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BLの丘
大人の時間 11
2010-03-25-Thu  CATEGORY: 大人の時間
ヴーヴーと機械が振動を告げるような物音で目が覚めた。音を切ってある携帯電話が鳴っているのだとわかる。
寝起き直後に目にするには見慣れない天井に、咄嗟に身体を起こそうとして下半身に響く鈍痛に顔をしかめる。
肌を撫でるのは衣類などではなく、起毛の毛布だった。
それと同時に自分が全裸でいることに気付く。
そして昨夜、自分の身に何が起こったのかも思い出した。

無造作に脱がされたはずのスーツはきちんと整えられコートハンガーに掛けられていた。
その中に携帯電話は入っているはずだし、音もそこから聞こえる。
たったわずかな距離のはずなのに、野崎の身体は自由に動かなかった。
しばらく鳴り続けていた振動音もやがて止まり、また響きだす。
野崎は身体に鞭を打って、どうにか起き上がると毛布で前の部分を覆いながらコートハンガーへと近付いた。

呼び出し主を見て溜め息を吐く。
『榛名千城』と写し出された名前に時計を見る気力すら失った。
通話ボタンを押せばこちらが何を言うよりも先に「どこにいるんだ?!」と怒声が聞こえた。後にも先にも業務に支障をきたしたことなどない。
「すみません、すぐ…」
言いかけた言葉が途切れる。
あまりの声の掠れ方に、電話口の向こうの千城も異変に気付いたようだった。
『体調でも悪いのか?』
「いえ、そんなことは…」
この男に誤魔化しがきかないのは分かっていても口をつくのは定番の言葉ばかり。

のろのろと先程まで寝ていたソファに戻り、だるい身体を再び横にした。
空気が思いのほか冷たかったというのもあって毛布に身をくるんでしまう。
『無理はしなくていい。スケジュールは秘書室に預けてあるんだろう?今日は広重(ひろしげ:第二秘書)を連れるから早く治してくれ』
千城にとって野崎がいないとはどんな状況になるのか想像は容易い。
自惚れているわけではないが、自分の代役が他の人間に務まるとも思っていないし、野崎と同レベルの行動が取れない側近に千城がイラつくのも時間の問題だ。
野崎は多少の遅れを取っても追いつこうと頭を巡らせた。
壁掛けの時計を目にすれば、まだ勤務時間も始まって間もない。
とはいえ、千城が出勤してきてから…だが…。

「午前の会議が終わる頃までには顔を出せるようにいたします」
『ここで野崎に無理をされて長引かれたほうがよほど悪い。一日や二日ならどうにでもなる。会議資料や調査中の案件など………』
すでに野崎が用意しておいた書類に目を通しながら会話を進めているのは電話口から聞こえる物音で分かった。
内容などは頭に入っていたから、黙って千城の話を聞いていると、事務所のドアが突然開いた。
「美琴、着替えを持ってきてやったぞ」
野崎の状況を確認する前に、水谷の声が否応なく響き、それは当然千城の耳にも入っていておかしくなかった。電話での会話は当然のように途切れた。
寝転がっていた野崎が咄嗟に振り仰ぎ、携帯電話を片手にしている姿を見れば水谷も状況を把握したのだろう。黙りはしたがすでに遅い…。
野崎は一瞬にして頭を抱えた。静寂が通話口にも事務所内にも漂う。
先に口を開いたのは千城で、フッと笑う息さえ耳元を襲ってくる。脳裏にはその表情がありありと浮かんだ。
『看病してくれる奴がいるようだから安心か。…明日は必ず出社しろ』
台詞の前後は全く口調が異なった。語尾は完全な命令だった。
これ以上ないくらいの嫌味を浴びて、一言も返せずにいるうちに電話は切れている。
先程千城は『一日や二日』と言ったが、二日目があるはずがなかった。
そして間違いなく明日千城は出社しない。
快楽に溺れた代償はあまりにも大きかった。

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次回最終話です。
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大人の時間 12
2010-03-26-Fri  CATEGORY: 大人の時間
改めて水谷の顔を見るのは照れくさいものでもあるかと思ったが、全く変わりばえのない水谷の態度に自然と野崎も普段と変わらない姿勢で接することができた。
何故もっと早くに起こしてくれないのかと詰め寄ったところで、「気持ち良く寝ているのに起こせないだろう」と優しさが混じる声に何も言えなくなる。
目覚ましすらかけ忘れた自分の責任か…。
携帯電話の着信履歴は朝から引っ切り無しに鳴っていたことを物語っている。
全て会社からで、秘書室からかけられたものだ。初めてのことに相当心配をかけたのだろう。
最後の2件だけが千城本人からのものだった。
この呼び出しに気付いたのは執着か怨念か…。

取りあえず、今日は出社したところで、千城から嫌味を食らうのは目に見えているし、明日一日顔を合わせなければほとぼりも冷めるのではないかという思いもある。
千城の好きにさせて『お互い様』の状況に持ち込むしかない。
もちろん、英人を休ませ、神戸には迷惑をかけることになるのだが…。

何より、弱みを握られたようで、そちらのほうが末恐ろしい結果を招いてきそうだった。
一番知られたくない相手に知られたようなものだ。
『一夜の間違い』と改めて言い訳をする気さえ起こらない。
もっとも、そんなことを千城に伝えてどうするというのだ…。

電話で叩き起こされたようなものなのに、恐ろしいほど頭がすっきりとしていた。
身体にだるさはあるものの、『爽快』というに等しい清々しさが全身を包んでいる。
身体はすでに水谷が綺麗にしてくれていたようだ。べたつきも不快さもない。
水谷が用意してくれた下着とシャツに袖を通し、軽く身支度を整える。
「出社する必要がなくなった」と伝えれば、のんびりとモーニングコーヒーまで淹れてくれた。
事務所にあるソファに身を預けるように座ってそれをすすれば、ワークデスクの前で立ったまま昨夜の出しっぱなしの資料を手にしていた水谷がなんてこともないように呟いた。
「まぁ、たまにはこんな『休暇』もありってことでいいんじゃないのか?美琴は働き過ぎだぞ」
千城について回るだけならともかく、彼をとりまく仕事量は膨大で、しかも他人の手を信じない野崎はありとあらゆるものを自らがチェックを行う。当然業務は増える一方だった。
野崎には自分を追い詰めているようなつもりは全くなかったが…。

「こちらで新しい従業員を雇ってくだされば私の拘束時間も減るのですが」
そもそも通常の業務以外に加えられた水谷のサポートが『働き過ぎ』にさせているのだと嫌味の一つも言ってやりたくなる。
「あぁ。この前バイト希望の子が来たよ。バイトっていうか…脱サラしたとか言ってたなぁ。そうそう。美琴とあまり年が変わらなかったぞ。さんじゅう……、2、3とか言ってたっけ。やる気さえあれば、日野君みたいに逃げられる前にここを任せてもいいかなって算段中」
ホイホイと店を誰かに預けるのもどうかと思うが、と野崎は内心で溜め息をついていた。
細かいことにはこだわらない水谷の性格を思えばどうにでもしてしまうのだろうと想像はついても、他人事ながら心配してしまう。
それでも定着してくれる人間がいてくれるとは有り難いことだ。
日野がいた年月はあまりにも長かった。その埋め合わせをできる人間であってほしいと願いもする。

「むやみやたらに手を出して裁判沙汰など起こさないでくださいよ。また呼びつけられるのは嫌ですからね」
「その心配なら無用。完全なタチだよ。あいつは抱かれるタマじゃない」
それでも手を出しそうな水谷だから心配するのだ。
野崎は「そうですか…」と曖昧に濁すことにしたが、ここに来る用事がなくなることの安堵と奇妙な淋しさを覚えた。
昨夜の通りすがりの情事がそんな気持ちを引き起こすのだろうと自分に言い聞かせてみた。

我を忘れて縋りついた時間。
まるでリセットされたかのような今の自分。
恋も愛もないただの性行為に虚しさはあっても、忙しい自分にはこんなので充分なのかもしれない。

野崎は淹れてもらったコーヒーを飲み干すと、水谷の隣に立った。
せっかくできた『空いた時間』に水谷の手伝いをしてしまおうという行動に、水谷はあきれ顔だったが、野崎は『これが自分なのだ』と手を動かした。
的確なアドバイスを送りながら、資料のバラバラさに文句を並べ、見事なスピードで処理をする。
どこまでも完璧でありたい。
野崎を支えるプライドは今日も健在。

―完―

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