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BLの丘
眼差し 39
2011-01-24-Mon  CATEGORY: 眼差し
後孔に触れられる医師の指に、激しい嫌悪が湧きあがる。
「やだっ、やだっ、やだっっ!!やめてっ!!」
「薬を塗るだけだよ。酷いことはしないから。大丈夫だから」
「やぁぁぁっっっっ!!!」
「佐貫!」
先程までの、連中に無理矢理道具まで突っ込まれた記憶が甦る。
視界に残らなくても、感覚は鋭く異物感を覚えていた。
触れてこようとする医師の手を叩いてしまえば、診察室から出ていた佐貫を医師が呼び戻した。
「ナリトシ、俺がいる。今だけ…」
診察台の、成俊の頭もとに座った佐貫が、逃げ出そうという成俊の頭部を膝に乗せると上半身を撫でた。
身体を抑えつけられた形で、双丘を強引に開いた医師の指が、何かの液体を纏って孔の入り口と浅い場所に入ってくる。
「やぁぁぁっっっ」
「もう終わったよ。辛い思いをさせたね」
あっけないほど素早く言葉が返ってきた。

手慣れた一瞬の出来事に、状況を理解するまで脳が活動を停止してしまった。叫んでいた自分が情けなかった。
ずくずくとうずく場所を、着ていた入院着の裾で隠される。
「がんばったな」と佐貫の掌が涙に濡れる頬と髪、震える背を撫でてくれた。

「連れ去られたのか?何でこんなことになった?相手はどんな奴だ?」
尋ねられることに行為を思い出した身体がブルブルと震える。
すっかり刑事の口調だった。
診察室での矢継ぎ早な質問に、傍に居た医師が激しく佐貫を咎めた。
「今、どれだけ弱っていると思っている?!こんな時に聞くなど非常識だっ!」
「時間が経てば記憶が曖昧になるだけだ」
「佐貫の言いたいことは分かるが、もう少し落ち着いてからにしたほうがいい。それに彼の気持ちも考えてやれ。…今日は睡眠薬も出してあげるから。もう帰れるよ」
事件の話は終わりだと言いたそうに医師の柔らかな声が成俊に降り注いだ。
佐貫はまだ納得がいかなそうだったが、成俊の精神状態を思い、口を噤んでくれたようだった。

相手のことを話せば、佐貫ならすぐに誰なのか分かるはずだ。
逮捕される覚悟の上で過去を成俊に聞かせて非道なことをしたのか…。
佐貫とあの男が顔を合わせれば、成俊に何をしたのか赤裸々に語られるような気がした。
それに佐貫の性癖まで堂々とばらしそうだ。
呼び出された時に、確かにあの男は「佐貫を潰したくないのなら」と言った。
成俊が佐貫のことを気遣うのを見越して泣き寝入りさせたいのだと思った。
そもそも、あんな写真を撮られるようなことをけしかけた自分が全ての発端だと振り返った成俊は、詳細を告げることを躊躇い始めた。
あの男が狙っているのは佐貫の失脚と精神的な苦痛なのだろう。

佐貫は家へ送ってくれようとしたが、成俊は一人になりたくなかった。
これ以上一緒にいれば、重なる迷惑がかかるだけだと思うのに、心の奥底から湧きあがってくる恐怖には勝てないでいる。
車のシートまで運ばれ横にされた成俊が、離れてしまう佐貫の身体を名残惜しそうに見つめると、佐貫も気持ちを感じ取ったように、「うちに来るか?」と聞いてくれた。
涙目で見上げる成俊に温かな掌が伸びてきて、撫でられる頬をこちらから寄せてしまう。
佐貫がここまで心配してくれるのは、ただの同情だけなんだろうか。
一番辛い時に必ずそばに居てくれる人間に成俊の心はどんどんと惹かれていくばかりだ。
それなのに一番汚い姿を晒した…。

甘えてもいいのだろうか…。まだ甘やかしてくれるのだろうか…。
こんな自分を…。

「今のおまえを一人にするのは心配だ」
どう思われているか不安はあっても、佐貫の優しさにまた瞼が熱くなる。
佐貫のほうが辛そうな表情を浮かべるから、小さく、うん、と頷いた。

また佐貫の家に来ることになるなどと少しも思っていなかった。
自分の足で歩くことのない身体からはすっかり力が抜け落ちてしまっている。
佐貫にまっすぐ寝室に連れて行かれると、優しく抱かれた日のことが脳裏に甦った。
男に対しての欲望などなかったはずなのに、自棄を起こしてどうにでもなれと堕ちた日。
欲しいと我が儘を言った成俊に嫌がる素振り一つ見せず、大事に成俊の心と体を包んでくれた。
あの時の成俊を見捨てずにいてくれたからこうしてずっと進んでこられた。
せっかく大切に開いてもらった身体が、見知らぬ男たちに汚された。
もう二度と、あんなふうに包んでなどもらえない、そう思うとどんどんと惨めさが広がる。
そのことが悔しくて悲しくて、また自分は欲しいものを手に入れられず失うだけなのだと、心が痛くなるばかりだ。
ベッドに横にされると、堪え切れずに嗚咽が漏れた。
一時的にも落ち着いていた精神が突然崩壊したかのような成俊の態度に、見ていた佐貫がやりきれないと顔を歪めながら成俊の顔を胸に抱いてくれた。
「大丈夫だ、もう大丈夫だ…」
今日の出来事を思い出して泣いていると思われているのかもしれない。
しかし成俊の心に宿る感情はずっと奥深かった。
“『恋人』を見捨てた”と言っていた男の言葉も成俊を苛んでいた。

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あ~、もう40話になってしまう~。長い…。
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コメント

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コメント | | 2011-01-24-Mon 08:48 [編集]
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Re: 辛いね…
コメントきえ | URL | 2011-01-24-Mon 12:22 [編集]
s様
こんにちはー。

> 素直になってね。佐貫さん、お願いだから成俊の気持ちを察してあげてね。

成俊も素直になって全てを伝えてしまえればまた状況も変わるのでしょうが…。
人を思う気持ちってある意味、強いかもしれません。
佐貫の今後の出方に期待します(←ホント他人事…)
コメントありがとうございました。
どうしたいいのでしょう
コメント甲斐 | URL | 2011-01-24-Mon 13:33 [編集]
成俊さん、もうぐちゃぐちゃですよ
助けを求めたいけど苦しめたくない
過去に何があったのか聞きたいけど聞きたくない
犯人を許せないけれど追及もできない
ああ、どうしたらいいのでしょう
佐貫さんには思いもよらないことなのでしょうけれど
成俊の口にできない言葉をくみ取ってほしい
佐貫だから
コメントけいったん | URL | 2011-01-24-Mon 17:53 [編集]
佐貫に迷惑をかけたくない気持ちと 甘えたくて縋ってしまう気持ちが...

そんな 成俊を 強く優しく包んで 不安を消してあげる事は 佐貫しか出来ない。
もう いい加減に 成俊の気持ちに 答えてやってよ!
(T▽T)ゞbyebye☆
Re: どうしたいいのでしょう
コメントきえ | URL | 2011-01-24-Mon 18:23 [編集]
甲斐様
こんばんは。
>どうしたらいいのでしょう
…私が考えてしまう….....(;__)/|

> 成俊さん、もうぐちゃぐちゃですよ
> 助けを求めたいけど苦しめたくない
> 過去に何があったのか聞きたいけど聞きたくない
> 犯人を許せないけれど追及もできない
> ああ、どうしたらいいのでしょう
> 佐貫さんには思いもよらないことなのでしょうけれど
> 成俊の口にできない言葉をくみ取ってほしい

すごーく、複雑な立場に立たされています。
全部打ち明けちゃえば守っても許してもくれそうなんですけど、
まだそこまで精神的に余裕が見えない。
佐貫自身から確かな過去を聞きたいけどそれもできない。
こんな事実関係を聞いてしまった佐貫は、過去を思い出して尚更やるせない気持ちになるのではないか…と。
それを思い出させたくない成俊。
お子ちゃまである成俊の気持ちを少しでも理解して護っていただきたいです(←って読者か?!)
コメントありがとうございました。
Re: 佐貫だから
コメントきえ | URL | 2011-01-24-Mon 18:27 [編集]
けいったん様
こんばんはー。

> 佐貫に迷惑をかけたくない気持ちと 甘えたくて縋ってしまう気持ちが...

すごく混在してます。
成俊自身、弱い部分をずっと見られていましたから。

> そんな 成俊を 強く優しく包んで 不安を消してあげる事は 佐貫しか出来ない。
> もう いい加減に 成俊の気持ちに 答えてやってよ!
> (T▽T)ゞbyebye☆

いい加減…。
ですよねぇ。
佐貫も何に邪魔されているんだ?!(もちろん過去なんだけど)
まだ明かしていないところも徐々に…(だからながくなるんだってっ!!)
いつもお付き合い感謝です。
コメントありがとうございました。
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