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BLの丘
【観潮楼企画】 ~指先が触れた時~ 5
2010-08-11-Wed  CATEGORY: 観潮楼
この作品は、【観潮楼】「夏―心を焦がす恋―」参加作品です。


R18 性描写があります。閲覧にはご注意ください。


膝の上に寝そべった睦に両手で腰をがっしりと抱え込まれ、股間に顔を埋めたまま布越しに息を吹きかけてきたり鼻先で擦ってきたりする。布の中にわざと流し込まれる熱い息がこもって、さらに与えられるもどかしい刺激に安里自身が反応するのは時間の問題だった。
安里は睦の顔を上げさせようと手をかけ、必死で止めようとした。
「む、睦、まって…っ!!こんなところで、何考えて…っ!!」
屋外で…なんて冗談じゃない!と安里は焦った。
力で押さえこまれたら安里では敵わないのは嫌というほど知っているから恐怖に近かったのかもしれない。
「むつ…っ!!」
「安里が上手なキスで俺を誘ったのが悪い」
「仕掛けたのはおまえだろっ!」
堂々と責任転嫁してくるところがまた生意気だ。
顔をあげずに話されるものだから、唇の動きが余計に微妙な刺激に変わった。
「むつみぃぃっ」
「あんまり大声出すと、麓まで聞こえるよ」
そんなことを言われて途端に抵抗の力が緩んでしまう。
空気は澄んでいるし、騒音がないから確かに物音は響く。
集落からは離れているとはいえ、この近辺まで農作業をしにくる人間はいるだろう。
ここまで登ってこない、というだけで、近くを人が行き来する可能性は充分に考えられた。

安里が黙ってしまうと、ジジジ…と下腹部から音がした。
睦が歯で噛んでズボンのファスナーを下ろしてしまったのだ。
「睦っ!!バカヤローっ!!何考えてんだよっ!!!!」
後頭部を立て続けに5、6発叩けば、睦は顔を上げたが、全く懲りている様子は見られなかった。
「ってーなー。何って、安里を気持ち良くしてあげることに決まってんじゃん」
「必要ないっ!!」
「でも、もうこんなになってる」
力をつけ始めたモノが下着を押し上げて、開かれたファスナーの間から見えていた。
先程まで睦の頭部で隠れていたが、改めて視界に入ってきた光景に安里は目を覆いたくなった。
一度覚えた『放出の快楽』は確実に安里を虜にした夏だった。

「安里がほしい…」
こういう時の睦はいつも獲物を狙う獣のような射る瞳を向けてくる。
そんな表情もこの夏まで安里は知らなかった。
片手を腰から離した睦が安里自身を布の中から取り出してしまえば、触れる空気にゾクリとする。
間髪入れずに睦の口腔に収められ、急所を人質に取られた安里は身動きをとる術を失ってしまった。
まだ完全に勃起していたわけではないが、みるみる間に熱を蓄えていく。
卑猥な姿を上から見下ろしている、というのも感性を研ぎ澄ませるのか。
唾液と先走りで濡れそぼった頃、仰向けにされた安里は抗う気力もなくなっていた。
急いたように下半身の衣類を剥ぎ取られ、脚を開いたその奥を、睦はさらに貪り始める。
「あ…、んっ…っ」

太陽の下に晒した身体が、太陽にも睦にも焦がされていくようだった。

溢れてくる先走りを何度も指に絡めながらじんわりと後孔を解していく。
張り詰めたまま待たされている時間が長くて、思わず自分の手が伸びてしまいそうになるのを、シートを掴むことで必死にこらえていた。
「まだキツイかな…。でも俺もちょっと限界だよ…」
身体を起こした睦が穿いていた短パンと下着を一緒に下ろしてしまえば、身体の中で唯一陽に焼けていない箇所が見えた。
その中心で凶暴なほど反り立ったモノも陽の下でてらてらと光っていた。
安里の窄まりに押し当て、先端を馴染ませるようにグリグリと回しながら押し付けてくる。
浅く入れては引くことを何度か繰り返しているのは柔らかさの確認なのか…。
我慢がきかなくなりそうで、乱れた呼吸の中から安里が声をかけた。
「む、つ…」
次の瞬間、一気に最奥まで貫かれた。
「あぁ――っっ!!」
仰け反り上がりそうになる腰を強い力で掴まれる。
「あ、さ…、待たせ過ぎ…」
呼吸を荒くした睦に責められて、何の事だか考える余裕もない。
汗で滑る脚を抱えなおされて、すぐにでも動こうとする睦に「ま…て…」と、かろうじて口をパクパクすることで訴えれば、「これ以上待てるかよっ」と即答された。
安里が焦らしていたとでも言いたそうだった。
それでも性急な動きにならずにいてくれるのは思いやりなのだと思う。
ゆっくりとした抽挿を続けながら、安里自身からぷくりと浮いてくるしずくを伸ばすように親指の先を先端に押し当てられた。じんとした痛みが快感に変わっていく。
「むつ…、も、…」
「うん…」
獲物を仕留めたという鋭い眼光を放ちながら、安里の手をとる。
身体をたたまれるような体勢で睦の首に両腕を回した。汗で滑って離れてしまいそうで必死に縋りつく。
「安里が好き…」
「…」
くちづけを受け取りながら、安里の中にあるものが本当に恋なのか、まだ安里には分からなかった。

夏恋

なら様より「夏―心を焦がす恋―」をお借りしてきました。
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【観潮楼企画】 ~指先が触れた時~ 6
2010-08-12-Thu  CATEGORY: 観潮楼
この作品は、【観潮楼】「夏―心を焦がす恋―」参加作品です。


ただれたような肉体関係だと思った。
睦から与えられる快楽に身を任せ、夏が終わる…。

大学に戻った途端に、友人に「なんだか艶が増した」と皮肉られ、この夏に何が起こったのかを漠然と知られた。
大学生活の中でも何度か睦との交わりを思い出した。
時折身体が疼くようになってしまって、情けないながらも自己処理をしたことがあった。
終わってみれば、いつも後悔ばかりだ。
いつもどこかで、『子供に翻弄されている』と思っているせいだろうか…。

こんなことを続けていて良いわけがない、と安里は分かり切りながら、翌年も同じ道を踏んだ。
待っていてくれる人間がここにいる…。
それが嬉しさだったのか理想だったのか…。

年下の面倒をみることは嫌いではない。
その延長で睦を受け入れてしまった気持ちはあった。
弟を見るような優しさ、兄を慕うような頼りがい。
睦の感情はどこか間違えているのではないかと、2年の月日を過ごしてさらに強く感じた。
告白を受け入れてから3年目の夏、睦は地元の大学に進学していて、一人暮らしをしているようでも休暇があれば村に戻っていたようだ。
安里も大学生活が最後の年だった。
卒業したら『教師』としての仕事が待っている。
ドタバタと過ごす日々の中、村に居られる日は1週間だけだった。

再会を果たした時、睦は万遍の笑みで安里を迎えた。
年を追うごとに逞しく、包容力を身につけていた睦。
その腕に堕ちていくのが怖い、そう思う感情だけで、安里は睦を拒絶した。
「もう、こんなこと、やめよう…」
睦の部屋の中で告げたことを、最初冗談だと思っていたらしい。
押し倒された腕の中でそっと呟いた言葉を飲みこまれるようにくちづけを落とされる。
目を閉じることもなく、人形にでもなったような無表情な安里に、睦は現実を理解したようだ。
「い、ま、さら…?…っざけんなよっ!!」
安里は未だに自分の気持ちが何なのかが分からない。
睦が欲してくれるような思いが自分の中にあるのだろうか。
漠然と繋がって、身体だけが溺れていった日々。
誰よりも『安里が欲しい』と無我夢中で追い掛けてくる姿に心が揺れ動いてしまった。
もっと…、もっとしっかりしなくてはいけない立場なのに…。
自制心が、たぶん、この言葉を言わせたのだろう…。

「安里?…いやだ…っ!絶対に嫌だっ!!他の奴になんか絶対にやんないっ!!大学なんか辞めて明日からでも安里の傍にいるっ!!」
「馬鹿な事言うなっ!!」
一時の感情で将来を見失わせるわけにはいかなかった。
その台詞を聞いただけでも全身が戦慄く。
睦の気持ちは憧れや理想だけではなかったのか…???
「なんでだよ…、どうして?あともう少しで、安里と並べるのに…っ」
首筋に顔を埋めた睦が悔しそうに呟いた。
自分なんかよりも、ずっともっと早い速度で『大人』になろうとしている睦を感じた。
そう、させたのは、年上の自分だったのか…。

もっとゆっくり、青春時代を過ごしてほしかったと淋しさが心に湧いた。
そしてさらに『想いが分からない』と傷つけたのだ…。
最初からはっきりと告げていればこんなことにはならなかった。

「ごめん…」
逃げるようにして村を去った。
翌年の夏は、仕事についたばかりで忙しいと言い訳を作って村を訪れなかった。

待っている腕がない…。
それを知った時、心の中に消失感が広がっていった。
初めて、睦を好きだったのだと、認めた…。
あの村にいた間、…求められているその間、安里は求愛を受ける形でも”恋”をしていたのだ。

夏恋

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【観潮楼企画】 ~指先が触れた時~ 7
2010-08-13-Fri  CATEGORY: 観潮楼
この作品は、【観潮楼】「夏―心を焦がす恋―」参加作品です。



公民館の中で、安里は次々と御酌をされていた。
寄ってくる村人はどれも知った顔だし、父親と同級生という人間からは幼い頃から自分の家の子と同じように怒られ褒められた。
この村にいたことで、人との繋がりを一層強く学んだ気がする。
どうしても淡白になりがちな都会の生活とは全く違っていた。
それを教育の場で活かしたいと思わせるのは、この村があってこそだと思う。

就職祝いだと銘打ってわざわざ宴会なんていうものを開いてくれるのも、この村の人柄なのだろう。
そこには祖母の存在も大きく影響している。
去年のように逃げてしまっても、何年先でも、同じように迎えてくれるであろう、村人を、安里は心から嬉しいと感じた。

「睦、おまえも世話になっているんだ。挨拶の一つもしろ」
一向に立ち上がろうともしない睦に痺れをきらした父親が、睦の肘を小突いた。
その途端、ドキッと安里の心臓が跳ね上がった。
安里が大学生になってから、何かと睦とつるんでいたことを村人はそれとなく知っている。
単純に勉強を教えていた、と思っているかどうかは疑問だが、二人で過ごす時間が多くなっていることは周知の事実だった。
やましい思いが安里の中にあるからなのか、緊張で思わず手が震えた。
改めて睦への想いに気付いてしまったあと、簡単に睦を拒絶したことが安里にとって許し難い行為だった。
それでも、『大学を辞める』とまで言い放った睦を、まっとうな道で生きさせるには、自分の存在は無い方がいいと何度も思う。

拒絶したのは自分だ…。
今更、睦に何かを求めるのは間違っている…。
安里はそう自分に言い聞かせてきた。

睦は素直に腰を上げて安里の前に来た。
いつものように変わらない、『人前』で見せるさりげない態度。
一年会わないだけでも、自分とは違ってどんどん成長していく子のような感じがする。
「あさちゃん、元気だった?」
まるで他人のような口のきき方に安里の心はどんどんと締めつけられていった。
かつての全てを闇に葬ってしまったかのようだ…。
自分なんかよりもずっと、ずっと先を行く、この男…。
年齢とか、立場とか、そんなものはどうでもいいと思えたら…と安里は幾度思っただろう。
「ん…」
グラスにビールを注いでもらいながら、返事とは言えないような小さな声を漏らす。
震える指先に、睦の手が当てられた。
こぼさないように…と周りには見られるのだろうが、彼の手の熱を知っている安里は激しい動揺を覚えた。

…この手にもう一度触れられたい…。

そう思ってしまう自分を浅ましいと思う。
人間として、当然求める『欲』なのだろうが、教育者として『誘う』ようなことはイケナイと頭が働く。
葛藤の中、睦とどんな会話をしたのかも、時間が経った後の安里は記憶がなかった。
覚えているのは『指先』だけだ。

あの温もり、あの熱、あの想い…。
触れた先だけで、今でも睦の想いがどこにあるのかを感じた。

…溺れてもいいのだろうか、この手に…。

夏恋

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【観潮楼企画】 ~指先が触れた時~ 8
2010-08-14-Sat  CATEGORY: 観潮楼
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あかね色の夕焼けが村全体を包んでいた。
祖母の家の縁側から見る夕焼けは、都会のごみごみとした中から見るものとは全く違う。
同じ地球上にあるものであるはずなのに、とても澄んでいた。
それは人の心にも影響しているのだろうか…。

公民館での宴会は際限がなく、酒を飲み慣れない安里が次々と注がれる酒に酔いを表し、ぐったりとして陸に連れられることでお開きとなった。
それからも、祖母宅には果物や野菜がたくさん届いていた。
何をしたわけではない…。
傷を負わせるだけだった自分に、ここまでしてもらう資格などないと安里は涙ぐんだ。

一眠りしてぼうっと縁側の外をながめていたとき、黒い影が安里の前を横切った。
大きくて、逞しくて、それでいてしなやかな動き…。
「安里…」
『スイカ持ってきた…』と目の前の男は呟いた。
親から言い渡されたものなのか、自ら選んだのか、安里は知らないが、この家にやってくるための口実なのだとは分かる。
自分で振っておきながら、今はその腕が欲しい…。
図々しいと思うから余計にそっけなくなる。
「ありがと…」
おおきな塊を縁側で受け取って、このまま去ってくれと願う気持ちと、そばにいてくれという欲望が渦巻いた。

「俺、就職は安里の近くにするから」
思いがけない言葉が降ってきて、安里は目を見開く。
この村に残る若者が少ないことは知ってはいるが、『近く』という言葉には驚きしかない。
睦がもう就職を考える年なのだとは嫌でも知っている。
専門分野へと進んだのも受験を決めた時から聞かされていた。
その全てが自分へと繋がっているとは思いもしなかった。
「なに、言って…」
「ここを離れることは親父たちは昔から知っている。何も縛られることはないってずっと言われてきた。俺が縛られたいのは安里だけだよ」
握り締めたスイカを落とさないようにと指先が触れた。
同時に重なった唇…。

日に焼けた肌が眩しい。
赤く染める太陽と、焦げたような睦の肌。
そして焦げた自分の心…。

「安里がどうしても嫌だっていうなら諦める。けど少しでもまだ俺のこと、考えてくれるなら、一歩も引かない。今日触れた温もりは、その答えなんだろう?」
どこまで見透かすのかと思った。
ほんの僅かだけ触れた指先だけで、自分の心を読み透かされていた。
一度は振った相手でも、こもる熱は振りきれていない。
「むつみ……」
「好きだ…。あの頃は何の考えもなくひたすら安里を自分のものにしようとしていたけど、少し離れて俺の我が儘を知った。こんなやつにずっと付き合ってくれたのかって、すごく嬉しかったし後悔もした。安里に別れを切り出されて当然のはずなのに、でもやっぱ、諦められないよ。こんな言い方は卑怯だけど、責任とってって言いたい。俺、何もかもを安里に捧げて生きてきた…」
子供独特の独占欲に近かった。
それでも安里は嬉しかった。
そこまで自分を欲してくれる態度。

両親は共働きで家にはいつも一人。
夏に訪れる、うっとおしいほどにかまってくれる近所の少年たち。

教育者として、これはありなのだろうか。
葛藤する心の中で、導き出した答えは…。

「ばかやろ…」
自ら口付けたのはこれが初めてだった。

夏恋

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朝から何をしているかと思えば…。で、隠れてカタカタ打ち込んでいました。
次話、最終話になるかな~。ってか、いつ書けるんだ?!
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【観潮楼企画】 ~指先が触れた時~ 9
2010-08-17-Tue  CATEGORY: 観潮楼
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そっと寄せた唇を、逆に強く吸い上げられる。
近所に出掛けた祖母がいつ戻ってくるかもしれない時間帯、そして、近所の誰に見られるかも分からない今日。
口腔を犯してくる睦の舌を安里は避けられなかった。

2年振りに触れた唇は、熱かった…。

睦を欲しているのは自分のほうなのかもしれない。
言い訳を立てて拒絶しようとしても、心の底にある気持ちに嘘をつくことの辛さを離れていた時間で知ってしまった。
そして変わらないと告げられた睦の想いをまた感じられた。
それは『安堵』。

名残惜しそうに離れていく睦が、スイカを抱えた安里の指先を撫でる。
「就職決まったら、引っ越すから。一緒に住もう」
「僕の部屋は狭いから無理」
「安里も引越せばいいじゃん。多少の不便さは愛の力でカバーしよ」
「馬鹿言ってんじゃないよ。だいたい、僕を基準に就職先を選ぶって間違えてる」
「こっちとは違って選択肢はたくさんあるからね。返って好都合。俺さ、安里の教えもあったせいか、それなりに成績いいんだよ」
成績と就職活動はまた別問題だろうが、有利に働く要素ではある。
睦が大学に通い始めた最初の夏から話をすることもなかったから、現状については安里も初耳だった。
「あとは安里に振り向いてもらうために努力してたかも」
口角を上げた睦が安里の隣に並んで腰を下ろしてきた。
安里が悶々と過ごしていた日々、睦は黙って打ちひしがれていたわけではないし、着実に未来を見据えていたわけだ。
本当に、どっちが年上なんだからわからない…と安里は思わず苦笑する。

まるで離れていた時を埋めるかのように、陽が完全に落ちても二人は話をしていた。
帰ってきた祖母が、「安里は随分と元気になったね」と驚いたくらいだ。
公民館から帰ってきた時、酔っていたせいもあったが、葛藤していた心のせいで、安里は酷く落ち込んでいた。
過去にこの村で何かあったことをそれとなく気付いていたのだろうか。
だから祖母は、尚更昼間からでも「飲みに行って来い」と安里を送りだしたのだろうか。
村人の温かさを誰よりも知っているのは祖母だったし、今こうしてこの村にいられるのは、やはり祖母のおかげだった。
傷ついた心があったとしても、癒してくれるのはここの村人である。

「むぅちゃん、夕ご飯、そうめんだけど食べていくかい?それとももう用意されているかな」
「うん。食べていく。親父、まだ寝てたし、宴会料理の残り物があるだけだから、うち」
「みんなには本当に良くしてもらって…悪かったな…」
「いーんだよ。しょっちゅうその辺で呑んでんだから。口実が欲しいだけなんだ、あの連中は」
睦がくったくの無い笑顔を浮かべる。
その笑顔をまた見られて、余計にホッとした。
最後に見た、安里に並べないと悔しそうに顔を歪めた表情がずっと脳裏にこびりついていたから…。

祖母が奥の台所に入る後姿を見送った後で、安里と睦は一緒に、いつもの部屋で待つことにした。
先程まで安里が横になっていた布団が敷きっぱなしで、安里は無性に恥ずかしさがこみあげてくる。
そんな安里に気付いたのか、睦が悪戯っ子のようなぱぁっとした笑みを見せながら背後から飛びついてきた。
「ねぇ、今夜泊まっていい?」
「だ、ダメに決まってる…っ!!」
耳元で囁かれる”大人の声”にドキンとするものを心臓に受け、またじわりと疼くものを体中に感じた。
凍らせておいた心が急速に解凍されて溢れ出てくるようだった。
「睦…っ、離れろってっ」
「ヤダ」
こんなところを祖母に見られるわけにはいかない。
焦った安里は急いで離れようとしたが無駄な努力だ。
睦がまた囁いた。
「もう一回、安里からキスして。今はそれで我慢してあげるから」

その場をなんとかしたかった安里は、恥ずかしなりながらも睦の腕の中で向きを変えた。
それでも躊躇って一度俯いた安里の額に睦の唇が降ってくる。
「約束して。もう二度と離れないって…」
行きつくところ、それは睦の『不安』だったのだと気付く。

振り返れば、自分は一度も睦にきちんとした言葉を残してやったことなどなかったな…。
これは安里自身に改めて自覚させる良い機会なのかもしれない…。
一つの垣根を越えて、飛び込む腕の中…。
近所の子供、遊び仲間…から『恋人』へ。

「睦のこと、忘れられなかった…」
幸せになれるかどうかは分からないけど、この手だけは離さないでやろうと、安里は素直に告げながら苦しんだ夏の日々を清算した。

…きっとまた、『夏』がやってくることを楽しみに待つ自分に戻れる…。
そう言い聞かせながら、くちづけた睦の唇は、夏の味がした。


―完―

夏恋

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駄文にお付き合いくださいましてありがとうございました。
更新ないとか言っていたくせに…。

ならさま、素敵なイラストありがとうございました。

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