と知る。廊下添いに3つのドアが見えて、意外と大きな家なのだとも思う。
「安住さん?」
蚊の鳴くような声で問いかけてみたのだが、もちろん返事はなく、なにやらカチャカチャと物音だけが聞こえてくる。
それがどこの部屋から発されているのかもよく分からない。
「あ、安住さ~ん」
今度はもう少し大きな声を出してみたら、物音が止まった。
人がいるのだ、という気配だけがはっきりと伝わってきて、ふいに廊下の突き当たりにある、正面のドアが開いた。
「えっ?!」
いきなり表れた人物に素っ頓狂な声が上がる。
部屋から出てきたのは安住ではなく、昨夜初めて会った中條だった。
一葉の頭の中は大パニックに陥った。
咄嗟に部屋のドアを閉めてしまい、その場にへなへなと座り込んでしまう。
頭を巡らせても、どこからどこまでが現実なのか理解ができない。
昨夜、自分をここに連れてきてくれたのは安住だったはずだし、今朝目覚めた時も安住がいた。『僕の家だよ』とも言われた。だけど自分はものすごく酔っ払っていたし、今朝も二日酔いの真っただ中だった。
夢だった…と言われれば、そうなのか~と頷けるほど曖昧な記憶といっていい。
ぱたぱたと歩いてくる音が床越しに伝わってくる。
逃げ惑う間もなく、無情なほどにドアが外側に開けられて、座りこんだ一葉をキョトンとしたように中條が見下ろしていた。
が、直後、笑顔に変わる。
「やっと起きた?」
責めるようなものではなく、悪戯を施すような少年の面影すらある表情。
一葉はやっぱり固まるしかなかった。
「享はあと一時間くらいで戻るって言っていたから。…あ、そうそう。クリーニングが……。ねぇ、まさかその格好でいたの?」
ヘタリと座り込んでいた一葉の上に、痛いほどの視線が注がれている。
中條が気付けば、一葉の素足がピクリと動くくらいだった。
一葉は咄嗟に膝を隠すようにパジャマの裾を引っ張っていた。胸元が開くともしれず。
見る人間からすれば、どう見たって遊女…じゃなくて…、陰間…???
いや、そこまで若くない…。
「あぁぁ…」
情けない声がまた漏れて、恥ずかしさに胸元を抱いて俯くしかない。
…何で何で????どうしてどうして…????何故中條さんがここにいるのぉ?!…
もしかして、恋人同士の愛の巣に押し掛けちゃってたの~ぉ…????
疑問が頭の中でグルグルしたところで聞く勇気すらなかった。
にほんブログ村
介抱してもらって更にしっかり寝込んでしまった自分の図々しさに呆れながら、時計を見ればおやつの時間をとっくに過ぎている。
もう夕方になるんじゃんっ!と焦ってベッドから抜け出て、安住のパジャマの上着しか着ていない姿に気付き動きを止めた。
起き上がってみれば、裾は膝上まであるし、肩は必ずどちらか側かにずり落ちて丸出しになる。
極めつけは下着すら穿いていないこと。
いくらなんでもこの格好で部屋を飛び出す勇気はなかった。
部屋をキョロキョロと見回しても、午後には届くと聞いた一葉の衣類はどこにも見当たらない。
「あ、ずみ、さん…?」
一葉から今にも泣き出しそうな情けない小さな声が漏れた。
こういった、『予想もしていなかった現実』に一葉はとても弱い。
安住本人がここにいないのだから声をあげてみたところで意味がないのだが、どうしたらいいのか判断すらできない。
勝手に人の家を出歩くのも気が引ける。
とはいえ、ここに居続けるわけにもいかず、一葉は部屋のドアをそっと開けると、首だけを外に出した。
一番奥の部屋だったらしく、長い廊下と一直線に伸びた階段が見えた。
階段は下に繋がっているということは、ここは2階なのか…と漠然と知る。廊下添いに3つのドアが見えて、意外と大きな家なのだとも思う。
「安住さん?」
蚊の鳴くような声で問いかけてみたのだが、もちろん返事はなく、なにやらカチャカチャと物音だけが聞こえてくる。
それがどこの部屋から発されているのかもよく分からない。
「あ、安住さ~ん」
今度はもう少し大きな声を出してみたら、物音が止まった。
人がいるのだ、という気配だけがはっきりと伝わってきて、ふいに廊下の突き当たりにある、正面のドアが開いた。
「えっ?!」
いきなり表れた人物に素っ頓狂な声が上がる。
部屋から出てきたのは安住ではなく、昨夜初めて会った中條だった。
一葉の頭の中は大パニックに陥った。
咄嗟に部屋のドアを閉めてしまい、その場にへなへなと座り込んでしまう。
頭を巡らせても、どこからどこまでが現実なのか理解ができない。
昨夜、自分をここに連れてきてくれたのは安住だったはずだし、今朝目覚めた時も安住がいた。『僕の家だよ』とも言われた。だけど自分はものすごく酔っ払っていたし、今朝も二日酔いの真っただ中だった。
夢だった…と言われれば、そうなのか~と頷けるほど曖昧な記憶といっていい。
ぱたぱたと歩いてくる音が床越しに伝わってくる。
逃げ惑う間もなく、無情なほどにドアが外側に開けられて、座りこんだ一葉をキョトンとしたように中條が見下ろしていた。
が、直後、笑顔に変わる。
「やっと起きた?」
責めるようなものではなく、悪戯を施すような少年の面影すらある表情。
一葉はやっぱり固まるしかなかった。
「享はあと一時間くらいで戻るって言っていたから。…あ、そうそう。クリーニングが……。ねぇ、まさかその格好でいたの?」
ヘタリと座り込んでいた一葉の上に、痛いほどの視線が注がれている。
中條が気付けば、一葉の素足がピクリと動くくらいだった。
一葉は咄嗟に膝を隠すようにパジャマの裾を引っ張っていた。胸元が開くともしれず。
見る人間からすれば、どう見たって遊女…じゃなくて…、陰間…???
いや、そこまで若くない…。
「あぁぁ…」
情けない声がまた漏れて、恥ずかしさに胸元を抱いて俯くしかない。
…何で何で????どうしてどうして…????何故中條さんがここにいるのぉ?!…
もしかして、恋人同士の愛の巣に押し掛けちゃってたの~ぉ…????
疑問が頭の中でグルグルしたところで聞く勇気すらなかった。
にほんブログ村
| ホーム |