状況を磯部も把握したようだ。
怒鳴り声を他人に聞かれたという気まずさくらい持ってくれてもいいのに、磯部は気にした様子もなく確認事項に入る。
「うちの朝比奈があなたにもご迷惑をおかけしたりとか」
「そんなことはないですよ。友人としてお付き合いさせていただいておりますから。ね、一葉ちゃん」
声をかけられたところで頷くことなどできるはずがない。
中條はプライベートとビジネスは分けろと言っていたが、一度しか会ったことがない人間といっていい。
俯くだけの一葉に、磯部は何を思ったのか「そうですか」と答えるにとどまった。
「それで『想像通り』だったとはどんな印象だったのでしょうか?あの状況ではあまり良いイメージはないと思いますが」
まるで営業トークでも始めるかのように磯部の声が柔和なものに変わった。
「いえ、しっかりされた方だな、と。休日まで気にかけてくれる部下思いの方という印象でしょうか。でももっとお年を召している方かと思っていましたからそれだけは意外でした」
よくまぁこんなにスラスラと言葉が出てくるものだと半ば感心する。
突然始まってしまった井戸端会議に一葉はオロオロするばかりだ。
中條に語らせていたら次は何を暴露されるのだろう…。
とても初対面とは思えないポンポンと飛び出す軽快な会話は対人関係に慣れた人間ならではだと思う。
やはり自分はこうにはなれない…とつくづく思い知った。
二人はどこかまだ話し足りないといった雰囲気を持たせながらも、仕事中ということでその場を後にした。
不思議だが、先程一葉が転んで機嫌が悪かったはずの磯部が鼻歌混じりになっている。
ある意味、いいところで中條にあったものだ…と少しだけ感謝した。
移動中の車の中で磯部は中條とのことを尋ねてきた。
「ど、どういった関係…って言われても…。この前一緒にみんなでご飯を食べたくらいで…」
「おまえが、あの大失態をやらかした時だろ?」
そう言われては返す言葉もない。
「はぁ、おまえは何人に迷惑をかければ気が済むんだ。それにしても『課長代理』ってあの若さですごいな」
お互い様じゃないか…と一葉は心の中で悪態をついていたが、安住と同じ年の中條は磯部とも年齢は1つしか変わらないはずだ。
それに気付いて「え?」と一葉が思わず声を上げた。
若いっていくつだと思っているのだろうか。
「所長とひとつしか変わらないはずですよ。38歳って言ってた…」
「はぁぁぁぁ?!」
一葉の声は途中で遮られた。
「さんじゅうはち～ぃ?!おいっ、嘘だろっ、どう見たって30代前半だろうが」
見ようによっては20代でも通用すると言いたげな磯部の声が響いた。
驚きを隠せない磯部が前方から視線を外し一葉に向けた。
磯部に貫禄がありすぎるのか、中條が若々しいだけなのか、声に出すのも憚れるが、かろうじて首を縦に振る。
運転中の磯部の視線はすぐに戻っていったが一葉の動きは視界の中にはいっているのだろう。
「そんなこと言ったって…、そう言われたし…。所長が気にしていた弁護士さんと同級生だって聞いたから…」
「あの弁護士と同級生?!はぁ、まったくすごいつながりだよなぁ。それにしても、グループ企業とはいえ、『榛名』の中の一企業の顧問までやっている人間と知りあえるってさぁ。すげぇもんだぞ。失敗しない限り一生食いっぱぐれることはないし。朝比奈とは雲泥の差だな。なんでそんな凄腕が周りにうじゃうじゃいるのに、成長しないんだ?」
そこには磯部の存在も含まれているのだろうか…。
当然だよな、と認めつつ、いつまで経っても『小学生並み』から抜け出せない一葉の心は地中深くまで潜っていきそうなほど沈んだ。
こんなことでは安住に愛想を尽かされるのも時間の問題かもしれない…。
妙な焦りが一葉を包んだ。
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怒鳴り声を他人に聞かれたという気まずさくらい持ってくれてもいいのに、磯部は気にした様子もなく確認事項に入る。
「うちの朝比奈があなたにもご迷惑をおかけしたりとか」
「そんなことはないですよ。友人としてお付き合いさせていただいておりますから。ね、一葉ちゃん」
声をかけられたところで頷くことなどできるはずがない。
中條はプライベートとビジネスは分けろと言っていたが、一度しか会ったことがない人間といっていい。
俯くだけの一葉に、磯部は何を思ったのか「そうですか」と答えるにとどまった。
「それで『想像通り』だったとはどんな印象だったのでしょうか?あの状況ではあまり良いイメージはないと思いますが」
まるで営業トークでも始めるかのように磯部の声が柔和なものに変わった。
「いえ、しっかりされた方だな、と。休日まで気にかけてくれる部下思いの方という印象でしょうか。でももっとお年を召している方かと思っていましたからそれだけは意外でした」
よくまぁこんなにスラスラと言葉が出てくるものだと半ば感心する。
突然始まってしまった井戸端会議に一葉はオロオロするばかりだ。
中條に語らせていたら次は何を暴露されるのだろう…。
とても初対面とは思えないポンポンと飛び出す軽快な会話は対人関係に慣れた人間ならではだと思う。
やはり自分はこうにはなれない…とつくづく思い知った。
二人はどこかまだ話し足りないといった雰囲気を持たせながらも、仕事中ということでその場を後にした。
不思議だが、先程一葉が転んで機嫌が悪かったはずの磯部が鼻歌混じりになっている。
ある意味、いいところで中條にあったものだ…と少しだけ感謝した。
移動中の車の中で磯部は中條とのことを尋ねてきた。
「ど、どういった関係…って言われても…。この前一緒にみんなでご飯を食べたくらいで…」
「おまえが、あの大失態をやらかした時だろ?」
そう言われては返す言葉もない。
「はぁ、おまえは何人に迷惑をかければ気が済むんだ。それにしても『課長代理』ってあの若さですごいな」
お互い様じゃないか…と一葉は心の中で悪態をついていたが、安住と同じ年の中條は磯部とも年齢は1つしか変わらないはずだ。
それに気付いて「え?」と一葉が思わず声を上げた。
若いっていくつだと思っているのだろうか。
「所長とひとつしか変わらないはずですよ。38歳って言ってた…」
「はぁぁぁぁ?!」
一葉の声は途中で遮られた。
「さんじゅうはち～ぃ?!おいっ、嘘だろっ、どう見たって30代前半だろうが」
見ようによっては20代でも通用すると言いたげな磯部の声が響いた。
驚きを隠せない磯部が前方から視線を外し一葉に向けた。
磯部に貫禄がありすぎるのか、中條が若々しいだけなのか、声に出すのも憚れるが、かろうじて首を縦に振る。
運転中の磯部の視線はすぐに戻っていったが一葉の動きは視界の中にはいっているのだろう。
「そんなこと言ったって…、そう言われたし…。所長が気にしていた弁護士さんと同級生だって聞いたから…」
「あの弁護士と同級生?!はぁ、まったくすごいつながりだよなぁ。それにしても、グループ企業とはいえ、『榛名』の中の一企業の顧問までやっている人間と知りあえるってさぁ。すげぇもんだぞ。失敗しない限り一生食いっぱぐれることはないし。朝比奈とは雲泥の差だな。なんでそんな凄腕が周りにうじゃうじゃいるのに、成長しないんだ?」
そこには磯部の存在も含まれているのだろうか…。
当然だよな、と認めつつ、いつまで経っても『小学生並み』から抜け出せない一葉の心は地中深くまで潜っていきそうなほど沈んだ。
こんなことでは安住に愛想を尽かされるのも時間の問題かもしれない…。
妙な焦りが一葉を包んだ。
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ん～
やっぱり一葉ちゃん、転職しましょ。
すごーくいい子で誠実な素直な子なんだけど、営業の場では生かせないって言うか理解されないって言うか・・・。
磯部さんも怒鳴ってばっかりじゃなくて部下思いのいい人ですね。
安住さんの外見は10歳は若く見えるんだ。想像では落ち着いた大人の渋みが加わって年上に見えるかと思ってたました。
やっぱり一葉ちゃん、転職しましょ。
すごーくいい子で誠実な素直な子なんだけど、営業の場では生かせないって言うか理解されないって言うか・・・。
磯部さんも怒鳴ってばっかりじゃなくて部下思いのいい人ですね。
安住さんの外見は10歳は若く見えるんだ。想像では落ち着いた大人の渋みが加わって年上に見えるかと思ってたました。
甲斐さま
こちらにもありがとうございます。
> ん～
> やっぱり一葉ちゃん、転職しましょ。
求人募集の張り紙がまだでてきませんね～。
考えてはいるんですけど、なにせ先の長い話で…。
さくさくっと結果報告ができたらいいんですけどね。
> 安住さんの外見は10歳は若く見えるんだ。想像では落ち着いた大人の渋みが加わって年上に見えるかと思ってたました。
安住っていうか、中條ですね。
落ち着いた渋みがあるのは安住です。大人の貫禄というか…。
同級生なのにこうもちがうの?!みたいな…。
磯部サン、いい上司になってくれればいいんですけど…。
コメントありがとうございました。
こちらにもありがとうございます。
> ん～
> やっぱり一葉ちゃん、転職しましょ。
求人募集の張り紙がまだでてきませんね～。
考えてはいるんですけど、なにせ先の長い話で…。
さくさくっと結果報告ができたらいいんですけどね。
> 安住さんの外見は10歳は若く見えるんだ。想像では落ち着いた大人の渋みが加わって年上に見えるかと思ってたました。
安住っていうか、中條ですね。
落ち着いた渋みがあるのは安住です。大人の貫禄というか…。
同級生なのにこうもちがうの?!みたいな…。
磯部サン、いい上司になってくれればいいんですけど…。
コメントありがとうございました。
そうそう、中條さんです。
ゴメンね中條さん名前間違えて。
いくら個人的に安住さんが好きだからってねえ。
ゴメンね中條さん名前間違えて。
いくら個人的に安住さんが好きだからってねえ。
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