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BLの丘
眼差し 40
2011-01-25-Tue  CATEGORY: 眼差し
医師から出された薬を飲まされ、嫌と言うほど泣き喚いた成俊の身体は、疲れ切って闇夜の中に落ちていった。
ずっと抱きしめてくれる佐貫の温かさが、とても心地よかった。

いつの間に眠りについてしまったのか、目覚めた時、カーテンの隙間から零れてくる光に、すでに時刻が日の高い時なのだと知る。
だが、身体は思うように動かず、少しの見動きですら体中に激痛が走った。
全身が重く、少し動かしただけでも関節が痛み、だるい身体が熱があるのだと自然と教えてくれる。
そのことが昨夜の許し難い行為を思い浮かべさせて、心が泣いた。

こんな人間が佐貫の傍をうろついたら、度重なる迷惑がかかるだけだろう。
なにより、また穢される自分の姿が見えてくる。
男たちに凌辱されるような、あんな目にあいたくない…。
『佐貫に幸せなどやらない』…
激しく罵倒された言葉が甦り、佐貫の傍にいたら、身の危険がおよぶ…。
男の言葉と繰り返された行為が成俊を今まで以上に蝕んでいく。
佐貫とは離れた方がいいと脳が危険信号を送るのに、心に宿る小さな温もりは確実に佐貫を追い求めていた。
理性などではない、本能が指し示す道標(みちしるべ)のようだった。
何よりも、『護ってくれる』と不思議と思える信頼。

どうにか起き上がろうとうめき声を上げれば、声に気付いたらしい佐貫が寝室にやってきた。
「起きたか?今栗本を呼んだから」
『栗本』…?
声を上げようとしたが喉がからからで、掠れた吐息のようなものしか出せなかった。
瞳の動きで疑問が分かったのだろう、佐貫が「あぁ」と小さく頷く。
「ゆうべの医者だ。ナリトシの熱が下がらないんでさっき呼んだ」
成俊の熱を計るように、佐貫の掌が額に乗ってくる。ひんやりとした掌が気持ちいい。
心配そうに佐貫の表情が歪んだ。
前回の微熱だった時はそのまま放置されたのに、今回は随分と丁寧だな…などと思ってしまう。
状況が違いすぎるのだろうか。
尚更、佐貫の手を煩わせているようで申し訳なさが募るだけだ。
「へ…き…」
かろうじて漏れる声に、無理があるのは佐貫に見透かされている。
「きちんと診てもらったほうがいい」
その言葉は、普段の性行為から来るものとは違うのだと成俊に知らせていた。

ひどく神経質そうな佐貫を見るのは初めてのことだった。
それが余計に、成俊の神経を蝕む。
佐貫は栗本が来るまで、神経質になり過ぎているのではないかというくらいに、成俊の面倒を見てくれた。
辛いことはないか、苦しくないかと何度も質問をされ、水をいれたコップすら手に持たせてもらえなかった。
佐貫の行動が嬉しくて温まるものなのに、心の底で切なさを感じる。
かつての恋人にしてあげられなかった償いのように思えてならなかった。
レイプ、という状況は、佐貫の辛い過去を呼び起こしているのだろう。
あの男が言ったような、『見捨てる』などということを佐貫がするわけがないと、今更ながらに感じる。
彼には彼なりの…、外せなかった用事と葛藤する心があったはずだ。
確認する時間さえ待てなかった『成視』が弱かった、というには酷いと思うが、そのことが何年も佐貫を苦しめ続けて、だから誰も受け入れてくれないのだろうか。
ずっと近くにいた譲原でさえ…。

献身的な介護を受けている時に、玄関のチャイムが鳴った。
入ってきた栗本は、佐貫とは対照的な明るさを持っていた。
「良く眠れたかな?呼吸の苦しいところはない?」
言いながら聴診器を肌蹴た胸元に乗せてくる。
足腰と関節が痛いこと以外は、特に伝えることもなかった。
栗本も分かっているのだろう、思い出したくない内容には触れて来ない。
そばで見ていた佐貫がなにやらメモを栗本に渡して、それを見た栗本が目を見開いた。
「看護日誌だってここまで詳しく書かれていないから」
呆れたような言葉が漏れれば、メモには成俊の状況が書かれていたのだろうと推測できた。
憮然とした態度の佐貫に、栗本の失笑が漏れ、「久し振りだな」と小さい声が聞こえる。
それに反論するような佐貫の態度が見られたが、彼が言葉を発することはなかった。
「神経が昂っての発熱だから、2.3日様子を見よう」
「あぁ」
「佐貫、仕事どうするの?」
「休むと伝えてある」
「さ、佐貫さんっ、そんなっ…」
話の流れから、成俊の看病のためと聞きとれれば成俊は申し訳なさを募らせるだけだった。
ただでさえ、今現在だって、陽の高い時刻なのに佐貫はこうして家にいる。
佐貫の休みなど知りはしなかったが、明らかに急な休みをとったことくらい、今の成俊にだって気付けた。
「そう。うちに入院させてもいいと思ったけど」
入院するような事態ではないのは成俊が一番良く知っていた。
まるで監視下に置くような発言に、栗本も佐貫の過去を知る人物なのだと漠然と思う。
心配される態度があまりにも居た堪れなくて…。

「俺、死んだりしないから…」
自殺できるほどの勇気すらない。
ぼそっと呟いた言葉が2人の耳にはしっかりと届いてしまった。

「ナリトシっ?!」
自分を見つめるふたりの目が驚きと困惑、焦りを浮き彫りにしていた。

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何話まで続くのか疑問だ~っ。
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コメント

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無意識なんだろうけど
コメントけいったん | URL | 2011-01-25-Tue 14:07 [編集]
「俺、死んだりしないから・・・」爆弾発言投下!∑(--ノノ) エッ!?
佐貫には これで もう全てが分かったでしょうね。
この出来事で 佐貫の心が 一歩動くか!

成俊自身が 爆弾?→●~*ヒィー(>ω<ノ)ノbyebye☆
死んだりしないから
コメント甲斐 | URL | 2011-01-25-Tue 14:48 [編集]
死んでしまいたいような目にあわされて、
その結果死んでしまったという成視の気持ちが理解できてしまった成俊でしたが、それでも死んだりしないというのは、『死ぬ勇気がない』のではなく『佐貫さんが辛い思いをする』ようなことはできないのではないかなと感じました。
助けられなかった人の代わりに優しくしてもらっても空しいしいたたまれないなど、あれこれ考えてしまう成俊の気持ちに早く気付いてほしい。
Re: 無意識なんだろうけど
コメントきえ | URL | 2011-01-25-Tue 16:27 [編集]
けいったん様
こんにちはー。

> 「俺、死んだりしないから・・・」爆弾発言投下!∑(--ノノ) エッ!?

爆弾発言した!

> 佐貫には これで もう全てが分かったでしょうね。
> この出来事で 佐貫の心が 一歩動くか!

知ってしまったと思う。
分からなかったら鈍感刑事だっ!!
佐貫、何を思うかなぁ

> 成俊自身が 爆弾?→●~*ヒィー(>ω<ノ)ノbyebye☆

けいったん様、爆弾落としていかないで~っぇ
成俊、爆発しちゃうし~。
コメントありがとうございました。
Re: 死んだりしないから
コメントきえ | URL | 2011-01-25-Tue 16:44 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> 死んでしまいたいような目にあわされて、
> その結果死んでしまったという成視の気持ちが理解できてしまった成俊でしたが、それでも死んだりしないというのは、『死ぬ勇気がない』のではなく『佐貫さんが辛い思いをする』ようなことはできないのではないかなと感じました。

す、するどすぎ…Σ( ̄□ ̄;)
です~。
佐貫が悲しむことを考えたら一人旅立ちなんてできなかったです。
それに自身の培ってきた『父』という思いもきっとあるのでしょう。

> 助けられなかった人の代わりに優しくしてもらっても空しいしいたたまれないなど、あれこれ考えてしまう成俊の気持ちに早く気付いてほしい。

過去を聞いてしまった成俊は、何をされても過去の恋人と比べてしまいそうです。(男同士の世界にいたことないし)
優しくされるのはその反動と思っているでしょうか。
佐貫は成俊の気持ちを聞いているので堪えてくれるかな.
コメントありがとうございました。
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コメント | | 2011-01-25-Tue 17:53 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: 続きを
コメントきえ | URL | 2011-01-25-Tue 20:34 [編集]
s様
こんばんはー。
お忙しいのにお越しいただきまして感激です。

> 今日はお昼休みがゆっくり出来ず、読めませんでした(>_<)。私の憩いが…、楽しみが…。帰りのバスの中で読んでます。続きが気になり明日が待ち遠しいです。

こんな駄文を憩いにされたら…っ(汗)
なるべくお昼休みに間に合うようにupいたします。
(目指せ、昼ドラなのでww)
それでもupできない日はどうか諦めてくださいね。
とりあえず、夜中upはないのでゆっくりおやすみください。
コメントありがとうございました。
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