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BLの丘
Door of fate 2
2011-03-11-Fri  CATEGORY: Door of fate
昼下がりに訪れた、所長の磯部が教えてくれた店は、かなり分かりづらいところだった。
店舗などあるように見えない雑居ビル、それも看板もない3Fだ。
物の見分けに敏い営業職に就いていたって、絶対に見落としそうだと思った。
3Fなら、と5Fで止まったエレベーターを待つこともなく、エレベーターホールの隣にある階段を使うことにした。
普段から動くことの多い虎太郎の足は軽い。

店に足を踏み入れると、「いらっしゃいませ」と落ち付いた声が聞こえた。
黒いベストを着た男の姿がカウンター席の奥に見える。
店内の席数は多いとは言えなかったが、間隔を取ってあって窮屈な印象はなかった。
ちょうどテーブル席を片付けていた朝比奈一葉が、入店した客を確かめるべく顔を上げて口をポカンと開けた。
白のドレスシャツと蝶ネクタイを合わせた格好は、スーツ姿で働いていた頃よりも華やかに見えた。
…というか、スーツに着られていた感があった過去だが…。
「た、竹島、さん…?」
こちらが一葉の姿を見慣れない、と思うのと同じように、つなぎから私服に着替えた姿も一葉には馴染みの無いものなのだろう。
「よぉ。久し振りだな。所長が一葉君がここで働いているって教えてくれたんだ」
「しょ、ちょー…?」
ぽつり呟く癖は今でも健在らしい。
「この前来たって言っててさ。俺もいつか…って思いながらなかなか時間取れなくて。元気そうで良かった」
「はぁ…。この前っていつだろう…。もう1カ月以上ここには来てないですけど…」
「うそぉっ?!」
一葉が演技を込めて誤魔化せるような人物ではないのは、かつて一緒に働いていただけに良く知れる。
ということは、磯部は本当に『違う店』でコーヒーを味わったのか…。
なんだか悪いことを言ってしまった気分だなぁ…と少し後悔した。

えーと、どうしようかなー、と虎太郎が座る席を求めて店内をキョロキョロすると、確認するように一葉が話しかけてきた。
「竹島さん、一人なんですか?待ち合わせ?」
「いや、一人だよ」
「だったら、カウンター席でもいいですか?」
「あぁ、うん。もちろん」
壁にかかる美しい風景画が並べられた数と同じ数のテーブル席しかなく、多い席数とは言い難い。
『喫茶店』というには少し違う雰囲気を感じ取ったが、まぁこんな店もあるのか…と特に詮索はしないで、勧められたカウンター席に腰を落ちつけた。
意外なほどカウンター席は多く造られている。

奥に立っていた男が、「一葉君の知り合いなら…」と状況を知ったように、あえて突っ込んでくることもなく、接客の全てを一葉に任せた。
たぶん、この男が雇い主になるのだろう。
自分と変わらないくらいか、若干年下か?と思わせる風格を漂わせている。

「えーっとぉ…」
“コーヒー”と言われても、正直虎太郎は豆や焙煎などにこだわりがなかった。
普段、インスタントコーヒーで充分満足しているような人間である。
今日ここに来たのは、久し振りに一葉の顔を拝みたかったのと、磯部が嵌るものがどんなものなのか知りたかったからだ。
「何か一葉君のお勧めってあるの?」
「お勧め?…うーん、今日のランチは『炭焼』にしてみたんです。それでいいですか?」
「『炭焼』?あぁ、いいよ」
なんだか分からないからとりあえず頷いておく。
話を聞けば、ランチメニューを注文の客には”本日のお勧めコーヒー”が付くらしい。
もちろん好みのものに変更も可能らしいが、オリジナルのブレンドで挽かれた味は客の楽しみになっているそうだ。
香ばしいかおりが店内に漂っていく。
思わず口に入れたくなる格式高い匂いに感じられた。
さざなみをうったような、縁にカーブを描いたカップを前に出されると、より一層香りが強いことを体感した。
「俺、コーヒーのこと何も分からないのに、ここに来て悪いことしちゃったかなぁ」
虎太郎が申し訳なさげに呟くと、「どうして?」と首を傾げられた。
「だってさぁ。味の違いなんて比べようがなくて…。なんか申し訳なくなるじゃない」
「美味しいものを素直に『美味しい』って言える気持ちが大事なんだって、俺に教えてくれた人が言ってました。『比較できることはえらいことじゃない』って」
にこりと微笑まれると、あぁ、雰囲気が変わったなぁとつくづく思わされる。
自信がなく、何事にもオドオドとしていた頃とは違っている。
できること、やりたいことを身につけて確実に成長したのだと感じた。
こんな姿が見られるから、磯部もホッとして通っているのかもしれない、となんとなく思う。
朝比奈はいつも頼りなくて人の手を煩わせて…と磯部は文句を言っていたけれど、そんな彼が立派に巣立ったことは、初めて就職した時から見ていた磯部にとって、『子供』のような存在だったのかもしれない。
挫折して自分たちの前から姿を消してしまったが、こんな姿を見られれば安心もする。
懐かしい会話に華を咲かせながら、ゆったりとした時を過ごしていた時、いかにも若者らしいといった感じの、少し伸びた髪と片方の耳にピアスが二つ、だらしなく着こなされた服装なのに清々しさがある青年が入ってきた。
「一葉~、おなかすいたー」
非常に元気の良い青年だった。
一葉を呼び捨てにし、慣れたように虎太郎から幾つか離れたカウンター席に座りこむ。
「恵亮(めぐる)くん、何も食べてないの?」
答える一葉の態度も自然な雰囲気だ。
…見たことある…、この男、見たことあるぞ…。
虎太郎の脳裏が急速に過去を探った。
だが、営業のように対人面に意識の働かない虎太郎の頭は答えを導き出せない。

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誰が登場するのか~、と思えば…。
リク主様、ご希望の展開ではないかもしれませんがどうぞお許しくださいm(__;)m

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コメント

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Σ(- -ノ)ノ エェ!?
コメントらぅら | URL | 2011-03-11-Fri 21:00 [編集]
お相手は恵亮?!
ってか、きえさんが竹島の事を忘れてたと書かれていましたが。。。
同じように、私もすっかり恵亮という存在を
忘れてました(~▽~;) アハッ

お相手の事はきえさんにお任せってお願いしたので
かまいませんよぉ~♪

どういうお話になるか楽しみです。
恵亮が出てきた事で、ドタバタになるような気がする。。。(爆)


あ・・・
私の住んでいる所は結構大きな揺れがあったのですが、
きえさんのところは地震大丈夫でしたか?
Re: Σ(- -ノ)ノ エェ!?
コメントきえ | URL | 2011-03-12-Sat 07:27 [編集]
らぅら様
おはようございます。

> お相手は恵亮?!
> ってか、きえさんが竹島の事を忘れてたと書かれていましたが。。。
> 同じように、私もすっかり恵亮という存在を
> 忘れてました(~▽~;) アハッ

ただいまメインで活躍(?)している以外の登場人物なんて覚えていないわ~(`・ω・´)ノ(いばれない…)
次のお話を書くために過去の作品を読みまわしていると、あらあら、こんなところに~というのがいます。
そんなのを引っ張り出しています(笑)

> お相手の事はきえさんにお任せってお願いしたので
> かまいませんよぉ~♪
>
> どういうお話になるか楽しみです。
> 恵亮が出てきた事で、ドタバタになるような気がする。。。(爆)

賑やかな子ですからね~。
えぇ。どんな話にしようかしら(え?!)

> あ・・・
> 私の住んでいる所は結構大きな揺れがあったのですが、
> きえさんのところは地震大丈夫でしたか?

地震発生直後から停電でした。
夜中の2時前に復旧してくれました。
スーパーも結構な数がすぐに営業停止になってしまい、…今日はどうなんでしょうね。
ご無事だったようで良かったです。
コメントありがとうございました。
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-03-12-Sat 23:30 [編集]
あー恵亮くんだー
色々あったけどこの子もいい子だったよね
うんうん、誰かいい人紹介してあげたかったんだわ
そうするとこのsouが運命の扉なのかな
わくわく
どうなっていくのか楽しみ
Re: No title
コメントきえ | URL | 2011-03-13-Sun 07:52 [編集]
甲斐様
こちらにもどうもです。

> あー恵亮くんだー
> 色々あったけどこの子もいい子だったよね
> うんうん、誰かいい人紹介してあげたかったんだわ
> そうするとこのsouが運命の扉なのかな
> わくわく
> どうなっていくのか楽しみ

色々ありましたね(笑)
いい人…(汗)
>souが運命の扉
まぁ、確かにそうなんですけどね…。
えーと、まぁ…(ポリポリ)
はい、気長に待ってください。
コメントありがとうございました。
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