佐貫が喜んでいてくれるのが肌ごしに伝わってくる。
リビングにあるテーブルの上に作った料理を出し、横に並んで座った佐貫が美味しそうに味わってくれていた。
酒の進みがいつもより遅いと思うのは気のせいだろうか。
それよりも手と口が良く動いてくれているように思える。
「上手いな」
素直に喜びを表してくれる姿に、もっともっと頑張ろうと成俊は今後の抱負を胸の内にいだかせる。
同時に言いづらかったことも言葉にされた。
「あ、あのさ。お鍋とか、新しいの買ってもいい?」
この家の家具を始め、家事道具に成俊の手は加わっていない。
ほとんど着の身着のままで越してきた成俊の『好きになっている空間』はなく、少しでもその手が加えられるのは佐貫にとっても喜ばしいことだ。
料理ができるのだと分かれば、またそこに時間の掛け方を見つけ出せたのなら、佐貫としてはうれしいだけであり、反対する理由もありはしない。
「好きにすればいい」
今更遠慮はいらない、と佐貫はいつものように大きな懐で包んでくれる。
「うん…」
頷く成俊の頬を、掠める温かなものがあった。
佐貫が頬ずりをし、「愛しい」と幾度も唇を合わせようとしてくる。
「ちょっ…っ!!酔っ払いっ!!!」
「酔ってなんかいないぞ。可愛いと思う者を抱き締めて何が悪い」
気恥ずかしさに憎まれ口を叩くのだが、一蹴されて封じ込められる。
リビングのラグの上に横にされ、濃厚に交わされる口付けに息が上がり、もう、このままここで…と思ってしまう。
たった数日、たった数時間触れあえないだけでこれほどまでに相手を欲し、求めて我が物にしようとするのか…。
見つめられる視線が熱い…。
「みつや…」
囁く言葉が口腔に飲み込まれていく。
「こんなにまでしてもらって俺は幸せ者だな…」
『幸せ』という言葉の意味がとても大きかった。
ずっと苦しみの中にあった二人…。
今改めて、二人、同時に時を刻めることを『幸せ』に思う。
心の充実が、ここにはある。
「ありがとう…」
成俊から感謝の言葉が漏れると、「俺もだ…」と佐貫からも同じ言葉が繰り返された。
家で使うのに『業務用』は必要ないと思うのに、日野に相談したら出てくるのはソレ系のものばかりだ。
「安い物を買うより馴染むものを手に入れろ」と日野に言われ、神戸の手伝いもあって、ゴツイ形のものばかりが揃えられていく。
「こんなに必要ないっ」と喚いても、「あれば便利だから」と予算外の物まで加えられて、財布の中身を心配してしまった。
使いこなせるようにならなければ、まさに無駄になる、と変な意識が働く。
貧乏性が佐貫の健康を気遣うのだから、できる料理も『豪華』とは無縁だろう。
それでも喜んでくれる顔が見えるから、成俊は料理道具に見合う技術を身につけたかった。
「成は努力する人間だって前に言っただろう?おまえは何にでも一生懸命になる。俺ができることであればいつだって手伝ってやるから」
背を押してくれる人間がここにもいる。
日野がいたから今の自分がある。
瞳が潤うのを必死にこらえれば、横から神戸の茶々が飛んだ。
「成俊君のその目ってそそるよね」
「長流っ!!!何言ってんだよ!!!」
「あー、べつに変な意味じゃなくてさ。守ってやりたい気持ちが分かるってこと」
佐貫の甘やかしぶりは今更隠しようもなく、日野も神戸も知るところだった。
それをどこか恥ずかしいと思いながら、だけど嬉しいとも感じてしまう。
自分は日野のようにしっかりとした人間ではないと思わされるようでもあったけど、『可愛い』の意味がなんとなく分かるようでもあった。
こうして『守る』よりも『護られる』時を待っていたのかもしれない。
『夫』として『父親』としての素質はなかったかもしれないが、愛しい人の『恋人』ではありたいと思う。
かつて『色っぽい目』と佐貫が揶揄した言葉が甦る。
『この眼に惹かれた…』と佐貫は臆面もなく言い放ってくれた。
見つめ合うだけで熱くなる身体…。
成俊自身も佐貫のまっすぐな眼差しと志に惹かれているのだと思う。
「もう…」
強がりも含めたのだが、困ったように成俊が視線を伏せれば、神戸もそれ以上のことは口にしてこなかった。
「長流が余計なこというからっ!」
痴話喧嘩すら美声に聞こえてくる。
『会いたい…』
募る思いはいつまでも続く…。
にほんブログ村
予定より早くなったかな。次回最終話にします。
57← →59
リビングにあるテーブルの上に作った料理を出し、横に並んで座った佐貫が美味しそうに味わってくれていた。
酒の進みがいつもより遅いと思うのは気のせいだろうか。
それよりも手と口が良く動いてくれているように思える。
「上手いな」
素直に喜びを表してくれる姿に、もっともっと頑張ろうと成俊は今後の抱負を胸の内にいだかせる。
同時に言いづらかったことも言葉にされた。
「あ、あのさ。お鍋とか、新しいの買ってもいい?」
この家の家具を始め、家事道具に成俊の手は加わっていない。
ほとんど着の身着のままで越してきた成俊の『好きになっている空間』はなく、少しでもその手が加えられるのは佐貫にとっても喜ばしいことだ。
料理ができるのだと分かれば、またそこに時間の掛け方を見つけ出せたのなら、佐貫としてはうれしいだけであり、反対する理由もありはしない。
「好きにすればいい」
今更遠慮はいらない、と佐貫はいつものように大きな懐で包んでくれる。
「うん…」
頷く成俊の頬を、掠める温かなものがあった。
佐貫が頬ずりをし、「愛しい」と幾度も唇を合わせようとしてくる。
「ちょっ…っ!!酔っ払いっ!!!」
「酔ってなんかいないぞ。可愛いと思う者を抱き締めて何が悪い」
気恥ずかしさに憎まれ口を叩くのだが、一蹴されて封じ込められる。
リビングのラグの上に横にされ、濃厚に交わされる口付けに息が上がり、もう、このままここで…と思ってしまう。
たった数日、たった数時間触れあえないだけでこれほどまでに相手を欲し、求めて我が物にしようとするのか…。
見つめられる視線が熱い…。
「みつや…」
囁く言葉が口腔に飲み込まれていく。
「こんなにまでしてもらって俺は幸せ者だな…」
『幸せ』という言葉の意味がとても大きかった。
ずっと苦しみの中にあった二人…。
今改めて、二人、同時に時を刻めることを『幸せ』に思う。
心の充実が、ここにはある。
「ありがとう…」
成俊から感謝の言葉が漏れると、「俺もだ…」と佐貫からも同じ言葉が繰り返された。
家で使うのに『業務用』は必要ないと思うのに、日野に相談したら出てくるのはソレ系のものばかりだ。
「安い物を買うより馴染むものを手に入れろ」と日野に言われ、神戸の手伝いもあって、ゴツイ形のものばかりが揃えられていく。
「こんなに必要ないっ」と喚いても、「あれば便利だから」と予算外の物まで加えられて、財布の中身を心配してしまった。
使いこなせるようにならなければ、まさに無駄になる、と変な意識が働く。
貧乏性が佐貫の健康を気遣うのだから、できる料理も『豪華』とは無縁だろう。
それでも喜んでくれる顔が見えるから、成俊は料理道具に見合う技術を身につけたかった。
「成は努力する人間だって前に言っただろう?おまえは何にでも一生懸命になる。俺ができることであればいつだって手伝ってやるから」
背を押してくれる人間がここにもいる。
日野がいたから今の自分がある。
瞳が潤うのを必死にこらえれば、横から神戸の茶々が飛んだ。
「成俊君のその目ってそそるよね」
「長流っ!!!何言ってんだよ!!!」
「あー、べつに変な意味じゃなくてさ。守ってやりたい気持ちが分かるってこと」
佐貫の甘やかしぶりは今更隠しようもなく、日野も神戸も知るところだった。
それをどこか恥ずかしいと思いながら、だけど嬉しいとも感じてしまう。
自分は日野のようにしっかりとした人間ではないと思わされるようでもあったけど、『可愛い』の意味がなんとなく分かるようでもあった。
こうして『守る』よりも『護られる』時を待っていたのかもしれない。
『夫』として『父親』としての素質はなかったかもしれないが、愛しい人の『恋人』ではありたいと思う。
かつて『色っぽい目』と佐貫が揶揄した言葉が甦る。
『この眼に惹かれた…』と佐貫は臆面もなく言い放ってくれた。
見つめ合うだけで熱くなる身体…。
成俊自身も佐貫のまっすぐな眼差しと志に惹かれているのだと思う。
「もう…」
強がりも含めたのだが、困ったように成俊が視線を伏せれば、神戸もそれ以上のことは口にしてこなかった。
「長流が余計なこというからっ!」
痴話喧嘩すら美声に聞こえてくる。
『会いたい…』
募る思いはいつまでも続く…。
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予定より早くなったかな。次回最終話にします。
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MO様
こんにちはー
>成俊、幸せを実感してますね～♪周りには素敵な応援団もいるし、やっと掴んだ幸せを、大切にかみ締めながら暮らしていけますね。
幸せ実感!!!
常に見守ってくれる人がいるし。
うん、大切に掴んで手放さないように努力するでしょう。
コメントありがとうございました。
こんにちはー
>成俊、幸せを実感してますね～♪周りには素敵な応援団もいるし、やっと掴んだ幸せを、大切にかみ締めながら暮らしていけますね。
幸せ実感!!!
常に見守ってくれる人がいるし。
うん、大切に掴んで手放さないように努力するでしょう。
コメントありがとうございました。
成俊さん、いろんな意味で自分に合った居場所や
本当に求めるものがわかってよかったと思うし、
身体の方も"喜び"を知った今では、
そういう面でももう離れられませんよね
本当に求めるものがわかってよかったと思うし、
身体の方も"喜び"を知った今では、
そういう面でももう離れられませんよね
甲斐様
こんにちは。
> 成俊さん、いろんな意味で自分に合った居場所や
> 本当に求めるものがわかってよかったと思うし、
> 身体の方も"喜び"を知った今では、
> そういう面でももう離れられませんよね
どこにいっても大事にされる成俊でーす。
離れられませんね～とてもとても。
体もすっかり変えられてしまいました(笑)
幸せ街道まっしぐらで最終回を…と書いたはずなのに、終わらなかった(汗)
変えられた体の話が続いております。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 成俊さん、いろんな意味で自分に合った居場所や
> 本当に求めるものがわかってよかったと思うし、
> 身体の方も"喜び"を知った今では、
> そういう面でももう離れられませんよね
どこにいっても大事にされる成俊でーす。
離れられませんね～とてもとても。
体もすっかり変えられてしまいました(笑)
幸せ街道まっしぐらで最終回を…と書いたはずなのに、終わらなかった(汗)
変えられた体の話が続いております。
コメントありがとうございました。
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