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BLの丘
春が来てくれるなら 6
2013-04-26-Fri  CATEGORY: 春が来てくれるなら
何人もの男に抱かれた経験があった大月にとって、ソレは簡単に流せる出来事ではあった。
表沙汰さにするのも簡単なことだ。
きっと相手も、覚悟はできていたのだろう。
『社長の息子』という立場は分かっているのだから。
だから逆に、訴えられなかったことが、相手の男にとっては疑問でもあったのかもしれない。

そう、大月は、『こんな小さなこと』と事を荒げることはしなかった。

減給された上司たちも、これで済んだことに安堵の息をついていたのだろうが。
全てを知る韮崎も口出ししてこなかった点が大きい。
告げ口・・・してもいいが、そのことが余計に今の職場内の闇になることも大月は悟っていた。
上から下された処分だけで十分だろう。


新入社員の研修は、挨拶から始まる。
一つの館内を貸し切ったもので、そこには『上司』と言われる人間も揃っていた。
韮崎に言わせれば、人との付き合いを試すもの、らしい。
そこはどう立ち向かえるのかの実験のようなものなのだが。
大月はどこにいても変わらぬ態度でいた。
最低限の敬語は使っても、"時間"を過ぎれば奔放とも言える姿を見せた。
特に韮崎に対しては・・・。
上司も部下もない、そんな空間であってほしい願いが伝わるかどうか。

一夜のなかで、風呂に入れる時間も自由だった。
精神的に疲れた人間はさっさとすませてしまう人もいる。
館外に出ていく人もいたし、そこを勝手にさせていることも、この社の良さでもあるのだろう。

大月はできるだけ人に関わらないように、入浴の時間もずらしていた方だ。
たった一泊のために、部屋の狭いバスタブを利用しても良かった。
だが、広い浴槽に身を投げたいのは、生まれ育った環境もあるのだろうか。
心地よく過ごせる場所。

間もなく日付が変わろうという頃。
大月は人気のない浴槽に安心して足を踏み入れた。
檜の風呂は何十人という人間が入れる広さ。奥には岩の露天風呂に繋がる路がある。

のんびりと浸かれるこの時間が、休めて好きだ・・・とも思う。
きっとこれは、新入社員も同じだろう。

誰もいない空間に身を投げていれば、ふと、人の気配を感じる。
誰が入ってきてもおかしくない環境なのだが。

「御坂さん、こちらにいらしていたのですか」
こんな時間に新入社員が起きていたのか・・・
『勝沼』と名を聞いた。
記憶にあったのは、彼の体躯があったからだと思う。
高い身長といい、脱いだらもっとはっきりと分かる胸板など。
隠すこともしない堂々とした態度も。
大月にとって、見劣りはしない。
・・・そういえば会社のどこの配置だったっけ・・・

韮崎に頼めば自分の部下として入れてくれるかもしれないが。
いかにも自分の"好み"を引きいれるのは後ろめたさもある。
今はただの"交流"でしかないかもしれないが、勝手ながら勝沼にそれらしきものが漂うと思うのは思い上がりだろうか。

こういったときのやりとりは慣れてもいる大月だ。
「俺、探されていた?」
「韮崎さんがいつも目を光らせていたからどうかなって思っていたけれど」
「アイツは関係ないし」
「それって狙っていいってこと?」
「俺がどんな立場か分かって言ってるの?」
「玉の輿・・・みたいなの、思っていないけどね」

やっぱり堂々とした発言に驚かされてもいた。
誰もが特別視するところなのに。
こんな空気も新鮮だった。
"遊びたい"思いはこんなところにも表れるのだろうか。

危険な橋、はこんなところにもある。
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春が来てくれるなら 7
2013-04-28-Sun  CATEGORY: 春が来てくれるなら
大月も『新入社員』のくくりだったが、韮崎が手塩にかけて育てていることは周知の事実で、扱いは全く異なる。
韮崎流の仕事の教え方だったこともあり、それは未来に向けての狙いでもあった。
既存の社員はもちろん、入社したての人間も大月の立場は自然と刷り込まれている。
まだ慣れない社員を、うまく配置転換することなど、韮崎には造作もない。
それゆえに、大月は、自分の下で働いてくれる人間を、すでに探し始めていたのかもしれないが。

明らかな好意の寄せられ方は、うざったいが嫌いではない。
本当に面倒になれば権力を振りかざしても足蹴にすればいいだけだ。
たぶん今なら、韮崎が協力してくれるだろうという甘えも、心の奥底にある。

「勝沼・・・さんって言ったっけ?」
「覚えてくれていたんですか?営業部の勝沼双葉(かつぬま ふたば)です」
大月が話に乗るように声をかけると、俄かに喜んだ節が見え、スッと身体を滑らせるように、近づいてきた。
もっとも触れあうほどの近さはない。
「営業部・・・か。見かけないはずだな」
「俺たちが御坂さんを知っていても、その逆はないと思っていたから意外ですね」
「こっちは何人分の新入社員の書類、作らされていたと思ってるんだよ。顔写真に名前に・・・。"同期くらい把握しておけ"って小言までもらってさ」
もちろん、嘘八百の発言である。
はっきり言って、興味のない人間など、顔をみたところで自社の社員だとは、判別もつかないくらい、おぼろげな記憶しかなかった。
しかし、勝沼は鵜呑みにしたようだ。
「すごい記憶力ですね。韮崎さんが目をつけているのも分かる」
「目をつける・・・って、あのなぁ・・・」
簡単に言えば、明野と一緒に動くのが韮崎であって、さらにその下に大月が入ったというだけの設定のはずだった。
本当のところ、周りにどう見られているのかは分からないが、表向きは、一族のことがあるから、韮崎が大月を構っている程度に捉えられていればいいと思っている。

大月と韮崎の"裏の事情"は隠すべきことで、悟られるのは危険な状況を生んでくる。
特に明野の存在だ。
遊んだ数は、数知れずの韮崎を知っている明野であったとしても、今現在の状況は耳に入れて気分の良いものではないはずだろう。
韮崎が大月を特別視している、などといった内容は、仕事だけのものであってほしい。
世間体を気にかけた父と、一応、可愛い弟の行く末を心配した兄を、手酷く傷つけたくはなかった。
新しい事業を始める際に、大月を引きぬいたとしても、それは同じ会社内にいることで気がそぞろになる大月を気遣ったことになる。

「え?違うんですか?今日だってずっと一緒にいたから・・・」
「都合良くコキ使えるからってだけだよ。他の連中に無理難題押し付けて、気分悪くさせるくらいなら・・・ってとこじゃない?」
「ふーん・・・」
勝沼は納得したような、していないような曖昧な返事で返してきた。
それ以上、韮崎の話題が飛びださなかったのは、大月にとっては良かったことだったが・・・

「明日は昼過ぎで研修、終了だろ?一部の連中内では、"打ち上げ"とかいって、集まりがあるみたいじゃん?」
更にその翌日は週末のため、休みである。
同期同士が、また、上司同士が、それぞれに交流を持つのは悪いことではないし、お互いに知らない面を知るいいきっかけになる。
あたりまえだが、そこに大月が呼ばれることはなかった。
「そう、みたいですね。御坂さんは?」
「俺?あのさぁ、どんだけウザい存在か分かってる?ハメはずしたいヤツらの邪魔をするようなもんだよ。そんなところに自ら行くか。俺だって楽しくもなんともない」
大月が尋ねてしまったことが、勝沼にはどんな意味に捉えられたのかは分からないが、少なくとも他の社員が持つような緊張感がないことだけは知れた。
自然と振る舞ってくれるところは、少しだけ大月の気分も緩ませる。

「じゃあ、明日は俺と一緒にどこか行きません?」
「はぁ?!」
「いや、俺も別に予定ないし。せっかくだから、もう少し御坂さんと話でもしたいな、と思って」
唐突な問いかけに目を剥けば、更に切り込んでくる態度に出会う。
社内で親しくなれる人間なんて限られていた大月にとっては、不思議な感覚だった。
大月好みの体躯という点も興味は惹かれたし、社内の人間であることに警戒心が解かれていたのかも。
「それともすでに予定アリ?」
真正面から問われて、大月の口角が上がった。
整った勝沼の額から、温まったのか、じわりと汗が浮いている。

・・・ますます良い男に見えるな・・・

大月は無意識のうちに、獲物を狩る妖艶な笑みを浮かべていた。

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春が来てくれるなら 8
2013-04-29-Mon  CATEGORY: 春が来てくれるなら
大月が微笑んだことで、勝沼は一瞬ドキリとしたような表情を見せた。
誰かと"取り引き"する時に、こんな手はいつも使うことで、すっかり慣れた大月だったのだ。
そのことは韮崎も知っていることだったから、最初の時点で、大月に釘をさしていたのだろう。
あとは、『他の男』に手を出すことで余計なトラブルを生みたくない予防線を張っていたか・・・

勝沼の反応を見て、大月は先に風呂から上がろうとする。
この場で、これ以上の気を持たせることは、こちらからすり寄っているようで、これもまた大月は好きな行為ではなかった。
「じゃ、また明日」
さりげない仕草で湯船から出た。
隠しもしない態度は、場数を踏んだ証拠でもあったけれど。
じっと見られている視線も感じたが、待たせるのも一つの手段だと思っている。

脱衣所でタオルを巻いていたところに、幸か不幸か、韮崎に出会ってしまった。
この時間になれば、さすがにスーツは脱いでいて、大月では見慣れた寛いだ格好だったが、相変わらず服のセンスの良さは人目を惹く。
「こんな夜中に何しているんだ?」
訝しげに見てくるが、そういう韮崎にも当てはまる行動ではないか。
大月の考えは態度に出ていたのだろう。
声を発する前に、韮崎のほうが状況を伝えてきた。
「おまえみたいに呑気に過ごしていられないんだよ。報告事項も準備もあるんだからな」
この時間まで仕事をしていたのだと言いたげな発言に、どこまでも嫌味なヤツ、と内心で毒づいた。
「あっそ。勝手にやっていれば?俺がどこで何をしていようが関係ないだろ」
「大月」
咎める声に、一瞬ビクッとなった。
こういう時の韮崎の声はとても低くなる。
どこまで大月の生活を監視したいのか、嫌気がさしてくる時でもあった。
自由奔放に過ごした過去があるだけに、韮崎の束縛は嬉しいものではない。
身体を繋げるだけのことなら、後腐れなく付き合えるのに、韮崎が完全に自分の"駒"として使おうとしていることが分かっているから、余計に反抗したくなる。

「問題を起こすようなことをするなと、再三言ってあるだろう。研修中なんていう、人が集まっている場所では、ただでさえ目立つんだから、良からぬ噂がたつような行動は慎め」
「何もしてねぇよっ。そんなこと言うなら、連れてくるなっ」
文句をつぶやきながら、大月は手早く衣類を身につけ始めようと手を伸ばす。
その手をフイに掴まれて、咄嗟に身構えていた。
「立場が分かっていないのか?大月が参加していないとなれば、それだけで他の社員から反論を買うだろう」
「そこをうまくやるのがあんたの仕事だろう」
「まったく・・・」
呆れたため息をつかれては、ますます機嫌が悪くなるというものだ。
会社内での雰囲気を掴むのは、どうしたって韮崎のほうが上手だし、周りへの配慮も、大月ではなかなかできるものではない。

浴室に置いてきた勝沼が、大月の後を追うように出てきて、こちらも不幸なことに現場を目撃された口だった。
勝沼の話しかけようとした雰囲気があり、動揺はすぐに顔に出ている。
明らかに先ほどまでの会話を振り返っている素振りも見受けられた。
妙な誤解を植え付けたのも間違いないだろう。
大月は舌打ちしたい気分になっていた。

「あ・・・、こ、こんばんは・・・」
韮崎の登場に、さすがに勝沼も怯んだようだ。
大月の好みまで把握している韮崎は、大月の明らかな態度の変化に状況を理解してしまった。
お互い裸でいる現在、誤魔化しもきかないとは、このことだろう。
意味ありげに見下ろされて、大月は握られていた腕を振り払った。
さすがに、それ以上、韮崎も大月に接触してこようとはしない。
「緊張でもして眠れなかったか?気分転換に利用してもらうのは全く構わないが」
新入社員だと知った上で韮崎は勝沼にも声をかけている。

チクチクと責めてくる言葉は、はっきりと下品な意味を含んでいる。
大月に対して、注意をうながしているのも端々から感じられる。
それ以上誰も何も発しない空間で、韮崎は着てきた衣類を脱ぎ始めていた。
見られることに慣れていた韮崎は、勝沼の感心したような視線も、気付かないふりで浴槽へと身を滑らせていく。
確かに嘆賞するに値する体躯だったが、同時に妬みを買うものでもある。

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春が来てくれるなら 9
2013-04-30-Tue  CATEGORY: 春が来てくれるなら
韮崎がいなくなった現在、勝沼と二人きりにされた状況は、非常に居辛いものとなっていた。
一度は韮崎との関係を否定したものの、時間外とも言える時間に、この場で出会ってしまったこと、また 身近に寄られている光景を目撃されたことは、全ての言動をひっくり返す。
この先、どんな悪いうわさが立てられようが、全ては韮崎の責任だろう、と投げ出したい気分でもあった。
だが、反面で燻るのは、やはり、家族の存在か。

明野が、韮崎と大月が親しい関係にあると知っていたとしても、それ以上を疑われたくはない。

そんなことを巡らせながら大月はあることをひらめいていた。
このまま、勝沼と親しい仲になれば、少なくとも明野の誤解は生みだされないだろう。
どこまで進むかは最大の疑問だが、社内で韮崎とは別の人物と"仲良し"になることは、必要以上に疑われない防壁になるかもしれない。

ためらいを含んだままでいる勝沼に、すぐさま向き直った大月は、「じゃ、明日な」と先ほどと同じセリフを繰り返して、勝沼を驚かせていた。
「え・・・、でも・・・」
このごに及んでまさか、そんなセリフが吐き出されるとは思っていなかったのだろう。
この現場だけで『大月は韮崎のもの』と植えつけてしまった証拠である。
勝沼に対しての疑いもどこまで広がっているのかは謎であるが、今現在「何もない」と言い切るのが得策のような気がした。
手早く衣類を身につけ、まだ濡れた髪のままで、風呂場を後にした。
このあと、もしかしたら韮崎と勝沼がなにかしらの話をするかもしれない。
しかし、韮崎から大月とのことをこれといって深く掘り下げて伝えられないことも知れたことだ。
韮崎から関係性がないと直接聞かされれば、勝沼も先程の動揺を捨てて、最初に出会った時のような堂々とした振る舞いに出てくるだろう。
ちらっとしか触れあわなかったが、突き進むタイプだとは感じられた。
その性格も"営業部"として認められた才覚なのかも。
あとは、韮崎を避け続ければいい・・・。

部署ごとに相部屋を取らされている人たちもいたが、大月はツインルームを一人で使っていた。
もっとも、大月と同室になりたい人物もいないだろうというところだが。
冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、半分ほどを一気に飲み干す。
久し振りの出会い(?)は気分もよかったのだが、韮崎の登場で、あっという間に覆された。
あの男は、どこまで自分の地位を守り、大月を自分のものとしようとしているのだろうか。
それを兄の明野に知らせてしまいたい衝動も抱えながら、反面で、今の社会生活から逃してくれる期待感も抱えている。
どれほど居心地が悪いか・・・。もしかしたら韮崎のほうが強く感じて経験してきていたのかもしれないと。

環境を変えてくれる未来が見えるからこそ、今を我慢できて、夢を見ることができるのかもしれない。
そこには確かな道筋がある。

『夢』とはなんだろう、という苦笑いも同時にこぼれていた。
そんな乙女チックになる時期はとうの昔に捨てたはずたろう。
だが・・・
枯れたはずの木芽に蕾が芽生えたかのように・・・。
韮崎は突き放せなかったのだ。
自分が、その"木"であるなら。

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すみませんが、しばらくお休みをいただくかもしれません
時間があったら、くだらない、過去写真でも綴りますね(←いらないよね・・・・)
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春が来てくれるなら 10
2013-04-30-Tue  CATEGORY: 春が来てくれるなら
.・゜゜・(/□\*)・゜゜・わーんっ
ちょっと間違えただけなのに、また新着に上がってる・・・

いいよ~・⌒ヾ( ゚⊿゚)ポイッするよ~っ


【視点が韮崎sideに変わります】


昨夜の風呂場で偶然にも出会ってしまった大月が、何を考えているのか、容易く想像できるものであった。
直後に表れた勝沼を視界に入れれば尚更。
どこまでも男を求めて遊びたがるあの性格、というか、性質はどうにかならないものだろうかと頭を悩ませる。
真面目すぎるくらいの明野に比べたら、雲泥の差だ。
そんな家庭環境に育った反発もあるのだろうが・・・
だれをも、不安に陥れる行動ばかりだった。
少なくとも、明野の不安だけは取り除いてやりたかった。
昔から見てきた人は、弟をぞんざいに扱っていたが、どこまででも気にしていることを身近にいただけに知っていた。
親兄弟から言われて、素直に身を納める性格ではないことも、触れあってきた期間で知れている。
間に一枚、挟まってやった方がいいとは、韮崎本人の、勝手な思いだったのかもしれないが、明野も、父親である都留も好きにさせてくれた。
それほどまで、この会社の中で幅を利かせていた証拠でもある。
今更何をしても、この親子は反対しないだろう。

自惚れにも近かったのだろうか。

とりあえず、まずは『就職』だった。
このちゃらんぽらんな性格が、どこの社に受け入れられるとも思えない。
更に悩ませたのが"男関係"の問題であって、どこの野良犬のマーキングではないが、ところ構わず自分の匂いを撒き散らしている姿には閉口するしかない。
こんな人間が自社の存在となるのかと思うだけで背筋が凍った。

だから、就職を世話する代わりに、面倒な男を全て清算しろといい含めた。
先行きがアヤシイことは、本人も気付いているようで、頷きもする。
さすがに路頭に迷う道を選ぶほどのバカではないのだ。

兄弟だからだろう。
明野に良く似ている・・・と思うところは多々ある。
遊び慣れた大月を前にしたら、簡単に抱けた。
深入りしたくない彼の精神も分かるから、お互いに"吐き出す"ための道具でしかない。

だが、抱き続ければ、明野に対しての罪悪感も増し、また不思議と、大月が離れていくことの恐怖心を味わう。
いつか、事業を起こすことは、明野は承知済みだった。
自分の会社のグループとして発展してくれるのなら、なんの問題もないと。
その時に、本社では居辛いだろう大月を引き抜くことも。

『大月を見込んで、育ててくれるなんてね。巨摩には感謝するところだな』
笑顔で未来に期待を寄せてくれた人がいた。

一番の裏切りは自分だろう、と、幾度後悔したか・・・。
これまで遊び歩いた数々を、明野は笑って許してくれていた。
何も言われない、そこには韮崎が抱く勝手な嫉妬すらあったのかもしれない。
では、『弟』に手を出したなら、どうなのだろう・・・。


「今日の研修を始めます」
マイクの声で、ハッと我にかえった。

韮崎の隣に立っていたひとつ年下の上野原禾生(うえのはら かせい)が、ぼぅっとした韮崎をコツンとつついた。
頭一つ分低い彼は、つぶらな黒眼で様子をうかがってくる。
日々の過労を心配してくれるひとりでもあったが。
「やっぱり、昨日の総まとめ、僕、手伝った方が良かったんじゃ・・・」
「いや、気にしなくていい」

どこまでもやる完璧主義者とはすでに知られた様相。
一度抱いてやって、いつまでも恋人ヅラされるのは韮崎も気分が良くなかった。
分かりきって結んだ関係なのに、ことあるごとに、ある"一定"の地位を求められることに嫌気もさしていた。
彼の耳にも大月のことは届いていておかしくない。
だからこそ、みんながいる前で、既成事実、とまではいかなくても、何かしら知らしめたいものがあるのは感じとることができていた。
明野との関係はひた隠しにしている。
そのぶん、大月にかける手間暇は目に余るようにしむけていたのだが。

「部署ごとのミーティングルームの設置は済んでいるんだろうな?」
「ディスカッションでしょ?例年通りの配置ですからね」
慣れている、といった様子で返される。
そう、例年通り、変わり映えのない、行事・・・

「韮崎さん、午後で、これ、終わるでしょ?まだ時間早いよね」
「いや・・・」
声に詰まったのは上野原に対してどう返事をしようか悩んだから、ではない。
視界に入ったのは、さりげなく移動した大月が、昨夜見ただけの男、勝沼のとなりにすわったからだった。

誰から見ても分かる"色目"を明らかに放出した姿に、今度こそ、韮崎の舌打ちがこぼれた。
「あ・・・ん、のバカっ」

その低い声には、周りに聞こえなくてもそばにいた上野原にははっきりと届くもので。
自分の発言の何が悪かったのだろうかと、すぐさま考えてしまった上野原だったのだが、この時の韮崎は、珍しくそこまで気が回っていなかった。

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