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BLの丘
病める時も 健やかなる時も 8
2013-11-28-Thu  CATEGORY: 新しい家族
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。

 会社のデスクの上に、山となるほど旅行パンフレットがあった。大半は自由旅行の見積書だったけれど…。
 真剣に和紀が『新婚旅行』を考えているのは嫌でも知れて…。でも恥ずかしくて、日生は何も口が出せなかった。

 いざ辿りついた南の楽園。太陽の日差しは強くても湿度はあまりなく、からりとしており、エメラルドグリーンの海が島全体を囲んでいる。
 民間人の電動ボートで行き交うことができるほど近くに『島』があるのに、そこに留まれる人間は限られていた。乗船するにあたり、島への滞在許可証が必要なところが、変なセキュリティシステムを感じてしまう。
 すぐそばの本島には、世界中に名を馳せるほどの高級ホテルが並んでいる。
 和紀はわざとそこを選ばずに、小さな離島のホテルを選んでいた。
 島のホテル…というよりはヴィラだ。到着したのは夕方で、西日の夕焼けが部屋全体に注ぎ込んでくる。
 この小さな島全部がホテルと言ったほうが正しいだろうか。宮殿のような建物がひとつ。そこから伸びるヴィラがある。一つの建物からつながっているところが、このホテルの売りなのだろうか。
 小島は、観光客でにぎわう。だけど部屋に籠ってしまえば静寂に包まれる。それほど、離島に渡る人間は少ない。
 だが、観光客のために店も揃えられていて、衣食、何一つ困ることはなかった。
 この島に来る人のほとんどは宮殿のようなホテルに泊まる。ヴィラに滞在する人のほうが稀と言うべきか。ランクの上の高級感を漂わせると言うのか…。

 移動の疲れもあって、初夜は部屋の中で過ごした。
 届けられるディナーは地元の魚介類をふんだんに使った豪華なもので、何もしないで済むことに日生は戸惑ってしまう。
 家でも食事の準備は清音に頼んでいても最終的に用意するのは日生だったからだ。
「全てを任せればいい」
 落ちついた声音が、落ちつかない日生を宥める。
 ダイニングテーブルに全てを整えると、こんがりと肌を焼いた色の黒いボーイは静かにさがっていった。民族衣装なのか、オレンジ色の生地に幾何学模様が飾られた全身を覆う衣装は、艶やかなのに厳かなイメージが漂う。日本人女性が身につける着物のようでもあるが、丈は短いし、脛までのパンツを合わせているところは上下があるのだと知らされた。
 作務衣や甚平とも違う…となぜかマジマジと見てしまった日生だ。
 テーブルの上にはサーモンのカルパッチョから始まる前菜と、白身魚のムニエル、地元豚をしゃぶしゃぶにする鍋が小さな炎の上に乗っている。日本人好みにしたのか、巻き寿司まであって、少し笑ってしまう。
 ここまできて、それはなくてもいいのに…。
 だけど口に入れてみれば、慣れ親しんだ味があってとても美味しかった。少し意外のある眉をひそめる品もあったけれど…。

 大きな窓の外にまだ暮れない夕焼けが広がる。
 雲ひとつない、想像以上に大きな太陽が海に沈んでいく姿が、とても幻想的だった。普段、ビルに囲まれているせいだろうか。
 空は茜色から群青色のグラデーションを広げている。東の空はすでに闇夜に包まれる。電飾がないぶん、空に瞬く星が良く見えた。
 海に面した窓の外は、誰も通らないと分かるから、カーテンも開けっ放しだ。差し込んでくる月あかりが、澄んだ空気を思わせてくれる。
 暑い国のはずなのに、この透明感は、汚れるものがない証拠だろう。人も、ものも…。

 夕食の片づけを頼むと、陸と繋がった桟橋から人が現れる。部屋担当なのだろうか。先程見た男がニッコリと微笑みながら部屋に入って、素早く片付けていった。
 翌朝の朝食の時間を聞かれて、和紀は本館ホテルのダイニングを利用するから、こちらの用意はいらないと答えていた。
 誰にも邪魔をされないために…。

 海に面したジャグジーに誘われて、日生は大人しく衣類を脱いだ。
 部屋を囲むように幾つか置かれた蝋燭の炎が温かく見守ってくれる。他は、月から照らされる明かりがあるだけだ。
 暗いはずなのに、自然光でここまで明るくなれるのだろうかと、改めて感心した。
 もう、何度も和紀とは体を重ねたはずなのに、恥ずかしさが湧きあがるのは、異国の地だからなのか、和紀が『新婚旅行』などと言ってくれたせいだろうか…。
 一緒にシャワーを浴びて、一緒にジャグジーに身を沈める。
 薄暗さがあるからなのか、不安と好奇心で自然と和紀に裸体が寄せられた。
 和紀は日生の背中を背後から抱き、項に唇を寄せてくる。たったそれだけでビクビクと体が反応してしまう。
 いやらしく浅ましい体なのかと思えば、「普通だ」と言われて、和紀以外の経験がない日生は素直に体から力を抜き弛緩させた。
 和紀の膝で広げられた秘部にお湯が入り込んで、身を捩る。
 指を当てられては弾けるように体が震えた。
 この後になにがくるのかは充分承知していた。
 快楽だけの中で育てられた…。
 怖いものなど、何一つないから安心して身を委ねることができる。顔を後ろに向ければ幾度もくちづけの嵐が降り注がれる。
 共に過ごせる時間が、なんとも言えない愛おしいものに思えた。
 和紀の掌が胸の尖りを撫でては抓んで捏ねるように動く。もう片方の手は後孔を解すように少しずつ差しこまれてくる。
 それだけで充分なほど体が昂ってしまう。
「あ…、わ、…くん…」
「のぼせそう?」
 決して熱すぎる湯ではないし、長時間入っているわけでもない。心と体に入ってくる愛情に溺れそうになっている。

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病める時も 健やかなる時も 7
2013-11-27-Wed  CATEGORY: 新しい家族
 日生の記憶の中に残っている親といえば父親だけだった。それも酷い虐待を受けただけの記憶…。
 そばにいなかったから、母親のことはすんなりと受け入れられたのかもしれない。
 しかし、和紀の動揺と脅えは、母親に縋る危機感とは全く違うものを表していた。
 あの父に、何かがあったと、嫌でも知らされる。
「和紀、くん…?」
 絶対に聞きたくない内容が待っているのだろう。
 それでも深く踏み込んでしまったのは日生で、ここで曖昧にされたくない気持ちが湧きおこる。
「おし…えて…。生きているのか、死んでいるのかだけでもいい…。僕のお父さんは、周防さんだけだよ…。それだけは変わらない…」
 どうしてここまでこだわるのか、日生自身、理解できない心の闇があった。
 聞いたからといってどうなるわけではない。いっそのこと、死んでくれていたら、自業自得だと開き直れただろうか…。
 だが、和紀の躊躇いは、まだ生きていることを物語っていた。
 和紀自身、開き直ることなどできないのだろう。
 もう、これ以上、抱え込まなくていいとこちらが気遣ってしまう。
 日生を守るために、和紀も周防も、どれだけの労力を酷使したのだろうか…。
 その苦労が分かるから、真実を知るだけでいいと、改めて思ってしまう。

 抱きしめられる腕の力は、何かの願い…。
 抱えているものの大きさを尚、感じるから、もう和紀に堪えさせるようなことはしたくなかった。
 ずっと、背負っていかなくていい…。

 だから日生は、言葉を紡ぎ出す。
「『父』にしなかった理由があるんでしょ? 何をどうしたら、そうできるのかは分からないけれど、僕の本当のお父さんは周防さんだけだよ。それだけは、絶対に、言えるから…」
 今更、どんなツラを見せられたって嫌悪するのは確かだろう。恐怖におびえて過ごした日々が甦れば、身震いもする。
 温かくて、優しくて、厳しくても日生のためを思って手を尽くしてくれた感謝の気持ちだけは、どんなことがあっても覆ることはない。
 さっき和紀が言ってくれた『ひなは三隅家の子』というのが、何よりの絆の深さだと思える。

 小さなため息は三良坂から吐き出されたものだ。
「和紀…、もう、いいだろう? ここまで話したんだ。この世の誰が"あの男"の存在を知らなくても、今、教えてやらずに後々知ることになった時、日生君がいかに心に衝撃を負うかを考えろ…。こればかりは、和紀から教えてやった方がいい…」
 それはまるで、"兄"が"弟"を諭すようにも聞こえた。
 きっと、和紀以外の第三者は決して口を割らない。特別な領域。
 今は抱きしめて癒してくれる"和紀"という存在がある。
 和紀から聞いたことだけを、"真実"と受け止められる日生の心情を理解してくれているものだからこその発言なのか…。
 躊躇った和紀が、今日、初めてというくらいに縋る目で三良坂を伺った。
 これまでのやりとりを見ていたからなのか、和紀に返された三良坂の返事は、力強く頷くだけのものだった。

 背を押されたように、和紀が巣食っていた躊躇いを剥ぎ取る。
 でも前置きだけは忘れなかった。
「親父を…、恨まないでくれ…」
 囁くように告げられた意味が、日生には理解できない。
…恨む…? どうしたら周防を恨むことなどできようか…。
 もしも隠した酷いものがあったとしても、日生が笑って過ごせた日々を振り返ったら、そんな感情はどうひっくり返ったって芽生えることはない。
 過ぎた本当の両親よりも、ずっと『親』だった。

「親父は、将来のひなのためを思って選択肢を残し『阿武』と名乗らせていても、あの男だけは許せなかったんだ…。父親なんていう資格はない…。だから戸籍からも血縁は抹消させた。最初から、どこかから拾ってしまった子供にしてしまえば、両父母の名前は記さなくていい。年月が経っていたから、強引にでっちあげさせた…というほうかな…。あくまでも、"たまたま育てていた期間"にしたんだ…」
 言いづらそうな発言は、嘘ではなく、日生を気遣ってのことなのだと知る。
 本当の親でなければ、虐待された過去も、血縁がないからと納得できるかと思ったからなのだろうか。日生の曖昧な記憶をうまく利用した。
 三隅家で育てられていた期間が"里親里子"というものだと知ったのもこの時だ。
 周防が戸籍を三隅に変えてほしいと慌てさせたのも、真実を知られたくなかったからなのか…。和紀と一緒になれば、余程のことがない限り、戸籍を確認することはなくなる。
「日生君がもう少し小さかったら『特別養子縁組』として完全に実親の名前を消すことができた。だけど三隅さんは『八歳』と言った君の年を信じて、年齢までは誤魔化さなかった…」
 まるで補足するように三良坂が付け加えてくれる。
 そのため、実親を想像させない『養父』という措置に収めることにした…。

 ただでさえ混乱した頭の中、難しいことまでは理解に苦しんだが、全てが日生を思ってのことだと判断するのは容易かった。
 どれほど、周りを巻き込んだ騒動だったのだろうか…。
「じゃあ…"あの人"は…?」
 今となっては、『おとうさん』と呼ぶことはできなかった。全ての人間から蔑まれた人は、本当の意味で、『父親』ではないのだろう。
 またもや躊躇った和紀がいたが、一度深く瞼を下ろして考えてから、また日生を強く抱く。
「親父を責めるなら、俺も一緒に恨んでくれていい…」
 秘密を共有した、意味でだろうか…。
 不安に震える和紀を、今度ばかりは日生が宥めた。
「僕が知りたいのは、本当のことだけ…。大事なのは、和紀くんと周防さんだけだよ…。どんなことがあっても、周防さんと和紀くんは正しかった…」

「親父は、あの男を奈義さんに引き渡したんだ…。二度とひなに会わせないために…」
 ドクンっと心臓が跳ねる。
 奈義の職業は充分なほど承知していた。きっと、人、一人処分することくらいわけもない人種だ。
「殺した…ってこと…?」
 現実の恐ろしさを震える口で問い返したら、苦笑したのは和紀で、高笑いしたのが三良坂で…、静かに視線で三良坂を睨みつけていたのが哲多だった。
「いくらなんでも、親父はそこまで落ちていないよ。ただ、日本へ渡らないように海外に出稼ぎに行かせただけだ」
「男が背負った借金を、しっかり取り立てていたってことだな。死んだら一円も取れない」
「世羅…。笑い話じゃないんだよ…」

…決して上陸させるな…。
 ほとんど、遺言のようなものだったとか…。
 奈義の監視下におくことで、言わずと行方は知れてくる。日生が会うことはない。
 父親が背負った借金のために三隅家の財産を食いつぶしたと思っていたものは、『働き口を与えて取り立てていた』と聞いてホッとしてしまったらいけないだろうか…。

 15歳というまだ少女を孕ませたことも周防には憤りとして追い打ちをかけるものでしかなかった。
 周防にしてみたら、児童虐待と一括りにしてしまえる内容だった。
 本当だったら、殺してしまいたいほど恨んでくれたのかもしれない。
 他人なのにそれだけの感情を生みだしてくれたことに心底感謝する。
 そう思うと、燻っていた日生の気持ちも、澄んで晴れ渡っていく気分になれた。
…やっぱり『親』は周防だけだ…。そして、『恋人』は和紀だけだ…。
 最後に日生は全員に頭を下げた。
「話してくれてありがとうございました」

 和紀が話したがらなかったのは周防が絡み過ぎていたからだ。周防がどんな仕打ちをしたのか、その話をすることで日生の印象が変わってしまうことを恐れたからに他ならない。
 もう、この先、和紀を悩ませたりしない。
 すっきりとした日生に、不安な表情も、燻った感情もない。
 これから先が、自分たちの全て…。
 日生の気持ちが分かるのか、胸を撫で下ろした人たちが見えた。

 玄関先でにこやかに微笑む哲多と厭味ったらしく笑う三良坂に見送られる。
「新婚旅行、楽しんできてね」
「『新婚旅行』?!」
「おまえは黙ってろっ」
 単に『旅行に行くので留守にします』と日生が伝えた内容は、詳しくを語らなくても通じてしまうのか…。
 動きが機敏なはずの体格の良い男が簡単に蹴られている風景が、やっぱり懐かしさを漂わせた。
 赤くなる日生と、堂々と立ち振る舞う和紀。
 いつまでもこの空間の中でいたい、と強く熱望する自分を知って、日生は今の幸せを噛みしめずにはいられない。

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やっと回想編(?)が終わります。
一部の読者様からお寄せいただいた疑問点など、解消できたでしょうか。
次からは待たせに待たせた、日生と和紀の…イチャイチャ、なんですが。
今週、来週とかなりの多忙スケジュールとなっておりまして…。
そのために、アンケートの締め切りを12/10に設定し、だけど、前倒しで、ここまで書いちゃった…状態でした。
(まぁ、私の体的には余裕が出来たところもあったのですが。つか、すっかり気が抜けた…。これはイカン。)
それなので、明日以降の定時更新は、まず、ないと思っていてください。
また何か書け次第、寄らせてもらいますね。

あと、400,000hit 踏まれた方、いらっしゃったら、ご来店感謝プレゼントを差し上げたいと思います。
(ダメな方は、現在運良く"アンケート"というものが貼られているので、うまく利用してください)
毎度毎度 たくさんのお客様、本当にありがとうございます。


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病める時も 健やかなる時も 6
2013-11-26-Tue  CATEGORY: 新しい家族
 強く抱きしめてくれる腕は、まるで和紀の不安を示しているようだ。
 日生は迂闊にも興味を持ってしまったことを悪かったと反省しているのだが、溢れてくる疑問に勝てなかった。
 以前の自分は、こんなにも和紀を苦しめたり悲しませることはしなかったはずだ。それを避けてきたから、和紀が「忘れろ」と言ったなら従ってきたはずなのに、今はどうしてだろう。それができない。
 こんな我が儘を言う人間ではなかった…。全ては和紀が日生を甘やかしまくって、言いたいことは口にして、と教えてきたからだろうか。
 何もこんなところで実践されなくてもいいのに…と、日生自身が思ってしまう。
「わ、きく…、ごめんね…。ごめんね…」
 日生も和紀の胸に顔をうずめながら、どうして良いのか分からずに呟くだけだった。
 和紀が傷ついたり、もしくはここで全てが終了してしまうくらいなら、知らなくていいことのはずだった。
 和紀は幾度も頭を横に振りながら、掻き抱く腕の力を緩めようとしない。
「ひなが謝ることじゃない…。きちんと言わなかった俺たちが悪いんだ…」
『俺たち』とは、やはり自分以外の人間は、真実を知っていた、ということなのだろう。
 しかし、まだ躊躇いを持つ和紀を肌越しに感じる。
 初めて母親の存在を聞いた時も、和紀は躊躇していた。それから『いない』とだけ教えてくれた。
 あの時は納得したはずなのに…。

「……俺は、ひなが親の存在を知ったら、離れていくんじゃないかって脅えてた…」
 和紀がポツリと吐き出す。
 心の葛藤が和紀の中で渦巻いていたことを知らされる。
 親を追い掛けたことで、見捨てられるのではないかと不安になっていたのは日生も同じだった。
 日生は和紀にしがみつきながら、大きくかぶりを振った。
「ないよ…っ、やだよっ、和紀くんっ」
「あぁ…」
 日生がどれほど生みの親をあてにしていないかなど、長年過ごしてきた日々で承知しているだろうに。
 それでも気が引かれてしまうのは、見えない血の濃さなのだろうか。
 いや、自分の生い立ちをはっきりと知りたかっただけの"興味"だ。それ以上でもそれ以下でもない。
 今の生活に亀裂が生じるくらいなら、闇に葬ってもらった方が良いのは決まっている。
 日生がそれを伝えようとするタイミングを待たずに、和紀のほうが口を開いた。
 きっと、日生の心情を汲み取ってくれたのだ。
 また、日生が離れていかないことに賭けた結果か…。
「ひなの母親は生きているよ…。嘘をついて、ごめん…」
 和紀の嘘は、日生を守るためだったと、はっきりと分かる。日生が必要以上に心に傷を負わないように、予防線を張った結果だった。
 存在しないと知れば、追求することもないと考えたのは、考えが甘かったのかもしれない。

 日生は「どこで?」とは聞けなかった。それこそが親を追いかけることに繋がってしまう。
 和紀は日生が口を噤んだことで、また耐えて我慢する気持ちを感受するのか、一度額に唇を寄せた後、やはり宥めるように背を指先で叩いた。
「新しい家庭を持っている…」
 胸の中に、大きな鉛が落ちてきたような衝撃が日生を襲った。
 ガクガクと体が震えるのが止められない。
 一目の記憶もない、自分を捨てた女性は、どこかで幸せに暮らしている、というのだろうか…。
 日生を捨てたのに…。
 視線の先が何を捉えて良いのか分からない愕然とした状態の日生に、和紀が力強く飛び込んでくる。
「ひなっ、ひなっ、俺がいるだろうっ!! 考えるなっ。ひなは三隅の子なんだっ。俺と一緒に幸せになるんだよっ」
 鉛を融かすように心に沁みてくる和紀の言葉に、現実に向き直る。
 母親が捨ててくれたから、日生は和紀と出会えて結ばれた。そう考えるべきなのだろう。
 和紀が何故に脅えたのかが良く分かる。こうして日生の気が、他人の家族にそれることを危惧していた。もし逆の立場で、日生だけを見てくれた和紀が、他のことに気を取られるのは耐えられない。
 今があればいいと望んだのは日生自身だ。
 日生が潤んだ瞳を和紀の胸に押し付け、幾度も頷いて同意を表す。
 和紀は日生に覆いかぶさるようにギュッと抱きしめてきた。
「ひな…、頼むから…」
 先程の力強い口調とは裏腹に、和紀の声がどこか震えているように聞こえるのは、気のせいだろうか…。
 和紀を不安にさせてはいけない…。
 自分がどれほどの恩恵を受けて育てられたかを思い返せば、自分が取った行動は、恩を仇で返しているようなものだった。
「和紀くん…、ごめんね…、ごめんなさい…」
 それから、「絶対に離れないから…」と誓った。

 もうこれ以上、振り返ることも考えることもしないから、と、全てを洗いざらい話してくれるよう希望した。
 きっと、胸につかえたままでは和紀だって苦しみ続ける。それなら、ふたりして過去を知り合い、すっきりと水に流してしまえる気がしたのだ。
 和紀の真剣な眼差しを見たら、不安定だった心がひどく落ちついていった。
 ただの話を聞くだけ…。
 自分に降りかかった災難を聞くのではなく、他人の人生を又聞きするだけのこと…。

 日生の母親が日生を生んだのは15歳の時だったそうだ。簡単にできてしまった子供は簡単に捨てることができた。
 遊び盛りの女の子にとって、至極当然の行動だったようにも思えてくる。
 同棲していた男、日生の父親がいたから、それも彼女に後ろめたさを持たせなかったのかもしれない。
 たぶん彼女は日生を生んだ記憶すら曖昧なのかもしれない。それもまた、闇に葬った件で、思い出しもしなかったのだろう。
 そして月日を経て、やっと安心できる住処を見つけることができたのだろうか。
…今が幸せなら…。
 日生は自分が極上の幸せの中にいることを胸にいだき、また和紀にしがみついた。
 逆に言い寄られる方が恐ろしい。
 幼い頃、淋しがる日生をこうしていつも抱きしめてくれた時期があった。
 でもあの頃とは違う。愛しい人とそばにいられる安堵感が漂う。
 断ち切る、ことが全てだと悟ったのは一瞬だ。もし、何かの間違いで、あの女が日生を縋ってきても、日生は応じない。
 和紀を守るためにも…。
 そこの強みは、弁護士が引き継いでくれた。

 日生に知らせられなかったように、女も日生など知らないだろう。それでいいと思う。
 もしかしたら、どこかで死体として上がらなかったから、安心して忘れられたのだろうか。
 もう一つ気になったのは『養父』と記された父親のことだった。
 だがこちらは、尋ねた途端、和紀だけではない、部屋全体の空気が重くなるのが感じられた。抱きついた和紀の体が強張る。
 息を飲んだ三良坂の息遣いまで、沈黙していた空間ではっきりと聞こえたと思った。
 もしかしたら重要性があったのはこちらだったのではないか…。
 血のつながりがある、と先程言葉にされたが、書類面は違っている。
 日生は恐る恐る顔を上げて和紀を見やった。
 苦渋に歪んだ和紀の唇は硬く結ばれたままで、苦しそうに首を振られた。
「ひな…。だめだ…。……それだけは、…答えられない……」
 途切れ途切れの言葉が、殊更、重く圧し掛かってきた。

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病める時も 健やかなる時も 5
2013-11-25-Mon  CATEGORY: 新しい家族
「世羅…」
 哲多の咎める声が玄関先で響く。哲多は三良坂が言いかけることを制止しようとしているのが日生にもすぐ伝わってきた。
 聞きたいことを答えてはくれなさそうな態度だ。
 だが日生は、「何が聞きたいんだ?」と逆に問い掛けてくれた三良坂に向き合ってしまう。
「僕の戸籍が本当になかったのかどうなのか…。この前、戸籍をとったら、一応父親の名前だけあって、誕生日もきちんと表記されていたんです。でも、本当の父親なのかも分からない。両親のことも…、和紀くんは、僕にもお母さんはいたけれど、『もういない』って言ってたから、本当なのかな、って…」
「和紀君がそう言ったのなら、それでいいじゃないか」
「でも…」
 言い淀む日生に、やっぱり結局は告げる気がない態度でバッサリと終了されてしまう。
 戸籍にない『母親』を、どうやって探したのだろう…。
 視線を足元に落としながら、玄関扉を開けて外に出ていく気にはなれなかった。
 双方でため息を吐きだし、しばらくの沈黙が流れた後、三良坂は「上がってこいよ」と日生を促して背中を向けた。
「世羅っ」
 奥へと消えていく三良坂に向かって哲多が怒鳴り声を上げたが、あちらも聞く耳は持っていないようだった。
「美星、茶、淹れてくれ」
 三良坂は一度、応接室となったリビングに入ったが、すぐに出てくると、廊下から自分の事務室扱いになっている個室に入ってしまった。
 体が大きい割に素早く動く姿を呆然と眺めるだけの日生と哲多は、同時に顔を見合わせてしまう。

 この家は、昔住んでいたとはいえ、かなり改築されている。廊下の片側にある続きの狭い二間は中の壁が取り壊され、事務員が勤務する事務所に変わり、残りの部屋をそれぞれの個室としていた。
 今はすでに事務員も帰ってしまっているので、住人の三良坂と哲多しかいない。
 自分たちが『主寝室』として使われた部屋が、彼らのプライベートルームになっているようだが、13畳ほどの部屋を仮に仕切っていたなら、それはそれで狭いのではないか、と過ったこともある。
 部屋の全体が仕事関連に埋め尽くされては、仕方がないことなのかもしれないが…。

「あ…あの、…怒らせちゃったんでしょうか…」
 自分で聞いておきながら不安になった日生がおずおずと哲多を伺い見ると、「そんなことはないだろうけれど」と肩をすくめるように笑って、哲多も動き出した。
 顎先でクイッと方向を示されて、正面のリビングに向かう。
「お邪魔します…」
 日生も靴を脱いで、哲多の後に従った。

 和紀が飛び込むようにしてやってきたのはすぐのことだった。
 たぶん、個室に入った三良坂が連絡をしたのだろう。隣から移動してくるだけなのだから、時間がかかることもない。
 こんな時に、便利なのか不都合なのかと思ってしまう。
 革張りの座り心地の良い大きなソファに座って紅茶を啜っていた時で、和紀の顔は少々強張っているように見えた。
 正面に座っていた三良坂が「おぉ、来たか」と鷹揚に構えて和紀を見上げる。
「ひな?」
 和紀は三良坂にたいした挨拶もせず、まっすぐに日生の隣に座り込んできた。
 先に家に帰っていた和紀はすでに軽装に着替え終わっていた。
 一言報告するだけだから、と日生が立ち寄っただけで、まさか三良坂から連絡が来るとは露ほども思っていなかったはずだ。
 手を伸ばしてきては日生の髪をひと撫でする。

 座った和紀とは対照的に哲多が立ち上がり、完全に仕切られたダイニングキッチンへと向かおうとする背後で、三良坂が煙草を取り出したのを「禁煙っ!」と強い口調で制していた。
 途端に三良坂は口を尖らせる。
「いーじゃねーかよ…。客らしい客でもないんだから…」
「そーいう問題じゃないっ」
「世羅さん、ひなの出生について…って?」
 ふたりのやりとりなどどうでもいい和紀は、矢継ぎ早に話を進める。
 電話で具体的な内容など聞かされていないのは一目瞭然だった。顔を見て直接話をしたほうが早いのは当然のことでもあるだろう。
「日生君が戸籍を取ってきた、と言って、和紀君だけではなく、こちらからも説明してほしいそうだ。さて、俺は何を話したらいい?」
 和紀がどこまで話したのか、具体的なことが分からないだけに三良坂は口を閉じたのだろう。
『和紀君がそう言ったのなら、それでいいじゃないか』…。先程の言葉が頭に甦る。
 和紀を疑わずに信じれば良いだけのこと。
 日生も充分理解しているつもりでも、一度燻ってしまった過去は、なかなか綺麗に納得できずにいた部分があった。
 それが三良坂に聞いてみたい衝動になってしまった。
『何を話したらいい?』と逆に尋ねた三良坂に、日生はそんなにいくつも隠されたものがあるのかと三良坂に視線を投げてしまう。それとも、彼も本当に知らないのだろうか。
「ひな?」
 和紀はまた日生を見下ろしてくる。
 その眼差しは、何が疑問なのかと問うているものでもあった。
 半ば脅えを含ませながら、日生は和紀に向かって口を開く。
「ぼ、僕、見たことがなかったから、どんなものなのかって知りたくて、役所に行って来たんだ…」
 最初はただの好奇心だった。自分の存在がどのように表記されているかの…。
 移籍が決定した頃の日生は、和紀と周防に全てを任せて信じ切っていた。
「手続きを済ませた」と言われて、確かチラッとだけ見た記憶があるが、じっくり見るほど興味がなかったのが本当のところだった。
『三隅日生』とあったことだけ記憶しており、それを素直に喜んでいた。
 同じ用紙だったのか、それすら覚えていない。
 渡された戸籍謄本を見るまで、父親の名前すら知らなかったと言っていい。その父親すら『養父』だった。母親の記載は何一つなかったが、他の項目は全て埋まっており、最初から存在していたかのような記述に疑惑が過ったのは言うまでもない。
「ひな…」
 和紀は人目も憚らず、日生を胸の中に抱きこんで宥めるように髪と背中を撫でた。
 不安にさせた原因の一端が自分にあるのを認め、また後悔しているようにも感じられた。
 目の前のふたりは、和紀が口を開くまで、静観するようだ。
 
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詳しく調べていないので、誤解を招く記述があるかもしれません。
どうか現実の法律と照らし合わせずに、空想上のものとして読み進めていただけると嬉しいです。


『もみじの彩り』に写真を貼り付けてきました。興味のある方は覗いてみてください。
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病める時も 健やかなる時も 4
2013-11-24-Sun  CATEGORY: 新しい家族
「親父と清音さんは、あと数百年たったって、結婚なんかしないよ…」
 日生が疑問に思っていたことをポツリとつぶやいても、嫌悪のひとつもなく、和紀は答えてくれた。
 ふたりには、ふたりなりの思う立場があったのだと。
 数百年…。たぶん、一生、ありえないことなのだろう。
「清音さんは、俺の母さんの『姉』だったひとなんだ。ふたりとも施設育ちだから、血のつながりなんてない。でもそんなものより"濃い"意味を知るだろう?」
 和紀に問いかけられて、すぐに頷いてしまう。
 日生の元に寄る人間は、どれもこれも、血縁関係なんてなかった。
 まず、日生がその一人だ。
 戸籍も血縁も意味がないものだと一番知っているのかもしれない。

 和紀が話してくれたことは、とても穏やかな海に抱かれているようだった。
「清音さんにとって、母を親父が愛した一人の人としておきたかったんだ。それだけ愛された存在だと位置づけたかったんだ。大事な妹が、蔑まれることはないように。…誰も叶わない存在として残した。それが親父の再婚を阻んだのかもしれない。それに清音さんは、一番深いところまでは関わってはこなかったけれど、細かいところには行きついた。そこは完全に母親と親父の関係性をおもんばかって境界線をつけての踏み込みだったんだ。思考のひとつも、プレさせないためにも、家政婦で留まった。清音さんのプライドだと思ったら、誰も何も言えない。普通の女なら、図々しいくらいに飛び込んでくるよ。立ち位置も財産も知っているからな…。親父はまた、逆手に利用していたんだ。他の女などいらないと…。そうして、清音さんを守っていた…」

 何故、周防が再婚することがなかったのか…。その答えまで聞いた。
 他人をそばに寄せないとは、一番身近にいた人を好んでいたからだろう。想いを決して口にしなくても…。
 どこかで清音に他人との結婚話を持ちかけたとしても、断わってくれることが、周防にとっての安堵だったのかもしれない。
 奈義のことを不器用だと言ったが、周防だって充分、"不器用"だろう。
 今だから思えることで、深く繋がる、血はなくてもその存在感に身震いが起こる。大事にして守ることのすごさ。
 清音だけではない。自分もその一人。

 冷たい内容に聞こえるのに、とても温かい。
 …全ては、清音がそばにいてくれるから、周防は見せかけの『家族』を築いて、奈義を遠ざけたのか。
 さらに、『家族』を得たかった清音を救ったのだろうか。
 その半面で、やっぱり家族を欲しいとした奈義は見捨てることができなかった。本当はどちらも愛して…。表向きの抵抗を見せるしか出来なかった人。
 跡取りを残さなければいけない奈義の立場を、「気持ちがないのなら子供を道具に使うな」と諭したのも、きっと周防だろう。だから奈義は独身のままで生涯を閉じた。
 周防は和紀を育てるために労力を使ったが、奈義に同じようにできたかといったら疑問だ。
 きっと育てられないことを知っていた。だから、生ませなかった。それは隠した周防の希望だったのかも。
 本音を告げることはできないから、遠回しに拒んだ…。
 ひとつの感情を汲みとったら、愛する人の子供以外は望まなかった、奈義の抵抗でもあったのかもしれない。周防の子供だったら、喜んで育てたのだろうが。
 親から受け継いだ家紋は、極道の中、杯の一杯で他人に渡すことができていたのかもしれない。
 あの極道の世界で、純真な心を持った人だとは、誰も知らないだろう。
 だから奈義は、若い男を抱くことをやめなかった。種が蒔かれても成長はしない。
 なんて、不器用な人たちなんだと思う。


「ひな…。新婚旅行に行こうか…」
「え…?」
 突拍子もない言葉になんのことかと訝る声が上がってしまう。
 確かに、最初の会話は、この冬季休暇に、どこかの南国に行こうと言う話だった。
 いつの間にか、色々な方面に話が反れてしまったが、幾度もくちづけを寄せる和紀は、ずっと考えていたことがあったのだろう。
「ずっと、忙しさに感(かま)けて連れ出してやれなかったからな。式を上げて、指輪の交換もして…。良くないか…?」
 そう問われたら何故に反対が出来るだろう。
 全ては和紀が希望することだと分かるからこそ、余計に反論などできなくなる。
 何もかも、和紀の希望するとおりでいい…。
 従順な性格がそう思わせるのかもしれないが、本心から喜んだ出来事でもあった。
 日生がはっきりと望まない分、和紀から促してくれる。
 強引に従わされているのではない、日生が願うことを和紀が先取りして、準備してくれているだけだ。このあたりにも、意思の疎通の良さを感じてしまうのは、自惚れだろうか。

 年末までの時間を、和紀と日生は慌ただしく過ごした。
 海外貿易を主軸とする産業には、株価や円の取引も大きく影響して、決して息を抜けることなどなかった。
 それでも問題もなく乗りきったのは、昔から会社に仕えてくれた弁護士の存在が大きいだろう。世界中で取引条件は異なってくる。
「株式までは押し付けないでくださいよ」
 冗談なのだろうが、苦々しく口にするのは、隣の部屋に住む、40代の男だ。この年で190センチを越える人間は珍しいと思うのは偏見だろうか。
 それこそ専門家に任せている分野だと日生は笑った。
 和紀よりも年上の男は、その昔から双方父親に連れられて、親しんだ仲であり、和紀の"兄"という立場だったらしい。
 周防がいた昔の会社から携わる"息子"は、和紀同様、後釜を継いだ形となっている。立場上、年上でも雇われる立場にあったとして、堂々とした物腰は、不利益をもたらさないために必要な会話なのだろうから、誰もが大人しく聞く。
 すっかり隠居したはずの"元弁護士"、つまり、裁判官まで務めた司法会の彼の父親は、70代にして会社の動向を気にしてはいちいち口を出してくる、というが、それがありがたい。
 息子としてはウザったい存在なのだろうが、知った人間がそばにいてくれるのは、こちらとしても強みだった。
 息子はかなり、はっきりした性格だ。体格に表されるところがあるのだろう、がっちりとした態度も物腰も、人を平伏せるような部分がある。もちろん自信の表れであって、競争社会に生きていては、これくらいの雄弁さはほしいところだが…。
 反面、同居人の物腰の柔らかさが、全てを柔和に抑えてくれる。
 強面の息子が文句を言えば宥め、優男に見られる片割れが穏やかに相手を促し、また優しくも厳しく突っ込んでくる。
 決して意地悪なことを言っているわけではないが、理屈が通りすぎていて、綺麗男に傲慢男は逆らえなくなる様子だった。
 …なんか…いつかの誰かを見ているみたい…。
 ふと立ち寄った先で、日生は昔の誰かの姿を垣間見た気がした。
 もちろん、口にすることなどなかったが…。

 今日訪れたのは、年末年始を休暇にするという報告がてらだった。
 和紀は我が儘を通して、前後を増やす、12連休という、恐ろしい行程を組んだ。
 実質、2週間の休みとなる、これはどうなのだろうかと、頭を抱えた日生の意思はしっかり無視されている。

「有給休暇というのはありますからね」
 柔らかな眼差しの男は、聞いた話ににこやかに笑ってくれる。同居人と同い年の40代と言われて、大きな嘘があるだろうと、言葉にしなくても疑問に思ったのは日生だった。サラサラの髪を無理矢理整髪料で撫でつけてはいるが、いいところ、サバをよんだって30代の後半。哲多美星(てった びせい)は見る人からいったら、自分と歳は変わらない…。
 一方、株式を心配した強面男、三良坂世羅(みらさか せら)は、渋面をつくったままだ。
 歳は同い年だと聞いても、比べれば比べるほど、その身近さが感じられないのは、日生の対人面が薄すぎるせいだろうか…。
「少なくとも、ご自宅への侵入は徹底して阻みますからご安心を」
 留守中を預かってくれると言う。清音一人を残すことにも不安はあった。
 やっぱり穏やかな男の笑みで、年齢は誤魔化された感じはありはしても…。
 信頼を寄せる人たちしか出入りしないマンションの最上階に、少なからず安堵が過る。

 その安堵に日生は、先日聞いてしまったことが、ふとよみがえった。
 会社に良く、携わる人間だからこそ、周防とのことまで知っている。
 それは、日生のことも承知しているのだろうか…。
 少なくとも、弁護士が日生の戸籍を作る上で関わったことがあるとはすでに聞いている。
 秘密を守ってくれる弁護士だとは、随分昔からの付き合いで知れるところはあったけれど…。
 果たして聞いてしまってもいいのか。
 そのことで和紀が傷付くのだけは避けたい。
 だけど、巣食う気持ちが逸るのは何故なのだろう…。

「ひとつ、聞いていいですか…?」
 思わず声が漏れたのは、"会社"という上に立った、立場が口を開かせたのだろうか…。
…きっとこの人たちは知っている…。和紀が隠した全てを…。
 何事かと目を見開いた人は、静かに日生の次の言葉を待ってくれた。
「なんで、僕に、戸籍がなかったんですか…。僕の戸籍を作ったのは、あなたたち…? 本当は、僕の両親っているんでしょ…?」

 ひとつのため息が聞こえた。
「何が知りたいんだ…?」
 法律に詳しい、元弁護士の息子、そして三隅家の内情まで掴んだ現弁護士の三良坂は、この時にも、事実を伝えようかどうしようか悩んだ風情が見られた。 

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病める時も 健やかなる時も 3
2013-11-23-Sat  CATEGORY: 新しい家族
 抱きしめてくれる腕がある。幼い時から何も変わらない力強さは、常に日生を守ってくれるものだと信じられた。
「親のことが気になる?」
 和紀の覗きこまれて、一瞬、何と答えようかと戸惑う。
 気にならないと言ったらウソになる。しかし、最初から親なんていなかったような日生にとって、今更気にかけるものではない。
 すでに存在していない、と言われたなら、どんな人生を送ったのかを考えてやる必要もないだろう。
 日生は首を横に振る。
「僕のおとうさんは、周防さんだけだよ…」
 日生の答えを聞いて、和紀はクスッと笑う。
 張り詰めていた空気が僅かに緩んだようだ。
「親父が聞いたら大喜びするだろうな」
「言ってあげたかった…」
「どうせその辺で聞いているよ。地獄耳の親父だったんだ…」
 まるでいつもそばをうろついている、と言うかのように。
 和紀は日生の髪を撫でることをやめない。顔中にキスの雨を降らせる。
 不安になる話をしてしまったという後悔もあるのだろう。また日生が答えたことで安心が心に広がったのか。

 日生が『おとうさん』と呼ばなくなったのは、いくつの時だったか。
 和紀と同じ立場にはなれないと悟って、日生は名前で呼ぶことにしてしまった。何も知らなかった子供時代ではなく、徐々に知識を身に付けた結果だった。
 その判断にも周防は何も反対はしてこなかった。
 周防は何も変わることもなく、いままで同じように接してくれた。
 でも今の和紀の言葉を聞くと、もしかしたら淋しがっていたのかもしれないと思われて、こちらも後悔が生まれる。
 親子関係にありながら、距離を取ってしまったのは日生だったから…。

「奈義さんのことも、散々恨んで憎んだけれど、ひなを最初に引き取ってくれたのはあの人だったからな。少しは感謝するべきかも…」
 和紀に出会えて、こうして愛される日々を送れるようになった。そのことを和紀も喜んでくれている。
 懐かしい名前に、思い出が甦って日生も頬を緩めた。
「奈義さんってば、あんなことしていながら、周防さんに全然頭があがらないんだもん」
 クスクスと笑い声まで響いてしまう。
 真庭奈義(まにわ なぎ)は強面の顔に体躯に、と、ヤクザの風貌であるのに、周防を前にしては言いくるめられてばかりだった。強引に物事を進められないのは子供心に不思議だった時代がある。
 いや、だから温厚な周防に余計に懐けたのかもしれない。
「まぁ、惚れた弱みだろうな」
「え…? そうだったの?」
 意外な話の行方には、笑顔も驚愕に覆われてしまう。
 付かず離れず、適度な距離を保った関係の二人だった。晩年は頻繁に顔を合わせていたようだが、和紀と日生は何かと避けられていたのであまり接触はなかった。
 日生が成長するにつれ、奈義が日生を連れ戻そうとするのを和紀も周防も許さず、自分の首を絞めるだけに終わった。
 嫌われるだけの存在にならなかったのは、周防と奈義の間に見えない感情があったからなのだとはなんとなく分かっていたけれど、結局は奈義が百歩譲っていたと聞かされると改めて驚くものがある。
「別に本人から聞いたわけじゃないけれどさ。あの人も不器用なところがあったから、親父も見捨てられなかったんだろ。…ひなを手元に置こうとした時があっただろう? 親父が面倒を見た子供を最後まで気にかけるのを承知していたから、ひなを囲うことで親父との繋がりを強めようと考えていたんだろうな。一つのコマにされたから親父は激怒したんだ…」
 本当に働かせる気などなかったのだろう。奈義のそばに置く…。奈義にとっての目的はそちらのほうだったようだ。
 幼稚な思考と短絡的な行動に、周防は怒るよりも呆れたのかもしれなかったが…。
 成長すればするほど、当時は見えなかったものが見えてくることがある。和紀はそこに気付いたのかもしれない。

「そういえば、どうして周防さんは清音さんと結婚しなかったの?」
 それも長年の疑問であった。再婚することは悪いことではなかったはずだろう。
 常にそばにいてくれた人を、特別な存在にしなかったのはどんな考えがあったのか。
 今更聞いても仕方がないことなのだろうが、一番しっくりとくる、健全な関係のような気がしてしまうのは、自分たちが子供を持てない環境にあるからかもしれない。
 もしかしたら、自分たちもこの先の将来、子供を引き取ったりすることはあるだろうか。
 そのことも聞いてみたら和紀に首を振られた。
「ひな一人でどれだけヤキモキさせられたと思っているんだ…。子育てはしたから、もういいよ。ひなが欲しいというなら考えなくもないけれど、もう清音さんには頼めないからな…」
 自分一人の力で簡単に子育てができるとは日生も考えていない。日生だって、清音がいてくれたから、世間で必要とされるアレコレを教えてもらえた。
 自分がどれほど恵まれた環境を用意してもらえたのか、それを思うだけで、これ以上の我が儘が言えるはずがなかった。
 また、どこかで、新しく来る子供に、和紀の関心が移ることにも脅えた。思春期の淋しかった時代を繰り返したくない。
 こうして抱きしめてくれる腕は、永遠に日生だけのものであってほしい。

「親父と清音さんはさ…」
 和紀は先程の日生の質問に応えてくれる。
 紡ぎだされる言葉に、日生は耳を傾けた。

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先日、また間違えた作業をしたようですね…。村の新着にあったこと、PC開けなかったので、気付かず、申し訳ございませんでした。
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もみじの彩り
2013-11-21-Thu  CATEGORY: 策略はどこまでも
また、ナニカ書いたっぽいですが、お許しを…。


 そろそろ紅葉が良くなる…と言いだしたのは久志だ。どこぞかのドライバーに、裏通り的な観光コースを聞いたらしい。
 まぁ、自分が運転することはないし…と那智は大人しく従った。
 ドライブに行くなんて、いつぶりだろう。

 さすがに連日走行している運転手の情報は正しかった。彼らは移動の道でしかないのだろうが、見る人からしたら"観光地"だ。
 久志も裏道を教えられていたようで、ナビゲーションは意味がなかった。
 とりあえず、渋滞情報くらいは教えてくれるか…。

 赤、黄、と染まる山肌を視界に入れる。
「綺麗だね…」
 思わずこぼれてしまった。
 その、那智の言葉を聞いて、ハンドルを切りながら久志も喜びの声を上げた。
「今、一番、良い時らしいよ。もう少したつと、枯れ木になっちゃうんだって」
 今でも"枯れ木"じゃないか…と言いたくなる言葉は喉奥に押し込められた。
 枯れゆく時ですら、愛でられるのは国民性があるのだろうか。
 四季の彩りなんて気にしない人だと思っていたのに、こうして連れ出されて解説をされると奥ゆかしさに変えられるのだから不思議だ。

紅葉
さえ様よりいただきました。お持ち帰りは厳禁です。

 朝比奈一葉から買った車のおかげで、あちこちへと出かけている。そのことは感謝するところなのだろうか。
 今まではなにかと二の足を踏んだ外出が気軽だ。
 あの当時の一葉の売り言葉、『好きな時に好きなところへ行ける』と言われて大して気にしなかったが、決して間違いではないのだろう。
 営業には向かない性格だったけれど、確信を突いてくるところは正しいのではないかと、今更ながらに思う。

「那智、日帰り温泉、寄っていく?」
 色々な土地に寄った。
 作るのかも分からない野菜を目にして、周りの客が『やすい~っ』というのに惹かれて思わず買ったものもある。
 その新鮮さを今更数時間、冷蔵庫に入れなくても問題がないだろう。
 疲れた体は正直に、くつろぐ場へと向かわせる。

「温泉…?あるの?」
 聞いた時、やはり、立ち寄る気だったのだろう。嬉々とした声が聞こえた。
「あるよっ、あるっ。源泉かけ流しっ」

…きっと久志が寄りたかったのだろうな…。
 分かってはいても、「ふぅん」と付き合わされた感じを表にしてしまう。
…別にいやじゃないんだけれど…。
 突っぱねてしまうのはどうしてなのか。

 素直に感情を言い表せないのは今更だ。
 たぶん久志も分かっているはず。
 そっけないふりをしても、近くにいてくれる人を感じて満足する。
 決して、離れていかないと遠回しながらも知りたくて、我が儘が言える。

「ヒサが寄りたいんだったらつきあってやる」
「二時間500円だって~」
「のぼせるだろ…」

 ワンコインで楽しめるアミューズメントとしたら、相応の価格なのだろうか。
 詳しくは知らないが、今は満喫できると思える。

…ただ、『人に体を見せるなっ』と意味不明な言動は困った。
 温泉に行くって時点で、あっちこっち、隠すことはないんじゃないの…?
 老舗の温泉宿は昼の時間、入浴客は少ない。
 そんな中で目を合わせてしまった、ある客…。

「秘書っ?ひしょっ?」
 那智は温まるよりも、動揺し過ぎて、水しぶきを上げてしまう。それだけで体温が上がった。
 湯けむりの向こうに見えたのは、ゆったりと寛ぐ榛名建設の秘書、野崎と、恋人だといった宮原だ。
 真っ赤になる秘書はもみじのようだ。

「あー。野崎さんたちも来ていたんですか~ぁ」
 のほほんっとした久志のセリフが、妙に怖い。
「ヒサッっ」
 粗相があってはいけない、と端々によぎるのに…。
 普段の会話を繰り広げる人間が二人いる。
 宮原も久志も世間話には慣れていた。

「こんなところでご一緒するとは…」と、意外な出来事を、野崎秘書は戸惑いつつも受け入れていた。
 緊張を解くためもあるのだろうか。さっさと上がろうとする姿が見えて、邪魔をしたのではないかと心配する。
 野崎の後ろ姿を追った宮原が、「さんきゅっ」と久志に目配せを送ったことが那智には意味が分からなかった。

 重要人物がいなくなったら寛げそうな大浴場。

「あのひとたち、泊まり、なんだね」
 そう、久志に言われて、個人の自由だ、と突っぱねたかったが。
 なぜに宮原が『さんきゅ』と言ったのか分かる。

 さっさと上がらせて、ふたりきりの時間に持ち込みたかったこと。
 自分たちが訪れなければ、長々と温泉をたのしむ時間になっていたのだろう。
 それはそれで、とがめられないけれど…。

 日帰り温泉だと思っては、宿泊の手続きがとられていた。聞いたら、野崎の手配のものだと言われる。
 また、関わるなと言われていることも…。
 野崎の『口止め』に何も言えない、紅葉見物となった。

…まぁ、真っ赤に染まる野崎秘書を見たら、それだけで充分なの…?
 那智は、胸の中で呟いたことを公にはしない。
営業として、大事だろう。そして、『榛名』は決して敵に回せない…。

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もう、いっぱい書きたいことはあるのですが、全然頭と手が追いつきません。
日生は、本当にお待たせしてしまうかもしれませんが、和紀と周防が隠した、あと、奈義ね。隠したアレコレを順次公開しようと思います。
中途半端にしてしまってすみません。
思考がまとまるまで、少しお待ちください。その間、繋ぎの何かを書きますので。

紅葉狩り。
もう本当に何十年前ですかね。海外で知り合った人は、なんで日本人は枯れ葉を見に来るのか分からない と言っていました。
現地ガイドのお言葉です。
価値観ってちがうのね~。
今では、観光のひとつとして定着してくれているのでしょうかね。
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病める時も 健やかなる時も 2
2013-11-20-Wed  CATEGORY: 新しい家族
 体が固まる、とはこのことを言うのだろうか。
 和紀の下で強張った体は、とても次の行為に進めはしない。

…戸籍がなかった…。
 それは、この世に存在しなかった、と今なら理解できる。
 知識がなかった幼いころとは違っている。
「わ…きく…ん?」
 見捨てられた不安は確かに和紀に伝わり、それらを拭うように和紀の手が日生の髪を撫でてくちづけを落としてくる。まるで宥められるようだ。知らぬ流れと知らされない出生。
 そのうえで和紀は日生の蔑む考えを追い払ってくれた。
「別に最初から『三隅』の籍に入れてしまったって良かったんだ。だけど、成長した時にひなが『三隅』が嫌だと言うかもしれないからと、選択肢を残しておいた…」

 周防らしいやり方だと思う。決して自分の意見を押し付けてくる人ではなかった。
 必ず日生の意見を聞いて、選択させて、そして喜んでくれた。もしかしたら、それは周防の希望するものではなかったかもしれないが、日生が決めたことに、何一つ反対してくることはなかった。
 大学に進学するかしないかでぐずった時だけだ。
『進学してほしい』と願われたのは…。

 捨てられた子供だとは随分前から理解していた。
 しかし、戸籍までなかったほど、虐げられていた子供だとは思ってもいなかった。
 辛かった時代は、三隅家が全て上書きして救いとってくれた。だから、今更何かを言う気はない。
 …ないが…。

 和紀や周防は、どこまで本当の父親のことを知っていたのだろう。そして母親のことも…。
 和紀の母親が早くに亡くなって父子家庭だというのは言われなくても気付いた。自分に父親がいた記憶だけはあったから、母親がいないことも不思議に思わなかった。
 だが、『阿武』の戸籍が作られたということは、親の記録を辿ることができたのではないか…。
 そこに、母親という存在も知られていたのではないか…。
 今更親に会いたい気持ちなどないが、出生を知りたいと言ったら、我が儘だろうか…。

 迷惑をかける気はないと、何度も思う。今がしあわせだから、このままでいいとも思う。
 それでも、生みの親を気にかけたのは何故だろう。

「ひな…」
 黙ってしまった日生を気遣うように、いつもよりもずっと優しい声が耳朶に吹きこまれた。『なにもかも、忘れろ』…」と言われているようだ。
 きっと、和紀は知るのだろう。調べた結果の、日生の両親を…。
 それは、永遠に閉ざされる内容なのだろう…。
「ひな…。俺はあの時、『阿武』でいてくれて良かったと思っている…」
 諭すように告げられることは何を意味するのか、思考を変えられた。
「どう…ぃう、こと…?」
「親父がひなを『三隅』にしていたら、ひなとはずっと『兄弟』でしかいられなかった…」
 同じ『三隅』になるのでも、現在の日生は和紀との養子縁組が組まれている。周防がまだ生きていた時に、周防の名前の下に『日生』を記すのか、和紀のもとに身を寄せるのかの選択を迫られた。
 単純に大好きな和紀と一緒に生きていく気持ちで、和紀を選んでいた。
 和紀が言うような深い意味があるとは、露ほども考えてはいなかった。

 和紀が愛でるように幾度も日生の髪を撫でる。
「聞きたいことがあるのなら、何でも聞いて…」

 導かせる口調の温かさが身にしみた。去られる不安はいつだって宿している。
 失いたくはない。何より、大事なものは変わらない。もしそこで嫌われる内容が明かされようとも。日生は受け入れられると思う。
 受け入れる覚悟だけはできていたはずだ。
 
…違う。支えてやりたい。
 苦しんだ和紀を知るから…。
 真実を知った時に、日生が離れていかないように、和紀は持てる全てを酷使しようと思っているのが肌越しに伝わる。
 環境や立場、身の置き場など、どうだっていい。日生がいることが重要だった。
 知るから日生は和紀をまた、腕で包んだ。

 でも言葉がこぼれなかった。何かを言うべきなのだろうか…。
 日生は口をつぐんでしまう。一つ間違えたら、肉親を尋ねたいといってしまいそうだから…。
 涙をこぼしたその心の苦しさを、和紀は簡単に掬ってしまう。
「ひな…っ。ひな…。『贅沢』なんて思わなくていい。ひなは、俺の恋人なんだ…」
 好きでやっていることと和紀は言う。
 恋人として当然なのだと教えられる。
『兄弟ではない』…。特別な存在。
 三隅家が教えた"普通"がここにあった。周防もきっと、変わらない。


『むかーし、むかーし。あるところに…』
 清音が読んでくれた昔話が脳裏に浮かんだ。
 いずれ、誰でも幸せになるのだと、いつの日にか教えられた。
 自分を重ねてもいいのだろうか…。


 いつのころだろう。
 淋しがる和紀を知っていた。他では機転がきいても日生を前にしては不器用なほど怖気づく和紀も知っていた。
 日生に対してだけ、冷静さが崩れる。
 うまく、言葉にも態度にもできなくて、燻って、しかし日生を世間に触れたくないと影ながら避け続けた日々。
 ぎこちなさは和紀の愛情の溢れ方だ。
 言っては失礼な、"いじらしい"。
 危険度を和紀なりに判断していたのだろう。幾人もの男が日生の隣から去った。家庭教師が、その例だ。何かにつけ、文句を言い、睨まれて日生の隣から消えた。和紀が隣にいてくれたから、さほど気にすることではなかったが。
『過保護』…。そう言われたらそうなのかもしれないと、笑みすら浮かんで、だけど、ひとつも嫌ではない。
 淋しくて、怖くて、嫌われたくないと願った。
 和紀にだったらなんだって、して欲しかった時代がある。
 あの日々は和紀としては、後悔の嵐なのだろうが。

 甘やかしてくれるから変わらない。安心して…。そこに溺れた。
 甘やかされるから、喉奥から、疑問がこぼれた。
 今しか、聞けないこと。
 嫌がられたなら、すぐに取り返そうと思う。
 
「和紀…くんは、知ってたんだよね…」
「ひな?」
 突然の問いは動揺させるには充分だろう。
 日生だって、こんなことは言いたくも聞きたくもないと思う。
 だが、口を、ついてしまった想いは"真実"をさぐるものだった。
 隠せない…。
「僕にも、お母さんはいたの…?」

 捨てたことを恨まないし、いまのこの生活空間にいられたらいい。出来れば"親"というものは介入してほしくなかった。
 和紀が隠したなら、知らないまま、それまでだ。
 それこそ、受け入れる覚悟はできていた、かもしれない。
 なのに、聞いてしまった現実とは…、

 知りたくはない。でも、知りたかった。
 そして、生きていてほしかった。
 和紀が知る全てのなかで…。

 静かに口が開かれる。
「あぁ。いたよ…。今は、存在しない…」
 躊躇いの口がある。
 …死んだのだろうか…。
 そうであってもおかしくないと思えたのは、和紀も親を失った後だったからか…。
 人はいつか死ぬ…。
 そこまでは、問えなかった。


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病める時も 健やかなる時も 1
2013-11-19-Tue  CATEGORY: 新しい家族
予告編

アンケート、和紀日生をありがとうございます。
こちらは年末までとっておこうと思います。
何も書くことがないので、一部だけ放送(←)しておきますね。





 三隅周防(みすみ すおう)の一周忌は滞りなく成し終えることができた。
 この一年、誰よりも心労を負ったのは息子の和紀(わき)だろう。周防は役所に届け出るような手続きは生前に全てといっていいほど終えていたので、和紀は「ラクだった」と口にしていた。死亡届と、葬式を出すだけで済んだ…と言ったとしても、精神的な苦痛までは、人は想像することができない。
 いくら事前に周防の死が分かっていたことだったとしても、この世から存在が消えるというのは、心に大きな衝撃を与える。
 周防が亡くなってからも和紀は凛々しく構えていた。
 自宅に訪れるもの、会社にやってくる取引先は後を絶たず、まともに仕事にならない日が随分と続いた。
 日生はその支えになってやれたのだろうか、と幾度も不安を宿してしまう。

「今年の冬は長期休暇になれるから、どこか、遠くに行こうか…」
 和紀にそう提案されたのは、休日前のベッドに入った時だった。
 和紀と抱き合う空間は、元の家に戻っている。一度は実家(といえるのか)から別居したが、周防が再入院してから、隣の新居を引き払った。
 家政婦の清音に余計な手間暇をかけたくなかったからだ。自宅の管理と、入院中の周防の看護だけで充分なほど時間を使う。空き部屋であれば、休日に自分たちが手入れをすれば済む。
 現在はその空室に会社の専門弁護士が事務所をかまえていた。昔からの付き合いで、『遠くの事務所より近くの事務所』と和紀が説き伏せた結果だ。過去、連絡を取るのにも、往復するのにも距離があった。
 ふたりの男性弁護士が同居という形で自宅同然で住み込んで常駐し、通いの事務員が二人いることに、和紀は何も言わない。
 無駄な人間が出入りすることのない、このマンションの最上階は、それだけで安全が保たれているのかもしれない。

「とおく…?」
 日生は裸体を抱かれながら、和紀が口に乗せたことを繰り返す。
 周防が亡くなってから、多忙過ぎて出かけることなどままならなかった。もちろん、気が進まなかったこともある。それが、一周忌を迎えたことで、なにやらから解放された気分も混じったのかもしれない。
 日生がキョトンと問い返すと、和紀は「そう。ひなは寒いところが苦手だから、南の島、なんてどう?」と正面から尋ねてくる。
 べつに、寒いところが苦手なわけではない。ただ、凍える日生の姿を和紀が見たくないだけだろう。
 確実に日本を離れる予定に、日生にはいつものごとく控え目さが漂った。
「そんな…。これ以上の贅沢、できないよ…」
「贅沢?」
 日生が返すことに、訝しげな瞳が覗きこんでくる。
 これまでも充分なほど、世間一般では経験できないことを積ませてもらっていた。育ててもらっている当時は"普通"だと思っていたが、社会に出てみれば、明らかな身分違いだと知らされる。
 それに気付いてから、余計に和紀の負担にはなりたくないと、自分からは何も言わなくなった。
 黙ってしまうと、もっと和紀の瞳が強烈に注ぎ込まれてくる。
「ひな?」
 何を思っているのか言ってほしい、という和紀の気持ちは存分に計ることができた。
「だって…」
 それでも口を閉じる日生に、和紀も日生が何を思うのか悟ることができるのだろう。無理に口を開けさせようとはしなかった。
「俺が行きたい、って言っているんだ。ひなは一緒に来てくれないの?」
 そう言われたら断れるわけがない。
 首は嫌でも縦に振られてしまう。

 だけど、今回ばかりは曖昧にする気がなかった和紀のようだ。
「贅沢、って、どうしてそう思う? ひなは何を遠慮している?」
 きっと普段の行動からお見通し、といった感じだ。
…遠慮…。それはもう、ずっと昔から日生の中に宿った感情のひとつだ。
 引き取られ、育ててもらい、感謝することはキリがない。その上、家族にしてもらって、あまつさえ、周防から日生に『個人的遺産』まで残されていた。全て和紀のものとなるべきところを、『日生のもの』として個人名義に変えてもらったものまであった。
 いつ、路頭に立たされてもおかしくない立場なのに大事にされて、これが『贅沢』以外のなんなのだろうか。
「『三隅』の名前になれただけでも、充分なくらい、贅沢な立場だよ…」
 瞼を伏せ、掠れるような声で日生が答えたら、和紀は「そんなこと…」と笑う。
「親父は最初からそうする気だった…」
「え…?」
 最初、の意味が分からなくて、また真上を見上げてしまう。
 和紀は日生の瞼と頬にくちづけを落としてから、苦笑いを浮かべた。
「ごめん…。こんな時に言うべきじゃなかったな…」

…すっかり萎えるから…。そんな理由ではないだろう。
 いつまでも周防を慕い、思い続ける日生が、『贅沢』と口にした時だからこそだ。
 旅行に行かない、といつ、言いだされるかも分からない時。

 しかし、隠さなかったのは不安定な日生の心情を確かなものにするため。

「ひながもっと小さくて、前後何一つ分からない子供だったら、親父は確実に『三隅』を名乗らせた。ひなが『引き取られた』と分かる年だったから、『阿武』で戸籍を作らせたんだ…」
「戸籍…?」
 もっと分からない言葉が次から次へと日生を襲ってくる。
 それは、もともと誰にでも存在するものではないのだろうか…。
 日生の疑問はすぐに和紀に掬いあげられた。
 和紀は決して苦しまないように、と力強く日生を抱きしめ直して、尚も、啄ばむくちづけをやめない。
「うちに来た時…、ひなに戸籍はなかったんだよ…」

 日生は目を見開いて和紀を凝視した。
 知らなかった事実が、周防という壁がなくなったことで、次々と明かされていく…。 

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同行 その後
2013-11-19-Tue  CATEGORY: 晴れ時々
 長流が言ったとおり、翌日は大荒れの天気だった。さすがにここまでは長流も想像しなかったらしい。
 吹き荒れる雨風のおかげで、すっかり外出する気は失せてしまう。それでもスパだけはしっかり楽しんだ。
 部屋に戻って、まったりと寛ぐそばで、長流はパソコンにしがみついていた。
 これも仕事の一環なのかと思えば口を出すこともなく、尚治はベッドの上に寝転がり、スパ上がりの心地よさを味わっていた。

「It's wonderful!!」
 起こされたのは叫ぶような男の声でだった。
「な、なにっ?」
 強盗にでもあったのかと、寝そべっていた身は激しく起きあがる。
 悠然と構えた長流が、熊男のようなヒスパニック系のがっしりとした男に対峙していた。
 50代くらいだろう。恰幅の良い太り具合を見せている。
 襲われているのか…っ?!と焦った気持ちは、ニッコリと笑っている長流の表情で霧散した。少なくとも、言い争っているわけではない様子は伝わってくる。
「長流?」
「あ、起こしちゃったか…」
 心配して声をかければ、困ったように笑いかけられた。それから、大声を上げた熊男を咎める目で睨んでいる。
 状況が全く分からず、荒らされたわけでもない室内を、意味もなく見回してしまった。

「このホテルのPVを作ってあげたんだ」
 長流はなんてことないように説明してくる。疲れが見えないのは、片手間でやった結果だろう。
 趣味で画像編集を弄るのはしょっちゅう目にしていたから、その延長だと尚治も理解した。
 この天気でやることがなくて、暇つぶしにしたのだろうとは容易く想像できることだ。
 だが、パソコンの中で流れる映像を目にした時、すんなりと受け入れられるものではなくなった。

 闇が訪れ、月あかりが注ぎ、波が打ち寄せる光景がみられるバーで、カウンター内に佇んでいるのは、他でもない尚治だ。強烈な電飾はない。
 向かいの席にはライアンの姿がある。
 悠然と微笑むのは、自信に満ち溢れた尚治と…、客として愉しむライアン…。
 モデルと変わらない容姿が一層引き立てている。

 尚治は決してバーテンダーの格好などしていない。単に"その場"に立つから、職種を思い浮かばせるだけだ。
 堅苦しさも何もない雰囲気が画像から伝わってくる。
 いま一歩を踏み出す勇気のない者に対して、『ここに来い』と誘惑しているようでもある。
…ここは、気軽に訪れることができる場所…。
 バーだけではない。ホテル全景と、昼間の青々とした海をバックにしたレストラン。
 どこから撮ってきたのか、リッチな客室が映し出されて、僅か2分ほどの映像に、所狭しとこのホテルの良さが詰め込まれていた。
 高級感はないが、だからこそ、気軽に人を惹きつけるのだろう。

 表現したいことは充分に理解できたが、そこに映る人物に納得がいかない。
「たけるっ!!」
 思わず叫んでしまえば、良いように営業している"経営者"がいた。
「これで宿泊代チャラ。あと、ショウの出演料と、放映権で向こう一年間の高収入。良くない?」
「良くねぇよっっ!!」
「じゃぁ、一カ月間だけに制限しようか…」
「そぅいう問題じゃねぇぇえぇっ」
 自分の姿が無制限に晒されることに危機感を覚えただけだ。
 一体何人の人間が"日野尚治"という人間を探り当てるかは分からないが、モデルでも芸能人でもない自分が世間に晒されることは許せない。
 本気で嫌がる尚治を見たのだろう。また長流自身も、本気で尚治を晒す気がないこと。
 長流は(支配人だといった)男に「I'm sorry」と告げていた。

 なにかと英語で話をする内容は到底理解できないが、悔しがっている男の感情だけは、しっかりと伝わってきた。
 そして見つめてくる尚治にも、たぶん説得しているのだろう。色々と言葉が投げかけられるが、理解できなくて全てにおいて首が横に振られる。
 理解できないから長流に縋るが、長流はフッと笑って聞き流していた。
 尚治の本気の嫌悪を見せることで、諦めさせたのか。
 その見捨て方はどうよ…と思ってしまうが、何も考えがないはずがない。
 きっと、うまく、エサにされたんだろうな…。

 結局、尚治の姿を除いたPVが完成して…正確には、顔だけが除かれた動きが切り取られて、クレジットにしっかりと長流の名前が記されていた。
 長流の技術は充分なほど伝わったうえで、別の仕事に切り変えさせた。
 表情がない分、伝わり方が軽薄になっても、人影が薄れるところを巧みに誘い言葉に変える。神聖なものにすら感じられる。
 もっと大勢の賑わった映像も盛り込んで、気安さを生んだ。
 完成度の高さに目をつける人間など山といるだろう。
 機会として利用しただけの長流のチャレンジでもあった。
 名前は、自然と売られていく…。

…この男は、挫折を知っても、自分の信念は曲げない…。寧ろ、強みだ。
 それこそが、更なる新たな斬新さを生みだすのだと、改めて教えられる。
 尚治はどこかといえば、殻のなかで、安堵だけを求める生活を送ってきた。争いを避け、全てが上手くいくように手を差し伸べて、また自分も関わらなかった。
 男同士の隠れた世界観の中でも堂々と生きていく…。恐れない姿は凄さであるのかもしれない。
 関わって損はないと教えられるようだ。
 この男を選んで良かったと思った時だった。


 帰宅後、長流に、「店のPVを作ろう」と言われて、即座に断った。
 客寄せの何かを施さなくてもいい…。
 無駄に騒がれることを嫌ったのは、採算無視の経営者に影響された背景があったからだろうか。
…ここが、寛げる場所になってくれればいいだけのこと…。
 雰囲気を何よりも大事にしたかった。
 きっとその意思は長流の伝わっているはず。


…なのに、隠し撮りされた店の雰囲気をさりげなく客席脇の小型のTVで流された時には声も出なかった。
 自分の姿が影だけで表現され、また訪れる客の"静か"なる姿も、指先の動きだけで見られる。
 変なAVよりも色っぽいんじゃないかと思う部分を持たせながら、厳かな空気を乱さない。
 これはあくまでも、店内だけで流されるもので、世間一般に広がることはないだろう。

 恥ずかしさはひとつも浮かばない。
 後ろめたさを越えて、今ある真実を受け入れさせようとする。
 実力を知らしめられた。
…絶対に、この男には何をもっても敵わないのだろうな…。

 でも決して悔しくなく、それどころか嬉しかった。
 胸の奥が温かくなるのは、自分の価値を認めてくれる存在があるから。
 そして、時に弱い長流を知るから…。
 守って、守られていく未来がある。

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―完―です。
追加で書いてみました~。
日野のPV見たい~っっっっと思ってしまったのは私です。
誰か描いて~と淡い期待を…。
皆様の脳内に頼むしかありません。

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同行 8(最終話)
2013-11-18-Mon  CATEGORY: 晴れ時々
 疲れた体をふたり、並んで横になる。
 尚治は長流に腕枕をしてやり、長流は胸の上から肩へと手を伸ばして、尚治の肌質を確かめるようにさすった。
 別にイヤラシイ動きではない。どちらかと言えば昼間のマッサージに似ているところがあると感じる。
「艶艶になりました…って感じだね。肌理がすごく良い」
「そぉ? あんまり自分じゃ分からないけど、凝ってた部分はなくなったかな」
「あの人…、ライアンだっけ? ショウを抱きたくなる気持ちが分かる」
 長流が言うことに、尚治は露骨に嫌な顔をした。相手のために肌の手入れをした、というなら、相手が違っている。
「もう、アイツの名前、出すな。ホント、俺、ムカついているし、気色悪いって思っているんだから」
 この返答に長流は驚きながらも、安心した表情を浮かべた。言いたいことは分かっているのだろうに、聞き出そうとするのは、想像だけでなく、確かな証が欲しいから。
「良い男だったじゃん」
「見た目は…だろ。こっちの気を確かめないで手を出すところが嫌なんだよ。目的があって触られたのかと思ったら、マジで鳥肌立つから」
「本当に"その気"にならないんだ…」
「ならない。男に食指が動く、なんてありえない」
 尚治がきっぱりと告げれば、長流は満足そうな笑みを浮かべただけで、それ以上言葉にはしなかった。
 長流なら、何かの時にその気になるかもしれない可能性を秘めていても、尚治は生涯ないことだと思う。
 どんなに良い男だったとしても、可愛いと言われたとしても、自分と同じモノがついているのを知っただけで、性交渉の対象から外れる。
 いまだもって、何故長流に堕ちたのか、時々自分でも不思議になる時があるくらいだが、そこはもちろん口にしない。
 理屈はどうであれ、心も体も囚われたのは長流なのは確かなのだから…。

「僕も明日、行って来ようかな…」
 ポツリと呟かれて、あれ? と首を傾げる。
「撮影は? 昼、出るんじゃなかったの?」
「天気、悪そうなんだよね。風が出てきているし。屋内での撮影はまだなんとかなったとしても、どんより、曇り空になられたら、外に出る意味がない。予備日は取ってあるから、そっちに期待するか…、最悪、今日の撮影分を目一杯利用するか…」
 天気ばかりはこちらの都合には合わせてくれないものだ。
 尚治は言葉の分からないテレビを見ることはなかったから、明日の予定に変更が生じるなどとは露ほども思っていなかったが、全てがうまくいくほうが珍しいことなのだろう。
「そっか…。まぁ何でも長流の仕事が無事、片付いてくれればいいけれど」
「そしたら、ショウもまた明日行く?」
 長流の問いかけには目を剥く。
「なんで二日も? 慌ただしく通うものじゃないだろ?」
「えー、別にいいじゃん。スパ三昧の休日っていうのも。リラックスできるんでしょ?」
 そりゃ、確かにそう言ったかもしれないけれど…と内心でため息をつく。
 カリブ海まで来て、その日程もどうなのだろうか…。

 長流の手が尚治の肌を撫でながら、内情を吐露するように静かに口に乗せた。
「ショウはさ、危機感がないんだよ。自分が狙われる対象になるって気付かないでしょ。女の人だったらまだしも、男って力でどうにかしようって襲うヤツもいるし…」
 こんな話題は過去にもしたことがある気がする。
 なんと言われても、これまでと同じ"男"の扱いしかできない。どれほどアプローチをかけられたとしても、好意にしか受け止められないのだから、無碍にすることができずにいてしまう。
 今日の出来事が、長流に不安を宿したのだろう。結局尚治は、長流にキスマークの件を指摘されるまで、ライアンをただの親切な男だと思っていた。
 いや、その前に、カクテルの一杯で全てをうやむやにしようとした長流の気持ちを汲んだ時か…。あの時、長流は「これ以上関わるな」と暗に伝えていたのだ。
 そう、全ては自分のものだから、と。

 心配する気持ちは納得できる。ましてや、言葉が分からないこの国では、それも増長するというもの。
 撮影は仕事場になるから付き合わない、と言ってしまったのも尚治だった。
 思わず、クスッと笑みがこぼれてしまう。
 それは愛されているのだと、実感できることでもあったから…。
「分かったよ。ご指導ご鞭撻、宜しくお願いします、とでも言っておくか…」
「なにっ、その言い方っ」
 振り上げられる手を止めて、口を封じる。
 男同士の付き合いなんて、見てきたものしか知らない、体験のないものと言えるのだから、無知の部分は教えてもらうしかない
 キスをするのも、抱くのも抱かれるのも長流だけだと、何度も伝えていくしかないのだ。
…どこまでも同行させていただきますので…。
 無駄な心配はさせたくないから…。
「愛してる…」
 尚治はもう一度その言葉を長流の口腔内に送りこんだ。

―完―

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お付き合いありがとうございました~。
アンケート無視で書いてしまいましたが、連日訪れてくださる方がいて嬉しかったです。
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心と魂 余談
2013-11-17-Sun  CATEGORY: 眼差し
心と魂 3』の…ナニカ…。


 佐貫光也(さぬきみつや)は暗闇の中にいた。
…ここは、どこだ…?

 監禁されているわけでもない。自分はしっかりと立っているはずだし、ただ視界に映るものが何一つない。
 頭を振り、四方を見渡す。
 やがて、白い霞みのようなものが見えた。
 ゆっくりとそれは近づいてくる。

 形がはっきりとしなくて目を細めれば、やがて輪郭が浮かび上がった。
 まだ少年…とも言えそうな、だが二十歳は過ぎているだろう。儚げな印象を与えてくる姿に記憶があった。
「ナル…?」
 思わず声が出る。
『やっと来てくれたね…』
 今にも消え入りそうな小さな声だが、何もないここではしっかりと聞き取ることができる。
 いつの間にか生きてきた人生から消えてしまった人が目の前にいて、驚かないはずがない。
 愛した人間でもあった。
 心の中に後悔が激しく湧き起こって、佐貫はそちらに足を踏み出そうとした。
 成視(なるみ)の体と心は、他人の手で酷く甚振られて、佐貫は助けてやることができなかった。
 その後悔は長い月日、佐貫を苛み続けた。

 足を前に出そうと思ったが、腕が後ろに引っ張られて動けなかった。
 もう、引きずりたくない。その思いが阻むものを振り返ると、縋るような眼差しに出会う。
 言いたいことがあっても言えない、この眼を、佐貫は良く知っていた。
『光也…』
 自分を呼ぶ声が闇に響く。

 二人の間で、佐貫の脳内がめまぐるしく動く。
"思い出"が走馬灯のように過り、自分の手を引くものが誰なのか、はっきりとした。
「成俊…」

 もう一度正面を向くと、成視が『待っていたよ…』と呟く。
『ずっと待っていた…』
 その言葉の意味を佐貫は痛いほど知っていた。
 自分が機敏に動かなかったから、何人もの人を傷つけた。

…だけど、今、自分は成視のそばに寄って抱きしめてやることはできない。
 最期まで無情な男だとどれだけ恨まれても良いと心底思う。

 再び佐貫は護るべき人を得てしまった…。

 泣きそうな顔を見ては辛くなるが、手を引っ張ってくれる人もまた、置いていくことはできないと強く胸に刻む。
「悪かった…」
 そんな言葉では済まされないだろう。
 告げる言葉がどれほど非情なものなのか…。

 それなのに、成視は泣きながら笑った。
『光也くんがずっと苦しんでいたのは知っているよ。傷つけたのは僕のほうだった…。その人を初めて抱いた時、光也くんは僕の名前を呼んでた…。ずっと想っててくれたんだ…って知って嬉しかった…。もう、縛らないから…。自由になって…』

 なんのことなのかと佐貫は凝視してしまう。
「ナル?」
『僕は、そっちの人じゃない…』
『光也…』
 どこからともなく声が木霊する。
 もう一度背後を振り返ったら、成俊の姿がなかった。同じように正面を向いても、成視の姿も消えていた。
 再び暗闇の中に佇む。

『光也…』
 幾度も呼びかける声だけが佐貫の全身を滾らせた。
 成視の言った最後の言葉の意味がとても良く知れてくる。
 自分を自由にする、とは、過去の呪縛から逃れさせてくれるもの…。
 悩んで新たな道に踏み出すことを、拒絶していた佐貫の背中を押した。

…生きて、守るのだと…。
 足は背後に動く…。だが前進した。決して後退ではない。

 暗闇に、一筋の光が差し込んだ。


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今日分までの『同行』を先日間違えてUPしてしまいまして…。
後で書きますので、先にこちらを…。

以前、佐貫のことで書き遺したことはないかとリクエストをもらった時、忘れていましたが、あぁこれかぁ…と思い出しました。
独り言みたいな記事で申し訳ありません。
コメントもお待たせしておりますm(__)m
風邪がしっかり悪化しまして、寝込んでおりました。とりあえず、近況報告だけ。
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同行 7
2013-11-17-Sun  CATEGORY: 晴れ時々
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。

 ベッドは広々としたダブルサイズだ。寝転がって、マットの柔らかさと寝具の肌心地を味わう。
 癒された肌、解れた体は、長流の想いを全身で受け止めた。
 長流の手は胸から下生えに這っていった。
…エステなんかよりもずっと気持ちの良い肌触りだ。
「あ…、ふ…」
 思わず声が漏れてしまう。
 感じるのは長流だからだろう。どう振り返ったって、他の男に肌はなびかない。

 手を伸ばせば長流の肌がある。胸の尖りに触れたら、嫌がるように体を捩らせる。
 相手を感じさせるために動きたい長流は、必要外に触れられることを嫌う。
 分かっていながら触ってしまうのは、感じまくる自分が悔しいからだろう。
「ショウ…。肌が綺麗になったね…」
「なに…?」
 突然の言葉は、日本語なのに理解できなくて問い返した。
 肌をさすりながら、他の手が入ったことを、咎めるのか、責めるのか…。触らせた全てが許せなさそうに感じるのは独りよがりだろうか。
「長流…」
「なにしたっていいよ。いいけどっ」
 伝わってくるものはある。
 褒められて嬉しいだけではない。長流なりに、この肌艶が我慢できなかったのだろうか。
 悔しいなら、言えば良いのに…。
 遊んだ過去はある。お互い、知りきった間柄だった。
 遊んだっていいと言われるのはどうかとも思うけれど。
…オトコとは引っかかるものなのか…。

 手を伸ばして、長流の中心を撫でた。
 黒髪が茂るソコは隆々としている。
…感じているんだ…。

 自分を相手に…。そう思うと激しく興奮する。自分自身も滾る。たぶん、ライアンを目にしてもこうはならないだろう。
「長流…」
 もう一度名前を呼んだら、涙目の顔が覗きこんでくる。
 何を望むのかは分かってしまった。
「挿れる? 俺、我慢できない…」
 尚治が唇を濡らすと、逆に委ねてくる。
 本当に、こんなところが歳を感じさせない。
 騎乗射は長流の一番好きな体位だ。
 抱いて包んでやりたい…。
 首を振られた。
「挿れて…」
 舌足らずな唇が動いた。
 まだ柔らかくなってはいないだろうが、擦りつけられたら我慢ができない。
「長流…。長流だけだから…」
 疑いだけはもたれたくない。知らずに疑われることも我慢できない。遊んだその先で、一人だけを、愛した。

『お仕置き』は満足するまで、放してくれないことだろう。
 下から突き上げたら胸と喉を晒す。
 一番弱い部分を惜しげもなく…。
「ああぁぁっ」
 響きわたる声に満足を得てしまう。感じさせているのは自分だ。
 長流もまた、許すのは自分だけだと信じたい。

 中肉が放さないように締めつけてくる。この感じがいい。
 女では味わえない、締めつけかただった。
 絞り取られていく。全てが長流のものだ…。

 思わず体位を変える。
 腰を掴んで長流を敷きこんで、疼きを差し込む。
…好きだ…っ。この男だけが自分を支えて立たせてくれる。
「長流っ」
 年上も年下もなく、同等に扱ってくれる人。
 勢いよく腰が進む。
 親を失い、孤独の中で生きて、初めて全部を預けられた。
「あっ、ショウッ」
 自分を呼んでくれる声がある。
 満たされようと思う。
 吐き出し、それは相手を潤す。
「好きだよ…。長流のそばで生きられたらいい…」
「ばか…」

 照れか。その表情も嬉しい。

 ゆっくりと体位を変える人がいる。
 下からそっと挿れてくる。気持ち良いと感じるから逆らいもしない。
 こちらも弱い喉を晒すのか…。

 男として、挿れたい欲求もあるのだろう。
 長流の全部を受け入れられた。
 横たわった背は、とても心地よい。


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あぁぁぁぁぁっ.・゜゜・(/□\*)・゜゜・
隠したいけどだめだよね。
お医者に行ってきます。
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同行 6
2013-11-16-Sat  CATEGORY: 晴れ時々
 部屋に入ると、機嫌の悪そうな長流にどうしたらいいのかと思う。撮影までは良かったはずだ。
 この地に来て何か間違ったことをしてしまったのだろうか。そう思いながら一日の疲れを流すようにシャワーを浴びた。
 その最中に長流が顔を出す。
 風呂を共にするのはなにも初めてではないから、入ってきたことに別段、驚きもしなかった。
 近づく体を抱きしめては、答えを導き出した。
 喘ぎに変わる前の口は、燻りを正直に表す。
「ショウ。ここにキスマーク、ついているけど」
「はぁ?」
 長流は尚治の体に腕を回し、抱きつきながら一点を突いた。
 見えない場所に何があると言うのか。振り返って、鏡の奥を確かめてしまう。腰の、指でつつかれたところには、痕があった。
 裸になったのはスパだけだ。
 施術の中で、なにがあっただろうか。
 振り返った思い出に、痛みで目覚めたことを思う。あの時、腰が痛かった。吸いつかれていのだろうか。まるで吸血鬼だ…。
…あんのヤロー。
 過ったのは悔しさだ。眠ってしまった時に何かしたのだろう。
 気付かない自分も迂闊だったと思う。また、男に施されたのかと思うと鳥肌に襲われた。
 
 どこかに打ったわけではない…。
 丸くぽつんとした痣は、自分の意としないもので、また、自分でつけられるところではなかった。尻の谷間の真上だ。
…喰おうと思ったのだろうか…。
 ライアンの姿がすぐに浮かんでしまった。
 欲にまみれた男の姿が見えてしまう。
 長流以外の人間に体を許す気はないと改めて感じてしまう。他の男は論外だ。
 長流と何か話したのだろうに…。長流が不安を持つのは違うと思いながら、全てを委ねていると表現するのは体しか思い浮かばなかった。
 男に興味はない。惹かれることもない。
 知るのだろうに、不安を宿すのは、男の世界を知っているからか。
 ライアンと尚治を視界に入れた時、真っ先に叫んだのは長流だ。
「『お仕置き』とかする気なの?」
 こちらから言ってしまえば不貞腐れる。尖らせた唇がなんとも可愛くて、好きにしろよ、と啄ばんでしまった。
 少なからずその気はあったのだろう。

 抱くのも、抱かれるのもどちらでもいい。
 気持ちいいことを長流は施してくれる。…エステやマッサージとは違って…。

「縛ってやろうか?」
「それは勘弁…」
 ニッと笑った顔に反論を示せば、本気ではないことが伺える。
でも、燻る何かはあるのだろう。
「抱きたい?」
 そう聞いたら、こちらは素直に頷いた。
 自分の下にいることは、安心なのだろうか。
「ショウの全部を見る…」

 今更、隠すものなんてない。全てに同行し、満たすもの。一緒にいると教えたい。

 黙って体を開く、仕草が見えれば、満足の吐息が聞こえた。

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次回こそは恒例のRで…。

もうこっちもUPする。
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同行 5
2013-11-15-Fri  CATEGORY: 晴れ時々
 夜の逢瀬を約束してしまったようだ。
 ランチはライアンが用意してくれた、同じホテルで済ませる。
 絶対に尚治では支払えない金額が頭を巡っていったが、「僕のおごり」と微笑まれて、予約まで済まされていては断ることが失礼だと思われた。スパに入る前に準備はあったのだろう。
 奢らせることも相手にとってひとつの満足感があるのは知っていたことだ。その立場になる自分もどうなのかと思っても今は口にすべきではないと空気を読む。
…男とは、へんなところに見栄をはるよな…。内心でぼやき、また、エスコートの仕方に関心もする。
 すべてにおいて、育ちの違いを感じる。
 覚えることが多い、と思ってしまうのは、やはり年齢の差だろうか。
 ライアンは39歳だと言った。

 東洋人は年齢のわりに、幼く見られることは承知していたが、彼もまた、年齢不詳の部類に入る。改めて言われて驚きはしたが、納得もできた。その価値がある。
 このあと、ショッピングモールに、買い物に行く、と言われて、それくらいなら付き合えると同意した。
 ライアンは明日の朝、早くにここを発つので、形ながらも"土産"はほしいようだ。
 同じように、尚治もあれこれと視線を流す。躊躇しそうな品でも、ライアンが説明してくれれば、納得もできた。
…とはいえ、尚治は購入することはなく、眺めただけに終わったのだが。

 夕方も早い時間に、ホテルのロビーで別れた。
「楽しい思い出をありがとう」と尚治が伝えれば、にこやかな笑顔で「僕もだよ」と応えてくれる。
 彼がいなければ、ただのぼうっとした一日で終わったことだろう。
「ショウっ」
 突然響いた声には、尚治もライアンも顔を向けた。
 今、帰ってきたのだろう。機材を抱えたスタッフの姿も見えた。
「あー、長流、お帰り」
 出迎えるのはいつものことだったから、自然と言葉は流れる。
 何を思うのか、この場でくちづけられるとは思わなかった。勢いでぶつかった…とは言えない仕草だろう。

 動揺する尚治を押しのけて、長流は英語でライアンに何かを問うていた。その早口は到底ついていけるものではい。
 幾つかの会話を見送って、何を言ったのかと脇から突けば、「ショウのカクテルが飲みたいんだって」とふてくされ気味に言われた。
 機嫌が悪くても褒められて嫌な気がしないのは同じようだ。
 だからといって、それを披露する場はないだろう…と思うのに、長流はバーの撮影許可をとりつけてしまう。ホテルの一角を「営業」にしてしまうお互いもどうなのだろうか…。
…客、どうするの…?
 心配しても、『一杯だから』と言われたことで頷いてしまうものだ。短時間の撮影に、ホテル側は何も異論はないらしい。それより、放映してくれることでアピールできると期待するのか。全てを委ねていた。
 接客精神とは、こんなところでも出てしまうのだろうかと尚治は思う。見られることに抵抗はない。
 
 尚治はTシャツ一枚の姿で、並べられた液体を吟味した。
 ホテルの一階にあるバーは、外からの月あかりも眺められる。こちらもテラス席はあった。星空を下に堪能する恋人同士が浮かんでしまったのはなぜだろうか。
 一日、放っておかれた淋しさが、自然と表れるのかもしれない。もちろん、声には出さないが。

 知っているもの、知らないもの。流れゆく時が、ホテルのバーらしく、数多くあるように漂う。一つのグラスとその席に…。想像は勝手だ。
 出会いもそこに含まれるだろう。やりとりされる人たちは、尚治が見てきた世界だ。
 憂いまでも興味津々なのは、撮影に協力した皆から伝わってくるものがあった。撮りたい何か…。
…興奮する…。腕がなる…。
 見慣れた場所から離れたからか、新鮮な匂いがした。余計に血を沸かすのだろうか。

 作った碧い液体は、明ける夜を表現したのだろうか。
…ライアン、俺は、堕ちないよ…。
 なぜか、知ってしまった時。
 尚治は男に興味がないから、彼からのアプローチにも気付かなかった。会った時に危機感を覚えたのは長流だろう。何故、この席まで用意したのかは分からないが…。
 ライアンを見つめた時、分かったような彼の細められた眼差しが印象深かった。

『ブルームーン』
 青い月は、紅く熱く燃え上がらない。
 しかし、静かに宿る炎は、一番力強いのかもしれない。
 長流の目がある。

 男に惹かれることはない。だから心配することはないと長流に伝えることであったのかもしれない。
 諦められないのか、ライアンの"誘い"は、去り際にハグとくちづけを贈られたことで気付く。
「今夜、くればいい…」
「行かせないよっ」
 叫んだのは長流だったけど。
 ライアンのクスッと笑った笑みは、やっぱり千城を彷彿させる狡猾さがあるように見えて仕方がなかった。
 長流が張り合うのは、そんな雰囲気もあるのだろうか…。

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中間報告 2013
2013-11-14-Thu  CATEGORY: あんけーと
皆さま、投票、たくさんありがとうございます。

ダントツ一位は和紀&日生

追うのは千城&英人

いやぁ…。千城と英人は想像できていたところもあったのですが…。
日生の追い込みがすごいね。
現在第二コースを回ったってところですかね(←競馬???)
(にんじんが目の前にぷらんぷらん)

だって、想像できちゃうんだもん。許してぇ。ヾ(- -;)



日野と神戸は現在書いちゃっておりますので、何も言えませんが…。
一か月先に、どれがUPされるでしょうか。

現在の投票数です。

和紀&日生 799票
千城&英人 520票
日野&神戸 90票
久志&那智 76票
安住&一葉 25票
宮原&野崎 25票 同位ですね。


思いつきで書く可能性があるので、なんとも言えないですね。(ヒントがあれば…)

でも一位はお約束しますので。


気候が真冬になってきました。
お体にお気をつけくださいね。
きえちんも風邪をひいて、ゴホゴホです…。



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すごいね。すごいよー。
私、ここに拍手をもらうとは思っていなかったので、マジでびっくりしました。
投票に、出来る限り応えていこうと思います。
皆様のご意見、ありがとうございます。
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同行 4
2013-11-14-Thu  CATEGORY: 晴れ時々
 10時にタクシー乗り場で、と別れた。部屋番号まで知らないライアンは尚治をしつこく追いかけてくることもなかった。それこそが、『後腐れない』の間柄だろう。誘うことに慣れた人間なのかもしれない。
 尚治は一度部屋に戻って、万が一のためにメモを残す。『スパに行ってくる』という他に、もらった紙片の名前や電話番号も記述した。
 きっと、長流よりも早く帰ってくるだろう。自分が、同じ形で見たなら、処分すればいい、メモ書きだった。

 初めて体験する『スパ』は、とてもゆったりとできた。ライアンと一緒に向かって、カーテンで仕切られた個室に案内されて、衣類を剥がされる。もちろん強引ではないから、自ら裸になったというほうだろう。
 布一枚ない状況は抵抗があったが、背中を見せるのは、施術師が男だったから尚治にとっては受け入れられるものだった。
 うつ伏せに寝て、顔に柔らかな枕が当たった。
 両手を体に沿わせて寝そべる。腕枕ができないから、この枕の高さがあるのだろうか。
 尚治は顔を横に向けて、目を閉じた。
 何やらヌルッとしたものが背中に落とされる。
「…っ?」
 驚いた尚治の息遣いを感じたのか、カーテンの向こうから、「はちみつだよ」と声が響いてくる。
 姿が見えなくても、同じ施術を受けている様子がうかがえて、また、分かる言葉に安堵してしまう。
 ライアンは、もう幾度も訪れているから、知っていることも多いのだろう。
 緊張した体も、塗られた液体と体をこすられる掌の温かさ、適度に強められる指圧に尚治もうっとりとしてくる。
 強張った体はあっという間に解れていった。
 硬くなった筋肉が、さすられて緩められて、温められていく…。
 施術のために閉じた瞼は、気持ち良さに開かれることはなかった。

 鼻孔をくすぐる甘い匂い…。
 いつの間にか、眠ってしまったようだ。
 腰に痛みを感じて目が覚めた。刺されるような痛みはすぐに消える。
 ヌルヌルとした肌の上のものがない。目を開けると、ガウンを着たライアンが隣に立っていた。慌てて、尚治も身を起こす。
 どれくらいの時間が経ったのか、まったく分からない。
「あ…」
 思わず照れた声を上げたら、宥められるような笑みで見下ろされた。
「ゆっくりできた? 良かった…」
 尚治は体を起しかけて、毛布をかけられただけの裸体を知る。
 いわゆる、すっぽんぽんの状態で、前を晒してはいけないと本能的に毛布を手繰り寄せた。
 それすらもライアンは気にしていないようだ。その落ちつきぶりに安堵したのも確か…。
「ジャグジーがあるから行こう」
 そう誘われて、右も左も分からない尚治は従っていく。

…気持ちが良かった…。
 それだけは確かだ。固まった筋肉も張り詰めたものがなくなったように軽い。
 これを味わいたいから訪れる客がいるのも、充分なほど理解できた。まさに、味わなければ知らない世界だ。
 個室スペースにあるジャグジーに、当然ながらライアンは裸で浸かっていった。そこで初めて状況を見た。
 たぶん、本来であれば、ここは『一人』のためのスペースだ。尚治が同行することで、丁寧に二台のベッドが用意され、区切られたカーテンがあったのだろう。
 それをライアンに聞いてもいいものだろうか…。
 しかし"配慮"と分かれば、わざとらしく口にすべきではないことも承知している。黙って感謝すれば、相手も気分が良いに違いない。さりげないことがより、相手の人格を押し上げる。
 
 ガウンを脱いだら、想像していた以上に筋肉質な肉体がある。胸も腹も綺麗に割れた筋肉は顔の印象とは別格のものだ。穏やかな印象を与える表情も良いが、見る人間にとって、肉体美は価値があるものではないか…。
 やはり、モデルの仕事でもしているのではないかと過ったが、そこは口を出すものではない。
 あまり目を向けてはいけないと顔を俯けて、尚治もジャグジーに浸かった。

 吹き出されるお湯のおかげで、隠す意識が薄れる。
 おぼろげながら見えている茂みはあるのだろうが、男同士で今更隠す必要はないだろう。温泉国で育った環境もあるのかもしれないが。
 ゆったりと手足を伸ばして目を閉じる。
 本当に心地が良い時間だった。
 その感謝だけは伝えようと口が開く。
「ありがとうございます。とっても気分が良いです」
「ヒノが喜んでくれたなら、僕も嬉しい。付き合わせてしまっていないかな?」
 強引に連れてきたと思うところがあるのか、伺われてすぐに首を横に振る。
 きっと彼がいなかったら、体験できない一つではなかったのではないか…。
「そんな…。初めてで分からないことばかりだったけれど、寝てて終わっちゃいましたね」
 笑みを浮かべたら、同感するところがあったのか、「僕はいつも寝ちゃうよ」と言ってくる。
 それからしみじみと体を見られた(気がする視線の動き方だった)。
「ヒノは…、…綺麗な体だね。無駄な贅肉がない。特に上半身は…。なにか、スポーツをしているの?」
 突然の問いかけは驚いていても、裸でいる今、想像するものがあるのはお互い様だろう。また『綺麗』と言われて照れと、嬉しさは同時に襲ってきた。褒められて嫌な人間なんていない。こんな素直な感情がこぼれるのも、取り繕う必要性がない、開放感からくるものなのだろうか。
「俺、バーテンなんです。肉体労働?」
 スポーツを心がけているわけではないが、日々の動きで、自然と鍛えられるものはあるかもしれない。接客業とすでに知られた話は、気の緩みで、もっと自分の世界を見せた。
 ライアンは目を見開いて驚きを表したが、すぐに目を眇めて「おいしそうだな」と口にしてくる。
 飲ませてあげられる環境があるのなら、このお礼に一杯もおごりたいところだ。ライアンから見せられたクーポン券は、尚治が思っていたよりもはるかに安かった。

 そんなことを何気なく口にしてしまったら、ライアンは「是非」と目を輝かせて言う。
「I would like to be together with you not only till lunch but till night. (ランチどころか夜まで付き合ってほしいよ)」(翻訳コピーなので突っ込まないでください)
 早口の英語は理解ができなくて、思わず頷いてしまった。
「OK!」
 何を理解したのか、ライアンは突然ジャグジーから上がった。
 目の前に見えた男のシンボルに、『へぇ…、外国人ってアソコの毛まで金色なんだ…』と観察してしまったことは、もちろん言わない。

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でもアソコは人種によって違うようです。見たことがないので想像でしかありません。
知る方がいたら、情報お待ちしております(←なにに役立てるの???)
ロシア人の女性は確か輝いていた…。
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幼馴染
2013-11-13-Wed  CATEGORY: 『想』―sou―
同級生の幼い頃です。
近所の集まり、小学生1年生くらいだと思ってください。
読者様の妄想世界に全てを委ねるところです。


苦情はいっさい受け付けませんので宜しくお願いします。




ちゃんばらごっこ
中條「わぁぁぁ、斬られろっ」(←立ち向かっていく少年)
栗本「やられるかよっ」(←スイッとかわす)
佐貫「まだまだだな」(←へっと笑う)
譲原「敵わないんだから、さいしょっから諦めればいいのに」(←悟るのが早い少年)
中條「ヽ(`Д´)ノウワァァン!!」

離れた場所で
安住「…(近寄ってきた女の子男の子に)…僕いそがしいの…」(さりげなく断る)

(影から覗く)
栗本「アイツ、また告白されてるの?」
中條「あいそ、よすぎなんだよ」(←小学生???なセリフ)
佐貫「まったくぅ」
譲原「佐貫がしんぱいすることじゃないよっ」(←意識を変えたい人)
栗本「おまえもだよ。見るな」
 仲良し組は、見ざる聞かざる知らざる(←違う??)の世界だった。
 ナイショで見せてもらった物事は聞き流すことくらい、知らずのうちに教えられている一同。(←こえーよ)
 また、告白の場所であることもナイショ…。(←そこはどこ? 学校の体育館裏???)

きっとちゃんばらごっこも気付いていて、声を聞いては話をさっさときりあげたい安住の心配もする。
気もない人は心底、困るのだ。

そんなことに気付いた小学生時代。

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あいっかわらず、意味の分からないものを書いていますが…。
真夜中のザレゴトだと聞き流していただけるとありがたいです。
(ちょっと寝てしまった….・゜゜・(/□\*)・゜゜・)
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同行 3
2013-11-13-Wed  CATEGORY: 晴れ時々
 尚治の動揺を感じとるのか、男は穏やかな笑みを見せる。そして止まった手に「食べて」と促してくる。同時に尚治が驚いたことで、自分の質問の答えを導き出したのだろう。再び問うことはせず、何故にそう思ったのかの説明をしだした。
「接客業なのかな。客人に対するような堅苦しいものに態度が変わったから。自然と出てしまうのは、そういった職業の人なのかな…と」
 首を傾げられては、最終的な答えを求められていた。
 初対面の人間に、また、この場限りだと思えば、特別隠すものでもないと正直に頷く。洞察力の良い人間は周りにもいる。慣れたつもりでも、さすがにこの短時間での判断には舌を巻く。
 また、この男もどんな仕事に携わっているのだろうかと疑問が浮かんだ。
「はい。店で店員をしています。いつもお客様はいらっしゃるから…」
 尚治が答えればクスクスと笑いながら、片手を振って見せた。
「そんなに緊張しないで。お休みの日に、仕事をするような態度はやめたほうがいいよ。君のくつろぐ時間を台無しにしているみたいだ」
 男の口調も変わっている。その発言は、彼自身が緊張を解きたいのだろう。
 初対面の時はどうしたって相手の顔色を伺う。尚治も他愛のない話で今のこの時間を過ごそうと思った。俄かに気付いた言葉遣いから、彼の休日気分まで取り上げたと言葉に棘として含まれているようだ。
 年下だと分かるから余計に丁寧な対応に出たことが、気に障ったらしい。そこは感情を取り繕う日本人と違うところなのか…。

「すみません…」
 つい謝罪の言葉が出れば、「こちらこそ」と軽くかわされた。
…あぁ、こんな人間がどこかにもいたよ…。
 そう思って頭を巡らせれば、一番身近にいる長流だ。ビジネスとプライベートを混ぜることを酷く嫌う。そして、年上と年下の壁も。
 不思議と肩肘張った自分から力が抜けていった。
 尚治は喉を潤すためもあって、またジュースの入ったグラスに口をつけた。客ではないと知らされるから、動きに気を使うこともなくなる。
 彼は会話を途絶えさせる気はないらしい。
「君は? 今日は? 友達は仕事なんだろう? 何か予定はあるの?」
 その質問は、先程休みだと伝えたことに繋がるのだろうか。
 実際尚治は予定など何もなく、日本を発つ前から危惧されていた『暇』にあたる。どこかに出かけてもいいが、何せ言葉の障害があって、実行する気になれない。かといって、ホテル内に留まっても、やることがない。
 のんびり昼寝でも…と考えていたところがないわけでもなく、しかし、この時間帯から部屋に籠るのもどうかと思われる天気の良さだ。
 目の前の男は、どんな過ごし方をするのだろうか。また、それを聞いてもいいのだろうか。言葉が通じる甘えが出た。
「いえ…。これといっては…。俺、英語も全然分からないんです。だからホテルから出るのも憚られていて…」
「『ハバカ』…? ごめん。難しい言葉は僕も分からないんだ」
 正直に肩を竦められては、いかに簡単な、普段通りの言葉遣いをしたほうが、相手に伝わりやすいのかと気付かされる。流暢な日本語を話すとはいえ、意味の分からない単語が多いのは確かだろう。そう思うと、尚治も堅苦しい敬語は避けるべきだと判断できた。伝わらなければ、違う言い回しがある。
「困っている…かな。何をしていいのか、分からない」
「あぁ。予定はないの?」
「ないです」
 即答すると、男は口をすぼめるようにして、何かを逡巡した様子をとった。
 長流が帰ってくるのは遅くになる。夕食は一緒に、と言われていたが、それもスタッフ一同を交えてのことだった。昨日のうちに顔合わせは済ませているので、長流がプライベートで呼んだ人間がいることは知れ渡っているが、その場でもきっと仕事の話になる。
 自分の職業もあるから、口が堅いのも承知の上だろう。きっと尚治が口を挟めない話題で埋め尽くされるに違いない。もちろん、聞いていることが嫌なわけではない。ただ、相手に気を使わさせることが嫌なだけだ。企業秘密など、山とある。

「えーと、君が良ければ、ランチも一緒にしていい、ということかな?」
 首を傾げながら、男は尋ねてきた。
 きっと一人身が淋しいのだろうと、自分と重ね合わせてしまう。今、こうして食事をしていても思うことだ。黙って食べていたらものの数分で片付いてしまう。誰かと話をするから、一分二分と延長されていく。時間つぶしになっている。
「俺はいいですよ。どうせ一人だし」
「僕、この後、スパに予約を入れてしまったんだ」
「スパ?」
 分からないまま曖昧にするのも良くないだろうと、尋ね返すと、「リフレッシュ? エステ?」と男も分かる限りの単語を並べてくる。
 それは日本でも良く耳にする言葉だったから、すぐに繋がった。
 男でも美容面に金と時間をかける人間はいる。男の風貌を目にしても、理解に苦しむことはない。それどころか、モデルでもしていそうな風格は納得できるほうだった。
「ああ…。マッサージ?」
 尚治がジェスチャーを交えて、腕と胸を擦る振りを見せたら「Yes.」と笑い返してきた。
…なんだか、おもしろい…。
 そう思ったのは、意味が通じているとはっきりしたからだろうか。国民性が出るのかどうしても『言葉』で物事を伝えようとする。ボディランゲージが有効であることを身を持って知った瞬間だった。
「5(ファイブ)ブロック先にあるホテルがとても良いんだよ。二時間、かかっちゃうけれどね」
「へぇ…。良く来るんですか?」
 それは、この地に来るのか、そのホテルに向かうのかの曖昧なところだったのだが、この男はしっかりと質問を汲み取っていた。
「こちらで仕事をすることは多い。疲れた後はのんびりする。決まったコースなんだ」
 これにも尚治は理解した、と頷き返した。単純に思ったことを並べたのかもしれないが、説明としては充分だ。背後事情は存分に知れてくる。
 どんな仕事に従事しているかまで聞くのは失礼だと承知しているから、聞き流すことも簡単にできた。
 決して客に深入りしてはいけない…。それも培った人生経験かもしれない。

「暇なら、一緒に行かないか? 君もリフレッシュしたいだろう?」
 重ねて誘われたことには、どう答えたらいいのか、考えてしまう。
 口約束だけで姿をくらまされると思われたのか…。言葉遊びで終わってしまう関係はこれまでも幾らでも見てきたことだった。そして、それらと同等に扱われたくない反発のようなもの…。
 言葉が通じない現在に、力強く感じられるのは、不安がはびこっていたせいもあるかもしれない。
 なにか、逃したらいけないような危機感…。
 そしてまた、一日限りの人とのやりとりも数多く見てきた。それらも、していけないことだとは思っていない。
 この地に来て、リフレッシュ…。確かに納得できる内容だ。目の前の海を見ても開放感で満たされる。
「いいけど…。金額は? 高いのは無理」
 相場を知らないから後々、トラブルになるのはごめんだった。揉め事を避けるための事前確認ももちろん忘れていない。
 尚治が同意と不安を漏らせば、男はハーフパンツのポケットからカードケースを取り出す。一枚の紙を開き、「スパのクーポンだよ。これ以上は希望しないと追加されない。僕の信用がないなら、直接問い合わせればいい」と、自己判断に委ねてきた。
 直接問い合わせれば…と言われても、その語学力があれば、何も困っていないだろうに…。
 それが分かるのか、またクスッと笑った男は「日本人はいるよ。『Japanese please.』と言えば分かる人が応えてくれる」と言い放ってくれた。
 日本人、と聞くだけで信用性が高まるのは何故だろう…。
 それとあとは、表示されているホテル名だ。良く聞く有名ホテルで、トラブルを避けたいのは、先方も同じではないかという気にさせてくれる。
 今の世の中、訴え事は決して良い印象を、次の客に植え付けない。世界各国に向けて晒される場は用意されている。
「あと、僕の名前は、ライアン」
 名乗られたのなら、こちらも告げるべきだろう。
「日野 尚治」
「ヒノ?」
 こういった場合、ファーストネームを強調するところなのかとも過ったが、呼びやすいのであればなんだって良かった。
 どうせ、今日限りだ。
「そう。ヒノ」
 もう一度告げると、ニコリと笑った男、ライアンが、巧みな話術で会話を引っ張り出してきた。人と話せることは時間を忘れさせる。
 早く終えてしまうだろうと思われた朝食の時間は、思った以上に時間がかかっていたが、その時間は決して居辛いものではなかった。
 ライアンとは、雰囲気までも読みとってしまう凄腕のような気がした。

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日野っちがなんだかすごーく、ウブに見えますけれど…。
放りだされたらこんなもんだって???
そして、アンケートコメ様!!!!
鋭すぎてビビりました。
『神戸&日野でも』………てんてんてんてんですよ。
…さ、さぁ、どうなることでしょうか…。
(私の考えるものはそれほど単純なのだろうか… 汗汗汗汗)

たまにはいつてみようか。あっち
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同行 2
2013-11-12-Tue  CATEGORY: 晴れ時々
 翌朝、目が覚めると、すでに長流の姿はなかった。朝日の下でのロケがあるとは聞いていた話なので、別に驚くことでもない。時間をかけて製作されたものがどんな姿になるのか、時間をかけたからこそ達成感があるのだろう。
 テーブルの上に、朝食用のチケットが置かれている。レストランを利用するようにとの話も昨夜してあった。一人だからルームサービスでもいいのだが、尚治が注文を正しくできるはずもなく、だったらバイキング形式のレストランのほうが面倒がなくて良いだろうとの配慮だ。
 ホテル内は到着した時に一通り見学しておいたので、レストランの場所も承知している。ホテル内には一応、日本語の話せるスタッフがいる、とは聞いたが、今のところどこでもお目にかかってはいない。



 レストランは一階に位置していた。海に面したテラス席もあり、海風を浴びながら優雅に朝食を摂る人たちであふれている。いずれの会話も、尚治には意味が分からない。こんな時、日本から遠く離れた場所に来たのだな…としみじみ思わされる。
 バイキング料理は結構な品数があった。朝食というから割と軽いものばかりを想像していたのだが、野菜も肉も充実している。見慣れない外国料理は、説明カードが置かれていても理解するのに苦しむ。
 その場で卵料理を作ってくれるコックまで常駐していて、客の列ができていた。尚治もそこに並び、ハムとチーズを入れてもらったオムレツを作ってもらったが、皿に乗せてもらったものは形が不格好で、思わず笑ってしまった。日本では客に出せる品じゃないな…。そこは大らかな人柄が出るのだろう。見た目にこだわるわけではないから、尚治にとって気にするところではなかったが。

 テラス席に座って、フレッシュジュースを飲み、パンにジャムとバターを塗って…としているところに、「Excuse me.」と声をかけられて顔を上げた。
 西洋と東洋の血が混じった顔立ちをしている。白い細面の顔にウェーブのかかった茶色の髪、碧い眼は欧米人なのだが、全体的に醸し出されるものは完璧な"それ"ではない。
 体格の良い男だな…というのが第一印象。Tシャツに浮き出てくるような胸筋と伸びた太い腕。色が白いから強固に見えないが、普段男の中で暮らしていると、自然と出来の違いに目がいってしまう。千城並みだ…。きっと年齢も同じくらいだろう。年上の貫録がある。
「あ、え…?」
 尚治はキョトンと立っている男を見上げた。男は手に持っていた皿を見せて、テーブルの上を指でコンと叩く。相席しても良いかと聞かれているのか…と理解すると、首を縦に振った。
 会話の相手にはならないだろうけれどな…と心の中でブツブツ言いながら。
「Thank you.」
 爽やかな笑顔を浮かべて、男は尚治の斜め前の席に腰を下ろした。てっきり目の前に座るのだと思っていたから驚きもした。
 男の動きを目で追ってしまうと、男と視線が合って、「Japanese? Korean?」と聞かれる。
「あ…、あいあむ、じゃぱにーず…」
 発音も何もあったものではない言葉で返すと、クスッと笑われて、一瞬馬鹿にされたのかと思ったが、柔らかな眼差しに見つめられた。肩からホッと力が抜けるのも見てとれた。
「良かった。日本語なら僕、分かります」
 流暢な日本語まで飛び出したら、あからさまに目を見開いて驚きを表現してしまう。こちらに着いてから初めて耳にした母国語だ。
「へっ? に、日本語? 日本語、分かるんですかっ?」
 男はコーヒーカップを口に運びながら、また口端を上げる。
「父が日本人なんです。母はイギリス人。今はアメリカに住んでいますが」
「へぇ…」
 混血だな、と感じたことが当たっていた、と胸の内でつぶやいて、何から話そうかと頭を巡らせる。接客に慣れた性格がこんなところでも発揮されてしまう。
「お仕事、ですか?」
 連れがいないとは何か事情があるのか…。だが、当たり障りのない会話をすることが常だったから、聞いていいことと悪いことくらいわきまえていた。相手が誤魔化せばそれ以上話をする気はない。
 会話にならないと先程は思っていたが、日本語が理解しあえる間では、むしろ、会話がないほうが失礼になるだろう。
「ええ、まぁ。『出張』というやつですか…。でも昨日で終わったので今日はお休み。明日Los Angelesに帰ります」
「え? どこ?」
 混じった英語は咄嗟に聞き取れず、不躾ながら再度問うてしまった。嫌な顔一つせずに、男は言い直してくれる。
「ロスァンジェルシュ。アメリカの…」
「あぁ、すみません。分かります。西海岸、ですよね?」
「そう、そう言ったな。西海岸…。あなたは? バカンス?」
 口調がゆっくりとなった。時に理解しづらい言葉が混じらないように気にかけてくれているのが分かる。一つの問いかけが気を使わせたようで、申し訳なくなった。逆に自分もしっかりと聞き取るべきだと気が張った。
「バカンス、というか、仕事でこちらに来ている人がいて、一緒に来たんです。彼はもう、仕事に行ってしまいました」
 尚治が答えることに耳を傾けながらも、男はフォークを手にしてレタスサラダを口に入れる。「ふぅん」と言うように眼差しで返事をしてくる。
 尚治もパンを食べる。人前で物を口にすることがない、とふと気付かされた。店で接客している時にそんな動作はない。相手の動きが気になるから、そちらに神経を使ってしまう。
 一拍の間があいて、咀嚼した男が「緊張しないで」と言う。
「失礼だけれど、あなたは客商売の仕事をしているのかな?」
 そう尋ねられた時は、心底驚いた。

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同行 1
2013-11-12-Tue  CATEGORY: 晴れ時々
アンケートを完全に無視したものですみません。
だって、思いついちゃったんだもん…。




 日野尚治(ひの しょうじ)は自分が働くバーで、恋人である神戸長流(かんべ たける)の予定を聞く。この店自体が長流の所有物で、雇われオーナーという形の尚治は、これといって逆らうことなど出来ないのだが。自分勝手な経営状態には、多少なりとも文句が出る。
 そこは"恋人"としての立場があるからだろう。6歳年上だが、怯むこともない。同等な立ち位置を望んだのは、他ではない長流の希望だった。
「撮影があるんだったら、行けばいいじゃん。何で店を閉めなきゃなんないの?」
 疑問は素直に口にされる。
 企業広告を請け負う長流が、様々な場所に撮影に出かけることなど、今に始まったことではない。自分で会社を持つから、スタッフを連れてアチコチに飛び回っているのもいつものことだ。日帰りや宿泊を伴うもの、様々だが、尚治は仕事と思って口を挟むことはしてこなかった。
 自分が自由にやらせてもらっていることもあるだろう。
 それが今年の年末は違った。
「一緒に来て」と言われては戸惑う。
 五日間だ。実質、店は一週間の閉店といっていい。
 そのことを尚治は戸惑った。
 雇っている人間のこともある。第一、自分が長流の現場に付いていって、何ができるというのだろう。
 彼の仕事を邪魔をする気はないし、明らかに自分が時間を持て余すことも想像できた。
 カリブ海を前にして、何をしていろと言うのか…。

 雇っている人間(一葉)の保護者(安住)は、あっさりと、「閉めてくれていいよ」と給料なんて気にしていない返事をくれる。もともと、働かせる気なんてないといった具合だ。
 そこはすでに知っていたことだが…(何せ、セレブの暇つぶしの場でしかない)。

「長流ぅ。仕事だろ? スタッフと一緒に行けばいいじゃん…」
「べつにショウ一人連れていくのなんて雑作もないんだけど。それとも何? 僕がいない間に何かしたいとかあるの?」
 そんな疑いの声もかけていただきたくないが…。独身貴族を、鬼の居ぬ間に楽しもうなんていう気はこれっぽっちも思うところはない。
 なかなか、二人での旅行もないから、"ついで"という気もあるのだろう。
 疑われるのは本意ではないし、ここは大人しく従うべきなのだろうが、長流の仕事関係の人間に関わるのも、正直、抵抗が生まれるところだ。
 なにより、自分がどういうふうに見られるのか…。
「ショウが同行が嫌だって言うのなら、後から来ればいいよ。僕、休暇っていう形で現地で待っているから。今年の冬の旅行、みんなとは別行動になっちゃうけどね」
「俺、一人で飛行機に乗れと?」
「もう、何回か行っているでしょう?」
「全部(千城と添乗員に)連れて行ってもらったものだよっ。一人で移動できるはずがないじゃんっっっ」
 言うなれば、知識も教養もないビンボー人だ。ここ最近の付き合いで色々覚えたことはあるかもしれないが、飛び出す勇気まではない。
 意外と小心者だと思うのは、トラブルを避けた人生経験があるからだろうか。
 何事も自分でこなしてしまう長流とは違う。そんなところで、相手のすごさを感じるところでもあったが。
「だからって、ぜーったいにあの連中は連れてこないでっ。千城には僕から言っておくからっ」
 それこそ、撮影の邪魔はされたくないし、また千城もする気がないのはこれまでの付き合いで知っている。
 この時にも、長流は千城の満足が得られるように、英人の休暇を許していることを知った。つまり、同行することはない。代わりに選ばれたのが自分だったようだ…。スタッフとは違ってご一緒したい"一人の人間"である。喜べるべきことか。
 長流が何故、仕事にかこつけて尚治を呼んだのかもなんとなく悟れてきた。
"隔離"だ。安息なのかもしれない。仕事の合間に宿る精神。
 友人から頼まれたなら千城の答えも知れてくる。
 時と場所をしっかり把握した人は、長流の希望を汲み取ってくれることだろう。
 より良いものを生み出す環境は、絶対的に守られている。それも同じ経営者として分かること。
 千城はそのために手を貸している。
 旅行に同行し、自分が長流のためになるのだと知れるのは、嬉しいが…。

 今年の遠足は、皆が揃うことはないのだろうか。
 それはそれでまた、気にかけるものがなくありがたいことでもあった。
 結局尚治は、神戸の日程に合わせた行動をとることになった。

ベッド

 到着した先、スタッフと同じホテルでないと困るから、と言った長流は、中級クラスのホテルを選んでいたようだ。そこまで経費を使えないことも理解する。
 それでも、お国柄からしたら高級なほうだろう。
 窓の外には青々としたカリブ海が見渡せるオーシャンビューだ。
 ソファセットと家電機器が備え付けられた室内は、見慣れた日本国内の安いシティホテルよりも充実している。
 言葉が通じないのが一番の難関だったけれど。長流がいれば問題もない。

 いつもこうやって仕事をしているのか…。
 見慣れない光景は、また、新鮮だった。

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アンケートリクエスト、本当にありがとうございます。
何のためにアンケートを取っているのか分かりませんの状態ですが。
過去の野崎美琴にも驚きましたが、今回の日野&神戸もまた理解できないでいるダメダメ作者です。
ある意味…書いていないところが多いから、すんなり浮かんでしまうのでしょうかね。
いえ、アンケートを取ったから、改めてそのキャラを見直すことができたのかもしれません。
思い浮かんだ時に書かないと、脳から消えちゃうからね。(←痴呆症?)本当にすみません。
あと、ホテル事情は私個人の意見です。
絶対に鵜呑みにしないでください
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夢は現実に
2013-11-10-Sun  CATEGORY: あの日の夢
 もうすぐ就職する。そうしたらゆっくり時間なんてとれないから…と、五泉が温泉に誘ってくれた。
 裏には、兄である能生が『うまく手懐けるため』に手回したやりとりがあったが、燕は知らずにいる。
 そしてまた、五泉が日常から離れて、くつろぎたかったのだろう。
 燕は見慣れない光景に素直に喜びを表した。
 全ての客室が『離れ』になったところには、呼ばない限り係りのものが来ない。夕食朝食も、事前連絡があってだったから、その時間まで干渉されることはない。

「ねぇ、五泉…」
 燕は部屋の外にある光景に息をのんだ。
「なんだ?」
 五泉は移動に疲れた、と言わんばかりに、畳の部屋に腰を下ろしている。
 探索でもできそうな広い部屋をバタバタしているのは燕だけだ。

 秋、夕暮れは早い。
 それほど遅い時間ではないが、すっかり日は落ちていた。
 こんな日まで、雑用に追われて、すっかり到着は遅くなってしまった。

温泉地
 ポチで大きくなります。

「温泉があるんだけれど…」
 燕のキョトンとしたセリフには、五泉が呆れた声を返す。
「それが"売り"なんだから当然だろう」
 客室風呂付の宿である。何が不思議なのか、泊まり慣れた五泉には分からなかった。
 温度差を感じる燕をそばに引き寄せては、その温度差を埋めようとする。

 五泉が望むのなら…。
 黙ってくちづけを受け入れ、体を弛緩させれば、「望むことを言え」と言う。

 きっと、この温泉を愉しみたいのだろう。
 飛び込むように遊んだっていい。
 燕の、相手にあわせて我慢しようとする性格は相変わらずだが、汲み取るのはいつだって五泉だ。分かるだけに優越感に浸れる。
 言えなければ、誘うだけだ。
「入るぞ」
「え?五泉?」
「夕飯まで、どう時間をつぶせって言うんだ。夕飯を整えにきたって、ここまで覗きはしない」
「そういう問題じゃないよっ」
 万が一にも覗かれたら、苦情につながる。
 秘密裏に物事を流してくれるのも、こういった客商売ならでは…。
 もちろん、燕の裸体を見せる気など、五泉にはなかったが。

「早くしろ」と促すと、大人しくついてきた。
 時間を気にするのか、五泉を気にするのか…。

 少し熱めの湯も、空気に触れて心地よい。
 広い風呂なのに、抱き寄せたくなるのは何故か…。
 また、従順な燕に舌打ちしたくなるのか、微笑んでしまうのか…。

 ただ、手に入れた現実は間違いなく、ここにある。
 ギスギスした日々から、夢を見た日に…。

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待っていたから 21(最終話)
2013-11-09-Sat  CATEGORY: 待っていたから
穂波・香春・嘉穂
イラストの版権はくるみ様にあります。お持ち帰りはお断りいたします。

 嘉穂と穂波と両脇に立たれて津屋崎家に帰った。夕ご飯はすき焼きだ。
 きっと穂波はこれが食べたいからさっさと嘉穂の回収に来たのだろう。
 残念な試合の結果はあえて深く突っ込まれることもなかった。試合に負ける悔しさは穂波も経験しているから、「ま、勝ち続けて天狗になるよりはいいよ」とあっさりとかわしてしまった。
 その悔しさをバネにまた励んでいけばいいと。

 食事のあと、香春はお風呂ももらって嘉穂の部屋に引きあげた。週末の今日、どっちの家に泊まってもいいという配慮は今後も続けていかれることなのだろう。
 嘉穂の部屋で待って、遅れてきた嘉穂は下で家族として何かを話しあってきたようだ。
 今日は特に傷ついた嘉穂がいるから余計だ。誰もが温かく見守ってくれている。…とはいえ、家族がいる前で、いやらしい雰囲気になれるはずもなかったが。
 嘉穂はまた牛乳とお菓子をトレーに乗せて持ってきた。
 ベッドの前の指定席に座っては、嘉穂の動きに目を奪われる。
 筋肉質な大きな体は香春の隣に腰を下ろしてきて、ずっと燻っていた気持ちを穏やかにしてくれる。話し始めたのは八女のことも含まれた。
「ごめんな…。ジョウのこと、気にしたのは香春だって嬉しくなかっただろ…」
 それはもちろんだったが、嘉穂なりの考えがあったのかと思えば強く責められるものでもない。そこは嘉穂の優しさにある。しかし、嘉穂は先程「友達でなくなってもいい」としっかりと伝えていた。
 これ以上、嘉穂に対して何かを言える権利なんてない。
 つまらなくても、悔しくても、嘉穂の人柄だと思えば許すしかない。
 嘉穂は次々と、溜めこんでいたようなことを口にした。

「香春、同じ高校に行こう」
 そう言われて現実を突きつけられた気分になった。甘い時間は続かない。
「香春に学力的に無理があるなんて思っていない。ジョウと柳川にはっきり伝えたのは、香春に自信を持ってほしかったから。俺がはっきりしないから、香春は余計に不安になったのかな…って考えた。勉強に身が入らないほど心配させたのかな…って。俺は絶対に香春だけを見ている。いつだってどんな時だって、香春がいてくれたからここまで来られた。部活だって、香春が『カッコイイ』って言ってくれるから、香春の自慢でいたかったんだ。…負けちゃったけどさ」
 情けなさそうにうなだれられて咄嗟に香春は「そんなことないよっ」と抱きついた。
 嘉穂がどれだけ努力して頑張ってきたのかは、一番近くにいた香春だからこそ知ることだった。チームプレーだから全ての責任が誰ひとりに押し付けられるものではない。嘉穂の活躍は誰だって認めている。たまたま、勝敗という結果が、『負け』の烙印を押しただけだ。
 そして何より、深く深く、香春のことを考えてくれていたことに感激した。
 自分が不甲斐ない成績を出してばかりで、嘉穂はヤキモキした時間があったのだろう。もしかしたら、それでプレーに集中できなかったのかと過れば申し訳なくもなった。
 えっちなことばかりに気を取られたのも否めない。体をつなぐことが、一つの安堵だったのだから…。
 そこを嘉穂ははっきりと位置付けてくれた。
 不安なんて持つ必要がないように…。

「部活はもう、やめることにした…」
「え…?」
 あまりにも予想外なセリフが飛び出して、香春のほうが瞠目した。目を大きく見開いて嘉穂を凝視してしまう。
「塾に行くって言ったら、にぃちゃんは『嘉穂が決めたなら』って学校への退部届願いまですんなり書いてくれたよ」
 嘉穂は笑う。
 勉強にうるさい津屋崎家にとって、部活はあくまでも娯楽の一つだったのかもしれない。先程までの時間はこの話のためだったのか…。
 それでも、香春のために…という選択肢は喜ぶことなどできなかった。
 校内でも、必ずしも部活に参加しろという制約はない。ましてや、受験が絡んでくるこれからの年は、強制させられない背後がある。
 塾に通うことになれば、当然時間が狭まれたし、勉強時間を削ってまで、部活動に励めとは言えなくなる。本人のやる気が全てで、尊重してくれるところでもあった。
「嘉穂くん…」
「俺と一緒に勉強したら、分かることも増える? 第一志望も第二志望も同じところにしよう。香春を一人にするのが嫌なんだよ、俺は…」
 抱きついた体は逆に抱き返される。
 強くて逞しくて…、守ってくれるものは、独占欲を剥きだしにしてきた。
 本当に待っていたのは、この想いなのだと思う。
 嬉しくて涙がこぼれそうになって、必死にこらえた。
 これ以上嘉穂の負担にはなりたくない…っ。
ストラップ

 ふたりをつないだ絆がある。

「がんばるよっ。僕、がんばるからねっ」
 同じ学校に通うことの夢が広がる。
 嘉穂の好きなことのひとつを取り上げたのだから、我が儘なんて言えなくなる。
 その環境を生み出すために、嘉穂は学校での噂も怖く思わなくなったのか。だから、八女たちにも自分たちの関係を明らかにした。
 確かに香春が望んだものだったが、覚悟を決めたという点は想像しなかった。
 それだけに、嘉穂の想いを感じる。
 彼に応えるべく闘志を燃やす。

「香春…。これからは"ご褒美"だけのえっちにしよう…。俺も我慢するから…」
 体の関係を遠ざけられることに不安は過った。だけど真剣な目に頷く。
 どうしてもなだれこんでしまう肉体関係は、上の空にさせてしまうことも強い。
 嘉穂に新たなる我慢をさせると思ったら、中途半端にいかないことを漂わせる。頷いていいのか、どうなのか悩むところだったが、ご褒美を与えてくれることを思ったら、首が縦に振られた。
「今日は、これだけ…」
 そう言って、嘉穂は香春にくちづけてくる。軽く合わせては離れて…。
 感動に潤んだ瞳で見上げたら、「やっぱり我慢できないかも…」と早々に音を上げた嘉穂がいて笑ってしまった。

…僕はいつだって嘉穂くんのためにいるよ…。
 そう胸の内で呟きながら、またキスを繰り返す。
 覚えたての肉体は、なかなか静粛にはいかなかった。

「嘉穂ぉっ、てめぇっ、ちゃんと宿題してんだろうなぁっ?」
 廊下から福智の声だけが響き渡る。
 入ってくることがないのは、この家での"配慮"なのだろう。たぶん、筑穂に確認を促されたのだ。
…家の中って難しい…。
 クスッと思わず顔を見合わせた。
 そう感じた中学二年生の、夏前…。
 今は"待っていたから"想いが聞けた、それだけでいい…。

―完―

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なんだか、えらく中途半端にした気がしなくもなく…。
保護者の努力もあって、きっと香春は嘉穂と同じ学校に通うことができるでしょうね。
完結をお待たせした読者様にはお詫びしたいところです(←え? なんだよ、こんな終わり方かよ…っと不満に思われた方もいるかと…)
私、本当に学生物って、読むのはいいけど書くのは苦手だな…と思いました。
初々しさが書けないんですよね…。
だから今回の嘉穂も、どこか大人びてしまったかな…と反省しておりますが。
親が亡くなった状況下で育ったら、しっかりした精神が宿っていてもいいかな…と。

またしばらくお時間をいただくかと思います。
ただいま いただいているアンケートが、和紀と日生がものすごい勢いで、千城と英人を抜きました。
日生の日常が知りたいとか、日生がどう周防を呼んでいたのか知りたいとか(←ここ、誤魔化していたところをしっかり食いついてこられましたね…汗。そう、書いていないんですよ。わざと避けたところでした)。
そのうち、中間報告をしたいと思います。
締め切りは12月10日にしましたのであと一カ月。
(途中で誰かを書く可能性大ですが、思いつきのままでいきますのでお許しください。私が一番驚いたのは日野&神戸だったんですけれどね…。美しい海辺に撮影に同行させられた日野…との撮影されないらぶしーんとか書いちゃおうかなって気になりました。)
皆さま。お忙しい中、お付き合いありがとうございましたm(__)m
あと、別宅は本当に気ままに更新しております。それこそ気まぐれに、あっちのバナー(和紀ひな)をポチってしてくださると、きえちんのつぶやきが聞こえます。
その前に↓こちらにパチっていただけるともっと嬉しい(#^.^#)
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待っていたから 20
2013-11-08-Fri  CATEGORY: 待っていたから
 香春は津屋崎家の玄関で待っていた。
 気が許せるのは"自宅"だろうと気遣った鞍手家の親はすでにいない。
 本当は宴会のごとく、騒ぎたい気持ちがあったのだろうが、試合に負けてしまった状況は騒げるはずもなく、家族で静かに過ごしたいだろうと配慮された。香春はそこに強引に居座っていた。
 いつ帰ってくるのだろうか…。
『すぐ』と嘉穂は言った。学校からここまで、香春の歩幅だって歩いたら数十分なんてしない。
やっぱり…、迎えに行った方が良かったのではないかと夕焼け空に目を向ける。
雨はもう、やんでいた。
もうすぐ日が暮れそうな暗闇がせまっていた。

 …事故になんか、あわないよね…?

 ふと脳裏を過ったのは、津屋崎家の両親のことだった。
帰ってくるはずの人は、二度と目を開けず、冷たいまま横たわっていた…。

 熱い肌を思い出す。嘉穂がどれだけ香春を求めてくれたのか、甦ることだけで体が震えた。あの匂いと肉質を失うことなど考えられない。絶対にあり得ない。
 グランドで嘉穂はくちづけてくれた。
 まさか、最後のあいさつ…?
 想いはとげたとでも言うかのように…。
 負けた感情から、変な考えだけは起こしてほしくない。自殺なんてしないよねっ?

『待ってて』
 そう嘉穂は言った。
 待っているよっ、待っているから、早く帰ってきてっ!!

 思わず玄関を飛び出せば、帰宅した穂波の胸とぶつかった。穂波は"営業"があったために、試合結果は知らないのだろうか。
「…っとぉ…。香春、何、急いでるの?」
呑気な声がこのときばかりはじれったかった。
「嘉穂くんがっ、…嘉穂くんが帰ってこないのっ」
「嘉穂? あいつならそこのカドでだれかと話してたけど…」
 穂波はすぐそばにいると伝えてきた。そこにいるのか。なのに帰ってこない…。自分より優先された存在が憎い。
 嫉妬心で夢中で走りだした。
 すぐ帰る、って嘉穂は言ったのに…っ。香春より他人を優先するのか…っ。
 どこで油を売っているのだと、覚えたての言葉が脳裏を駆け抜けた。
 悔しさと妬みが、お疲れ様、と労ってやろうという感情を押しのけてしまった。

 見つめた先には、穂波の言ったとおり、嘉穂と…八女の姿があった。隣に、柳川の姿も…。
「嘉穂っくんっ!!」
 勢いよく叫びよると、ハッとしたように、三人の目が向いた。

 なんで、こんなところで内緒話をしているのだろう…。
 家まですぐそこなのにっ。

「香春…」
 嘉穂が香春の脅えの声をかき消すかのように、近寄った香春を抱きしめてくれた。戸惑いも憂いもない、学校とは違う姿に、香春の方が瞠目した。こんなスキンシップは学友を前にしてされたことなどなかった。
 更衣室で着替えたのだろう。洗いたての衣類の匂いと、汗をかいた嘉穂の独特の香りが鼻孔を掠めた。それと一緒に、「遅くなった…。ごめん…。香春しかいらないから」と呟かれた。
 呟く、とは違う、はっきりとした言葉は、その場の人間に言い聞かせるもの。
 視線を注ぐ二人を見返したら、悔しそうに顔をゆがめる八女がいて、それと共に柳川が「見るな…」とでも言うように、その視界を胸にしまいこんでいた。
 嘉穂はまだいいたりなかったことがあったと言うように口を開く。こんな非情な姿は見たことがないと香春が思ったほどだ。優しいけれど、冷たい。
「俺はジョウと友達でいたい…。それがダメだったら、もう話さなくてもいい…」
 決別を告げる。
 全てを切り離すことに躊躇いはないのだろうか。友達を失うとか…。香春の方が心配してしまったくらいだ。
 八女に対して恋愛感情を持ち込むなと伝えている。確かに嬉しいけれど。
 友人関係を壊してもいいと、嘉穂になにかにビクつくものは見られなかった。ただ、香春だけを抱き締めてくれる。まるでどんな苦境からも掬いあげてくれるように。
 強い…。強いチカラが漂う。
 柳川がやはり囁くように「もう、諦めろ」と呟いたのを聞いた。泣いた八女はそばで支えてくれる人に頼るのだろうか。
 一人のライバルが消えていく…。目に見えない安堵だったのかもしれない。
 嘉穂には誰も近づいてほしくない。

「嘉穂~っ、香春ぁ?」
 呑気な声が響いた。穂波が、帰ってこいと探しに来たようだ。
 声に反応して全員がそちらに目を向けた。
 状況を見て、悟るのが早いのは、兄と弟を見てきたからだろうか。
「なに、邪魔? 兄貴には…」
「ほらくんっ、嘉穂くんっ、シュート決めてすごいねってはなしててっ」
 香春はすぐに叫んでいた。
 筑穂にする言い訳ぐらい、簡単に思いつくといった風情があった。でも去ってほしくない。
 このときばかりは今すぐにでも嘉穂と一緒に連れ去ってほしいと"兄"に頼った。
 穂波はこの場の関係を読みといてくれていたのか。
 兄の登場にタジタジッとなったのは八女と柳川だ。
 福智のような面倒見の良さとは違うオーラがある。
 
 穂波はフッと笑って柳川と八女から香春たちを切り離した。全てを知った態度に、言葉のひとつひとつが染みていく。
「自慢話ならうちで聞く。香春、来いよ」
 香春を呼ぶことは家族の中にいていいということ。たった一人が呼ばれた。
 そして嘉穂が反論する。
「なんでほらくんが香春を呼ぶんだよっ。香春は俺のモンだってっ」

 その言葉がどれだけ深く響いたのか…。

 待っていたよ。待っていたからね。
 嘉穂の特別になれる時を…。

 香春はまた泣きながら嘉穂に抱きついた。
 嘉穂は包み込んでくれる。

 背後で穂波が、二人の邪魔をするな、と友人を追い払ってくれていた。

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すみません… 最終回にするつもりがギリギリまで粘っても私の行きつくところにおよばず 諦めました。
もっとなんつーか、深く(なくてもいいけど) 学生 というものを書きたかったけど難しい…。

更新ないのも失礼かと思いまして、これだけup しますね
次回こそは 最終回←力まなくてもいいかなぁ。
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待っていたから 19
2013-11-07-Thu  CATEGORY: 待っていたから
 嘉穂の試合の日は、運良く土曜日の午後になったため、香春も授業を気にせず、応援に行くことができた。平日の場合、学校の規則で、部活関係者以外は授業をサボることができないことになっている。とはいえ、アレコレと理由をつけて、見に行く人は少なくない。会場に誰が来ていた、と分かる分、黙認されているところはある。
 これが大会が進んでいけばまた話は異なるのだが、一回戦はどこの学校も応援団は少ないのが実情だった。
 その日程が良かったのか、天気の割に観客はかなり多い。女子生徒の甲高い声が聞こえるのは、出場選手の人気度まで表しているようだ。
 当日はどんよりとした曇り空で、今にも雨が降りださんばかりの厚い雲に覆われていた。せめて試合が終わるまでは天気にがんばってもらいたいと誰もが祈るような気持ちの中、キックオフとなる。
 試合は前半で1-1の同点。嘉穂がゴールを決めた時には、香春は誰よりも興奮して笑顔を浮かべた。
 ガッツポーズをして、仲間と抱きあう光景はちょっとうらやましかったが、すぐに香春に視線を送ってきてくれたことにはドキドキとしてしまった。
 嘉穂は最初から、香春がどの席で応援しているのかを知っている。
 午後からの試合だというのに、朝早くから押しかけて、最前列を確保した。
 練習中には声までかけてくれた。
「嘉穂くんっ、がんばってねっ」
 同じように声を張り上げた人は、何人いただろうか。
 しかし、声を返してくれたのは香春一人だけだ。
「ああ。…帰り、一緒になれないけど、家で待ってて…」
 試合の後は、良かれ悪かれ、部員全員がバスに乗って一度学校に戻る。
 学校で待っててもいいのに…と、香春は解散後すぐに会えないことに不満があったが、超特急で帰ってきてくれると信じた。
 学校で待ち伏せる人もいるが、バスと同じ速度で走れる乗り物を持たない限り、中学生の足では無理の距離がある。
 今日、香春は両親と筑穂と福智で、父親の運転する五人乗りの乗用車で来ていた。どちらにせよ、嘉穂の乗るスペースは自家用車にはなく、誰かを下ろさなければならない状況にあった。

 その後はどちらも点を入れられなく、1-1のまま後半戦になる。嘉穂がゴールに近づくたびに観客席からどよめきとため息が湧いた。
 一点目はゴールまでまだ距離があるのに、ドリブルで一気に攻めて打ち放ったシュートはゴールネットを揺らした。
 誰よりも香春は大興奮で、「嘉穂くんっ、嘉穂くーんっっっ」と声を枯らすほどに叫んだものだ。一瞬でも香春を見てくれていた。その興奮をもう一度届けてほしい。
 試合は均衡のままで延長戦かと思われたが、雨が降り出したことで、ペースが乱れた。終了直前になって、チームメイトの反則から相手チームのゴールを許すことになって、惜敗した。
 その瞬間にも、香春はボロボロと涙を流す。せっかく嘉穂が得点したのに、守りきれなかったことが納得できなくて悔しかった。
 だけど全部が一人のせいではないと分かるチームメイト。全員が精一杯たたかったことを誰だって知る。
 勝敗に、誰の責任という言葉はない。
 悔しかったのはもちろん選手たちも同じ。グランドに膝をつく人や、天を仰ぐ人。それぞれが嘆きの表情を浮かべていた。
 何を思うのだろう。瞬間、その時、空を見た最後は嘉穂は思うところがあったのか。香春を見ていない。苦しさから逃れるように唇を噛みしめていただけだった。
 それを悔しがるのは間違えてると、香春も分かる。
 何を考えているのだろうか…。
 不安が…。
「嘉穂くんっっ」
 先程とは真逆の感情を胸に、香春は喉を震わせた。必死だった。
 まさか、このまま見てくれないのでは…。

 淡々とした挨拶を済ませて、応援席に向かってきてくれる部員たちがいる。嘉穂が視線を合わせたとき、何もかもが吹っ飛んでいた。
 嘉穂が自分を見てくれていること…。
 香春は手を伸ばせば嘉穂に触れると思った。絶対に傷ついている心を抱きしめてあげたかった。そこで何が嘉穂を癒してやれるかは分からないけれど…。
 今にも柵から飛び出しそうな体を、母親と父親と福智の手によって止められた。上半身は完全に飛び出し、足は宙に浮いている。真っ逆さまに落っこちるだろう。落ちなかったのは福智の力があってだからこそ。
 そんな香春を、嘉穂はいつもと変わらない顔で見つめ返してくれる。
「香春、泣くなよ。何も人生最後の試合じゃないんだからさ」
 嘉穂も両手を伸ばしてきて、香春の手を掴む。抱き締めるところまではいかない。
「だって、嘉穂くんっ」
「ほら、濡れちゃうから。ちゃんと傘の下に戻って…」
 嘉穂のほうが充分濡れているというのに、どこまでも香春を気遣ってくれて、また大粒の涙を落とした。
…あともうちょっとでまだ戦えたはずなのに…っ。
 嘉穂は『負け』は『負け』として受け止めていた。
 嘉穂が伸ばした手で香春の湿った髪を撫でてくれる。
 こんな雨の中だから…と、他の選手は早々と踵を返すのに留まったのは香春が離れようとしなかったからだろうか…。
 途端に福智が叫んだ。
「嘉穂っ、ギリギリまで香春を落とすから、おまえも背伸びしろっっ」
「え?」
 誰もが驚いた時、香春の腰を強く抱いた福智の腕が、香春の体をもっと前に押し出した。
「ちょっっ、福智っ?!」
 筑穂の驚愕の声は悲鳴にも似ている。香春自身、落とされるのかと驚いたくらいだが、一層嘉穂との距離が近づいたことに、我を忘れた。
 一瞬の出来事だ。
 香春が落ち過ぎないように肩に両手を添えて、背伸びをした嘉穂の唇がが香春のものを掠めた。
 突然のことに呆然とする香春に、ニッと笑った嘉穂が香春の肩を押し戻しながら「泣きやめ」と言う。
 嘉穂からの微妙な力加減を感じとれば、香春の体は一気に引き上げられていた。
 冷たい雨の中で、一瞬だけ触れた温かさ…。
「嘉穂くんっ!!」
「すぐ帰るから」
 片手を上げて去っていく後ろ姿に叫んでいる香春の耳には、目撃してしまった人たちのざわめきは届いてこなかった。
 キャーキャー騒ぐ甲高い声と感心したようなどよめき、恨みがましい嫉妬が混じる。
 注目の的になっていることを周りにいた人間が気付かないはずもなく、鞍手家と津屋崎家は雨と視線を避けるように会場をそそくさと後にした。

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次回、最終回になるかな。
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