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BLの丘
心と魂 6
2011-02-21-Mon  CATEGORY: 眼差し
うつろな声のように聞こえても、意識ははっきりとしている。
佐貫が求めるものはただ一つ…。
改めて突き付けられる現実に、悪態どころか拳の一つも投げつけてやりたい気分になる。
佐貫は全てを知って濁したまま時を流し、栗本に譲原を任せたのだと、理解できる台詞だった。
最終的に栗本が譲原を支えると、また、支え続けたと承知していたのではないか…。

「成俊君は食事に行かせている」
「そうか…」
もちろん、成俊がいないと分かるからこそ、こうして話題に上げているのだ。
そのことを佐貫も感じ取ったのだろう。

焦点を合わせた佐貫に、僅かな後悔があった。
曖昧にした期間が長かったこと、栗本と譲原の二人の気持ちを知りながら誤魔化し続けたこと…。
だが、今を大事と思うから、この先を決してあやふやにはしないと、強い意志が過っていく。

「望のことはおまえに任せられると思っていた…。成視を失った時から…、気持ちは分かっていたけど、答えられる勇気が俺にはなかった。俺なんかよりも、もっと確実に愛を貫いてくれる者…。それに添える者の方が幸せになれる…」
「譲原のことを気にかけてくれていたのは分かっていたけど…。…いつから俺たちのこと、知ってた?」
「もう随分前だな…。望の態度が少し後ろめたくなった時があった。自身の中でやりきれない気持ちのやり場を失って、誰かに身を預けたんだと分かった。相手が見つかったのなら後悔しない人生を歩んでほしかった…」
「何で、俺だって???」
「見ていれば分かるだろう?おまえだって人を放っておけないヤツだしな…。相手がおまえだって分かれば、余計に安心して望に冷たくしていたのかもしれない」
「佐貫が成俊君と一緒になるって話を聞かされた日、譲原、最初、うちに来たんだ。譲原自身も俺に対する態度を曖昧にしたままでいたからね。完全に希望の光が閉ざされたと自覚して、俺に目を向けてくれたのは、俺にとっては喜ぶべき出来事だったけど」
「望のことだから負い目でも感じているか…」
「それでもいいって受け入れたのは俺」
譲原は、あっちがだめならこっち、と割り切って付き合えるタイプではない。
自分の甘えから、栗本を選んだと悩んでいることはすでに承知していたし、その傷に付け入っているのも確かなことだった。

「今回のことで、譲原は完全に佐貫を諦めたよ。こんな奇跡みたいなことを目の当たりにさせられて、付け入る隙なんかどこにもないって。あいつ、まだ、どこかで期待していたんだな…」
いつになったら本当の意味で自分を見てくれるのかという不安が栗本の中には存在していた。
時間をかければいつか…と願う気持ちも時に揺らぎそうになった。
佐貫が意識を取り戻した、と報告した時、半分は譲原の為を思って看病し続けた真実を、譲原は言葉にしなくても感じ取った。
栗本の愛情の奥深さに気付き、改めて栗本に告白してきたのは譲原のほうだった。
『愛するよりも愛される方が、もしかしたら幸せなのかもしれない…』と。
報われない愛に翻弄され続け、疲れた心を少しでも癒せてあげられたら…と栗本は思う。

「ふたりには負けるよ…」
命を掛けてまで守ってやれるかと聞かれれば悩むのかもしれない。
自分と比べた時、成俊と同じように譲原が栗本を求めてくるという自信もない。
それでも、大事だと思い、かけがえのない存在だと知らせたい思いはある。

「こんなこと、俺から言うべきではないけれどさ…」
次の話題へと変わり、硬くなる口調は、先程の温かな内容とは対照的であることを表す。
核心に迫る言葉使いは病人を相手にするには辛すぎるような気もした。
だけど、栗本は、今だからこそ言えるような気がした。
「あの子、…ずっと水すら摂らなかったんだよ…」
それは、どれほど緊迫した事態だったのかと佐貫に教えるものだった。
必要以上の心労をかけ、こうして目覚める日を一秒ごとに願っていたのだと…。

「佐貫の気持ちは分かるよ。正義感が強いのは認める。でも置いていくってどうなの?…佐貫が取った行動を咎めるつもりはないけど。でもね。愛する人に置いて行かれた気持ち、佐貫が一番、嫌って言うほど知っているんじゃないの?…見るに堪えかねる…。もう俺は、あんな光景を2度も見るのは嫌だから…。成俊君は気を失うほど苦しんだ…。もしこのまま、おまえが目覚めなかったら…って思った時…、いっそのこと、彼の魂まで佐貫の傍に寄せてやった方が幸せなんじゃないかって…」
二人に限ったことではないが、別れる者を見るのは耐えがたい。
佐貫の過去を知るから、尚更隠すことなく正直な意見が零れる。
一人残される悲しみを、佐貫はかつての出来事で承知済みだった。
それは、言葉にできるような生易しいものではない…。
その体験を成俊にまでさせるのかと責めたくもなる。
「成俊には辛い思いをさせたな…」
「真実を成俊君が知ったら、余計に苦しむことになるんだよ。やり場のない憎しみまで抱えることになる。恨みたいものも恨めず、だからといって佐貫の行動を誇れるわけでもない。無茶もほどほどにしてくれよ」
「成俊にこの話をしたのか?」
「これ以上成俊君を傷つけるようなことを、俺がすると思うか?」
「あぁ…、感謝するよ」
「警察の人間とも接触させていないし、彼らには内密事項として口を割ることを許していないから。内部処理で片をつけて、口外しないように」
「おまえにも迷惑をかけた…」
「俺だってあの子がこれ以上辛い思いをするところなんて見たくないからね」
成俊の過去に何があったのかを栗本は知るからこそ、佐貫同様に、普通生きていて経験しないような事態は避けたい。
鬱積をようやく吐き出せた、と栗本からも大きな溜め息がつかれる。

「成俊君がそろそろ戻ってくる頃かな~」とつとめて明るくふるまった栗本が腰を上げた。
その姿を追うように、佐貫の視線が投げかけられる。
「佳史(よしふみ)、ずっとここに居たんだって?自分の病院、大丈夫なのか?」
「病院は再建できる。人の命は事切れたらそこで終わりだよ」
ここでは医師とはいえ、外部の人間が自らの意思で直接処置を施すことはなかったはずだ、と佐貫の疑問も理解できた。
何でもないことのように告げた栗本は、佐貫と成俊に付き添い続けたことを負担とは感じていない素振りで颯爽と病室を出て行った。
例え病院に戻ったところで、気が気ではなく仕事など手につかなかっただろうとも思う。
栗本は廊下に出ると、ちょうどやってきた譲原の肩に手を回して、「会わなくていい」と病院を後にした。

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裏話でした~。
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コメント

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幸せになろう
コメントけいったん | URL | 2011-02-21-Mon 16:52 [編集]
譲原も 辛かったのでしょう。
だから 自分に想いを寄せてくれる栗本に 利用し縋ってしまった。
全部知りながら 受け止めた 栗本の心の広さは、譲原の頑なな心も 優しく解き解し、癒してくれ まだ ぎこちない譲原の気持ちも いつか自然に 栗本へと 向けられるはず。。。

皆が 道を歩み始め 幸せへと辿り着いて欲しいですね
゚+。スリ(*u_u人u_u*)スリ。+゚...byebye☆
名前~(*^o^*)
コメントらぅら | URL | 2011-02-21-Mon 19:52 [編集]
佳史に決まったんですね♪
栗本もいつまでも名無しちゃんじゃね。。。

佐貫と成俊の為に頑張ってくれたんだから、栗本にも譲原と
幸せになってもらいたいです。
って、もうなりつつっぽいけど。。。( ´艸`)ムププ
みんなよかったね
コメント甲斐 | URL | 2011-02-21-Mon 23:53 [編集]
もしあのまま佐貫さんが逝ってしまったのなら、
医師である栗本さんから見てもあまりにも哀れで
成俊さんも共に逝かせてあげてもいいと思わせるほどだったんですね。
ほんと、ちゃんと成俊さんのもとに戻ってきてくれてよかったです。
そうでなければもう生きていけませんよね。
それから、譲原さんもよかったです。
長かった追いかけるだけの想いから
愛される幸せを知ることができて。
Re: 幸せになろう
コメントきえ | URL | 2011-02-22-Tue 06:55 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 譲原も 辛かったのでしょう。
> だから 自分に想いを寄せてくれる栗本に 利用し縋ってしまった。
> 全部知りながら 受け止めた 栗本の心の広さは、譲原の頑なな心も 優しく解き解し、癒してくれ まだ ぎこちない譲原の気持ちも いつか自然に 栗本へと 向けられるはず。。。

譲原の傷ついた心、きっと栗本が癒してくれることと思います。
譲原も甘えられる場所があって良かった。
どこまでも寛大な栗本、エライ!!

> 皆が 道を歩み始め 幸せへと辿り着いて欲しいですね
> ゚+。スリ(*u_u人u_u*)スリ。+゚...byebye☆

止まったままの時が動き出したようです。
みんなそれぞれの新しい道に進むでしょう。
コメントありがとうございました。
Re: 名前~(*^o^*)
コメントきえ | URL | 2011-02-22-Tue 06:59 [編集]
らぅら様
おはようございます。

> 佳史に決まったんですね♪
> 栗本もいつまでも名無しちゃんじゃね。。。

はい、決まりました。
ガンバリ屋さんの栗本ですからね~。
名無しじゃ可哀想で…。

> 佐貫と成俊の為に頑張ってくれたんだから、栗本にも譲原と
> 幸せになってもらいたいです。
> って、もうなりつつっぽいけど。。。( ´艸`)ムププ

この二人も傷つきあった者同士ですね…。
遠回りしたかもしれないけれど、きっとこれから幸せになるはずです。
譲原も張りつめた生活から解放されて安らかな日々が送れればいいです。
コメントありがとうございました。
Re: みんなよかったね
コメントきえ | URL | 2011-02-22-Tue 07:05 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> もしあのまま佐貫さんが逝ってしまったのなら、
> 医師である栗本さんから見てもあまりにも哀れで
> 成俊さんも共に逝かせてあげてもいいと思わせるほどだったんですね。
> ほんと、ちゃんと成俊さんのもとに戻ってきてくれてよかったです。
> そうでなければもう生きていけませんよね。

いっぱい傷ついてきた二人がようやく一緒になって幸せな笑顔を見ていたから…。
もうこれ以上過酷な運命に振り回されるくらいなら…とちょっとだけ思ったかもしれません。
時を置かずして、成俊が病気にでもなって死んじゃうんじゃないか…と危惧するところもあったかも?!

> それから、譲原さんもよかったです。
> 長かった追いかけるだけの想いから
> 愛される幸せを知ることができて。

譲原もずっと苦しんでいましたからね。
こちらも栗本にとっては「見るに堪えかねない」状態だったと思います。
やっと手に入れたものは誰だって大事にしますよね。
これから幸せに過ごしていくことでしょう。
コメントありがとうございました。
管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2012-02-12-Sun 10:00 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
Re: タイトルなし
コメントたつみきえ | URL | 2012-02-12-Sun 13:15 [編集]
マル秘コメント様

> 「見るに堪えかねない」っておかしくないですか?

はぅぅぅ~(ノ≧O≦)ノ
日本語を分かっていない書き手です…汗
ご指摘、本当感謝です。

ご指摘のとおり、意味不明ですね…汗汗

いやぁ読み返すとアラばかりでねぇぇぇ。
煮込んでだしでも出したいとこですが…(←え)

いえ、すみません。コメントありがとうございました。

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