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BLの丘
策略はどこまでも 番外ヒサ編 8
2009-07-23-Thu  CATEGORY: 策略はどこまでも
12月の繁忙期が始まる前だというのに、社員研修が行われる。研修とはいっても、企業からの集荷依頼を受けるための営業に関することや事故処理など、基礎をもう一度学び初心に帰るのが目的で、毎年各支社から数人が呼ばれた。

こんなわずらわしい行事が年に数回行われるので、数年に一度は必ず巡ってくるようになる。
今回は運行部の久志と物流部の新人滝沢、それと営業部の3人が対象だった。久志は入社後すぐに一度この研修を受けたことがあったので、話が来た時にはうんざりした気分になった。

よりによって、この多忙な時期に研修を行おうとする本社の意図が測れない。
研修会場は近県だったが、日帰りで行ってこられない距離でもなく、夜中にはこちらに戻ってこられることを考えれば宿泊しなくてもいいかと考えを巡らせていた。
だが物流の部長に、「滝沢は初めてだから頼む」と声がかかり、相談の末一泊することにした。
営業部の連中とはそれほど面識もないので、研修日をどのようにするのかなど連絡もとっていない。現地集合現地解散のため、移動手段などは各個人に任されていた。

当日の朝、滝沢を連れだって電車を乗り継ぎ、会場となる建物に向かった。昼前からビッチリと詰め込まれたスケジュールに、早くも嫌気がさしていた。それでも滝沢は初めてのことに少しの緊張を含ませた表情で聞き耳を立てていた。
お昼や午後の休憩を挟み、夕方6時きっかりに研修は終了した。研修を受けていたどの顔からも疲れの色がうかがえる。

「おう、飯食いに行こうぜ」
机に広げられた社史やノート、筆記用具をカバンに入れながら、隣に座っていた滝沢に声をかける。
今日はこのまま近くのホテルに戻ればいいだけだったので、気軽に酒でも飲んで疲れを癒したかった。
もし日帰りであれば、移動時間を考えても眠れたのは夜中になったことだろう。
滝沢は久志に声をかけられて素直に従う。ホテルの前まで移動した二人は、チェックインも済ませずに目の前の居酒屋に入ることにした。
時間帯もあったのだろうが、平日だというのに店内には自分たちと同じようなサラリーマンがひしめきあっていた。中には外国人の姿もあって、国際都市なのかと思わされる。

「なんだか混んでいますね」
案内された席で、おしぼりを手にしながら店内をぐるりと見回した滝沢がポツリと呟く。久志も同じことを思っていたので素直に頷いた。
「何かあったのかな。そういえば前にさ、あるリゾート地に行ったらちょうどどっかの国の大使かなんかが来てて厳戒態勢敷かれちゃって、どこ見てもこんなむさっ苦しい野郎ばっかだったことがあったなー。全然リゾート気分味わえなかった」
昔のことを思い返した久志が眉間に皺を寄せながら話すと、滝沢がコロコロと笑った。飲みの席ということもあるのか、仕事中とはまた違った表情が垣間見られる。

運行部と物流部はどちらかというと繋がりが深く、お互いの事務所を行き来することも多かった。運行部の部長である黒川と物流部の倉林部長は何かと仲がいい。それもあって年末年始の宴会はもちろん、普段から執り行われる気さくな飲み会も合同で行われることが多かった。
その宴会の席で良く滝沢とも顔を合わせた。しかし、二人きりで飲むような席は持ったことがなく、プライベートの話をすることはまずなかった。
いつもどこか久志に対して緊張感を漂わせていた滝沢が、少し気を抜いたように笑顔を見せた。
最初に注文した一杯目のビールが届くと、適当に肴を注文してお互いのジョッキを合わせた。カチンという軽快な音が響く。

「お疲れさん」
「お疲れ様でした」
久志は最初の一杯を一気に半分以上飲み干してしまった。それを見ていた滝沢が「飲みっぷりいいですね~」と笑っている。
「高柳さんってお酒、めっぽう強いって聞いたことあります」
「そお?いや、普通だと思うけどね」
先出しで出された枝豆をぷりっと銜えながら久志は首をかしげた。
「前、うち(物流)の飲み会に来てくれたとき、酔い潰れなかったの、高柳さんだけだった、って誰かが言ってましたよ」
「いつの話だよ…。それより物流の連中のほうが飲めると思うけどな。部長なんてホント、ザルだろ」
社員同士で行われる飲み会は結構な数だった。何かと理由をつけては飲酒の場を設けようとするのは社風なのだろうか。
仲のいい者同士が集まって行われる小さな会を含めたら金が続かないだろうと真面目に思ったことがあったほどだ。
たたでさえ、久志は呼ばれる数が違った。
一旦飲み会の席に着けば、部の壁もなく気軽に次を誘い合ったりする。

「あー、そうですね。あの人は何飲んでも大丈夫ですよね」
「どうせそのうち忘年会パート1(ワン)とか2(ツー)だとかいってまた何か開くんだろ。そーいえば、事務の新谷さん、12月が誕生日だからそのへん、理由にされるんじゃね?」
「え?そうなんですか?っていうか、高柳さん、何で新谷さんの誕生日なんて知ってるんですか?」
サラッと言ってしまったことに心底驚いた顔で滝沢が聞き返してくる。まぁ確かに深い理由でもなければ隣の課の事務員の誕生日など覚えているものではないだろう。
「あー、前に聞いたことがあるんだよ。『誕生日12月24日なの。クリスマスイブに気を取られて誰も祝ってくれないの』って」
「はぁ…ん、なんとなく覚えられますね」
「だろ」
納得したかのように同意した滝沢が感嘆の声を上げた。それに応えてニッと笑うと、少し惚けたような滝沢の顔があった。

「でも新谷さん。高柳さんに誕生日、覚えてもらってたって知ったらすごい喜びますよ。うち(物流部)、高柳さんの人気すごいですから」
まあ、今に聞いた話ではないが…と思いながらも久志はそんなことないと、ヒラヒラと手を振って見せた。
苦笑する久志をそんなことあるんですーぅ、と見返しながら滝沢は言葉を続けた。
「だって、この前、高柳さんに恋人がいるってわかった時のみんなの態度。もうすごかったんですよ、ホント」

またその話か…と久志は困った顔を浮かべた。
「恋人っつーかさぁ」
実際にはまだそういう確定した位置ではないのだが…。
思わず否定じみた言葉がこぼれるのを敏感に感じたらしい滝沢は「え?」と聞き返してきた。
おかわりのビールを追加注文してから久志はこの話を滝沢にしてもいいものかと思案した。
未だに那智は素直にならないし、何かを思い悩んでいるようだったが、それを口にも出さない。そのくせ身体だけはきちんと応えてくれるのだからたちが悪い。
嫌なら嫌で…はっきり拒絶されれば、それも辛かったが、曖昧に濁されたまま今の関係を続けたくはなかった。
ただでさえ苦悶の日々だったのに、こんなところで話題が出れば相談の一つもしたくなる。相談というより、愚痴を聞いてほしいだけだったが。

「なんつーか、俺の片想いってとこかな」
「ええぇっっ???高柳さんがぁ!?」

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