抱きしめてくれる腕がある。幼い時から何も変わらない力強さは、常に日生を守ってくれるものだと信じられた。
「親のことが気になる?」
和紀の覗きこまれて、一瞬、何と答えようかと戸惑う。
気にならないと言ったらウソになる。しかし、最初から親なんていなかったような日生にとって、今更気にかけるものではない。
すでに存在していない、と言われたなら、どんな人生を送ったのかを考えてやる必要もないだろう。
日生は首を横に振る。
「僕のおとうさんは、周防さんだけだよ…」
日生の答えを聞いて、和紀はクスッと笑う。
張り詰めていた空気が僅かに緩んだようだ。
「親父が聞いたら大喜びするだろうな」
「言ってあげたかった…」
「どうせその辺で聞いているよ。地獄耳の親父だったんだ…」
まるでいつもそばをうろついている、と言うかのように。
和紀は日生の髪を撫でることをやめない。顔中にキスの雨を降らせる。
不安になる話をしてしまったという後悔もあるのだろう。また日生が答えたことで安心が心に広がったのか。
日生が『おとうさん』と呼ばなくなったのは、いくつの時だったか。
和紀と同じ立場にはなれないと悟って、日生は名前で呼ぶことにしてしまった。何も知らなかった子供時代ではなく、徐々に知識を身に付けた結果だった。
その判断にも周防は何も反対はしてこなかった。
周防は何も変わることもなく、いままで同じように接してくれた。
でも今の和紀の言葉を聞くと、もしかしたら淋しがっていたのかもしれないと思われて、こちらも後悔が生まれる。
親子関係にありながら、距離を取ってしまったのは日生だったから…。
「奈義さんのことも、散々恨んで憎んだけれど、ひなを最初に引き取ってくれたのはあの人だったからな。少しは感謝するべきかも…」
和紀に出会えて、こうして愛される日々を送れるようになった。そのことを和紀も喜んでくれている。
懐かしい名前に、思い出が甦って日生も頬を緩めた。
「奈義さんってば、あんなことしていながら、周防さんに全然頭があがらないんだもん」
クスクスと笑い声まで響いてしまう。
真庭奈義(まにわ なぎ)は強面の顔に体躯に、と、ヤクザの風貌であるのに、周防を前にしては言いくるめられてばかりだった。強引に物事を進められないのは子供心に不思議だった時代がある。
いや、だから温厚な周防に余計に懐けたのかもしれない。
「まぁ、惚れた弱みだろうな」
「え…? そうだったの?」
意外な話の行方には、笑顔も驚愕に覆われてしまう。
付かず離れず、適度な距離を保った関係の二人だった。晩年は頻繁に顔を合わせていたようだが、和紀と日生は何かと避けられていたのであまり接触はなかった。
日生が成長するにつれ、奈義が日生を連れ戻そうとするのを和紀も周防も許さず、自分の首を絞めるだけに終わった。
嫌われるだけの存在にならなかったのは、周防と奈義の間に見えない感情があったからなのだとはなんとなく分かっていたけれど、結局は奈義が百歩譲っていたと聞かされると改めて驚くものがある。
「別に本人から聞いたわけじゃないけれどさ。あの人も不器用なところがあったから、親父も見捨てられなかったんだろ。…ひなを手元に置こうとした時があっただろう? 親父が面倒を見た子供を最後まで気にかけるのを承知していたから、ひなを囲うことで親父との繋がりを強めようと考えていたんだろうな。一つのコマにされたから親父は激怒したんだ…」
本当に働かせる気などなかったのだろう。奈義のそばに置く…。奈義にとっての目的はそちらのほうだったようだ。
幼稚な思考と短絡的な行動に、周防は怒るよりも呆れたのかもしれなかったが…。
成長すればするほど、当時は見えなかったものが見えてくることがある。和紀はそこに気付いたのかもしれない。
「そういえば、どうして周防さんは清音さんと結婚しなかったの?」
それも長年の疑問であった。再婚することは悪いことではなかったはずだろう。
常にそばにいてくれた人を、特別な存在にしなかったのはどんな考えがあったのか。
今更聞いても仕方がないことなのだろうが、一番しっくりとくる、健全な関係のような気がしてしまうのは、自分たちが子供を持てない環境にあるからかもしれない。
もしかしたら、自分たちもこの先の将来、子供を引き取ったりすることはあるだろうか。
そのことも聞いてみたら和紀に首を振られた。
「ひな一人でどれだけヤキモキさせられたと思っているんだ…。子育てはしたから、もういいよ。ひなが欲しいというなら考えなくもないけれど、もう清音さんには頼めないからな…」
自分一人の力で簡単に子育てができるとは日生も考えていない。日生だって、清音がいてくれたから、世間で必要とされるアレコレを教えてもらえた。
自分がどれほど恵まれた環境を用意してもらえたのか、それを思うだけで、これ以上の我が儘が言えるはずがなかった。
また、どこかで、新しく来る子供に、和紀の関心が移ることにも脅えた。思春期の淋しかった時代を繰り返したくない。
こうして抱きしめてくれる腕は、永遠に日生だけのものであってほしい。
「親父と清音さんはさ…」
和紀は先程の日生の質問に応えてくれる。
紡ぎだされる言葉に、日生は耳を傾けた。
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先日、また間違えた作業をしたようですね…。村の新着にあったこと、PC開けなかったので、気付かず、申し訳ございませんでした。
「親のことが気になる?」
和紀の覗きこまれて、一瞬、何と答えようかと戸惑う。
気にならないと言ったらウソになる。しかし、最初から親なんていなかったような日生にとって、今更気にかけるものではない。
すでに存在していない、と言われたなら、どんな人生を送ったのかを考えてやる必要もないだろう。
日生は首を横に振る。
「僕のおとうさんは、周防さんだけだよ…」
日生の答えを聞いて、和紀はクスッと笑う。
張り詰めていた空気が僅かに緩んだようだ。
「親父が聞いたら大喜びするだろうな」
「言ってあげたかった…」
「どうせその辺で聞いているよ。地獄耳の親父だったんだ…」
まるでいつもそばをうろついている、と言うかのように。
和紀は日生の髪を撫でることをやめない。顔中にキスの雨を降らせる。
不安になる話をしてしまったという後悔もあるのだろう。また日生が答えたことで安心が心に広がったのか。
日生が『おとうさん』と呼ばなくなったのは、いくつの時だったか。
和紀と同じ立場にはなれないと悟って、日生は名前で呼ぶことにしてしまった。何も知らなかった子供時代ではなく、徐々に知識を身に付けた結果だった。
その判断にも周防は何も反対はしてこなかった。
周防は何も変わることもなく、いままで同じように接してくれた。
でも今の和紀の言葉を聞くと、もしかしたら淋しがっていたのかもしれないと思われて、こちらも後悔が生まれる。
親子関係にありながら、距離を取ってしまったのは日生だったから…。
「奈義さんのことも、散々恨んで憎んだけれど、ひなを最初に引き取ってくれたのはあの人だったからな。少しは感謝するべきかも…」
和紀に出会えて、こうして愛される日々を送れるようになった。そのことを和紀も喜んでくれている。
懐かしい名前に、思い出が甦って日生も頬を緩めた。
「奈義さんってば、あんなことしていながら、周防さんに全然頭があがらないんだもん」
クスクスと笑い声まで響いてしまう。
真庭奈義(まにわ なぎ)は強面の顔に体躯に、と、ヤクザの風貌であるのに、周防を前にしては言いくるめられてばかりだった。強引に物事を進められないのは子供心に不思議だった時代がある。
いや、だから温厚な周防に余計に懐けたのかもしれない。
「まぁ、惚れた弱みだろうな」
「え…? そうだったの?」
意外な話の行方には、笑顔も驚愕に覆われてしまう。
付かず離れず、適度な距離を保った関係の二人だった。晩年は頻繁に顔を合わせていたようだが、和紀と日生は何かと避けられていたのであまり接触はなかった。
日生が成長するにつれ、奈義が日生を連れ戻そうとするのを和紀も周防も許さず、自分の首を絞めるだけに終わった。
嫌われるだけの存在にならなかったのは、周防と奈義の間に見えない感情があったからなのだとはなんとなく分かっていたけれど、結局は奈義が百歩譲っていたと聞かされると改めて驚くものがある。
「別に本人から聞いたわけじゃないけれどさ。あの人も不器用なところがあったから、親父も見捨てられなかったんだろ。…ひなを手元に置こうとした時があっただろう? 親父が面倒を見た子供を最後まで気にかけるのを承知していたから、ひなを囲うことで親父との繋がりを強めようと考えていたんだろうな。一つのコマにされたから親父は激怒したんだ…」
本当に働かせる気などなかったのだろう。奈義のそばに置く…。奈義にとっての目的はそちらのほうだったようだ。
幼稚な思考と短絡的な行動に、周防は怒るよりも呆れたのかもしれなかったが…。
成長すればするほど、当時は見えなかったものが見えてくることがある。和紀はそこに気付いたのかもしれない。
「そういえば、どうして周防さんは清音さんと結婚しなかったの?」
それも長年の疑問であった。再婚することは悪いことではなかったはずだろう。
常にそばにいてくれた人を、特別な存在にしなかったのはどんな考えがあったのか。
今更聞いても仕方がないことなのだろうが、一番しっくりとくる、健全な関係のような気がしてしまうのは、自分たちが子供を持てない環境にあるからかもしれない。
もしかしたら、自分たちもこの先の将来、子供を引き取ったりすることはあるだろうか。
そのことも聞いてみたら和紀に首を振られた。
「ひな一人でどれだけヤキモキさせられたと思っているんだ…。子育てはしたから、もういいよ。ひなが欲しいというなら考えなくもないけれど、もう清音さんには頼めないからな…」
自分一人の力で簡単に子育てができるとは日生も考えていない。日生だって、清音がいてくれたから、世間で必要とされるアレコレを教えてもらえた。
自分がどれほど恵まれた環境を用意してもらえたのか、それを思うだけで、これ以上の我が儘が言えるはずがなかった。
また、どこかで、新しく来る子供に、和紀の関心が移ることにも脅えた。思春期の淋しかった時代を繰り返したくない。
こうして抱きしめてくれる腕は、永遠に日生だけのものであってほしい。
「親父と清音さんはさ…」
和紀は先程の日生の質問に応えてくれる。
紡ぎだされる言葉に、日生は耳を傾けた。
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先日、また間違えた作業をしたようですね…。村の新着にあったこと、PC開けなかったので、気付かず、申し訳ございませんでした。
日生が 和紀に 聞きたかった事は、私も 知りたかった事です。
ぬる~く あさ~く コウカナ?とは、思ったりしてましたけど
周防さまと 奈義の関係も 和紀は、薄々 気付いていたんだねー
恋愛情とも違う 肉親情とも違う、友情とも違う、特別な情が 2人の間で築かれ 強く結ばれていたなんて…
今頃 あの世で 周防さまに 奈義は 怒られているのかしら?
それでも 幸せなんでしょ♪
*:;;;:*:;;;:*強ぃ(@ノ・∀・)人(>∀<ヽ@)絆*:;;;:*:;;;:*
ぬる~く あさ~く コウカナ?とは、思ったりしてましたけど
周防さまと 奈義の関係も 和紀は、薄々 気付いていたんだねー
恋愛情とも違う 肉親情とも違う、友情とも違う、特別な情が 2人の間で築かれ 強く結ばれていたなんて…
今頃 あの世で 周防さまに 奈義は 怒られているのかしら?
それでも 幸せなんでしょ♪
*:;;;:*:;;;:*強ぃ(@ノ・∀・)人(>∀<ヽ@)絆*:;;;:*:;;;:*
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