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BLの丘
ちょうどいいサイズ 19
2010-04-15-Thu  CATEGORY: ちょうどいい
取りあえず恵亮との初日はなんとか過ごした。
食後のお茶を嗜みながら、いつどこで誰に何を見られてもいいように、テーブルの上には一葉が持ち歩いていたパンフレットなどがあるのだが、いかにも的な雰囲気を作るための材料で、会話の中に車のことなど何一つ出て来ず、あれこれと日常を詮索される時間だった。
それから数週間、恵亮から連絡をもらうたびに何かと理由をつけて断り続けたのだが、勤務時間終了間際に営業所に押し掛けてきた『得意先』に磯部にまで促されて連れ去られた日が何度かある。

それでも安住の手料理を食べる日は週に3日から4日ほどあった。
安住の仕事の関係もあったし、さすがに毎日は一葉も気が引けたけれど、誘われれば嬉しくて返事をする。
夜なんて予定はないし、安住が迷惑ではないと分かる態度で出迎えてくれるから一葉も喜んだ。
夕食を食べるのにスーツのままでは窮屈だから…とお風呂や着替えまでいつの頃からか用意されていたりする。
どこまでも気が回る安住に感心しない日はない。
夕食を終えて他愛のない会話をしている時間は一葉をとても安らかにしてくれた。
仕事での悩みもふんわりと励ましてくれる安住の声に癒される。
だからこの時間がとても好きだった。
それが安住への想いを募らせているのだという自覚があっても、気持ちを伝えるとかまでは勇気もない。
いつもこんな『恋』ばかりだった。
今一つの一歩を踏み出せなくて、ただの友達や知り合い程度で関係が崩れていく…。
安住を失いたくないと願っても、いくじのない自分にやってくる将来が分かるから一葉はなんとなく悲しかった。

振動だけで着信を伝える一葉の携帯電話に気付いた安住が、さりげなく「どうぞ、出て」と促してくる。
たが、そこに『花園恵亮』と表示されている名前を見れば一葉はおもむろにためらってしまった。
今日も夕食を誘われたのだが、『営業』を理由に断ってしまった。
こんな時間に電話をかけてくるなんて…。

『一葉、今安住さんちにいるのっ?!』
出ないわけにもいかない…と通話ボタンを押せば、苛立ちを隠せない口調の恵亮の声が響いた。
『こんな時間まで仕事?!そうじゃないっしょっ!!どーいうこと?!無理なら無理で俺を諦めさせろってあれほど言ったじゃん。何でこんな曖昧な態度、取るのっ?!』
はっきりとしない自分の態度が恵亮を苛立たせ傷つけているだと知っても、何と答えたら良いのか浮かびもしない。
「め、めぐるくん…」
どうしよう…と動揺する一葉の状況を読んだ安住が何事かと心配そうな顔を向けてきた。
安住の家にいると返事をするのもなんとなく憚れるが、確実な証拠でも握ったような恵亮の声に否定もできない。
『俺、今安住さんちの前にいるんだけど、これ、一葉の車だよね?!ナンバー同じっ!!誤魔化しても無駄っ!!』

普段一葉が乗っている車を恵亮はすでに知っている。
やっぱり隠すのは無理なことだったのだと、咄嗟に窓側に寄れば、下方に見える自分が売った車がハザードを出して停まっていた。
暗がりの中で表情は見えなくても、形相を変えた恵亮の顔が頭の中に浮かんでくる。
一葉の不審とも思える行動を追った安住が隣に並んで同じように眺めていた。
「『めぐるくん』…ってもしかして、花園さんちの?」
安住の静かな声が一葉に確認を求めてくる。
仕事ではないと判断できたから問いかけてきたのだろう。
それにたぶん、恵亮の力んだ声は安住にも聞こえているはずだ。

「寄ってもらったほうがよさそうだね」

一葉のすぐそばで伝えてきた安住の声が聞こえたのか、電話は切れ、バタンっと勢いよく車のドアが閉まる音がして、続いて玄関のチャイムが鳴った。

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最近、一気読みをされてくださる方がいるようで…。全話に拍手をくださる方が多くて感謝いたします。
拍手、ものすごいガソリン(えねるぎー)です。嬉しすぎて涙が出ます。
叩いてもらわないとお尻が上がらなくて…(え?あがんなくていい?!)
すっかりR祭りから離れて淋しい(書けないので嬉しい私)ですが、お付き合いくださいましてありがとうございます。
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コメント

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恵亮くんやりすぎ
コメント甲斐 | URL | 2010-04-15-Thu 09:17 [編集]
攻めまくる恵亮と、包み込むような安住さんですね。

半ばストーカーと化している恵亮くんですが、追い詰めて一葉ちゃんの心まで手に入れるっていうのは、いかがなのもかと思います。
恋愛初心者なのかな。
同じく恋愛の初心者一葉ちゃんも、気持ちの整理もつかずどう応えたらいいのか分らなくて曖昧なままにしてしまっているし・・・。

そこへ行くとさすが大人の安生さんですね。
相手の想いや気持ちを少しずつ近づかせて居心地のいい場所を作っていくなんて。
けど、そんな大人で余裕な付き合い方が裏目に出ないことだけは祈ります。
Re: 恵亮くんやりすぎ
コメントきえ | URL | 2010-04-15-Thu 09:34 [編集]
OH!甲斐様
ぐっとたいみんぐっ!!

> 半ばストーカーと化している恵亮くんですが、追い詰めて一葉ちゃんの心まで手に入れるっていうのは、いかがなのもかと思います。

なかなか寄り添おうとしてくれない一葉に焦れてはいたのでしょうけど、押し掛けはねぇ…。問題ですよね。やっぱりまだ学生身分です。
どれだけの期間があってその中で何回会ったのかはご想像なんですけど。
車を見つけちゃったのは単なる偶然です。
これは私の悪いクセなんですけど、大概の人の車のナンバーは記憶しているので、同じ車を見ると真っ先にナンバー確認しちゃうんです…。
だから道を走りながら「あっ!!」って声を掛け合うこと結構あって…。
一度同じ車同じナンバーとすれ違いざま、思いっきり手を振ったら見たこともない人で冷汗をかきました…。

> そこへ行くとさすが大人の安生さんですね。
> 相手の想いや気持ちを少しずつ近づかせて居心地のいい場所を作っていくなんて。
> けど、そんな大人で余裕な付き合い方が裏目に出ないことだけは祈ります。

修羅場になっちゃいそうで私の方がハラハラしています。
安住さん、なんて言うんだろう…。
一葉はきっと何も言えないので、状況説明やらなんやらは安住さんがやりそうですよね。
恵亮のことを知らない安住さんでもないので。

コメントありがとうございました。
コメントきえ | URL | 2010-04-15-Thu 12:43 [編集]
MO様
連コメいただいていたのに…すみません。

>一葉ちゃん、ピンチ!ですね~。安住さんが、遠慮して譲ったりせずに、今後も一葉ちゃんの「居心地の良い場所」を提供してくれることを願いますね。一葉ちゃんには「営業職」は合わないので、この際 安住さんの秘書や、事務所で雇ってもらえないかしら?(まるで保護者ですねm(__)m)

安住さんはしっかりした方ですので、きちんと一葉の話をきいてくれますから…。
誰もが『営業職』なんて合わないと思っております。
何故この職に就いたのかは……なんとなーく、でしょうね。
安住さんのところで…ですか。ハイいっぱい考えております。
秘書ねぇ…。どっかの誰かさんと比べたら一葉は乳飲み子になっちゃうので…。
まさに保護者が必要な状態になると思います。
MO様、どうかご指導を!!
玄関掃除とか、洗車係とか、お茶出しとか…なら…(あ、でもコーヒーは安住さんが淹れるので…)

コメントありがとうございました。

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