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BLの丘
眼差し 48
2011-02-02-Wed  CATEGORY: 眼差し
次の日から成俊は引っ越し作業に追われた。
自分自身、早くに佐貫の傍に寄りたかったからということもある。
家具のほとんどは日野が残していったものだ(新居(?)に越すのに必要ないと置いて行かれた)。
それらを処分するかどうしようか(貧乏性の心が惑わせる)中、夕刻の時間に玄関チャイムが鳴って成俊は全身を強張らせた。
犯人はもういない…。
そう分かるのに、固まった身体でドアフォンに手をかけた。

廊下に立つ人間は、意外にもこれまでの成俊に尽力を注いできた譲原だった。
今更どうしたのか、と逡巡しながらドアに近付く。
ただ譲原がここまでくる理由に思い当たることがあるのは確かだった。
「突然、ごめんね。少し、話をできるかな」
それが佐貫についてのことなのだとは、直感で理解できた。

ワンルームの部屋の奥は玄関から充分に見渡せる。
散らかるままの居室に視線を送った譲原が、「引っ越しするんだってね」と知っていたというように確認される。
「どこに?」と聞かないのは、成俊の行き先を承知しているのだろう。
一度は冷たい言葉を吐かれたはずなのに、譲原にはかつてのキツさはなく、なんとなく”安堵”が見えるようだった。
それはどこか、栗本が見せた表情と似ているようだった。
譲原は『少しの話』と言ったが、玄関で立ち話も失礼な内容だと思い、「散らかっていますけど…」と中に案内した。
狭い居間に通し「麦茶…しかないんですけど…」と冷蔵庫から水出しした冷水筒をみせれば、「構わないで」と静かに微笑まれる。
改めて目の前に座った成俊に、譲原は言葉を濁さず淡々と話す。

「今日、佐貫が来たよ。君と暮らすことにしたって…。安息に満ちた態度だった…」
譲原には一抹の淋しさも込められているようだった。
だけど開き直ったかのように譲原の口調は沈むことがない。
成俊は言葉が発せなかった。
それとなくではあったにしろ、譲原の感情も佐貫の躊躇いも感じていたから、口出しできなかった。

譲原の口が重苦しくなる成俊の雰囲気を解いていくように滑っていく。
「武田君にはひどいことを言ってしまったかな。佐貫を護りたいと思うがあまり、近付けたくないと思ってしまった…」
言葉の後に、「君は佐貫の好みのど真ん中だったからね」と続けられて、頭が混乱する。
男が男に対する”好み”の意味が分からなかった。
ふふふっと笑った譲原は、注がれた麦茶で喉を潤すようにこくっと一口飲んだ。
余裕ぶってはいても緊張は拭えないのだろう。
「僕には焦りもあったんだと思う。佐貫をこれ以上傷つけたくなかった。過去のことも聞いたんだって?佐貫はずっとそのことで苦しんでいたからね。救いの手になれれば、と思っていたけれど、僕の想像するようにはならず、ただ友人としての時を重ねていたんだ。佐貫の気持ちも分かってたから問い詰めもしなかった。ずっと、誰も愛せなかったんだ、アイツ…」
その当時を振り返るのか、譲原から小さな吐息がこぼれる。
事件から佐貫が長い間自分を責め続け、人に感情を寄せることを躊躇っていたとは、つい先日聞いたばかりだ。

「佐貫から最初に君の連絡先を聞かれた時に、何かあったな、となんとなく分かっていたんだ。それに次に君が来た時、君の雰囲気は確実に変わっていた。どんな理由にしろ、佐貫が抱いたんだなということだけは分かった。妻子を持った人間に対して、そこまでする佐貫の心情が正直理解できなかった。君に近付けば佐貫はまた傷を負いかねない。答えてもらえない時を重ねていくだけになる。だから君から離れてもらうように口にしてしまった。一時の気の迷いで済ませてもらえれば…と。すでに”結婚”という経歴を持った君には、”男の世界”は異色だろう?」

雰囲気が変わった、とは写真を持ちこんだ時のことだろう。
肉体関係があったことを気付かれていたなんて恥ずかしいだけだ。
そういえば神戸にはズバリ指摘されたな…、などと思い出してしまった。
あの時、すでに自分は佐貫を欲していた。求めようと身体まで使っていた…。
そんなことまで譲原に見透かされていたのか…。
黙って俯いてしまった成俊に、譲原は静かに首を振った。
「また離れてしまうかと思う者に佐貫をやれなかったんだ。アイツがどんな形であれ心を病ませる姿は見たくない。今でもアイツは不安を抱えている」
それはどういうことなのかと、成俊は顔を上げた。
成俊を前にしては、不安を抱えているなどという態度は見られない。
自分の勘違い…?
譲原だから分かることなのかと思えれば、佐貫の何を知っているのだろうと、成俊の方が困惑する。
譲原はしっとりとした声で佐貫の今を話してくれた。
覚悟を決めたのなら、この先の全てを委ねる、と言いたげに…。

「君は若い。そして女性とも暮らした過去がある。男同士という閉鎖的な中に馴染めないんじゃないかと、また、”もとの世界”に戻るんじゃないかと佐貫は常に行く先を心配していると言うことだよ。こんなことを言えば君の負担になってしまうだろうね。それでも佐貫をこれ以上苦しめたくないから、別れるならすぐのうちにしてほしい。もしくは、せめて君が佐貫を愛している時だけでも、彼をとことんまで愛してそんな不安を抱くことはないと思わせてやってほしい。たとえ短い間だったとしても、心の底から笑える時間を与えてやってほしいんだ」

『一時的』などと思いたくなかった。
別れる時などとても想像できない。
高音と結婚する時もそう思っていたから、もしかしたら途中で心変わりとかあるのかも知れない…と思いながら、でも、中途半端な気持ちで男など愛さないと心の底から湧きあがってくるものがある。
譲原とて同じことなのだろう。
たとえどんなことがあろうと見つめようとする姿…。
佐貫が愛した者なら自分も愛そうと譲ってくれる姿に、懐の大きさを感じる。
「俺…、良くは分からないけど、もう女の人はダメだ…と思い始めてるのかも。なんだろう、『裏切られる』、そんな思いがいつもある。閉鎖的かもしれないけど、だからこそ本当の愛が存在するんじゃないかなって…。その場しのぎで男の人と付き合おうなんて思えないし、今ある手は離したくない…」
「僕はね、佐貫をずっと見てきた…。アイツが幸せになれるのなら厳しいことも言うしどんな後ろ盾も作る。もちろん、君を護ることもね」
佐貫と共に成俊にまで手をかけると言う発言に驚かされる。
恋敵であるはずなのにこんなことまで言わせるのは佐貫の人間性なのか…。
それとも惚れた弱みか…。
「ごめんなさい…」
咄嗟に謝ってしまった成俊に、「君は人が良すぎるよ」と譲原から失笑が漏れた。
譲原に言われなくても成俊には全ての覚悟が出来ていた。
佐貫に捨てられない以外、ずっと彼の温もりに包まれようと…。

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あと何を書き残したかなぁ…。
物語はそろそろ佳境へ…。
昨日も拍手たくさんありがとうございました~。

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コメント

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譲原~。゚(●'ω'o)゚。うるうる
コメントけいったん | URL | 2011-02-02-Wed 16:31 [編集]
譲原、アンタって <佐貫の為>なら ほんと いい奴だぁ~ねぇ~ぅん((´д`*)ぅん

成俊の保護者が 佐貫なら 佐貫の保護者は 譲原でしょ!
こんなに盲目的に 佐貫を愛してる譲原にも 誰か いいのを見繕って 恋人を!
きえ様~、お願いしますだぁ~(('ェ'o)┓ペコ...byebye☆
Re: 譲原~。゚(●'ω'o)゚。うるうる
コメントきえ | URL | 2011-02-02-Wed 17:04 [編集]
けいったん様
こんにちは~。

> 譲原、アンタって <佐貫の為>なら ほんと いい奴だぁ~ねぇ~ぅん((´д`*)ぅん

譲原に同情いただきましてありがとうございます。
いいやつなんですよ~、安住と一緒で…。
(またそのうち、追加リクきそうな気配…)

> 成俊の保護者が 佐貫なら 佐貫の保護者は 譲原でしょ!
> こんなに盲目的に 佐貫を愛してる譲原にも 誰か いいのを見繕って 恋人を!
> きえ様~、お願いしますだぁ~(('ェ'o)┓ペコ...byebye☆

それぞれに保護者がつく我が家wwww
でも譲原は保育園に入らないから!
えーと、陰ながら…もうそれ相応のは私の頭の中で存在していたりします。
譲原の健気さに惹かれるもの…。(こっちも身近で見てきた人)
うち、オヤジカプであふれそうだよっっっ(゚∀゚)
いや、まだお子様に頑張ってもらって…(ドキドキ)
コメントありがとうございました。
美しき友情
コメント甲斐 | URL | 2011-02-02-Wed 22:34 [編集]
譲原さんなりの友情で佐貫さんを守ってきたんですね。
確かに男同士なんて別世界の成俊さんだったし、結婚して子供までいたら(自分の子じゃなかったけど)いつまた気の迷いから覚めて…と心配しますよね。
意地悪な奴って思ってたけどいい奴なじゃないかぁ、ごめんよゆずちゃん!
あなたの幸せも祈ります。
譲原って。。。
コメントらぅら | URL | 2011-02-03-Thu 01:02 [編集]
健気な人だったんですね。。。
成俊とやり取りの時は、嫌なやつとか思ってましたが。。。(ごめんね)

佐貫を凄く愛している譲原にも幸せになってもらいたいって思いました。←w

って。。。もうきえさんの頭にはあるみたいですが(笑)
誰だろう。。。おやじCP(失礼)ならあの人かな?
それか年下のあの子?それとも新キャラ?
とにかく楽しみにしてますぅ~♪
Re: 美しき友情
コメントきえ | URL | 2011-02-03-Thu 06:48 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 譲原さんなりの友情で佐貫さんを守ってきたんですね。
> 確かに男同士なんて別世界の成俊さんだったし、結婚して子供までいたら(自分の子じゃなかったけど)いつまた気の迷いから覚めて…と心配しますよね。
> 意地悪な奴って思ってたけどいい奴なじゃないかぁ、ごめんよゆずちゃん!
> あなたの幸せも祈ります。

成俊のこれまでを良ーく知ってる譲原だからこそ心配もしていたんだと思います。
譲原、佐貫、安住の中では一番事情を知る人でしたからね。
佐貫さんが大事だからこそ…だったんでしょう。
譲原の幸せ…、いつかまたそのうちに…です。
コメントありがとうございました。
Re: 譲原って。。。
コメントきえ | URL | 2011-02-03-Thu 06:55 [編集]
らぅら様
おはようございます。

> 健気な人だったんですね。。。
> 成俊とやり取りの時は、嫌なやつとか思ってましたが。。。(ごめんね)

人との付き合いを大事にする職業の方でもありますし。
なのに、成俊との時は感情のままに突っ走ってしまいました。
カタブツじゃない、やっぱり人間でしたね。

> 佐貫を凄く愛している譲原にも幸せになってもらいたいって思いました。←w
>
> って。。。もうきえさんの頭にはあるみたいですが(笑)
> 誰だろう。。。おやじCP(失礼)ならあの人かな?
> それか年下のあの子?それとも新キャラ?
> とにかく楽しみにしてますぅ~♪

読者様は勘がいいのできっときっと当たってます(笑)
残ってるオヤジってどこにいたろう…。
どんどんキャラが増えていく…(汗)
気長に待っててくださいね~。
コメントありがとうございました。
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