二週間の滞在の中、確かに飽きてくることはある。
最初の日は移動で終わり、次ぐ日は愛を確かめる行事があった。
小さな島は、一日あれば巡れてしまえる。
現地ガイドを頼んで、新鮮な果物を食しながら回った。観光するところは決まっているのだろう。
離島はあまりにも小さい。
教会に行けば、また"周防"に出会えるだろうか。
そんなことを思う日生を和紀は連れ出す。
「クルーズ?」
夜、本館のレストランで食事をとっているときに、和紀に明日からの予定を提案された。
ちょうど、本島に立ち寄ってくれる大型のクルーズ船があるらしい。
三泊四日でまたこの地域に戻ってくることは、和紀にとって暇つぶしだったようだ。
こんな急に…。
日生はそう思っても、きっと、和紀のことだ。計画済みだったのだろう。
一緒に行けるなら、どこだっていい。
日生は首を縦に振った。
初めて乗る船は11階建てだという。
港にそびえたつビルのようで、一瞬日生は息を飲んだ。
その豪華さは、入り込んだ人しか知らないだろう。
世界中の裕福な人間が集う場所。
乗り込んだ先にはグランドピアノと音楽隊がいて、乗船の歓迎セレモニーが繰り広げられる。
怖気づいて声も出ない日生を、和紀は腰を抱えて誘導した。
幼い頃から格式高いところに周防が連れて行ってくれたことを思い出す。
決して恥じないように。教えられたことは今でも生きている。
和紀が選んでくれた、南国の民族衣装は、同じように着ている人も多数いたが、日生の肌の白さか、目立っている。
エンジ色の生地に黒とグレーの幾何学模様。
その幾何学模様は、日本でいうところの『家紋』だと教えられたのは、数時間前だ。
和紀が特注で頼んでいたもの。
ホテルの客室係に確認を求めたのは、これだったのか…と今更ながらに知るのだが。
結婚式よりも重要性をおいたのが、用意の仕方で知れてくる。
たぶん"周防"の登場は、予想していなかったことだ。
分かっていたのなら、もっとしっかりと、"親の手前"と思ってやったことだろう。
着せられた服にはあの客室係りを思い浮かべる。見事な紋様を見せていた。あの男もきっと、格式のある家の出なのだろう。
自分が身につけられることを、誇りに思う。
薄汚いトレーナーが、昔の日生の衣類だった。暑い日には汚れるからと、下着だけで過ごしていたかもしれない。
言葉も満足に分からず、親の機嫌を伺うように、部屋の隅で暴力を振られないように脅えて過ごした。
目で言葉を知る…。
今は、目で、愛を知る。
船に乗り込んで、広がる海を眺めた。エメラルドグリーンの水面。弧を描く水平線。
逃げ場がない場所だ。でもなくていいと思う。
そばに和紀がいてくれるから…。
初めて出会った日のことを和紀は語ってくれる。
『あの時からひなは大事な存在だった。守ってやりたくて、もう苦しめたくなくて…。たぶん、出会ったその時から、ひなに恋していたんだ…』
恋も愛も分からない年だったのに…。和紀が抱えたものは日生が思っていた以上に深い。だから苦しんだ時があった。
日生を守るために遠ざけた日々は、お互いに必要だった時間。
ようやく、重なることができた。
海を見たらすれ違う船が遠くに見えた。
どこかの外国籍の船だろうか。
船乗りは今日も荒波の中で働いているのかな…とふと過る。
今日のディナーは魚料理だと前もって聞かされていたから、もしかしたら、あの漁師が釣ったものかも…と身近な考えが浮かんでしまった。
実際は、前もって食材は積みこまれているのだが…。
夢を抱くことは悪いことではない。
釣ってくれるひとがいることに感謝もする。
日生は和紀からもらった指輪を隠すことはしなかった。
確かに派手すぎるものかもしれないけれど。
日生が身につけてしまったら、特におかしいと思わせないところがある。日生の華奢な見た目もあるのかもしれないが、厳かな雰囲気が全身から漂うのだ。
そばにいる、和紀と周防。もしかしたら、奈義もだろうか。
周防と和紀の気持ちが込められていると思ったら、とても外せない。
『愛している。そばにいてほしい…』
和紀はあの後、何度も何度も日生にそう言った。
いてほしいと願ったのは日生もだ。
これ以上の幸せは願わないと深く胸を焼く。
輝くものは、日生と和紀を飾り包み込む。
立ち寄った港町。
レモンの香りが漂う。
爽やかな海風と共に広がる清々しさ。
日生はたった数時間の滞在でも、この島の何かを吸収しようと降り立った。
港を行き交う人の温かな眼差し。
偶然の出会いは、直後に訪れる。
最初に気付いたのは、和紀だった。
「ひなっ」
何かを遮るように抱きこまれる。
視界の片隅に見えたのは…。
日生は何も見なかったことにしようと思った。
周防のためにも、和紀のためにも。
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最初の日は移動で終わり、次ぐ日は愛を確かめる行事があった。
小さな島は、一日あれば巡れてしまえる。
現地ガイドを頼んで、新鮮な果物を食しながら回った。観光するところは決まっているのだろう。
離島はあまりにも小さい。
教会に行けば、また"周防"に出会えるだろうか。
そんなことを思う日生を和紀は連れ出す。
「クルーズ?」
夜、本館のレストランで食事をとっているときに、和紀に明日からの予定を提案された。
ちょうど、本島に立ち寄ってくれる大型のクルーズ船があるらしい。
三泊四日でまたこの地域に戻ってくることは、和紀にとって暇つぶしだったようだ。
こんな急に…。
日生はそう思っても、きっと、和紀のことだ。計画済みだったのだろう。
一緒に行けるなら、どこだっていい。
日生は首を縦に振った。
初めて乗る船は11階建てだという。
港にそびえたつビルのようで、一瞬日生は息を飲んだ。
その豪華さは、入り込んだ人しか知らないだろう。
世界中の裕福な人間が集う場所。
乗り込んだ先にはグランドピアノと音楽隊がいて、乗船の歓迎セレモニーが繰り広げられる。
怖気づいて声も出ない日生を、和紀は腰を抱えて誘導した。
幼い頃から格式高いところに周防が連れて行ってくれたことを思い出す。
決して恥じないように。教えられたことは今でも生きている。
和紀が選んでくれた、南国の民族衣装は、同じように着ている人も多数いたが、日生の肌の白さか、目立っている。
エンジ色の生地に黒とグレーの幾何学模様。
その幾何学模様は、日本でいうところの『家紋』だと教えられたのは、数時間前だ。
和紀が特注で頼んでいたもの。
ホテルの客室係に確認を求めたのは、これだったのか…と今更ながらに知るのだが。
結婚式よりも重要性をおいたのが、用意の仕方で知れてくる。
たぶん"周防"の登場は、予想していなかったことだ。
分かっていたのなら、もっとしっかりと、"親の手前"と思ってやったことだろう。
着せられた服にはあの客室係りを思い浮かべる。見事な紋様を見せていた。あの男もきっと、格式のある家の出なのだろう。
自分が身につけられることを、誇りに思う。
薄汚いトレーナーが、昔の日生の衣類だった。暑い日には汚れるからと、下着だけで過ごしていたかもしれない。
言葉も満足に分からず、親の機嫌を伺うように、部屋の隅で暴力を振られないように脅えて過ごした。
目で言葉を知る…。
今は、目で、愛を知る。
船に乗り込んで、広がる海を眺めた。エメラルドグリーンの水面。弧を描く水平線。
逃げ場がない場所だ。でもなくていいと思う。
そばに和紀がいてくれるから…。
初めて出会った日のことを和紀は語ってくれる。
『あの時からひなは大事な存在だった。守ってやりたくて、もう苦しめたくなくて…。たぶん、出会ったその時から、ひなに恋していたんだ…』
恋も愛も分からない年だったのに…。和紀が抱えたものは日生が思っていた以上に深い。だから苦しんだ時があった。
日生を守るために遠ざけた日々は、お互いに必要だった時間。
ようやく、重なることができた。
海を見たらすれ違う船が遠くに見えた。
どこかの外国籍の船だろうか。
船乗りは今日も荒波の中で働いているのかな…とふと過る。
今日のディナーは魚料理だと前もって聞かされていたから、もしかしたら、あの漁師が釣ったものかも…と身近な考えが浮かんでしまった。
実際は、前もって食材は積みこまれているのだが…。
夢を抱くことは悪いことではない。
釣ってくれるひとがいることに感謝もする。
日生は和紀からもらった指輪を隠すことはしなかった。
確かに派手すぎるものかもしれないけれど。
日生が身につけてしまったら、特におかしいと思わせないところがある。日生の華奢な見た目もあるのかもしれないが、厳かな雰囲気が全身から漂うのだ。
そばにいる、和紀と周防。もしかしたら、奈義もだろうか。
周防と和紀の気持ちが込められていると思ったら、とても外せない。
『愛している。そばにいてほしい…』
和紀はあの後、何度も何度も日生にそう言った。
いてほしいと願ったのは日生もだ。
これ以上の幸せは願わないと深く胸を焼く。
輝くものは、日生と和紀を飾り包み込む。
立ち寄った港町。
レモンの香りが漂う。
爽やかな海風と共に広がる清々しさ。
日生はたった数時間の滞在でも、この島の何かを吸収しようと降り立った。
港を行き交う人の温かな眼差し。
偶然の出会いは、直後に訪れる。
最初に気付いたのは、和紀だった。
「ひなっ」
何かを遮るように抱きこまれる。
視界の片隅に見えたのは…。
日生は何も見なかったことにしようと思った。
周防のためにも、和紀のためにも。
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けいったん | URL | 2013-12-02-Mon 13:40 [編集]
港町…漁港…ΣΣ( ̄◇ ̄;)。o ○ ハウッ!?
明日の更新分を読むまでは…
オクチ、チャックだぜ♪(@▼ω▼)→( ̄≠ ̄;)ウゥ…ムグムグ
明日の更新分を読むまでは…
オクチ、チャックだぜ♪(@▼ω▼)→( ̄≠ ̄;)ウゥ…ムグムグ
昨日 高知で 今日は道後温泉です
ストックは切れているのでこれ以上はないのです
あと一話の予定が終わりが決まらず 放置してきました
帰り次第書きますので もう少し待っててね
ストックは切れているのでこれ以上はないのです
あと一話の予定が終わりが決まらず 放置してきました
帰り次第書きますので もう少し待っててね
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ちー | URL | 2013-12-04-Wed 13:21 [編集]
うーん。私も口にチャック~。
続きはまだ先だねえ。
続きはまだ先だねえ。
こんばんは。
お口チャックありがとうございました~。
お口チャックありがとうございました~。
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