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BLの丘
一番近いもの 11
2010-07-21-Wed  CATEGORY: 一番近いもの
同じ日に引っ越しをしてきたこの3人に何かしらの繋がりがあるなんて、これっぽっちも思っていなかった。
ただの偶然で、空き部屋があって…日曜日で…引っ越しに最適な日だった…はず…?!
「はぁぁぁ?!」
鳥羽の親しく知ったような台詞に驚いた海斗が向けば、花巻を呼び入れる鳥羽の姿があった。
「今日の調査はもう終わり?蓮が料理作ったし。食べていって」
「お邪魔します」
有馬にまで迎え入れられ、花巻はきちんと靴を揃えて上がってきた。
状況が掴めないのは海斗のみ。

「し、知り合いだったんですか…?」
長い睫毛をパシパシと何度も瞬かせ、隣に座った花巻と有馬、鳥羽と一周、まじまじと見てしまう。
花巻は仕事帰りだと思わせるスーツを着た姿で、温厚そうな”会社員”にしか見えない。
初対面の時は休日だったし、普段着だったからなのか、今の方がもっと年上に感じた。
30代後半…40歳になるかくらいの…。
海斗の質問に鳥羽が「まさか」と首を傾げ、花巻がにっこりしながら「先日初めてお会いしたんです」と、まったくの他人だと伝えてきた。
おかげで海斗の頭の中はますますパニックだ。

花巻はどこかの店でテイクアウトしてきたと分かる、中華料理が大量に詰め込まれた紙パックの入ったビニール袋を有馬に手渡していた。
「皆さんで召し上がっていただければと思いまして」
この準備の良さを見ても、ここで”皆”で夕食を摂るつもりだったのだとはっきり知った。

…牛耳っているのは誰だ?!

「なんだ、そんな気を使わなくても良かったのに」
「健太、もっと言葉使いに気をつけろって…」
気さくな感じは誰に対しても同じらしい。
隣で有馬が鳥羽を小突けば、花巻は苦笑しながら「私はかまいませんよ」とにこやかに笑っていた。
「それよりも、砺波さん、ご無事で何よりでしたね。犯歴のある方だったと聞いて私も驚きました」
「あまり無事とは言えなかったけどね」
「健太ぁ」
花巻が海斗に話しかければ、海斗の隣にいた鳥羽が少し表情を歪めた。
すぐに何か判断できたような花巻が正面の鳥羽をみやる。
「まだ何か?」
「いえ、単に海斗まで事情聴取を受ける羽目になっちゃったから…ってとこ?」
「えぇ、でもそれは仕方がないですね。同じ社員とはいえど、”自宅まで来る仲”と捉えられれば疑いもかけられますから」

話の流れから海斗は、松島を追ったのが花巻だとは気付いても、花巻は全容を知らないのだと今更ながらに知った。
少なくても海斗が脅されるネタを突きつけられていた状況は耳に入っていないらしい。
もちろん、そんなことをいくらなんでもここで明かされたくないが。

有馬が、花巻が買ってきてくれた中華用の取り皿を配りながら鳥羽のこれ以上の発言を遮った。
「けど、日曜日に咄嗟に花巻さんが判断してくださったおかげで早期解決となったわけですから感謝していますよ」
「いえいえ。さすがに人目も気にせずドアの前に立っている人を見てしまえばね…。精神的な何かも感じるというものでしょう。近所をうろつかれたくありませんし」
知ったように話を進める3人からすっかり置いてきぼりをくらっていた海斗がようやく口を挟んだ。
「あ、あの、松島さん…ってどれくらい、そこにいたんですか?」
鳥羽が「今更『さん』付けもないだろ」と嫌味を交えながら「30分くらいかな」と続けた。
「でもまだ下に停めた車の中にいたし。俺たちがある程度片付けてもまだ停まっていた」
「ちょうど私が外に出た時に、なんとなくその話題になってしまいましてね。今後のこともあるので少し尾行させてもらったんです」

あとは鳥羽から聞いた話の通りだった。
尾行の途中でどこかの売人らしき人物と接触しているのを見てしまったあと、自宅までたどりついて名前を知った。
ただ、その時は鳥羽はそれ以上のことに首を突っ込む気はなかったらしい。
海斗が現れたことで、再び花巻と連絡を取り、また警察とも明け方までやり取りを繰り返していたそうだ。
「なんか…、ほんと、ごめん…。こんなにみんなに迷惑かけて…」
軽率な自分の行動が生んだ結果で自業自得と言われてもおかしくない状況なのに、見ず知らずの人にこんなにも守られていたと改めて知り、嬉しさと情けなさで瞳が潤んだ。
鳥羽が少し海斗のほうに寄ってきて、手を伸ばして海斗の髪をくしゃくしゃと撫でる。
「迷惑とか思っていないし。俺たちが好きでやったこと、くらいに思っとけよ」
それからぐいっと引き寄せられて傾いた海斗の身体が鳥羽の腕の中に転がった。
「それにしても、昨日の朝までキャンキャン吠えたてる小型犬みたいだったのに、随分としおらしくなったもんだよな~ぁ。今の方がずっと可愛げがある」
そう言いながら鳥羽は、あろうことか、海斗の唇の上に自分のそれを軽く当てた。
額に手を当てていたのは有馬だったし、何か見てはマズイものを見た…という感じで花巻は視線を反らしている。
何が起こったのか分からずにしばらくキョトン…と過ごした海斗も、現実を理解すれば顔が火照るのを感じた。
「おまえに『可愛い』言われたくない~っっ!!!!」


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いや、海斗、怒るところはそこじゃないだろ…。
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コメント

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ご近所づきあいは大切に
コメント甲斐 | URL | 2010-07-21-Wed 01:04 [編集]
なんだかよくわからないうちに
ご近所づきあいの輪の中に入っちゃったみたいですね。
明るくていい人たちのようで、
からからに乾いっちゃってる海斗くんを潤わせてくれるのかもしれませんね。
Re: ご近所づきあいは大切に
コメントきえ | URL | 2010-07-21-Wed 07:01 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> なんだかよくわからないうちに
> ご近所づきあいの輪の中に入っちゃったみたいですね。
> 明るくていい人たちのようで、
> からからに乾いっちゃってる海斗くんを潤わせてくれるのかもしれませんね。

海斗にしてみたら、何がなんだか分からないうちに『一件落着』でしたね。
ご近所様、ナイスフォロー(?)でした。
これまで開き直った、心の底からの潤いもないような生活だった海斗にいい影響を及ぼしてくれると思います。
コメントありがとうございました。
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