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BLの丘
眼差し 3
2010-12-12-Sun  CATEGORY: 眼差し
成俊が妻に別れ話を持ち出せば、あとはトントン拍子というくらいに早かった。
まるで成俊から切り出すのを待っていたかのようだった。
高音はここぞとばかりに「あなたから言い出したんだから」と、高額の慰謝料と養育費を要求してきた。
今まで我慢していたのは、これが目的か、と思うくらいだ。
娘と離れるのは心苦しかったが、冷めた家庭の中でどのような心を抱えて育つのかと考えれば、母親と仲良く暮らしてくれた方がいいのかとも思う。
それでも支払える金額など上限がある。
かといって、慰謝料の相場や、離婚に関する相談などどこにすればいいのか、成俊には見当もつかなかった。
親に相談しても良かったが、成俊の親の性格を考えると、言われたように金を工面してしまうのが分かる。
完全に非を認めていたから、できるだけのことはしてやると言い出しそうで、そんな負担を親にかけたくはなかった。

家に帰りたくもなく、行くあてを失って、成俊が辿り着いたのは、やっぱり日野の場所だった。
初めて訪れてから1カ月も経っていない。
成俊がどんよりと雨雲を背負って店に入れば、即座に理解したような日野が、カウンターの一番隅の席を示してきた。
L字型に作られたカウンターの、一番明りも届かないような場所だ。
その暗い空間が、今の成俊にはありがたかった。
ふとした優しさに触れたら、泣き出しそうだったから…。

今日はこの前とは違って客が多かった。
とはいえ、ほとんどはカウンター席に座っている状態だが、カウンターの席数が多めにとってあるせいか、人が並んでいても窮屈感はない。
その客らとも離れた席だったから、成俊は比較的緊張も持たずにいられた。
目の前に立った日野が「どうした?」と小さな声で問いかけてくる。
コイツにはもう、隠し事も何もする気になどなれない。
何の前置きもなく、正直に「別れることにした」と告げれば、驚いた様子もなく、「そっか…」と頷いただけだ。
その話題に触れようとしないでくれることが嬉しいはずなのに、溜まっていた鬱憤を聞いてほしい思いもある。
「なぁ、なんか、強いの、ちょうだい」
いつも日野が作ってくれるのは、酔い潰れないようにと控え目なアルコール量の酒ばかりだった。
だけどたまには、酔って我を忘れたい時もある。
店の中で…という自制心は働くものの、そこは目の前に日野がいるからという、甘えもあった。
「ちゃんと、金、払うから…」とボソリ付け加えれば、フッと口角を上げられて、「そんなの、いいし」と何かのボトルを手にしていた。

日野はカウンターの客と一言二言、言葉を交わし、上手く接客しながら成俊の為のドリンクを作ってくれる。
ついでに軽くつまめるものまで出してくれた。
その種類の多さに、成俊の方が驚いたくらいだ。
チーズとトマトが乗ったブルスケッタ、サーモンのカルパッチョ、フライドポテトと温野菜の盛り合わせなどなど。
いかにも、的に数種類が盛りつけられた大皿は、まともに注文すれば小遣いが吹っ飛ぶのではないかと思うくらいの見栄えの良さだ。
「しょ、尚治、こんなのまで…」
「残り物だし。どうせ他の客には出せないからさ。こんなので良かったら食べてよ」
小声で告げられるのは他の客に聞かれたくないからだろう。
アルコールだけを口にするのは体に悪い、と言われ軽くかわされてしまう。
…これのどこが”残り物”だってぇ?!…
成俊は内心で叫びたいのを我慢しながら、しみじみと生きている世界が違うことを実感してしまった。
まるで成功者と敗北者だ…。
自分の座る位置もある。こちらは暗闇で、日野はスポットライトに当たっているような錯覚。
じわりじわりと襲ってくる悲しみと焦燥に、出してもらったショットグラスを一気に飲み干した。
喉の奥がカァッと焼けつくようだ。
それを見ていた日野が、「おいっ」と目を見開く。
そんな日野を無視してグラスを差し出した。
「おかわり、ちょうだい」
「ばかっ。こんな飲み方、すんなっ。おまえ、ただでさえ、酒なんか飲み慣れていないだろっ?!」
「ほっとけよっ。たまにはこんな日も欲しいのっ」
一瞬の沈黙の後、「高音さんとの話し合い、うまくいっていないのか?」と、またもや人の心の内なんて見えている、といった態度で静かに問われた。
不仲を以前に伝えておいて、「別れることになった」と今日口にして、清々して良いはずなのに、打ちひしがれている姿をみれば、それ相応に想像もつくというものなのだろうか。
的を射た質問に、一人溜めていた愚痴がボロボロと零れる。

「慰謝料と養育費、出せって。マンションも明け渡せって…。俺が言い出したんだから全部要求、飲めってさ。ローン払って、あいつらに支払して…俺の給料からなんて無理だよ…」
今までの稼ぎでだってギリギリだった。
足りなくて高音がパートに出たくらいだ。
それなのに、更に自分にかかってくる生活費など、どこから捻出しろと言うのだろう…。
「それってちゃんと誰かに話したのか?二人だけで決めることじゃないだろ?」
「じゃあ、どこに言えばいいんだよっ?!もう、俺、頭の中、ぐしゃぐしゃで訳わかんない…っ」
挙句の果てには不覚にもポロリと涙がこぼれた。
初めて曝け出した『弱音』だった。

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いつBLになるのかしら…(汗)
前置きが長くてごめんなさい。

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コメント | | 2010-12-12-Sun 16:03 [編集]
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Re: No title
コメントきえ | URL | 2010-12-12-Sun 17:12 [編集]
レ様
こんばんは。

> ここは安住さんの出番でしょう!
> 自身が担当してもいいし、離婚専門の弁護士を紹介してもいいし。
> どうせ横のカウンターに居るんでしょ?(笑)
> 日野っちの紹介ってコトでなんとかしてやって~!
> (じゃないと相手が出てこない気がする・・・)

安住ーっ!!呼ばれてるーっ!!
(叫ばなくても隣にいる?!)

皆様の想像力に脱帽ですよ。
弁護士の専門分野なんて詳しくないので今から調べないと…(また大嘘を書きそうで…)
日野っち、またいい味出してくれる存在になると思います。
相手ね~。
ま、繋がっているんでしょうね(笑)
コメントありがとうございました。
BLって 忘れてたッ!
コメントけいったん | URL | 2010-12-12-Sun 17:22 [編集]
いやぁ 何か 離婚って 大変な事だなぁと、作品を読んでたら 最後のきえ様の 一言で...
でも 日野には 恋人がいるし 成俊の相手って 誰?
新キャラ登場 それとも・・・
ま・まさか∑(@@:)byebye☆
Re: BLって 忘れてたッ!
コメントきえ | URL | 2010-12-12-Sun 17:26 [編集]
けいったん様
こんばんはー。
ご一緒っでしたかね。

> いやぁ 何か 離婚って 大変な事だなぁと、作品を読んでたら 最後のきえ様の 一言で...
> でも 日野には 恋人がいるし 成俊の相手って 誰?
> 新キャラ登場 それとも・・・

BLから離れてました、冒頭部分。
日野にクラクラ~っていっても良かったかな~。
相手が出てくるのはまだ先なんですよ。
とりあえず、離婚問題を片づけないとなので。
とはいえ、難しいこと、書けないから途中はしょってしまおうかと…。

> ま・まさか∑(@@:)byebye☆

…は誰でしょう…。
コメントありがとうございました。
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