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BLの丘
策略はどこまでも 番外ヒサ編14
2009-07-27-Mon  CATEGORY: 策略はどこまでも
重い瞼を開くことはなく、どこかまどろっこしい覚醒の中で、腕に抱えた人物が身じろぐのを感じた。
強い力を持って離れようとするのが分かると、無意識にそれを阻止しようと抱える腕に力がこもる。
「那智、もうちょっと…」

触れた体が布越しにも幾分硬いものだと感じた。那智の体はこんなに筋肉質だったかと寝ぼけた頭は漠然と思ったのだが…。
寄せた首筋から漂う香りはいつものと明らかに違っていた。

「高柳さん…」

届いた声は絶対に那智のものではなく…。第一、那智は自分を名字では呼ばない。
途端に一気に脳が覚醒する。
久志が腕に抱えていたのは、物流部の滝沢だった。
困りながらも明らかに分かる照れを纏った表情で、決して久志を見上げることなく、引き寄せられる身体を腕を突っぱねて防いでいた。
久志はまるで万歳をするかのように、腕を上げた。

「う、そ…」
「もう…」
滝沢からは小さな声がこぼれただけで、久志の腕から解放されると、困惑した表情で離れベッドの上で正座した。
久志は呆然としながら、ゆっくりと上半身を起こす。広々としたベッドの中、確かに自分が寝転がった位置はもっと端っこの方で…。現在起きた位置が真ん中よりも反対側に転がっていることを思うと、自分から滝沢に寄り添っていったことは明白だった。
「マジかよ…」

何をどう、滝沢に言い訳したらいいのだろうか。未だ冷めやらぬ夢の中で、確かに誰かの温もりを感じていた。夢の中でそれは那智だったのだが、虚像として纏ったのはこの場合滝沢なのだろう。
真っ赤な顔をしながら、滝沢は視線を落とす。

「え…、ごめん。…ごめんっ、滝沢っ」
他に返す言葉など思い浮かばずに、とにかく謝るしかないと、頭を下げる。
昔、大学の同期の連中が、久志のことを「節操無し」とからかったことがあったが、その意味を今ほど理解したことはなかった。
身体さえあればなんにでも反応してしまうということか…?

「ごめんっっ!本当にすまないっ!」
「もう、いいですから…」
顔を真っ赤にしながらも、久志に謝られていることに抵抗を感じた滝沢は小さく身体を丸めた。自分が久志の恋人と間違われたとはいえ、その時に抱き締められていた腕があまりにも辛そうだったことを思うと、なぜか滝沢は、これ以上謝ってほしくなかった。
「大丈夫です!何にもないですしっ。高柳さん、ぜーったい、ゆうべ、飲み過ぎですからねっ」
「あー、ごめん…」

すべてを酒に酔った勢いと勘違いしてくれていることがどれだけ久志の救いになっただろうか。わざとそう言ったとは思っても、今の久志にはその言葉にすがるしかなかった。
「早く支度しないと朝食、間に合わなくなっちゃいますよ。今日、まだ会社に行くんでしょ」
そそくさとベッドを下りた滝沢が着替えを手にバスルームへと飛び込んでいった。

起き上ったベッドの中で、そっと自分の身体を確認すると、下着の中で不本意な形を象っているモノを見つけた。
あぁ…と思わず頭を抱え込む。中高生の時だって、こんなことはなかったはずだ…。
自分は一体何の夢を見ていたのだろうか…。久志は大きなため息とともに、もう一度ボスンとベッドの柔らかなマットの上に転がった。

午後出勤とはいえ、会社にたどり着くと、黒川が久志を待ち焦がれていた。
「ベタ2件。いや~、ホントおまえ出勤で良かったよ。物流の連中、誘っといたから楽勝だろぅ」
黒川本人はいたって真面目な顔を向けたと思っているのだろうが、その口調は陽気にしか聞こえなかった。
否応がなしに仕事をしろと差し向けられる。
確かに体力的には消耗していなかったが、精神的な面では充分なほどダメージが大きかった。

「かんべんしてくださいよ~、今帰ってきたばっかなのに…」
物流の連中が出てくれるなら自分が現場に行かなくてもいいように手を打ってくれればいいのに…と思わずうんざりと溜息が出る。
研修から戻り次第、現場に向かわせられるとは想像もしていなかった。
嘆く久志を気にした様子もなく、しばらく研修内容について雑談を交えながら黒川と話をしていた。


「ちょっとっ!!高柳さんっ!!今ネットで請求書届きましたけど、ダブルベッドルームってぇぇぇ????」
「えっ?昨日滝沢君と一緒だったんじゃないのっ!?」
石田がパソコン相手に事務処理をしていたらしく、目をまん丸に見開くと、大友がそれに続いた。
石田の言葉を聞いた黒川があからさまに久志に呆れた声を差し向けてきた。
完全に疑いの眼差しだった。

「おまえ、ゆうべ、どこで何してたんだよ…」


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意外と滝沢くんて大人でしたね。
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