安住の話をほじくり返されるとも思わず、那智は心の中で『やめて』と叫びたかったくらいだ。
岩村のからかうような言葉を聞いた途端に室橋と飯田が目を剥いた。
「うげっ」
「ありゃりゃ…」
「もうっ!違うんだって。全然そんなことないしっ。ちょっと一緒にお茶してたくらいで」
「そんな人いたのっ?」
久志以外で近況を良く知っていたのは飯田くらいで、当然聞いたことのない話の内容にかなり驚いたようだ。
もちろん、飯田とは仕事上の話ばかりで、多少のプライベートでの出来事を語ったことがあったとしても、どんな人とどういったやりとりをしているなどといった細かいことまでは伝えたことがないのだから、知らなくて当然だった。それに安住とは職業も違い、直接的な付き合いなどなく話すきっかけすらない。
「もう、そいつの話、すんなよ。ムカつくから」
「あーあ、嫉妬心丸出しだね」
那智が安住の話を出した途端に久志が苛立ちを露わにした。岩村はそんな久志を気にした様子もなく、からかうことを忘れない。
興味を持った飯田と室橋は話をやめる気などこれっぽっちもなさそうで、さらに状況を聞こうと身を乗り出している。
飯田が納得したように頷いた。
「それで手籠めにされちゃったってわけぇ」
「人聞きの悪いこと、言ってんなっ。人を何だと思ってるんだか…」
「今更、何を。…人のこと責められないだろ?あんだけ好き勝手やってたくせにさぁ」
久志が何を言おうとも、室橋に過去のことまで引きずり出されたら何一つ言い返せなくなる。やはり誰もが、那智が久志以外の人間に目を向けたということよりも、久志のこれまでの行動を咎める声の方を強く持っていたようだ。
「僕はあっちの人の方が良かった気がするんだけどねぇ」
岩村がぽつりと呟くのを飯田は聞き逃さなかった。
「え?卓ってば会ったことあるの?」
「ないよ。でも話を聞く限り…。だってなっちが気の毒でしょうがないじゃん。こんな節操ないような、ロクデナシ男。自惚れでやたら傲慢で自分勝手なヤツなんてさー。今からでも乗り換えれば?って言いたくなるよね」
決して本心ではないのはわかるものの、あまりありがたくない発言に久志は苦渋を浮かべた。岩村の言うことは的を得ている。かといって黙っているのも癪だった。
「大丈夫ですぅ。那智はそんな簡単にホイホイ乗り換えないから」
「だよねー。どっかの誰かさんとは違うし」
「何が言いたいんだよ。おまえ、さっきっから喧嘩売ってんの?」
「いいえ。なっちに感謝しているんです。こんなヤツでもさー。ちゃんと拾ってくれて。久志ってば、肝に銘じたほうがいいよ。久志みたいなの、相手にしてくれるの、なっちだけだからね」
那智は岩村に感謝していた。
本当なら隠して那智の知らないままにできた過去を聞かせてくれたこと。嫌味とかではなく、単純に久志から離れないようにと祈りが込められていたのだと感じることができる。
どれだけの想いをもって長い年月を過ごしてきたのかをさりげなく那智に教えてくれた。ここまで見守ってくれた岩村の存在がとてもありがたかった。
「おまえに言われなくったって分かってるよ。それに絶対幸せにするって約束したから」
フッと突然強張った表情を緩めた久志がボソっとつぶやく。一世一代の告白を聞いた気分で、那智同様目の前の2人も思わず顔を染めた。
「あのさー…、俺たちがいること分かってる?」
久志の前で、困ったように視線を彷徨わせる室橋と飯田が首をかしげながら伺い見た。
那智も、ここで言わなくていい内容を口にされ、戸惑いと羞恥で一層小さくなってしまう。
「これ、聞いて、まだまともってことは飲みがたりないってことだよ、とうまっ」
答える内容が違う気もするのだが…。不敵な笑みを浮かべた岩村はグラスに新たな酒を注いだ。
「せっかくだからさぁ。僕の転勤と二人の門出を一緒に祝ってよ」
室橋と飯田はうまくまとめてしまった岩村に閉口した。今更誰も口で勝てないことなど百も承知だ。
そして岩村が、友人としてどれだけ久志を大切にしてきたのかが窺い知れるいままでのやり取りに、二人の奥深さを感じた。
「ええ、もう喜んでっ」
半ば自棄気味に室橋が答えると一同から一斉に笑い声があがった。
束の間、時代が戻った気がした。
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即席過ぎて、大丈夫なんでしょうかねぇ…
岩村のからかうような言葉を聞いた途端に室橋と飯田が目を剥いた。
「うげっ」
「ありゃりゃ…」
「もうっ!違うんだって。全然そんなことないしっ。ちょっと一緒にお茶してたくらいで」
「そんな人いたのっ?」
久志以外で近況を良く知っていたのは飯田くらいで、当然聞いたことのない話の内容にかなり驚いたようだ。
もちろん、飯田とは仕事上の話ばかりで、多少のプライベートでの出来事を語ったことがあったとしても、どんな人とどういったやりとりをしているなどといった細かいことまでは伝えたことがないのだから、知らなくて当然だった。それに安住とは職業も違い、直接的な付き合いなどなく話すきっかけすらない。
「もう、そいつの話、すんなよ。ムカつくから」
「あーあ、嫉妬心丸出しだね」
那智が安住の話を出した途端に久志が苛立ちを露わにした。岩村はそんな久志を気にした様子もなく、からかうことを忘れない。
興味を持った飯田と室橋は話をやめる気などこれっぽっちもなさそうで、さらに状況を聞こうと身を乗り出している。
飯田が納得したように頷いた。
「それで手籠めにされちゃったってわけぇ」
「人聞きの悪いこと、言ってんなっ。人を何だと思ってるんだか…」
「今更、何を。…人のこと責められないだろ?あんだけ好き勝手やってたくせにさぁ」
久志が何を言おうとも、室橋に過去のことまで引きずり出されたら何一つ言い返せなくなる。やはり誰もが、那智が久志以外の人間に目を向けたということよりも、久志のこれまでの行動を咎める声の方を強く持っていたようだ。
「僕はあっちの人の方が良かった気がするんだけどねぇ」
岩村がぽつりと呟くのを飯田は聞き逃さなかった。
「え?卓ってば会ったことあるの?」
「ないよ。でも話を聞く限り…。だってなっちが気の毒でしょうがないじゃん。こんな節操ないような、ロクデナシ男。自惚れでやたら傲慢で自分勝手なヤツなんてさー。今からでも乗り換えれば?って言いたくなるよね」
決して本心ではないのはわかるものの、あまりありがたくない発言に久志は苦渋を浮かべた。岩村の言うことは的を得ている。かといって黙っているのも癪だった。
「大丈夫ですぅ。那智はそんな簡単にホイホイ乗り換えないから」
「だよねー。どっかの誰かさんとは違うし」
「何が言いたいんだよ。おまえ、さっきっから喧嘩売ってんの?」
「いいえ。なっちに感謝しているんです。こんなヤツでもさー。ちゃんと拾ってくれて。久志ってば、肝に銘じたほうがいいよ。久志みたいなの、相手にしてくれるの、なっちだけだからね」
那智は岩村に感謝していた。
本当なら隠して那智の知らないままにできた過去を聞かせてくれたこと。嫌味とかではなく、単純に久志から離れないようにと祈りが込められていたのだと感じることができる。
どれだけの想いをもって長い年月を過ごしてきたのかをさりげなく那智に教えてくれた。ここまで見守ってくれた岩村の存在がとてもありがたかった。
「おまえに言われなくったって分かってるよ。それに絶対幸せにするって約束したから」
フッと突然強張った表情を緩めた久志がボソっとつぶやく。一世一代の告白を聞いた気分で、那智同様目の前の2人も思わず顔を染めた。
「あのさー…、俺たちがいること分かってる?」
久志の前で、困ったように視線を彷徨わせる室橋と飯田が首をかしげながら伺い見た。
那智も、ここで言わなくていい内容を口にされ、戸惑いと羞恥で一層小さくなってしまう。
「これ、聞いて、まだまともってことは飲みがたりないってことだよ、とうまっ」
答える内容が違う気もするのだが…。不敵な笑みを浮かべた岩村はグラスに新たな酒を注いだ。
「せっかくだからさぁ。僕の転勤と二人の門出を一緒に祝ってよ」
室橋と飯田はうまくまとめてしまった岩村に閉口した。今更誰も口で勝てないことなど百も承知だ。
そして岩村が、友人としてどれだけ久志を大切にしてきたのかが窺い知れるいままでのやり取りに、二人の奥深さを感じた。
「ええ、もう喜んでっ」
半ば自棄気味に室橋が答えると一同から一斉に笑い声があがった。
束の間、時代が戻った気がした。
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