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BLの丘
眼差し 20
2011-01-06-Thu  CATEGORY: 眼差し
枕に顔を埋めた成俊の傍に、体格の良さを伺わせる足音が響いてきた。
佐貫本人なのだと、直感で気付き、徐に顔を上げて振り返った。
「悪い、起こしたか?」
成俊が起きているとは思わなかったのか、突然の行動に少しばかりの戸惑いが見えた。
気遣ってもらう立場ではない…。
むしろ、逆だろう…。
肉体関係云々はさておき、突然の訪問と所業に居た堪れなくなるのは成俊のはずだ。
でも佐貫はそんなことを微塵も感じさせなかった。

「す、すみません、俺…」
起き上がりかけた身体を掌をスッと翳され佐貫に制される。
もっとも、布団から出られるような格好でないことは、太腿に触れる布の擦れ具合で改めて知らされたのだが…。
「身体、辛くないか?俺もちょっと無理、させ過ぎたな…」
いくばくの後悔を含む口調に、佐貫にも傷を負わせたことを悟った。
偶然拾ってしまった手負いの獣に、成り行きとはいえ手を出したことは、佐貫の中では許し難い行為だったのだろうか。
そのように思わせてしまったことに、甘え過ぎた自分の行動を悔やんでいた。
佐貫は成俊が横になるベッドに近付いてくると、大きな掌を額に乗せた。
「まだ少し熱があるな」
言われて初めて気が付く。
身体がだるい、とは思っていたが、それが発熱してのことだとは微塵も思っていなかった。
慣れない行為の結果だと勝手に思い込んでいた。
それくらい腰付近は重苦しく鈍痛が走る。
「熱?」
風邪を引いた時とはちがう身体のだるさを認めつつも、当然のように発せられた佐貫の言葉に疑問もあり、問い返すように尋ねてしまった。
「あぁ」と小さく頷いた佐貫に、彼にとってこれは初めての体験ではないのだと漠然と理解し、何故か胸の内が痛くなった。
佐貫は事の流れを承知していたから当たり前のごとく立ち振舞うのだ。
その”当たり前”がひどく痛く胸に突き刺さってくる。
男同士の行為など知らない成俊にとって、もたらされるものが何であるのか、もちろん知る由もない。

「初めての時は体調を崩すことも多い」
佐貫は淡々と語ってくれる。
『初めて』…という言葉に、処女を失った女と自分を重なり合わせてしまった。
佐貫ほどの年齢にもなれば、性的なものも隠すことなく堂々と発言してしまえるのだろうか。
繰り返された昨夜の行為に思いを巡らせ、ぼぅと顔を赤くする成俊とは対照的に、どこまでも落ち着いた雰囲気を漂わせている。
その瞬間、何も知らない初心な『子供』になってしまったような錯覚に陥った。
今まで生きてきた世界が根本から覆される。
持っていた”知識”が無情なほど意味なく消し飛んでいく。

そんな成俊の心境に、こんな時は気付かないのか、佐貫の態度は飄々としていた。
「下着と弁当を買ってきてやった。ワイシャツはクリーニングに出したから夕方には仕上がる」
そっとかざされたコンビニの袋。
身につけていた下着は佐貫のものと一緒に脱衣所に干してあるのだと教えられて、余計な手間暇をかけさせたことに更に萎縮した。
どこまでも迷惑でうざったい存在にしかなっていないのだろう。
シュンと目を伏せる成俊の脇に、腰を下ろした佐貫が、ためらいがちに成俊の髪を撫でてきた。
幼い子供をあやすような仕草だった。
飄々とした態度の中にも陰りが見えてくる。
「ゆうべ…、望のところの帰りだったんだって?」
譲原の名前が出た時点で、佐貫は成俊の現状を理解していた。
『離婚』という争いの中に居ることは、初めて出会った時に知られていたようなものだ。
詳細を知らずとも、流れなど個人を見ていれば理解できるのだろう。
同時に、譲原に、佐貫との関係をどう伝えられたのかが気になる。
佐貫の部屋に泊まったという事実は、一線を越えていると暗黙にでも告げられているように思えて仕方なかった。
譲原の名前を出されたことで、ピクリと動いた成俊を、やはりなだめすかすように佐貫は言葉を続けた。
「心配しなくても、ゆうべのナリトシがどうだったかなんて言ってない。ただチンピラに絡まれていたところに偶然居合わせたと話しておいた。望も心配していたぞ。『消沈した面持ちで帰って行った』ってな…」
『ナリトシ』と自然に呼ばれることにドクリとする。
一夜の戯れの中のことだけかと思っていたが、決して付き離されない態度にますます頼りたい弱さが垣間見えた。
漫然とした態度でいたからチンピラに付け入る隙を見せたと譲原はおもっているのだろうか。

しかし不安を隠せずに口を割る質問がある。
「ゆ、譲原さんから何か…」聞いたのか…と、最後まで台詞は音にならない。
佐貫にポロリと零してしまった言葉も気になっていた。
『親子じゃなかった』…と事実を伝えられていたら、譲原はどうでてくるのだろう。

だけど理解した様子の佐貫は小さく首を横に振った。
「聞くわけないだろう。もっともあいつだって言いやしないさ。たとえ親しい仲でも顧客の情報は一番に守られるものだ。ナリトシを泊めたからっていうだけでこれまでの過程を本人の許可なく口になんかしない」
それは同時に、成俊が口走った台詞も、佐貫の口から譲原には伝えられないと教えられたようだった。
黙ってしまった成俊に、佐貫が言葉を重ねてくる。
「どんな事情があったにせよ、望は、人の意思を無視して自分のやり方を押し進めるやつじゃない。隠す前に事実と希望を告げられればそれに添う。あくまでも”依頼主”の意向を重んじる奴だからな」
暗に隠すことの無意味さを指摘される。
何となくではあるにしろ、真実を知った佐貫が、悪い方向には転ばせないと背中を押してくれているようにも思えた。
譲原も知らない事実を佐貫は知った。
しかし、それを口外するわけでもない。

できることなら、受け止めてほしい…。

何故そうおもったのだろう…。
たった一瞬触れた手の温もりに、昨夜は縋りつけなかった頬を今は寄せたい気持ちになっていた。
佐貫の指先が困ったように戸惑って髪を撫でるのが分かった。
彼にしたら一時の気の迷い…、たまたま訪れた一夜の淫行。
自分は離婚調停中。
淋しいほどの暗闇が成俊を巻いた。
『夢でいい…。夢の中だけで良い…』
我を忘れたあの時間。
もう一度…と願った時、頬にあった温もりが、消えた…。

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佐貫~っ!!手を離したら…っ!
ランキング、ここまで落ちたんだーって思いながら、ここで済んでいたことにも驚きでした。
更新ないのにポチしてくださいました方、本当にありがとうございます。

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コメント

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この ぎこちなさがぁーー!
コメントけいったん | URL | 2011-01-06-Thu 11:20 [編集]
萌ぇ――(〃д〃)――!!
佐貫は もっと 手馴れていると 思ってたよッ♪
いいぞッ! いいぞぉー!!
この焦れ焦れが 堪らんわッ!

きえ様、GOOD JOB☆彡
(❤▽❤)ゞbyebye☆
Re: この ぎこちなさがぁーー!
コメントきえ | URL | 2011-01-06-Thu 11:56 [編集]
けいったん様
こんにちはー。

> 萌ぇ――(〃д〃)――!!
> 佐貫は もっと 手馴れていると 思ってたよッ♪
> いいぞッ! いいぞぉー!!
> この焦れ焦れが 堪らんわッ!

ぎこちなさー。しびれていただいているんでしょうか。
佐貫はもうちょっとねぇ。
積極的にいきそうなのですが。
でもそこは『大人的』ナンチャラが…。

> きえ様、GOOD JOB☆彡
> (❤▽❤)ゞbyebye☆

巧い仕事してないです~。
コメントありがとうございました。
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