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BLの丘
木漏れ日 58(最終回)
2013-09-19-Thu  CATEGORY: 木漏れ日
瀬見の負担になってはいけない、と思うことは、鳥海を奮い立たせるものにもなり、今まで以上に勉学には力が入った。
藤里と意見交換できたところも良かった。
刺激し合える存在がそばにいるとは、向上心を育てていくものにも繋がる。
部屋で勉強をしていれば、八竜が猫の相手をしていて…。
なんだか、わびしいオヤジの背中だな…と、鳥海が内心で思っていたことは誰にも言っていない。
藤里にまで相手にされなくなったら、哀愁漂いそうで、将来を想像しても、藤里にはこちらから、『あんな兄だけどヨロシク』と言いたくなってしまうのだ。

週末は瀬見の家に行くことが多くなった。
"いかにも"的な行動は後ろめたさも浮かぶのだが、逆に瀬見が泊まりに来ることも増えて、家族交流が深まっていくのはいいことだろうか。
その瀬見がバニラとビターの『家』を買ってきてくれた。
あっという間に大きくなる猫は、いずれそれぞれに寝るようになるだろう、とふたつ。
クッション素材でできた三角屋根の家の形をした"ベッド"で、屋根は取り外しができる。
ダークブラウンとベージュの色違いだったが、何を言うわけでもなく、ダークブラウンをバニラが、ベージュをビターが選んでいた。
同化することのない色に、見守っていた全員から感心した息が吐かれたくらいだ。
屋根がなければ丸くなって寝ている様子が良く見えたし、丸い入口から覗いても狭い空間に安心している様子がうかがえた。
囲まれて安心しているのは、鳥海の性格に似たのかもしれない。
何より、いずれ距離ができる鳥海と藤里の姿か…。

また瀬見は、来るたびに『プレミアムねこまんま』を買ってきてくれるものだから、こちらにもすっかり懐いている。
「瀬見さんってば、高いんだからいいのに…」
猫が瀬見を嫌わないでいてくれることは鳥海にとっても嬉しいことだが、鳥海と藤里の分のデザートも加えられているので出費を心配してしまう。
瀬見はいつものニコニコとした笑みで買い物袋を母親に手渡していた。
後を追いかけた鳥海に向き合えば、「いいんだよ。いつもお母さんに美味しいご飯、もらっているんだから」と、逆に持たされる荷物に喜びを表した。
料理を褒めてくれる人物がまた増えたことで、母親は日々(無謀な)開発と(いらない)努力を繰り返している。
大量に仕込んだ食材は、ご丁寧にもアレンジ方法のメモまで付けられて手渡されて瀬見の家の冷蔵庫や冷凍庫に収められることになる。
家庭の味をよそのお宅まで…とは、口出し過ぎじゃない?と鳥海は思うのだが、瀬見に言わせると、健康管理まで気遣ってもらっている、になり、ますます母親を天狗にしていた。
おかげで、鳥海が調理する日はいつまでたってもやってこない…。
いや、母親に持たされたものを鳥海が言われたとおりに手にかければいいのだが、そこはやはり瀬見の行動のほうが早かったりする。
包丁もほとんど握ったことがない、使える調理器具は電子レンジだけの鳥海に期待する方が愚かである。

そして瀬見は鳥海の運転免許証を預かってしまった。
卒業するまで車には乗せないと豪語していた八竜だったが、将来、就職する際に自信がついていないのはマイナスだろうと言いくるめられた。
普段の生活では使う必要がない代物だが、ドライブだと連れ出されては、のんびりとした光景のなかで運転席に座らせられる。
瀬見の車だけに怖々としてしまうが、混雑がないところでは、多少の失敗もご愛嬌で済まされた。
駐車場での車庫入れには、切り返し10回かかっていたものも、最近では3回程度で済む。
隅っことはいえ、練習場所にされている店舗は迷惑な話だろうが…。
「すごいっ。今日は一回でできた~っ」
鳥海が車内でバンザーイと喜ぶと、ニコニコと笑った瀬見が頭上を撫でてくれる。
「おめでとう。ご褒美にデザート5個買っていいよ」
「5個もっ?!」
「まぁ、鳥海なら、今日明日で消化しちゃうだろうけれどね」
食後にデザートを欲するのは瀬見の家でも変わらない。
鳥海が満足げに平らげるのを見守ったあと、次は瀬見のデザートの時間になるのだが…。
褒められて商品まで付いてくれば、また俄然とやる気が湧き起こる。
今度は藤里も横に乗せてあげよう、と夢は膨らむのだが、それはそれで、八竜の猛反対にあうことだろう。

瀬見は「いつでも来ればいいよ」とマンションの鍵をくれたが、平日は仕事に追われることが多く、遅くになる部屋で待つ勇気はなかなか持てずにいた。
どうしても時間をもてあましてしまうのだ。
それに次の日の講義のこともあったりして、そこは瀬見も無茶を言ってくることはなかった。
『今やるべきこと』。
母親と約束したように、自分たちの感情だけに流されず、きちんと社会状況を見極めている。
瀬見に対して言った言葉かもしれないけれど、母親としては八竜と藤里に向けた思いも混じっているのだと思う。
藤里は、とりあえず大学院の方へ進むことをもう決めてしまっているが、あくまでも"学生"である。
その邪魔をするなということなのだろう。
誰に対しても重く圧し掛かって、胸の奥に宿すものとなった。

藤里は鳥海の家に寄っても、強制的に八竜にアパートに戻されることもある。
鳥海と勉強をして、猫と遊んで、ご飯を食べて…その後に。
鳥海を気遣ったのかと思ったが、メリハリをつけさせているのだと暗に教えられると納得もできた。
そういう時間があるからこそ、恋人同士、ふたりきりで居られることの貴重さも味わえるのかもしれない。

鳥海と藤里、それぞれがパートナーを得たことを森吉と能代に伝えると、能代からとんでもないものが出された。
「消しちまっても良かったんだけどさ~。一応カレシにも見せておいた方が無難だろ」
一緒に海に行った時、同じ部屋で寝た時の寝顔が端末に映し出されている。
藤里と並んで寝ている姿は、バニラとビターを連想させてくれた。
それにしたって、"大人"の欠片も見当たらないあどけなさを改めて突き付けられたようで恥ずかしさが湧いた。
…いつの間に…っ?!
思わず藤里と顔を合わせてしまうが、悪用されていないことだけは確かだった。
架空の恋人になることがあったなら、と、その時に使えるだろうと撮っておいたようだ。
そんなに無防備だっただろうか…と不思議になるが、二人に言わせるところ、セットで狙われていたそうだ。
一人が落ちればもう片割れも…とはなんと安直な思考かと思ってしまうが…。
「こんなもの持ってて、後で揉め事になるのは嫌だからな」と言って、能代は自分のデータ保存庫から消去してしまった。
最初から撮らなければいいのに…と藤里と「ね~」と首を傾げ合う。
データをもらった鳥海たちは、「相手に見せておけ」と言われた言葉通り、それを八竜と瀬見に見せたところで、激しく怒られた。
割高になってもいい、金なら払ってやるから他の人間と同室になるな、と言いたいらしいが。
正直に全てを打ち明けてきたあの二人に対しての印象は、少なくとも上がっているようだ。
自分たちの目の届かないところでのボディーガードくらいにはなるだろうと考えるのも図々しい話だ。
ふたり一緒であれば、と遊びの範囲を狭めないのは自分たちの過去があるからだろう。
鳥海は八竜の学生時代しか知らないが、奔放に過ごしてきたのを良く見ている。
良い友達に巡りあうこと。それも人生で必要なこと。

木立の間から注ぎこまれる光りはいつだって優しく照らしてくれる。
暗すぎることもなく、浜辺のように燦々と降り注ぐこともなく。
いつかお互いをしっかりと見つめあえるその日まで、『木漏れ日』の中で成長を続けようと思えてくるのだった。

―完―

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ようやく完結です~ヽ(゚∀゚)ノ
想像以上に長くなりましたね。
『原色の誘惑』からみたら3倍以上の長さとなりました。
あちこちの登場人物がゲスト出演してくれたせいで、余計に増えたかも…。

タイトルの『木漏れ日』は瀬見のことを表したかったのですが、力不足でそこまで書けなかったです(汗)
(だからここで言い訳する…)
原色、虹、乱反射 と来たので、なんとなく自然的なものがいいかなぁと考えてこんな感じに(笑)
相変わらずタイトルなんて、適当に付けているのです。

ダラダラ書いても…ということで、いつものように強引に最終回に持って行きました。
これから先のことはSSにでもしていこうと思います。
今、頭の中にあるのが、鳥海の就職活動のことなので(時期?時間?的にも一度区切るのが良いかと…)、次に登場する時は季節と年齢が違ってくるかなぁ…。
でも年齢なんて本当に適当極まりないので、深く突っ込まないでいただけると嬉しいです。

最後までお付き合いありがとうございましたm(__)m
急に秋めいてきましたね。
季節の変わり目、皆さま、体調にはどうぞお気を付けください。

また次の記事があります→別宅 餃子の巻

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コメント

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木漏れ日のような人
コメントけいったん | URL | 2013-09-19-Thu 11:06 [編集]
木漏れ日…木の葉の間から漏れ照らす 太陽の光り

そっかぁー、きえちんの中では 瀬見は そんなイメージだったんだね。
確かに ギラギラ・ガンガン照り付ける 直射日光の印象は無い


迷い込んだ森の中 途方に暮れた時
木の葉の間から覗く木漏れ日と空に 不安は取り払われ 心が落ち着く
鳥海にとって 瀬見は そんな人なのでしょう

すくすくと育って行く鳥海と 見守る瀬見を いつかまた見られたら 嬉しいな!
60話まで行くことも無く 完結を迎えられて 良かったね、きえちん♪
お疲れ様でした~♪゚*。(b・∀・b)。*゚


エアコンも そろそろお役御免となり、夜は網戸越しの風も涼しく 過ごし易くなって来ましたね。
で、昨日は 一日中 網戸を洗ったり、張り替えたりしてました。
しかし 夜は涼しくても 此方は 日中 30~31度の気温で この時期の陽射しは 容赦ない程です。
(o ̄∀ ̄)ノ”ぁぃ、軽~い熱中症になり フラフラ~ヨレヨレ~でした(笑)
春と秋は、夏より 紫外線が ハンパないそうで…
皆様も 紫外線対策は 忘れずにね♪
~~☀~~((o(´;゚;Å;゚;`i|i)o)) 紫外線は 強敵だわ。。。

Re: 木漏れ日のような人
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-19-Thu 17:17 [編集]
けいったんさま こんにちは。

> 木漏れ日…木の葉の間から漏れ照らす 太陽の光り
>
> そっかぁー、きえちんの中では 瀬見は そんなイメージだったんだね。
> 確かに ギラギラ・ガンガン照り付ける 直射日光の印象は無い

えぇ、私の中ではそんな感じでしたが、読者様はどうだったのでしょうね。
イメージ崩れましたか???
照りつける太陽はどっちかというと、森吉だったかな?
八竜は…、八竜は…、なんだろうね。
『♪この~木なんのき、気になる木~♪』あたりかな。(←)

> 迷い込んだ森の中 途方に暮れた時
> 木の葉の間から覗く木漏れ日と空に 不安は取り払われ 心が落ち着く
> 鳥海にとって 瀬見は そんな人なのでしょう
>
> すくすくと育って行く鳥海と 見守る瀬見を いつかまた見られたら 嬉しいな!
> 60話まで行くことも無く 完結を迎えられて 良かったね、きえちん♪
> お疲れ様でした~♪゚*。(b・∀・b)。*゚

無事瀬見のもとで落ちついたようです。
このあと、どんな成長をするのでしょうね。
完結することができてホッとしました。
すぐにSSが始まりますので(´∀`;)

秋の衣替え(?)おつかれさまでーす。
朝晩は涼しくても昼間は暑いからね。
まだまだ熱中症の危険があると思いますので、気を付けてくださいね。
紫外線…それが一番強敵かも。
真っ白になるほど塗らなきゃ(笑)

コメントありがとうございました。
お疲れ様でした
コメントちー | URL | 2013-09-19-Thu 18:53 [編集]
今朝は、寝坊して流し読み←失礼な
しか出来なかったので今頃コメントー。

実は、私、瀬見ちゃんとすんなり出来るとは思ってなくてですね。
途中で小さい時のトラウマとか出て来るかなあ?
なんて、思ってたわけです。
でも、にぃのおかげかそんなん無かった(笑)
鳥海くんは素直に育ってました。
私が思う瀬見ちゃんは、クールだけど優しくて、でも、関係ないものはバッサリ切るみたいな感じかな?
藤里くんと三角関係か?とかも思ってたけど、あっさりと、にぃとくっついてしまったし。

あ!私、リクエストしても良いのかなあ。
クイズ、当たったし!
どうなんだろう・・・

明日からはSS?
また、楽しみにしてますねー。
Re: お疲れ様でした
コメントたつみきえ | URL | 2013-09-19-Thu 21:54 [編集]
ちーさま こんばんは。

> 実は、私、瀬見ちゃんとすんなり出来るとは思ってなくてですね。
> 途中で小さい時のトラウマとか出て来るかなあ?
> なんて、思ってたわけです。
> でも、にぃのおかげかそんなん無かった(笑)
> 鳥海くんは素直に育ってました。
> 私が思う瀬見ちゃんは、クールだけど優しくて、でも、関係ないものはバッサリ切るみたいな感じかな?
> 藤里くんと三角関係か?とかも思ってたけど、あっさりと、にぃとくっついてしまったし。

読者様にプロットを作っていただきたい!!
すごい思考力ですよね。
あまり複雑にすると、どんどん長くなるので、結構ストレートに事が進みました(笑)
瀬見は ちーさまが仰るとおりだと思いますよ。
温厚な面と冷徹な部分を持っているでしょう。
どちらも他の人より、色濃く出るところがあるのかもしれませんね。
バッサリ切るってとこは当たっているはずです。

> あ!私、リクエストしても良いのかなあ。
> クイズ、当たったし!
> どうなんだろう・・・

リクエスト、OKですよ~。
お返事、すっかり忘れていましたね(笑)
さぁ、誰の登場をご希望されるのでしょうか。

> 明日からはSS?
> また、楽しみにしてますねー。

こちらもこの前、ちーさまに先読みされた感じがあったからなぁ(´∀`;)
つまらないかもしれませんが、お付き合いくださると嬉しいです。
コメントありがとうございしまた。
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