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BLの丘
眼差し 2
2010-12-11-Sat  CATEGORY: 眼差し
コースターの上に乗せられたロンググラスには、ジンとオレンジを合わせた比較的軽そうなアルコールが注がれていた。
「そんなに気取ったところじゃないからゆっくりしていってよ。…って言っても、あれか。遅くなれば心配もされるか」
さりげない気の回し方は昔のままだ。
いや、更に気遣いに磨きがかかったというべきか。
置かれたばかりのグラスを手に一口飲み、アルコール度の薄さから『いや…』と小さく手を振る。
他の客は勝手にやってる、と言いたげに、日野は成俊についてくれた。
「今日はここに寄るって言って来たし」
結婚する、した、就職した、子供が…と、様々な転換期に、日野も高音に会っている。
高音も日野の存在を知らない人間ではなく、『久し振りに…』と控え目に言い出したら『どうぞ』とあっさり許可してくれた。
届いた葉書も目にしていたから、起業するくらいの実力を付けた人間とは親しくしておきなさいという下心さえ見えた気分で、自分と比べられていることに卑屈になったくらいだ。
「なんか、浮かない顔、してんな」
どうしてコイツはこうも、人の表情というか感情を読むのが得意なのか…と内心で苦笑してしまう。
だからといって無理に突っ込んでくることはなく、いつでも『話したければ話せ』という態度だ。

成俊はあまり家に帰りたくなくなっていた。
今は高音の実家からすぐ近くのマンションに住んでいる。
1年前、30年という、気の遠くなるようなローンを組んで購入した。
子供がいるから、…その娘が自分に似ていないのに似ている気がして愛しいと思うから帰路にはつくが、夫婦仲は完全に冷めている。
セックスなど、子供が生まれてから片手の数にも満たないし、待っているのは子供を寝かしつけるために一緒に眠ってしまった妻と、冷えた夕食だ。
会話らしい会話もしたのだろうか…と、時々思う。
気がつけば金のことで喧嘩になり、休日に家にもいないと文句をぶつけられ、いかにも子育ては妻一人でやっていると言いたげだった。
どれだけ何を言われようが、娘の存在があるから日々を頑張ってこれていたし、自分の責任だという負い目もあった。
それが、妻に何かを言われたのだろうか。それとも女の子の性なのか。
物事の判断がつくようになった娘から発された言葉は「パパは男の人だからママとわたしからは仲間はずれなの」であって、何をするにも母親と…と父親を避けるようになった。
その態度は妻に良く似ていた。
親子とはこうやって似ていくのかと、しみじみと思わされたものだ。

「うち、…もしかしたら離婚の危機かも…」
「はぁ?!何で?!」
こんな話は誰にもしたことがなかった。
きっと日野だって、仲睦まじく暮らしている夫婦だろう、と思っていたはずだ。
親の反対を押し切って、何とか説得して、やっと辿り着いた結婚生活。
改めて振り返れば、若かったな…とつくづく思う。
目を見開いた日野が、手にしていたアーモンドの皿をガタッとカウンターに置きながら驚愕の声を上げた。
「いつの間にそんなことになっていたんだよ…」
「いやぁ、兆しは結構前からあったけど。自分でも目を瞑っていたんだと思う。高音も仕事と家事とで一生懸命なんだって…。俺、やたらなこと言うの、やめようって思ってたし。逆効果だったみたい」
「話しあったのか?」
静かに問われた声に、俊成は首を横に振った。
付き合ってきた頃からの勘で分かる。
高音は言い出したら自分を曲げないし、成俊自身、妻にまで腰を折ってぺこぺことする生活に疲れを感じていた。
「そんなんで…」
「なんかさー、あいつがどうしたいのか、分かるんだよ。周りの友達が遊び歩いていた時に身籠って、親の前で小さくなって、やっと新居持てたことで”解放”されたんだ…って…」
「だったら尚更これから」
成俊はまた首を振った。
口に出したことでより一層現実味を帯びて自分に跳ね返ってきた。
「"俺”っていう存在が邪魔なんだ。もう愛情もない。手もかけたくない。好きな時だったら許せる仕草一つだって、嫌いになった途端、全てが許せなくなる。今、その積み重ねの状態」
恋をしていた時は楽しかった。
見るもの全てが新鮮で、洗濯物に皺があったって許せた。
それが今では、そんなことの一つもできないのかと苛立つばかりだ。
目につくのは粗ばかりで、コイツの何が良かったのか、と改めて探すくらいになっている。
同じことを、高音も感じているはずだった。
思い描いた理想とはかけ離れているのだろう。
話しあって解決するようなレベルはとうに過ぎてしまった…。

日野が小さな溜め息を零した。
「まぁ、成の人生だからな。窮屈な生活に閉じ込められて苦しむより、一層見限った方が楽に考えられるのかもしれない」
暗くなるだけの話題を避けようとするのか、「腹、減ってる?何か作ってやるよ」と明るい声で告げられた。
こんな風に声をかけてもらえたのはいつが最後だっただろう。
余計に悲しくなるのを抑えながらポツリと呟いた。
「何でもいい。もう、冷めたメシしか食ったことないから…」
成俊の言葉に日野の目が剥くのが分かったが、日野はそのことについては何も言わなかった。
全てを悟ったのが肌を通して感じられた。
成俊は、この瞬間にも、『離婚』を決意していたのかもしれない。

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どっち向いても暗い話になっちゃったよ~(涙)
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コメント

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確かに 暗い...だけど
コメントけいったん | URL | 2010-12-11-Sat 17:51 [編集]
こういう話し、私は 嫌いでは無いです。いや 好きです。
日野の性格(心)の良さが 滲み出ていて こんな友達が 欲しい。と、思いました。
女の間では 難しいでしょ!...私だけかも しれないけど...
成俊の 溜まりに溜まった愚痴を 説教もせず 黙って聞く日野の姿に いつもの お子ちゃまの守り役では 見られない魅力を 感じました。
年を取って 老バーテンダーになっても 日野は 素敵だろうなぁ~(*^▽^*)ゞbyebye☆
Re: 確かに 暗い...だけど
コメントきえ | URL | 2010-12-11-Sat 21:32 [編集]
けいったん様
こんばんは。

> こういう話し、私は 嫌いでは無いです。いや 好きです。

あらっ、ありがとうございます。

> 日野の性格(心)の良さが 滲み出ていて こんな友達が 欲しい。と、思いました。
> 女の間では 難しいでしょ!...私だけかも しれないけど...
> 成俊の 溜まりに溜まった愚痴を 説教もせず 黙って聞く日野の姿に いつもの お子ちゃまの守り役では 見られない魅力を 感じました。

最近、子守役でしか登場していない日野でしたが、本来はこんな性格なんですよね(^_^;)
人の悩みも愚痴もきちんと聞いてくれる人です。
年の割にやたら老成しているというか…。

> 年を取って 老バーテンダーになっても 日野は 素敵だろうなぁ~(*^▽^*)ゞbyebye☆

コイツが年取ったら、ますます磨きがかかって人に好かれる人になると思います。
コメントありがとうございました。
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