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BLの丘
一番近いもの 11
2010-07-21-Wed  CATEGORY: 一番近いもの
同じ日に引っ越しをしてきたこの3人に何かしらの繋がりがあるなんて、これっぽっちも思っていなかった。
ただの偶然で、空き部屋があって…日曜日で…引っ越しに最適な日だった…はず…?!
「はぁぁぁ?!」
鳥羽の親しく知ったような台詞に驚いた海斗が向けば、花巻を呼び入れる鳥羽の姿があった。
「今日の調査はもう終わり?蓮が料理作ったし。食べていって」
「お邪魔します」
有馬にまで迎え入れられ、花巻はきちんと靴を揃えて上がってきた。
状況が掴めないのは海斗のみ。

「し、知り合いだったんですか…?」
長い睫毛をパシパシと何度も瞬かせ、隣に座った花巻と有馬、鳥羽と一周、まじまじと見てしまう。
花巻は仕事帰りだと思わせるスーツを着た姿で、温厚そうな”会社員”にしか見えない。
初対面の時は休日だったし、普段着だったからなのか、今の方がもっと年上に感じた。
30代後半…40歳になるかくらいの…。
海斗の質問に鳥羽が「まさか」と首を傾げ、花巻がにっこりしながら「先日初めてお会いしたんです」と、まったくの他人だと伝えてきた。
おかげで海斗の頭の中はますますパニックだ。

花巻はどこかの店でテイクアウトしてきたと分かる、中華料理が大量に詰め込まれた紙パックの入ったビニール袋を有馬に手渡していた。
「皆さんで召し上がっていただければと思いまして」
この準備の良さを見ても、ここで”皆”で夕食を摂るつもりだったのだとはっきり知った。

…牛耳っているのは誰だ?!

「なんだ、そんな気を使わなくても良かったのに」
「健太、もっと言葉使いに気をつけろって…」
気さくな感じは誰に対しても同じらしい。
隣で有馬が鳥羽を小突けば、花巻は苦笑しながら「私はかまいませんよ」とにこやかに笑っていた。
「それよりも、砺波さん、ご無事で何よりでしたね。犯歴のある方だったと聞いて私も驚きました」
「あまり無事とは言えなかったけどね」
「健太ぁ」
花巻が海斗に話しかければ、海斗の隣にいた鳥羽が少し表情を歪めた。
すぐに何か判断できたような花巻が正面の鳥羽をみやる。
「まだ何か?」
「いえ、単に海斗まで事情聴取を受ける羽目になっちゃったから…ってとこ?」
「えぇ、でもそれは仕方がないですね。同じ社員とはいえど、”自宅まで来る仲”と捉えられれば疑いもかけられますから」

話の流れから海斗は、松島を追ったのが花巻だとは気付いても、花巻は全容を知らないのだと今更ながらに知った。
少なくても海斗が脅されるネタを突きつけられていた状況は耳に入っていないらしい。
もちろん、そんなことをいくらなんでもここで明かされたくないが。

有馬が、花巻が買ってきてくれた中華用の取り皿を配りながら鳥羽のこれ以上の発言を遮った。
「けど、日曜日に咄嗟に花巻さんが判断してくださったおかげで早期解決となったわけですから感謝していますよ」
「いえいえ。さすがに人目も気にせずドアの前に立っている人を見てしまえばね…。精神的な何かも感じるというものでしょう。近所をうろつかれたくありませんし」
知ったように話を進める3人からすっかり置いてきぼりをくらっていた海斗がようやく口を挟んだ。
「あ、あの、松島さん…ってどれくらい、そこにいたんですか?」
鳥羽が「今更『さん』付けもないだろ」と嫌味を交えながら「30分くらいかな」と続けた。
「でもまだ下に停めた車の中にいたし。俺たちがある程度片付けてもまだ停まっていた」
「ちょうど私が外に出た時に、なんとなくその話題になってしまいましてね。今後のこともあるので少し尾行させてもらったんです」

あとは鳥羽から聞いた話の通りだった。
尾行の途中でどこかの売人らしき人物と接触しているのを見てしまったあと、自宅までたどりついて名前を知った。
ただ、その時は鳥羽はそれ以上のことに首を突っ込む気はなかったらしい。
海斗が現れたことで、再び花巻と連絡を取り、また警察とも明け方までやり取りを繰り返していたそうだ。
「なんか…、ほんと、ごめん…。こんなにみんなに迷惑かけて…」
軽率な自分の行動が生んだ結果で自業自得と言われてもおかしくない状況なのに、見ず知らずの人にこんなにも守られていたと改めて知り、嬉しさと情けなさで瞳が潤んだ。
鳥羽が少し海斗のほうに寄ってきて、手を伸ばして海斗の髪をくしゃくしゃと撫でる。
「迷惑とか思っていないし。俺たちが好きでやったこと、くらいに思っとけよ」
それからぐいっと引き寄せられて傾いた海斗の身体が鳥羽の腕の中に転がった。
「それにしても、昨日の朝までキャンキャン吠えたてる小型犬みたいだったのに、随分としおらしくなったもんだよな~ぁ。今の方がずっと可愛げがある」
そう言いながら鳥羽は、あろうことか、海斗の唇の上に自分のそれを軽く当てた。
額に手を当てていたのは有馬だったし、何か見てはマズイものを見た…という感じで花巻は視線を反らしている。
何が起こったのか分からずにしばらくキョトン…と過ごした海斗も、現実を理解すれば顔が火照るのを感じた。
「おまえに『可愛い』言われたくない~っっ!!!!」


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いや、海斗、怒るところはそこじゃないだろ…。
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一番近いもの 12
2010-07-23-Fri  CATEGORY: 一番近いもの
松島の存在に脅えて恐怖に打ち震えていた昨夜が嘘のようだった。
鳥羽と有馬、そして花巻に囲まれて、したたかに酔い、気持ちの良い夜を迎えた。
花巻は友人2人と、計3人で探偵事務所を持っているとのことだった。
「生活が不規則でね。高校に上がったばかりの一人娘がいたんですけど、母親と団結されちゃって、『お父さん、もう帰ってこなくていいから』って追い出されちゃったんですよ~(涙)。まあ、もともと家庭内別居状態だったから、清々したっていうのが女房の言い分みたいですけどぉ」
今年の冬に40歳の誕生日を迎えるのだという花巻も酒が入ってくると、仮面のような表情が崩れていった。
たぶんこれまでにも溜まっていたものはあったのだろう。
口を軽くさせるのは有馬と鳥羽の存在なのだろうか…。
「俺も今まで住んでいたアパートが火事になっちゃって…ってか、ボヤだったんだけど。建て直しだなんだって騒ぎになっちゃってしばらく蓮のところに潜り込んでいたんだけどさ。男二人で住めるような環境じゃなかったし」
「お互い学費のこととか色々あったからね。ちょうどいい機会だから家賃半分こしようってことで探してもらったのがここ」
「へぇ。なんだかみんな、いろいろとあるんだ~…ヒック」
それぞれの他愛のない話を聞いているうちに、酒もすすんでいたようだ。
海斗が盛大なしゃっくりをあげると鳥羽が目尻を下げて笑った。
「海斗、もしかして飲み過ぎ?明日はちゃんと会社に行ってもらわなきゃだし。一眠りしておく?」
瞼の重くなった海斗を、鳥羽がそっと引き寄せてその胸へともたれかけさせる。
急に触れた人の体温に、何故かドクンとなって、海斗は慌てて離れようとした。
「へ、平気。もうそろそろ帰るし」
「あー、そうですね。有馬さんと鳥羽さんも明日また早いでしょうし。すっかり寛いでしまって…」
海斗の声につられるように花巻が崩していた足を正して背筋をピンと伸ばした。
酔っているんだか酔っていないんだか分からない『オヤジ』である。
有馬が「お気になさらずに」と微笑んだ。
ここに呼ぶことになった本来の目的、というか、原因となる話題はいつの間にか反らされていて、海斗も気兼ねなく付き合っていられた。
時間を忘れさせてもらったというべきか…。
「急にお呼び立てしてしまったようでこちらこそすみませんでした。またいつかこうしてみんなで食卓を囲めたらいいですね」
「えぇ、もうっ。一人で食べる食事って本当に味気ないですからね。是非今度はうちのほうへいらしてください。…とはいえ、何もないムサイ親父の住むところですけど…」
明るく語ってはいるものの、花巻の背には哀愁が漂っているように見えた。

「行こ、行こ。その時は海斗も来るんだよ」
「え?なんで俺まで?!」
「お隣同士なんですから、気なんて使わないでください」
鳥羽と花巻に促され、いつのまにか、『井戸端会議メンバー』に加えられている。
近所づきあいなんてこれまでなかったから、気恥ずかしい思いはあるものの、なんだかほんわりと胸の奥が温かくなるものを感じていた。
心の底から嫌がっているわけではない。
この辺も人懐っこいというか、すぐに人に気を許してしまう海斗ならでは、である。

立ち上がった花巻を追い掛けて、海斗も玄関へと向かった。
「俺、送っていってあげるから」
「隣で送るも見届けるもないからっ!!」
鳥羽の台詞にギロリと睨みを入れてみても、気にした様子のない鳥羽がサンダルをひっかけ、海斗の後を追ってきた。
廊下で、「おやすみなさ~い」と花巻と別れる。
鍵を開けて入った三和土に鳥羽も滑りこんできた。
「おまえさ~ぁ」
うっとおしげに鳥羽を振り返れば、玄関ドアが閉まると同時に鳥羽の逞しい腕が海斗の背に回った。
「よかった…。本当はちょっと心配してたんだ。あんたが気付かないうちに何か打たれていたら、とか飲まされていたらどうしようとか。警察に行くことになっちゃったの、俺のせいだったし。予想以上に早く元気になってくれたようだけど、どこか無理している?何かあったらいつでも相談にのるから」
鳥羽なりの優しい気持ちなのだとは分かる。
それを素直に受け止めたいのに、年下と思うからだろうか、自分を防御するように、少しひねくれた考えがあるのも確かだった。
「これ以上、おまえらの世話になんかなれねぇよ」
「そういうこと言うなよ。迷惑にならない程度にあんたのこと、見守ってやるから」
「大きなお世話だっつぅのっ!!」
反論はしてみたけど、告白でもされるかのような台詞に、年がいもなくドクドクと心臓が高鳴った。
ただの社交辞令だと思えばいいだけのものをまともに聞いてしまった自分がいる。
恋愛ごっこをしたことがあっても、『恋愛』をまともにしたことのない海斗は胸に刺さってくるような痛みが分からなかった。

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『一番~』よりも『ヤギ』をさっさと終わりにしろ?!…そ、そうですよね…。私も複数抱えるのは焦らしているようでイケナイことのように思えてきました。
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一番近いもの 13
2010-07-25-Sun  CATEGORY: 一番近いもの
大希に逢うのは一週間ぶりだった。
週末の土曜日、さすがにアパートにまで連れて行く気が起きなくて、連絡をもらっても、とあるバーで待ち合わせをしただけ。
ひかりがチカチカと舞うフロアでは、初めて会うものどうしなのか、再会なのか、いくつもの声が飛び交っている。
リズミカルな音楽に合わせて瞬きのたびに人間が移動していた。

大希には友人として、海斗をしつこく追っていた松島が逮捕されたこととか、隣人の話もかいつまんで話してあった。
さすがに警察沙汰になったことには驚いていたが、『裏社会』で生きているような自分たちに、どこか納得するものもあったようだ。

カウンターに並んで座った海斗と大希だったが、海斗はこの日何度目かの溜め息をついて、大希の苦笑をかっていた。
「ねぇ、俺を前にして、そんだけ溜め息はけるって、心ここにあらずそのままじゃん」
「えー、別にそんなことないけどさぁ…。激しい運動をした覚えもないし、肋骨にひびとかも入っていないと思うけど、なんかなぁ。呼吸するたんびに、胸が苦しくってさぁ…。煙草も吸っていないし、へんな病気になるはずもないとおもうんだけど…」
「ぶーっ!!!」
「うわっ、きたねっ!!!吐くなよっ!!!」
あわてておしぼりを突き出す。
海斗の呟きに目を瞠った大希が不思議なものでも見るように海斗をマジマジと凝視した。
「お、ま……」
大希の表情には『呆れ』も混じっていた。

海斗は、大希に会ったのはよいが、とても今夜ヤる気にはなれずにいた。
いつもなら、飲む間も惜しんでさっさとベッドへと向かおうとするのに、一向にその気が湧かない。
それどころか、愚痴のはけ口として、『友人』という立場に落ちている存在を改めて知った。
ヤる気が起きなければ、自分のことを良く知った友人で、酒の肴で愚痴相手。
同じように大希が海斗を見ているとは思えないが、それでも『ヤりたくない』といえば大希は無理強いしないから安心しているのだろうか。
「胸、苦しいの…?」
大希にあらたまって聞かれて小さく頷く。
「ちくちくって細胞を攻めるようなものじゃなくて、ドクンドクンって腫れていくようなやつ?」
海斗はまた頷いた。
今度は大希から盛大な溜め息が聞こえる。
「あのさー、海斗クン。『恋煩い』っていうビョーキがあること、知ってる?」
「『こい…』?……ま、まさかっ!!俺、そんな相手いないしっ!!」
改まって伝えられることに海斗は激しく動揺していた。
恋くらいならしたことがある。
幼稚園の時に、いつも遊んでくれた尚人先生とか、小学生の時に登校班で面倒をみてくれた5つ年上のあっちゃんとか。
身体が成長してからは欲求不満をはらすことばかりが頭にあったかもしれないが、あちこちでそれなりに想いを寄せる人がいた…と思う…のに思い出せない。
『恋』ってどんな感情だっけ?と振り返っていたりする。

「『そんな相手』いなくったって、今の海斗、そのままじゃん。言い訳になってねぇよ。で、相手誰なの?俺じゃないこと、確かだし。……あーぁ、もう海斗とも終わりだな~。結構気に入っていたのに」
大希が天を見上げながらぽつりと呟いた。
身体だけの関係が終われば、こうやって会うこともなくなるのかと、それも少し淋しい気がした。
大希とは気があっていただけに失うのは惜しい。
身体の繋がりがなくてもこうして時々あって、いろいろと話をする存在であってほしい…と望むのは欲張りな証拠なのか…。
「終わり…って、あのさ…」
「無理。誰かを想っているやつを慰めることは俺にはできません。つーか、身代わりにされるのは嫌。思い人がいるって分かったからには頼まれたって抱かないから」
珍しくカァァァと海斗が頬を染めた。
性に関してはあけっぴろげだったのに、なにが恥ずかしいというのか海斗にも分からない。
激しく大希が溜め息を吐いた。
「無意識にそういう顔見せるわけ?!初めて知った。海斗のそれ、犯罪級」
「な、なんだよ、犯罪…って…」
つい先日の松島の姿が瞼の奥を流れていく。
同じ意味での『犯罪』ではないのだとは思っても、チクリと胸を刺すものがあるのは確かだ。
大希も一瞬、告げるべき言葉を誤ったと苦虫を潰したような表情を向けた。
「ごめ…。変な意味じゃなくてさ…。海斗、すっげー『モテ顔』ってこと。俺、今更ながらに『惜しい』って思ったわ。前言撤回してさ。なぁ、そいつのこと忘れられない?俺たち、マジで付き合わない?」
「そいつって誰だよ?!」
「そんなの俺が知るかよ。海斗自身のことだろ?」
問い詰められても海斗も理解できていないのだ。
そして改めて告げられた『告白』に小さいながらも胸が高鳴っていた。
『もう終わり』だと言われた直後に伝えられた気持ちに動揺はあるものの、身体以上の付き合いに進展しないと分かっていたからなんとなくむず痒かった。
不安はある。
大希が言うような、『お付き合い』は心を伴うもので、それこそ海斗にとって『恋愛ごっこ』の始まりだった。
嫌なわけではないし、心を委ねてしまいたい気持ちもどこかにあった。
人に縋ることなど滅多にない海斗だからこそ、身体まで許した大希は休める場所でもある。
『大希のことを好きだと思えばいい』…。
海斗は何故かそう思った。
全ての平穏がそこにあるような気がした。
「俺んとこ、来いよ。今までの全部ひっくるめて、海斗のこと、好きになるから」
「うん…」
海斗は頷いた。
「今夜、うち。いいだろ…?」
身体だけの関係なのか、一歩踏み込んだ地に落ちたのか、定かではない。
だけど、見つめてくる眼差しが今までとは違うのは感じた。
幾度も繰り返した逢瀬。
重なるから分かるその違い。
ただ、心の奥底で悲鳴を上げる細胞があるのを海斗は理解していた。
大希を『好き』ではないのだ…。

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一番近いもの 14
2010-07-26-Mon  CATEGORY: 一番近いもの
R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。

大希の部屋に上がるのも久し振りだ。
最近は海斗の部屋に訪れることが多かったから、整頓された部屋が新鮮に思えた。
身体を繋げる…その気になれずにいたのだが、いざさわられてみれば身体は単純なもので触れるその場所から熱を孕んでいく。
海斗の身体の隅々まで知った大希だから尚更なのだろうか。

ベッドの上に転がされた海斗は、自ら膝裏を抱えて双丘の狭間に顔を埋める大希の動きを見ていた。
赤い舌先が蕾の上を撫でまわし、無骨な指が滴を零す海斗自身を握る。
もう片方の手が白い尻の丸みを確かめるように緩やかに這っていった。
「だ、いきぃ…、も、やぁ…」
「まだ解してもいないのに。指、一本も入れていないんだよ」
チロチロと舐められる時間が長すぎる。
今までの大希とは違って珍しく焦らしていた。
それは新しく始まった『二人の関係』を表しているようでもあった。

いつもと同じでいい…。
海斗はそう思うのに、大希の攻め方は明らかに目的を持って変わっていた。
「大希…」
もともとこの男は優しいやつだった。
海斗の望むまま、快楽の海に溺れさせてくれる。
その気持ち良さに陶酔し、何度も悦んだ。
唾液だけでも充分なほど湿らせられた蕾がひくついて、襞の上を撫でている指を今にも飲みこんでしまいそうだった。
「なんか、こういう海斗、新鮮。おまえって無意識に人を嵌めていくよな…。俺、ちょっと得した気分」
「なにいって…。も、いいから…ぁ」
少し切ない表情を浮かべつつ、手に入れられた嬉しさが滲み出ている。
そんなに価値のある人間とは思っていないが、気に入られることは嫌なことではないのは確か…。
「身体の相性、バッチリなんだからさ、絶対うまくいくって、俺たち」
大希は心を寄せられないでいる海斗を分かっている。
ぐいぐいと引き寄せようとする大希の存在は、悲しさも持ち合わせていた。
できることなら溺れてしまいたいという甘える思いもありながら、何もかもを委ねられないのはどうしてなのか。
心の底の方でくすぶっている何か…。
見えそうで見えない、自分のことなのに自分で分からない『本音』。
一度は大希の誘いに頷いた海斗なのに、改めて告げられたことに震えるものがある。
大希が言うように、心までは預けられない…。

つぷりと骨ばった指が狭い場所を割って入ってきた。
「あぁ…ぁぁ…」
「熱い…」
内壁を擦られることにぶるぶると体が震えて、きゅうきゅうと締めつけてしまう。
指を入れたまま身体を伸ばした大希がローションのボトルを手に取り、歯でパチンとキャップを開けた。
冷たいぬるりとした液体が蕾とすでに自らの体液で濡れた欲望の塊に垂れ流される。
「あ…っぅっ…」
「ごめん、温めてやる余裕、ないわ」
巧みな指の動きはもう慣れ親しんでいる。
ここまで焦らしたのは大希のはずなのに、とりつかれたように貪ってきたのは大希の方だった。
あっというまに3本の指が入るくらいに拡げられた孔に、やはり濡れた大希の硬くなった中心が当てられた。
「海斗。後悔させないから。俺のことを考えろよ」
「あぁぁっっ!!」
指などとは全く異なる質量に悲鳴のような声があがっても、それは『悦び』でしかなかった。
やっと与えてもらえる気持ち良さ。
海斗にとって感情は二の次だった。
今は目の前にある性欲を処理する方が先…。
狭い中を押し広げられる鈍痛とはべつに、とろけるようにぬるんだ秘部が大希を包みこんでいる。
この気持ち良さを手に入れるために、何かを明け渡すのだろうか…。
先端からこぼれた滴は、快楽に溺れた海斗の涙のようでもあった。

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一番近いもの 15
2010-07-27-Tue  CATEGORY: 一番近いもの
朝帰りすることに対して言い訳する必要もないのだが…。
アパートの階段を上がりかけ、下りてくる人物に目を止めた。
狭い階段で擦れ違う隣人に、言いようのない戸惑いが湧きあがってくる。
「こんにちは」
日曜日の昼にも近い時間、爽やかな笑顔を向ける鳥羽に、後ろめたさが募った。
顔を見られることがひどく恥ずかしい。
疾しいことをしてきた気分だった。
「こんにちは」と小さく返したものの、立ち話もする気になれず、海斗は咄嗟に階段を駆け上がろうとしていた。
早く逃げたい…、そんな感情に埋め尽くされる。
まともに顔を見ることもなく、俯いた海斗の腕を、鳥羽が掴んだ。
「今夜、花巻さんちにお邪魔することにしたんだ。海斗、時間とれる?」
「こ、今夜…?!」
鳥羽は海斗の動揺など気にした様子もないのか、いつもと変わらない態度で話を始めた。
それが、悲しいような、安堵したような複雑な思いとなり、また突然の誘いには、気恥ずかしさと嬉しさがごっちゃ混ぜになって海斗を襲ってきた。

みんなで食事を一緒にとったのは、この前の1度きりだった。
一人では淋しいだけの食事も、皆でワイワイと囲むものは楽しかった。
大希と一緒に過ごす時間とも違っている。
友人同士で語るものとも違うし、まだ見知らぬ人物の新しい部分を知っていく新鮮味もあるからだろうか。
「もう誰かと約束しちゃった?」
暗に大希とのことを言われているのだと思って咄嗟に首を振っていた。
付き合っているわけだし、誤解でも何でもないのだから堂々としていていいはずなのに、やはり後ろめたさがついて回ってくる。
大希とは違って、海斗にはまだ『身体だけの関係』の位置から抜け出せていない。

「べつに…」
海斗が答えれば鳥羽が嬉しそうに笑顔を浮かべて、思わずドキリとした。
「じゃあ海斗、参加決定ね。夕方6時からっていう話になっているけど、行く前に声、かけるよ」
「あ、うん…。あ、ねぇ、何か持っていくものって…」
鳥羽と花巻たちの間でどんな話がなされているのか皆目見当もつかない海斗は、立ち去ってしまいそうになる鳥羽を慌てて引き止めた。
前回も突然のことに何も用意していなかったし、さすがに先に話をもらっていて手ぶらというわけにもいかない。
「蓮が何か料理するって言ってたけど。夕方、酒とか買い出しに行くから、海斗も行く?」
「有馬も一緒?」
「蓮はたぶん料理しているよ。時間ギリギリになってドタバタするの、嫌いな奴だし」
二人揃って出掛けるのなら邪魔になるような気もしたが、鳥羽が一人だと聞けばどこか安心する。
海斗は便乗させてもらうことにした。

鳥羽と別れて部屋で寛いでいたのだが、どうにも落ち着きがなかったりしている。
そわそわしている、というのが正しい。
以前にも、大希と待ち合わせをしていることに、こんな気分になったことがあったが、悦びを与えてもらう体に対しての期待があったからで、今は原因すらつかめなかった。
隣の部屋から何やらバタバタと生活の音が聞こえて、在宅しているのだな…と分かることに笑みがこぼれていた。

夕方も4時を回った頃、鳥羽がチャイムを鳴らして、海斗はいそいそと玄関に立った。
有馬が料理をしているのだろう。換気扇を通して香ばしい匂いが漂っていた。
「花巻さんが『酒は用意しました』って。あとは飲み食いしたいものを持ってきてくれればいいからって」
「ホントに?なんか、俺、何もしない人みたいじゃん…」
「何気に花巻さん、楽しみで仕方ないって感じなんだよ。あの人、いい大人なのに、可愛いとこあるよね」
一回り以上も違う大人に向かって随分な言いようだな、と思いながら、海斗もクスクスと笑った。
鳥羽が持つミニバンに乗せられて、大型のスーパーに向かった。
幾つものテナントが入っているところで、惣菜などの種類の豊富さに選ぶのが大変なくらいだ。
鳥羽とあーだこーだ言い合いながら籠の中に色々と入れていく。
他愛もない会話なのに、掛け合いがとても楽しいものだった。
鳥羽だって充分子供みたいな性格を持ち合わせているし、逆に海斗の似たような部分も指摘されて不貞腐れもした。
結果、鳥羽の好みのものばかりが詰め込まれたカゴになってしまって、レジに並んだとき、どちらがいくら払うかでもめていた所を、背後から突然「海斗?」と声をかけられた。
聞きなれた声である。
今朝別れたばかりの大希が、不思議な光景を見るかのように、海斗と隣に立つ鳥羽を交互に見比べていた。

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