2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
囁きは今日も明日も 21
2010-10-15-Fri  CATEGORY: 囁きは今日も明日も
それから2週間ほどの時が経った。
週末は磯部の休みなど関係なく、中條が訪れてくる。
数枚の着替えならすでにある、という状況だったが、本格的な引っ越しはまだ先のようだ。
磯部も部屋の中を片付け始めた。
3LDKという間取りだが、一つの部屋は物置に近い。
寝室にワークデスクもあったから、物置を片付けてデスクはそちらに移動させた。
物を詰め込んだだけの部屋も、片付けるのに良い機会だった。

「ベッドを持ち込んでもいい?」と中條に聞かれ、寝室は別になるのか?!と疑問に思う磯部に対して、「同じ部屋だけどぉ。たまには離れて眠りたい時もあるでしょ?」と、長年の一人暮らしを振り返られる。
いつもくっついて寝ては、寝不足になる日もあるのではないか、という配慮か…。
確かにのびのびと大の字になって寝たい日はあるかも…と磯部も了承した。
寝室としてだけの目的で使う部屋に、今のダブルベッド以外にも置くスペースは充分ある。

その他にも、使い慣れた『寝転がって映画を見るためには絶対に必要な居心地の良いソファ』とか、長年愛用の調理器具だとか、中條の捨てがたいものも全て受け入れた。
磯部自身、部屋にいることが少ないので、特にこだわりはない。
リビングダイニングは、一人暮らしで無駄なものがなかったし、スペース的には余っているといっていい。
中條が気持ち良く暮らしていければそれでいいと磯部は言った。


ある平日。
その日は中條から「仕事で外に出る」というメールをもらった。
『ランチできる?』
質問に何と答えようかと考えた。
磯部にはこの日、午前中に商談相手との取引が待っていた。
話が進めば、終わりがいつになるかなど分かったものではない。
約束をして待たせるのも嫌だし、とりあえずその予定を伝えて、『昼食の約束はできない』と送れば中條も状況を分かったようだった。
『享の近くの定食屋さんにいるから。終わったら享のうちでコーヒー、もらってる』
一日の予定を告げられて、『遅くなっても逢えるかもしれないよ』的なメールには苦笑するしかない。

案の定、粘り強く働いた磯部に、期待の承諾がもらえたのは昼を越えた時間だった。
迂闊に約束をして、中條を待たせることにならなくて良かったと安堵の息が漏れる。
直接安住の家に辿り着くと、すでに中條の車も停まっていた。
出迎えてくれた安住に挨拶をして中に進めば、中條の隣には思わず目を向けるほどの可愛らしい男の子がいた。
『子』とはいえ、朝比奈と同じくらいか幾つか上の子だろう。
きっちりとスーツを着こなしてはいるが、小柄なのは一目瞭然だ。大きな瞳がとても印象的である。

「お疲れ様。ごはん食べたの?」
ソファに座った中條が磯部に隣に座るよう促してくる。
「あ、ああ。コンビニでおにぎり買って食いながら来た」
こんな仕事についていると昼食などの時間はマチマチだった。
中條との約束を蹴っているだけに、心配される理由も分かる。
それよりも磯部には初対面である、中條の隣の男の子が気になって仕方なかった。
軽く会釈をされ、仕事柄というか、つい癖で名刺を出そうとしてしまう。
同じように咄嗟に名刺入れを取り出そうと動く彼だったが、それを中條に止められた。
どことなく機嫌が悪いように見えるのは気のせいか…?
「名刺一枚でも経費の無駄遣い。こちらは一葉ちゃんの”元”上司、磯部さん。この子は営業の子で『さくらちゃん』」
「中條さんっ、そういう紹介の仕方、しないでくださいよ~ぉ。桜庭です」
『さくらちゃん』という名前はどこかで聞いたことがあるな…と頭を巡らせる。
いつぞや聞いた、『顔で売っている営業』かぁ、と思い出す(←酷っ!!)。
再び頭を下げてきた桜庭に磯部も挨拶を交わした。
物怖じしない態度といい、快活な話具合といい、朝比奈とは雲泥の差だな、とも思った(←やっぱり酷っ!!)。

正体が分かれば磯部も桜庭の存在が気にならなくなった。
名刺を交換させなかったのは、中條の単なる嫉妬なのだとも理解する。
とはいえ、子供には全く興味のない磯部なのだが…。

「中條さんが引っ越すうちって、磯部さんのところなんですか?」
「そうだよ。そうそう、さくらちゃんのカレシが運送会社に勤めていてね。引っ越し部門に話をしてくれて、『社員価格でいいです』って言ってくれたんだ(笑)」
桜庭に返事をした後、磯部に向き直った中條が説明を始める。
引っ越しの手伝いをする、と磯部が言い出したとき、「業者に頼むから人手はいらない」と断られた。
忙しい身を心配してのことかと思えば、そんな裏事情があったのか…と納得する。
「『社員価格』って、そうしろって言ったの、中條さんじゃないですか…」
「誠ってば、またそんな無茶を言い出したの?」
ふわふわと湯気のたつコーヒーを運んで来ながら、安住が呆れた声を上げた。
その後ろから朝比奈がケーキの乗った皿を持ってきた。
今日はあの喫茶店は休みだったのか…と頭の隅で思っていたが…。
「値切るのが当然でしょ」
当たり前のように口にする『営業の強さ』に返す言葉もない…。
どんな無体を強いたのか、磯部は桜庭の顔を見られなくなる自分を感じた。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
終わんない、どうしよ…。
中條、敏腕ぶり発揮中。
ぽちってしていただけると励みになります。
関連記事
トラックバック0 コメント5
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
コメントきえ | URL | 2010-10-15-Fri 06:48 [編集]
ら様
おはようございます。

>知り合いにはどこにでも声をかけるまこっちゃんですね。そんでもって妬いてるし。。。(笑) ってか那智を男の子って・・・まぁ、磯部さんにしてみたら男の子かww ぁ・・・一葉、いたんだ。。。って仕事はどうしたんだ!? 臨時休業か。。。(爆) 

さくらちゃんに気をとられる磯部をしっかり観察。そして把握。
磯部、『子』に興味はなかったみたいですね~。
可愛いものは『目の保養』であって、それ以上にも以下にもならない。
一葉、影のような存在になっています。
磯部は『定休日』と思っていますけど、ホントのとこはどうなんでしょうww
コメントありがとうございました。
なんか楽しそう
コメント甲斐 | URL | 2010-10-15-Fri 08:32 [編集]
引っ越しも決まり着々と愛をはぐくんでいる二人ですね。

中條さん可愛い嫉妬!
一葉ちゃんが”使えない部下”でしかなく眼中になかったが磯部さんにとって、同じかわいいお子様キャラのさくらちゃんがライバルになるはずないのにね。

今日は昼間っからデート!?
っていうか商談終えた磯部さん以外の皆さん、仕事は?
コメントかや | URL | 2010-10-15-Fri 11:20 [編集]
まこっちゃんが嫉妬してる~。可愛い♪
いいねえ、賑やかに一同お揃いで。
引越し準備は着々と進行中ですね。

一葉ちゃんもさくらちゃんも、「子供」なんだ。
まこっちゃんがいいんだもんね(笑)
ほのぼの(?)お茶会、いいですね。
なんか、エピローグっぽいけど(*^_^*)
Re: なんか楽しそう
コメントきえ | URL | 2010-10-15-Fri 12:22 [編集]
甲斐様
こんにちは。楽しんでもらっているのでしょうか。

> 引っ越しも決まり着々と愛をはぐくんでいる二人ですね。

はいっ!着々と物事を進めていきます。

> 中條さん可愛い嫉妬!
> 一葉ちゃんが”使えない部下”でしかなく眼中になかったが磯部さんにとって、同じかわいいお子様キャラのさくらちゃんがライバルになるはずないのにね。

磯部、ガキンチョは眼中になしって感じです。
物分かりのよい『大人』がいいんじゃないでしょうか。
手間暇かかるお子様は商売の対象でしかない。

> 今日は昼間っからデート!?
> っていうか商談終えた磯部さん以外の皆さん、仕事は?

皆さん、午前中はお仕事していたのだと思います。
あー、一葉はきっと『臨時休業』のお店になってしまって…とか(どっちが『休む』って言い出したんだろうなぁ????)
ほらっ、今は『昼休み』だからっ!!(←苦しい…)
コメントありがとうございました。
Re: タイトルなし
コメントきえ | URL | 2010-10-15-Fri 12:26 [編集]
かや様
こんにちは~♪

> まこっちゃんが嫉妬してる~。可愛い♪
> いいねえ、賑やかに一同お揃いで。
> 引越し準備は着々と進行中ですね。

口達者な人たちですから(笑)
可愛い可愛いさくらちゃんに、中條も少しは牽制ですか?!

> 一葉ちゃんもさくらちゃんも、「子供」なんだ。
> まこっちゃんがいいんだもんね(笑)
> ほのぼの(?)お茶会、いいですね。
> なんか、エピローグっぽいけど(*^_^*)

好みは人それぞれってことで。
お子様は手がかかるから対象外のようです。
天下無敵な我が儘だけど、まこっちゃんがいいんです。きっと。
終わりにしたいのに、変な話を追加していくから終わらない…(汗)
コメントありがとうございました。
トラックバック
TB*URL
<< 2024/03 >>
S M T W T F S
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.