2ntブログ
ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
眼差し 6
2010-12-16-Thu  CATEGORY: 眼差し
結局店じまいまで日野の店にお世話になった。
日野は酔いの回った成俊を日野の自宅であるマンションまで運んでくれた。
恋人のことはいいのか、と尋ねれば、「そこまで干渉する人じゃないから」とさり気なくかわされてしまう。
その一言で、二人が良い関係を築いているのが嫌というほど知れた。
成俊の存在をどう伝えたのかは知らないが、男に興味がないという日野を心底信じているのだろう。
まぁ、自分に手出しをされても困ること、極まりないが…。

冷めた家庭に帰るくらいならたとえ狭くても日野のワンルームの方が落ち着く。
次の日が仕事の休みだという甘えもあって成俊は、仕事上がりの日野が部屋でアルコールを口にするのに付き合ったが、普段から酒を飲み慣れない成俊はあっという間に夢の中に落ちてしまった。
酒の力もあったが、心を投げ出して深い眠りにつけたのはいつぶりだったのだろうか…。
長座布団と温かな毛布、たったそれだけなのに、安らかな空間が、ここにはあった。
日野の恋人には、本当に申し訳ないな…と、彼らの纏う雰囲気に後ろめたさが募ったが、今日一日だけどうか許してほしいと甘えた感情が成俊の中に漂っていた。
今の成俊には、縋れるものは日野しかいなかったのだ。
それが分かるから、日野の恋人も、『友人』として語ることを許してくれたのだと思う。

目が覚めると、部屋には芳しい香りが漂っていた。
おまけ程度に作られたキッチンだというのに、器用にも朝食の準備をしている日野の背中が見えた。
テーブルと言えば、成俊が転がっているリビングのローテーブルしかない。
当然、食事はここで摂るのだというのが分かった。
もそもそっと起き上がると、気付いた日野が振り返った。
「おっ!起きた?二日酔いとかになってない?着替え、買ってきてやったし。シャワーでも浴びてさっぱりしとけよ」
いつの間に脱いだのか分からないスーツはハンガーにかけられてカーテンレールに吊り下げられている。
毛布の中にはワイシャツと下着しか身につけていない自分の姿があった。
これまでだったら、何も気にしなかったはずの下着姿が、何とも居心地の悪さを感じさせる。
それこそ、裸姿だって晒したことがあった仲じゃなかったか…と過去を振り返ったくらいなのに、生まれる羞恥心はなんなのだろうか…。

コンビニで買ってきてくれたらしい下着と、日野が着替えのためのスエットを貸してくれた。
ふと、時計を見ればもう昼に近い。
普段、こんな時間まで寝たことのない成俊は、自分がいかに気を許して爆睡していたのかと思った。
結構な酒を飲んだのに、スッキリとしているのは充分な睡眠をとったおかげなのだろう。
熱い湯を浴び、タオルで髪をごしごしとしてリビングに戻ると、すっかり朝食(昼食?)の用意が終わった空間に出迎えられる。
湯気の立った玉子雑炊と焼いたサケ、梅干ししかなかったけど、たったそれだけが涙腺を緩ませるくらいに温かい。
こんな光景、ここ最近、見かけただろうか…。

向かい合わせに腰を下ろすと、日野がお茶を淹れてくれた。
「ゆうべの話だけどさ。知り合いの弁護士の人が、『話は早い方がいい』って時間作ってくれたんだ。成、この後、時間平気?」
突然出た『弁護士』という名称には成俊の方が怖気づいた。
日野にどんな繋がりがあったかは知らないが、昨日の今日で進められる話とはこれっぽっちも想像していなかった。
あまりのことに無言で口を開いてしまえば、「やっぱり急過ぎ?」と躊躇われる。
日野が言う『この後』って、このご飯を食べた後、午後のことなのだろう。
「尚治、何、何でそんな急展開…」
「成には悪いと思ったんだけど。話をしてみたら今日たまたま時間が開いているっていうからさ。話を聞いてみたいって。成から聞いてたこと、ザーっと話してみたら、そんな勝手な話はないって言い切ってたよ。だから直接成と顔を合わせたいらしい」

確かに昨夜、縋れるものがあるのならわらをも…と泣きついたのは自分だった。
だけど、酔いが覚めてみれば、弁護士にかかる費用がどこから出るのか、高音がどう出てくるのか、子供のことはどうなるのかと様々なことが脳裏を駆け巡っていった。
安易に頼みこんでしまったことを今更ながらに後悔し始める。
「成、ゆうべも帰ってないしな。また日を改めるっていうのならスケジュール聞いておいてやるし…」
「そうじゃなくて…。有り難いんだけど…。でも、俺…」
不安がる成俊の心境を見透かしたように、日野から放たれる口調はいつもと変わらなかった。
「別に、食い物にするような人じゃないから安心していいよ。何かあったら全部俺に言えばいい。俺が紹介しているようなものなんだし。おまえの負担になることはしないから」
それは成俊の不利になるようにはしない、という意味なのか、高音との和解を最優先にしてくれるという意味なのか…。

“信頼”という言葉の重みを感じる。
日野は常にこのような人間関係を築きあげているのだろう。
その中に自分も入っている嬉しさを感じる取ることができて、また涙腺が緩みそうだった。
成俊が今日の予定を承諾すれば、「メシ食っちまおう」と促された。
昨夜の自分からはなんだか別人だった。
見慣れない世界を見てしまったせいかもしれないが、暗い中にも光が差す光景が瞼に浮かぶ。
日野だって暗い世界に生きていることに変わりはないはずなのに、決して後ろを振り向かない強さを感じるからだろうか。
成俊にとって、日野は新たに見つけた明りのようだ。

その日、日野と、昨夜顔だけ見かけた日野の恋人と一緒に、住宅街に建つ普通の一戸建てのような『法律事務所』に向かった。
いかにも『弁護士』らしいビシッとスーツを着こなした、歳は一回りは違うと思える男性が迎えてくれる。
欧米人の血でも混じっているのか?と思うような身長の高さと整った鼻梁、スマートな身のこなし、そして外観からは想像もつかない事務所的な内装の作りに、成俊は呆然とするだけだった。
進められたソファに腰を下ろすと、すぐにスッと名刺を差し出される。
「安住(あずみ)と申します。あまり緊張しないでね。今、コーヒーを淹れてあげるから」
全てを優しさのベールで覆ってしまいそうな笑みを浮かべながら、安住は立ち上がった。
成俊だけではなく、日野と日野の恋人を見つめる瞳にも温かさが伺える。
日野が何故、この弁護士を紹介してくれたのか、頭ではなく肌で感じる成俊だった。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村
結局出てくるんだな―、安住。
(だったらさっさと進めろと言われそうですが。)
あくまでも"成俊くん物語"ですからねっ。

5← →7
関連記事
トラックバック0 コメント2
コメント

管理者にだけ表示を許可する
 
管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2010-12-16-Thu 20:09 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: お久しぶりです
コメントきえ | URL | 2010-12-17-Fri 07:09 [編集]
K様
おはようございます。
お久し振りです~♪

> 久々にお仕事モードの安住さんですね。かっこいい姿が目に浮かびドキドキしています。今回はパパ返上ですか?成俊くんにも 早く幸せな日々がやって来ますように!

いつまでも子守りばっかやっていられないのは、日野だけではなかった模様。
安住パパも本日はお仕事で~す。
まだまだ走り始めの部分で焦らしているようで申し訳ないです。
成俊、がんばって"本当"の幸せをつかもうね、と発破かけてます(笑)
コメントありがとうございました。
トラックバック
TB*URL
<< 2024/04 >>
S M T W T F S
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -


Copyright © 2024 BLの丘. all rights reserved.