「この病室に長くは居られない」
栗本に背を押されて成俊は、嫌々ながら佐貫の傍を離された。
強く握った指先を無理矢理剥がされて、とめどなく涙が零れ落ちていく。
「や…だ…」
泣き崩れそうになる身体を栗本に支えられて、厳重に管理された病室を後にした。
違う階にあるこじんまりとした面談室まで連れて行かれると、譲原と安住、そして見たことのない眼鏡をかけた男性が落ち着きなくソファに座って項垂れていた。
皆、同じくらいの年齢のようだ。
栗本の姿を見るなり、一斉に立ち上がりはしたが、成俊を座らせるまで誰も口を開かなかった。
何故こんなことになったのか、どうして佐貫が…。
聞きたいことは山ほどあるのに嗚咽が零れるだけで何の言葉も出てこなかった。
…一人にされるのは嫌だ…。
これまで過ごした仲睦まじい生活が次々と脳内に溢れかえってくる。
幸せだった…。安らぎに満ちていた…。
やっと手に入れた安息の日々…。
並んで座った栗本が、涙に濡れる成俊の顔を胸に預けさせ、背中を静かに撫でてくれる。
「佐貫は大丈夫だよ。アイツは強いから…」
慰めてくれているのだろうが、硬い言葉は医師としての現実を知っているのだろう。
生と死。どちらに傾く比率が高いのか…。
「や、だ、…やだ、やだぁ…っっ」
どんな状況でこんな目にあっているのか、そんなことはどうでもよくなってくる。
ただ、佐貫が生きて、もう一度自分に視線を向けてくれればいい。
あの逞しい身体で、「護ってやる」と包んでくれればいい。
生きてそばにいてくれれば、他の何を失ってもいいとすら思えてくる。
「みっちゃんの容体は?」
「今はまだ何とも…。手術は無事成功しているけどね…」
気休め程度にしかならない言葉だった。
数か所に傷があり、一番深い刺し傷が現在の状況を生み出しているそうだ。
殺人事件を起こした犯人逮捕の直前、突然襲われたらしい。
他の警官の手によって犯人は捕まったものの、佐貫が負った傷はあまりにも深かった。
**************
同僚を庇ってのことだった…とは、栗本はここにいる人間に伝えられなかった。
佐貫が護ろうとするものは成俊一人ではない。
彼の性格がそうさせるのだろうが、腕の中で泣き崩れる小さな姿を見てしまえば、頑なに『守護神』を貫くのもどうかと思えてくる。
自分の目で『死』を見たくないから、という思いも分かりはしても、ならば『自分の死』は人に見せていいのか…。
この世で一番に大切、と臆面もなく言い放った相手を残すことは罪にならないのか…。
堂々巡りとなる答えを栗本も見つけることはできない。
ただ、今は佐貫が息を吹き返すことと、目を開けてくれることを祈るしかない。
医学界では説明できない奇怪な症例はいくつもある。
面会謝絶の病室に成俊を連れたのは、少しでも成俊の存在を佐貫に思い知らせてやりたかったからに他ならない。
去り行きそうな魂を、この世に繋ぎとめてほしいと願うのは、友人として佐貫を慕っていたからだ。
栗本自身も愛しいと思う者を悲しませたくない。
長い間佐貫を見つめ、報われることなく他人に譲り渡したひと…。
彼の悲しみを、これ以上深くしたくはなかった。
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栗本、名前がない~。
1← →3
栗本に背を押されて成俊は、嫌々ながら佐貫の傍を離された。
強く握った指先を無理矢理剥がされて、とめどなく涙が零れ落ちていく。
「や…だ…」
泣き崩れそうになる身体を栗本に支えられて、厳重に管理された病室を後にした。
違う階にあるこじんまりとした面談室まで連れて行かれると、譲原と安住、そして見たことのない眼鏡をかけた男性が落ち着きなくソファに座って項垂れていた。
皆、同じくらいの年齢のようだ。
栗本の姿を見るなり、一斉に立ち上がりはしたが、成俊を座らせるまで誰も口を開かなかった。
何故こんなことになったのか、どうして佐貫が…。
聞きたいことは山ほどあるのに嗚咽が零れるだけで何の言葉も出てこなかった。
…一人にされるのは嫌だ…。
これまで過ごした仲睦まじい生活が次々と脳内に溢れかえってくる。
幸せだった…。安らぎに満ちていた…。
やっと手に入れた安息の日々…。
並んで座った栗本が、涙に濡れる成俊の顔を胸に預けさせ、背中を静かに撫でてくれる。
「佐貫は大丈夫だよ。アイツは強いから…」
慰めてくれているのだろうが、硬い言葉は医師としての現実を知っているのだろう。
生と死。どちらに傾く比率が高いのか…。
「や、だ、…やだ、やだぁ…っっ」
どんな状況でこんな目にあっているのか、そんなことはどうでもよくなってくる。
ただ、佐貫が生きて、もう一度自分に視線を向けてくれればいい。
あの逞しい身体で、「護ってやる」と包んでくれればいい。
生きてそばにいてくれれば、他の何を失ってもいいとすら思えてくる。
「みっちゃんの容体は?」
「今はまだ何とも…。手術は無事成功しているけどね…」
気休め程度にしかならない言葉だった。
数か所に傷があり、一番深い刺し傷が現在の状況を生み出しているそうだ。
殺人事件を起こした犯人逮捕の直前、突然襲われたらしい。
他の警官の手によって犯人は捕まったものの、佐貫が負った傷はあまりにも深かった。
**************
同僚を庇ってのことだった…とは、栗本はここにいる人間に伝えられなかった。
佐貫が護ろうとするものは成俊一人ではない。
彼の性格がそうさせるのだろうが、腕の中で泣き崩れる小さな姿を見てしまえば、頑なに『守護神』を貫くのもどうかと思えてくる。
自分の目で『死』を見たくないから、という思いも分かりはしても、ならば『自分の死』は人に見せていいのか…。
この世で一番に大切、と臆面もなく言い放った相手を残すことは罪にならないのか…。
堂々巡りとなる答えを栗本も見つけることはできない。
ただ、今は佐貫が息を吹き返すことと、目を開けてくれることを祈るしかない。
医学界では説明できない奇怪な症例はいくつもある。
面会謝絶の病室に成俊を連れたのは、少しでも成俊の存在を佐貫に思い知らせてやりたかったからに他ならない。
去り行きそうな魂を、この世に繋ぎとめてほしいと願うのは、友人として佐貫を慕っていたからだ。
栗本自身も愛しいと思う者を悲しませたくない。
長い間佐貫を見つめ、報われることなく他人に譲り渡したひと…。
彼の悲しみを、これ以上深くしたくはなかった。
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栗本、名前がない~。
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s様
こんにちは~。
またまたコメありがとうございます。
>頑張れ、佐貫!成ちんを悲しませるな~!きっと大丈夫だよね?
大丈夫大丈夫…(呪文のように繰り返してみる)
成ちん、どこまで不幸体質?!
幸せモードにしてあげない鬼畜な作者(だからSじゃないって…)
有言実行となってください、佐貫サン。と私からも頼みます。
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
またまたコメありがとうございます。
>頑張れ、佐貫!成ちんを悲しませるな~!きっと大丈夫だよね?
大丈夫大丈夫…(呪文のように繰り返してみる)
成ちん、どこまで不幸体質?!
幸せモードにしてあげない鬼畜な作者(だからSじゃないって…)
有言実行となってください、佐貫サン。と私からも頼みます。
コメントありがとうございました。
成俊、佐貫スキーな読者を置いて逝ったら 駄目だからね~~ダメ!ダメ!乂(´Д`;)
ハッピーエンドと 分かっていても 嫌だぁ!ビェ─・゚・(。>д<。)・゚・─ン!!
ところで 最後の3行目から 気になるような事が 書かれてますねー。それって...(*'ω'*)...ん?...byebye☆
ハッピーエンドと 分かっていても 嫌だぁ!ビェ─・゚・(。>д<。)・゚・─ン!!
ところで 最後の3行目から 気になるような事が 書かれてますねー。それって...(*'ω'*)...ん?...byebye☆
けいったん様
こちらにもどうもです。
> 成俊、佐貫スキーな読者を置いて逝ったら 駄目だからね~~ダメ!ダメ!乂(´Д`;)
> ハッピーエンドと 分かっていても 嫌だぁ!ビェ─・゚・(。>д<。)・゚・─ン!!
>
> ところで 最後の3行目から 気になるような事が 書かれてますねー。それって...(*'ω'*)...ん?...byebye☆
ハピエですから泣かないで~。
それよりも気になる言葉を残した?!
どっち物語か分からないんですけどね(え?!)
あくまでも"愛する"二人の物語です。
コメントありがとうございました。
こちらにもどうもです。
> 成俊、佐貫スキーな読者を置いて逝ったら 駄目だからね~~ダメ!ダメ!乂(´Д`;)
> ハッピーエンドと 分かっていても 嫌だぁ!ビェ─・゚・(。>д<。)・゚・─ン!!
>
> ところで 最後の3行目から 気になるような事が 書かれてますねー。それって...(*'ω'*)...ん?...byebye☆
ハピエですから泣かないで~。
それよりも気になる言葉を残した?!
どっち物語か分からないんですけどね(え?!)
あくまでも"愛する"二人の物語です。
コメントありがとうございました。
こんな時だけど。。。
成俊の>「や、だ、…やだ、やだぁ…っっ」に
萌ちゃいました。。。
可愛すぎる。。。(爆)
成俊が佐貫の手を握ってたから大丈夫。(´・ω・`)
栗本は成俊が襲われたあの事件を知っているから、佐貫と成俊どうにかしてあげたいって他の3人より思ってしまうんでしょうね。(他の3人は知らないんですよね?)
ってか、栗本に名前付けてあげてぇ~゚+.((人д<o)(o>д人))゚+.
最後の3行目からの意味深な。。。( ´艸`)ムププ当たったかも(笑)
成俊の>「や、だ、…やだ、やだぁ…っっ」に
萌ちゃいました。。。
可愛すぎる。。。(爆)
成俊が佐貫の手を握ってたから大丈夫。(´・ω・`)
栗本は成俊が襲われたあの事件を知っているから、佐貫と成俊どうにかしてあげたいって他の3人より思ってしまうんでしょうね。(他の3人は知らないんですよね?)
ってか、栗本に名前付けてあげてぇ~゚+.((人д<o)(o>д人))゚+.
最後の3行目からの意味深な。。。( ´艸`)ムププ当たったかも(笑)
らぅら様
こちらにもどうもです。
> こんな時だけど。。。
> 成俊の>「や、だ、…やだ、やだぁ…っっ」に
> 萌ちゃいました。。。
> 可愛すぎる。。。(爆)
いつも泣いている気がする…成俊。
涙の天使って感じです。
> 成俊が佐貫の手を握ってたから大丈夫。(´・ω・`)
成俊ができる精一杯の愛情の伝え方でした(?)
> 栗本は成俊が襲われたあの事件を知っているから、佐貫と成俊どうにかしてあげたいって他の3人より思ってしまうんでしょうね。(他の3人は知らないんですよね?)
> ってか、栗本に名前付けてあげてぇ~゚+.((人д<o)(o>д人))゚+.
ハイ、知らないですね。
栗本と佐貫だけの秘密です。
そんなことを人に告げて成俊の傷を抉るようなことはしませんから。
な、名前…(考え中)
> 最後の3行目からの意味深な。。。( ´艸`)ムププ当たったかも(笑)
読者様の勘はすごく良いので…(汗汗)
コメントありがとうございました。
こちらにもどうもです。
> こんな時だけど。。。
> 成俊の>「や、だ、…やだ、やだぁ…っっ」に
> 萌ちゃいました。。。
> 可愛すぎる。。。(爆)
いつも泣いている気がする…成俊。
涙の天使って感じです。
> 成俊が佐貫の手を握ってたから大丈夫。(´・ω・`)
成俊ができる精一杯の愛情の伝え方でした(?)
> 栗本は成俊が襲われたあの事件を知っているから、佐貫と成俊どうにかしてあげたいって他の3人より思ってしまうんでしょうね。(他の3人は知らないんですよね?)
> ってか、栗本に名前付けてあげてぇ~゚+.((人д<o)(o>д人))゚+.
ハイ、知らないですね。
栗本と佐貫だけの秘密です。
そんなことを人に告げて成俊の傷を抉るようなことはしませんから。
な、名前…(考え中)
> 最後の3行目からの意味深な。。。( ´艸`)ムププ当たったかも(笑)
読者様の勘はすごく良いので…(汗汗)
コメントありがとうございました。
成俊一人遺して逝ってしまったりしたら許さない
守ってあげたい成俊の存在が魂をつなぎとめてほしいです
守ってあげたい成俊の存在が魂をつなぎとめてほしいです
甲斐様
こんにちは~。
> 成俊一人遺して逝ってしまったりしたら許さない
>
> 守ってあげたい成俊の存在が魂をつなぎとめてほしいです
栗本が言うように、佐貫は強いと思います。(そうであってほしい)
成俊、今までもいっぱい泣いたのに、また泣かせられて…。
不幸ナンバーワンキャラ継続中(゚∀゚)
成の思い、届くといいです。
コメントありがとうございました。
こんにちは~。
> 成俊一人遺して逝ってしまったりしたら許さない
>
> 守ってあげたい成俊の存在が魂をつなぎとめてほしいです
栗本が言うように、佐貫は強いと思います。(そうであってほしい)
成俊、今までもいっぱい泣いたのに、また泣かせられて…。
不幸ナンバーワンキャラ継続中(゚∀゚)
成の思い、届くといいです。
コメントありがとうございました。
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