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BLの丘
Door of fate 3
2011-03-16-Wed  CATEGORY: Door of fate
あまりジロジロ見るのも失礼だと、視線を反らすものの、一葉との親しげに話される会話は嫌でも耳に入ってきた。
どうやら大学生らしい。
「兄貴の車が車検で、俺の、乗って行かれちゃったの。久し振りに公共機関使ったら移動で疲れたよ」
車に乗りなれると、人ごみに対して苦手意識が働く気持ちは虎太郎も理解できるものだった。
交通の流れなど、不満に思うことがありはしても、少なくても自分の空間は確保できる。
「そういえば、磯部さんからメンテ案内の連絡もらってたなー」
突然、この場にはいない、見知った名前が飛び出して、虎太郎は今度こそマジマジと『恵亮くん』という大学生を見つめた。
虎太郎の反応を、一葉がクスクスと笑みを浮かべて返してくる。
「竹島さんは知らなかったですかね。所長に引き継いだお客さんなんです」
かつて一葉も営業をしていたわけだから、その頃の客人と面識があるのは当然のことで…。
今でも交流があることの方に少々驚いてしまったが。
あぁ、なるほど。だから見かけたことがあると思ったのか…。
「それはそれは。磯部と同じ営業所の者です」
人物が分かれば虎太郎も頭を下げた。
メンテ案内の件もあれば尚更丁寧になる。
「あ、ホントに?花園(はなぞの)です。後で磯部さんに連絡しますって伝えておいてください」
「いえ、磯部から連絡を入れさせますよ。それ、仕事ですから」
「じゃあ頼もうかな」
簡単な挨拶だけを済ませて、花園は再び一葉との会話を始めた。
二人の会話に時折混じりながら、だけど一葉の傍に立つ男は寡黙なようで、自ら話に加わってくるようなことはしなかった。

磯部が絶賛していたコーヒーをゆっくりと味わう。
花園の登場で多少の賑やかさが店内に広がったが、本来、この店は静かな雰囲気で過ごせるのだろう。
居心地の良さを覚え、また来ようと自然と思える。
外回りの磯部が、つい立ち寄ってしまう理由が理解できた。
花園からポンポンと飛び出す軽快な語りを耳に入れながら、コーヒーを飲み干すと、一葉に「また寄るよ」と告げて店を出た。
確かに、あの味を口に入れた後に、自分が淹れたインスタントコーヒーは飲みたくないものかもしれない…。

1週間ほど経過したあと、一日の作業を終えて事務所に戻った虎太郎は、メンテナンスの予定表に『花園』という名前が書き込まれているのを発見した。
実際に来店してくれるのはまだ先の話だが、直接客の顔を見ることもない虎太郎にとっては、知り合いがやってくるような親しみが生まれた。
「所長。花園さんのメンテ、予約取れたんですね」
事務所のデスクで残務処理を行っていた磯部に確認すると、「んぁ?」顔を上げてくる。
自分が連絡係の一端を担っただけに、嬉しさもあった。
「あぁ、花園さんね。まあ、予約も変更することが多いからな~。確実じゃないけど」
「そうなんですか。でもいずれメンテにくることは間違いないでしょ」
「まぁな。竹島、会ったことあるんだっけ」
「はい、一葉君のお店で偶然」
磯部に連絡を入れてもらうよう頼んだ時に、先日の出来事をかいつまんで聞かせた記憶はある。
売り上げが取れると思えば些細なことにでも飛び付くのが営業だった。
それに一枚絡めたような嬉しい感覚も湧いていた。
「朝比奈の面子をいまでも立ててくれているような子だよ。若いのに感心だ」
一度会っただけでは元気さが取り柄のような面しか見られなかった。
押しが強そうだな、というのはもちろん感じられたけれど、世間体を保ってくれるような性格までは見抜けもしない。
「へぇ…」
一葉繋がりでこの作業が手に入れられるのかと分かれば、余計に一葉との縁を切りたくない磯部の気持ちも察することができる。
他人任せなのはまぁ、否めないけど…。

花園自身の車だと聞いていたから、来店するのは当然本人だと思っていた。
だが実際に車を運んできたのは、彼の兄だというスーツを着こなした男だった。
営業所が開店したばかりの朝一番のメンテナンスの予定だったが、30分ほど遅れると連絡が入ったらしい。
店内の接客スペースに座った男のそばに虎太郎は近付いた。
虎太郎と同じ年くらいにも見えるが、髪を後ろに梳いた髪形のせいだろうか。大人っぽくも見える。
花園も目鼻立ちが整った顔つきをしていた。
目の前の男も似たパーツを持ちはするものの、若さからくる元気な花園とは対照的に洗練され落ち着いた雰囲気が伺えた。
「昨夜夜遊びをしたせいで、すっかり眠ってしまって。遅れてすみませんでした」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「遊びたい盛りか、困ったもので…」
兄弟、というより、保護者に近い物言いだった。
実際、見た目の年齢からも、けっこうな歳が離れているのだろう。
一人っ子で育った虎太郎は、歳が近そうなのに見た目以上にしっかりしていそうな態度に少し驚かされる。
車の状態を聞き、鍵を受け取った虎太郎に、「すみませんが少し出てきます。終わったら置いておいて貰っても良いでしょうか?」と問いかけてきた。
仕事中なのだろうか。
必要があれば代車も用意できるが、突然のことに配車がどのようになっているのか、即座に判断できない。
「えぇ。もちろん構いませんけど。代車の確認、してきましょうか?」
「いえ。実は知人を待たせているんです。恵亮のことを口実にしてなんなのですが、ちょっと…」
曖昧に言葉を濁したことで、仕事を抜け出しているのだと直感で感じた。
伊達に磯部などの営業を相手に育っていない。
「そうですか。1時間ほどで終わりますからそれ以降であればいつでも引き取りにきてください」
立ち去っていく後姿を見送りながら、少々不思議な気分の虎太郎だった。
だって、何も、初対面の自分に理由まで言っていく必要はないじゃないか…と。
誤魔化されているのだから『理由』にはなっていないのかもしれないけれど…。
案外、隠し事のできない素直な人なのかもしれない、と内心で呟きながら、虎太郎は仕事に戻った。

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コメント

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No title
コメントらぅら | URL | 2011-03-17-Thu 01:52 [編集]
Σヽ(゚Д゚○)ノ 恵亮の兄貴が出てきた(笑)
まさか?!( ̄≠ ̄)クチチャック♪(なのか?w)

何か頭の中でいろんな妄想しちゃってます(爆)


一葉がちょっとだけ大人に見えたのは私だけでしょうか。。。w
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-03-17-Thu 07:02 [編集]
らぅら様
おはようございます。

> Σヽ(゚Д゚○)ノ 恵亮の兄貴が出てきた(笑)
> まさか?!( ̄≠ ̄)クチチャック♪(なのか?w)
>
> 何か頭の中でいろんな妄想しちゃってます(爆)

いっぱい妄想しててくださーい(笑)
登場人物増えた~。
はぃ、まぁね。いろいろ流れ的に…ゴニョゴニョ

> 一葉がちょっとだけ大人に見えたのは私だけでしょうか。。。w

一葉、成長しました~(爆)
ちびっこ番外でしか登場していませんからね~。
イメージがまた変わるのでしょうが。
安住の教育の賜物でしょう。
コメントありがとうございました。
No title
コメントきえ | URL | 2011-03-17-Thu 07:04 [編集]
s様
おはようございます。

>竹島くんの相手は???恵亮君かと思ったら、お兄さん?での、やっぱり恵亮君かな?続き楽しみです(*^^)v

いろいろ悩んで(?)おりますけど…(´∀`;)
皆様のイメージを壊しちゃうかなぁ。
私の中の竹島は受け子ちゃんなんだけどなぁ…。
コメントありがとうございました。
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