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BLの丘
ちょうどいいサイズ 44
2010-05-17-Mon  CATEGORY: ちょうどいい
一葉の仕事が決まったということで、その日の夜はまた安住がワインを開けてくれた。
さすがにこれまでの失態を考えると飲み過ぎたくもないし、明日から仕事に行かなければということで安住も気遣ってくれている。
「今日はここだけにしようね」とダイニングテーブルに並べられた料理とハーフボトルが開けられた。
安住は早くに事務所を閉めてしまったから、思っていた以上の手のかかる料理がテーブルの上には並んでいた。
デパ地下の売り場でしか見たことのないような豪華なものだ。

昼間の中條たちの話も、新しく働くことになる場所のことも一葉の中では大きな渦になって燻っていたが、安住の前で見せるのは、安住を戸惑わせ心配をかけるだけだ…といつも通りを心掛けた。
何の問題もないと、過ごされた夕食の時間。
リビングで寛ぎながら他愛のない会話を繰り広げる時間。
やがて普段の『おやすみ』の時よりも早くに安住が立ち上がった。
少しでも長く安住と一緒に過ごしたいと願う一葉の心境と間逆の行動…。
逆らえずにいつものように部屋の前まで安住と一緒に行った。
普段はアルコールを口にすることもないし、素面でもすっかり慣れた行動といって良かった。
ただ、安住にも、昼間の会話は耳に残っていたのだろうか…。
部屋の前で見つめ合って立っている時間がいつもよりもずっと長い。
いつもさりげなく額や頬へキスをおとすと、すぐにドアを開け、一葉を部屋の中に入れて立ち去ってしまうというのに、廊下に立ち尽くしていた。

見下ろされる視線に居た堪れなくなって一葉が視線を床へと落とせば、静かな安住の吐息が聞こえたようだった。
一葉がどれほど平気なふりをしていてもやはり安住は見透かしていたのだろうか…。
繊細な指が一葉の前髪を梳くように持ち上げた。
何かを言いたげな瞳があるのに、だけど安住は耐えるように声を発さなかった。
こみあげてくる胸の痛みがある。
いつまでこんなことが続くのだろうか。どうして安住は一葉にキス以上のことをしてこないのだろう。何も言えなかった自分が悪いのだろうか。
そのもどかしさに、一葉がとうとう睫毛を濡らしてしまった。
「一葉ちゃん…」
「あ、あず…」
喉奥で詰まってしまったものに、安住の名前もまともに呼べなかった。
さらに大粒の涙が頬を伝う。
これまで溜め込んでいた『不安』の表れだった…。

静かに安住の逞しい腕が一葉の背中を抱いて、濡れた顔を胸に押し付けた。
突然のことに、驚いたのはもちろん一葉だったし、夜の眠る前に抱き締められたことはこれまでに一度もない…。
安住の声が上から振ってくるものと心音と共に胸から響くものの二つで聞こえてきた。
「順序を追わなければ…と言ったのは僕のほうなのにね。毎日可愛い一葉ちゃんを見ていると我慢なんてできなくなって一気に飛び越えてしまいそうだよ。こんな風に涙ぐまれたら尚更…。本当は今にでもなにもかもを自分のものにしたいなんて思っているって、こんな僕を知ったらどう思われるのか、毎日焦っていた…」
驚きの真実に一葉の涙は切れることがない。
ずっと悩んでいたことを安住も同じ時間、一葉の為を思って考えていたというのか…。
鼻水をすすりあげながら、一葉は強く抱きしめてくれる腕の温かさを知った。
『抱かれたい』…と心から思った瞬間だった。
この腕の中にいたい…。

「一葉ちゃんはなんて可愛いんだろうね。純真で素直でがんばり屋さんで…。一葉ちゃんを僕の醜い心で穢してしまうのが怖いんだよ」
一葉はぶるぶると首を振った。
そんなふうにただ飾られるだけのぬいぐるみみたいになりたくない。
「…な、い…。そんな、こと、ない…。俺、何も、知らないし…、安住さんに、嫌われるんじゃないかって…、ひっくっ…」
思いが堰を切ったように溢れてくる。
…やっと伝えられる想い。
「そんなことを思っていたの?僕が一葉ちゃんを嫌うことなんかないよ。むしろ脅えていたのは僕のほうだったんだ」
抱きしめられる背中の手がとても熱かった。

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次回、とうとう?!
ヘタレな二人に応援のポチを…
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コメント

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コメントきえ | URL | 2010-05-17-Mon 16:09 [編集]
M様
こんにちは~♪

>えっ(゚o゚)次回とうとうですか!?一葉ちゃん!ど~んと優しい安住さんにおまかせしちゃって下さいね。あ~~ドキドキします。応援ポチは夜中に美琴さんにしてしまったので応援拍手をポチリです。

一日に2度もいらしてくださいましてありがとうございます。
そうなんですよね~、ブログポチは1日1回なんですよね。
でもあまり気にしていないので、読んでくださる方が、拍手ばちに入れてくださるとそれだけで満足しています。
優先順位はどちらかというと"拍手"の私です。
それで人気度を勝手にはかっていますので…。(多い方が人気ある作なんだって)

さあっ!!一葉と安住さん、廊下でだきっこしているだけの今なんですけど…(汗)
とりあえず、お互い『告白』は済ませた、ってことで…(っ?!なぬっ?!)
安住さん、優しすぎるのも時には犯罪だって知りましょうね。
コメントありがとうございました。
いよいよ!?
コメント甲斐 | URL | 2010-05-17-Mon 22:31 [編集]
やっとここまで来ましたか~

安住さん、案外臆病になってしまったんですね。
本当に大切にしたい存在に対してはいろいろ思っちゃうんでしょう。
嫌われないかとか、穢してしまうんじゃないかとか。

未経験で怯えている一葉ちゃんをちゃんとリードしてほしいものです。
Re: いよいよ!?
コメントきえ | URL | 2010-05-18-Tue 07:12 [編集]
甲斐様
こちらにもどうもです。

> やっとここまで来ましたか~

長い道のりでした。
でもまだ先は長そうな道のりです…。

> 未経験で怯えている一葉ちゃんをちゃんとリードしてほしいものです。

リードするんだか、欲望に突っ走るんだか…。
次話が出ているので控え目なレスですみません。
コメントありがとうございました。
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