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BLの丘
大人の時間 12
2010-03-26-Fri  CATEGORY: 大人の時間
改めて水谷の顔を見るのは照れくさいものでもあるかと思ったが、全く変わりばえのない水谷の態度に自然と野崎も普段と変わらない姿勢で接することができた。
何故もっと早くに起こしてくれないのかと詰め寄ったところで、「気持ち良く寝ているのに起こせないだろう」と優しさが混じる声に何も言えなくなる。
目覚ましすらかけ忘れた自分の責任か…。
携帯電話の着信履歴は朝から引っ切り無しに鳴っていたことを物語っている。
全て会社からで、秘書室からかけられたものだ。初めてのことに相当心配をかけたのだろう。
最後の2件だけが千城本人からのものだった。
この呼び出しに気付いたのは執着か怨念か…。

取りあえず、今日は出社したところで、千城から嫌味を食らうのは目に見えているし、明日一日顔を合わせなければほとぼりも冷めるのではないかという思いもある。
千城の好きにさせて『お互い様』の状況に持ち込むしかない。
もちろん、英人を休ませ、神戸には迷惑をかけることになるのだが…。

何より、弱みを握られたようで、そちらのほうが末恐ろしい結果を招いてきそうだった。
一番知られたくない相手に知られたようなものだ。
『一夜の間違い』と改めて言い訳をする気さえ起こらない。
もっとも、そんなことを千城に伝えてどうするというのだ…。

電話で叩き起こされたようなものなのに、恐ろしいほど頭がすっきりとしていた。
身体にだるさはあるものの、『爽快』というに等しい清々しさが全身を包んでいる。
身体はすでに水谷が綺麗にしてくれていたようだ。べたつきも不快さもない。
水谷が用意してくれた下着とシャツに袖を通し、軽く身支度を整える。
「出社する必要がなくなった」と伝えれば、のんびりとモーニングコーヒーまで淹れてくれた。
事務所にあるソファに身を預けるように座ってそれをすすれば、ワークデスクの前で立ったまま昨夜の出しっぱなしの資料を手にしていた水谷がなんてこともないように呟いた。
「まぁ、たまにはこんな『休暇』もありってことでいいんじゃないのか?美琴は働き過ぎだぞ」
千城について回るだけならともかく、彼をとりまく仕事量は膨大で、しかも他人の手を信じない野崎はありとあらゆるものを自らがチェックを行う。当然業務は増える一方だった。
野崎には自分を追い詰めているようなつもりは全くなかったが…。

「こちらで新しい従業員を雇ってくだされば私の拘束時間も減るのですが」
そもそも通常の業務以外に加えられた水谷のサポートが『働き過ぎ』にさせているのだと嫌味の一つも言ってやりたくなる。
「あぁ。この前バイト希望の子が来たよ。バイトっていうか…脱サラしたとか言ってたなぁ。そうそう。美琴とあまり年が変わらなかったぞ。さんじゅう……、2、3とか言ってたっけ。やる気さえあれば、日野君みたいに逃げられる前にここを任せてもいいかなって算段中」
ホイホイと店を誰かに預けるのもどうかと思うが、と野崎は内心で溜め息をついていた。
細かいことにはこだわらない水谷の性格を思えばどうにでもしてしまうのだろうと想像はついても、他人事ながら心配してしまう。
それでも定着してくれる人間がいてくれるとは有り難いことだ。
日野がいた年月はあまりにも長かった。その埋め合わせをできる人間であってほしいと願いもする。

「むやみやたらに手を出して裁判沙汰など起こさないでくださいよ。また呼びつけられるのは嫌ですからね」
「その心配なら無用。完全なタチだよ。あいつは抱かれるタマじゃない」
それでも手を出しそうな水谷だから心配するのだ。
野崎は「そうですか…」と曖昧に濁すことにしたが、ここに来る用事がなくなることの安堵と奇妙な淋しさを覚えた。
昨夜の通りすがりの情事がそんな気持ちを引き起こすのだろうと自分に言い聞かせてみた。

我を忘れて縋りついた時間。
まるでリセットされたかのような今の自分。
恋も愛もないただの性行為に虚しさはあっても、忙しい自分にはこんなので充分なのかもしれない。

野崎は淹れてもらったコーヒーを飲み干すと、水谷の隣に立った。
せっかくできた『空いた時間』に水谷の手伝いをしてしまおうという行動に、水谷はあきれ顔だったが、野崎は『これが自分なのだ』と手を動かした。
的確なアドバイスを送りながら、資料のバラバラさに文句を並べ、見事なスピードで処理をする。
どこまでも完璧でありたい。
野崎を支えるプライドは今日も健在。

―完―

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コメント

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恋よりもプライド?
コメント甲斐 | URL | 2010-03-26-Fri 01:03 [編集]
ん~確かにオトナすね。
何から何まで。
愛はなくても、すっきり綺麗に処理した後はさっさと忘れて、いつものように完璧なビジネスモード。
けど空しいぞ、やっぱり空しいぞ。
水谷さんにはたまの気まぐれやつまみ食い、野崎さんには気分転換で、恋も愛も今のところいらないってことですか~。
コメントきえ | URL | 2010-03-26-Fri 11:24 [編集]
名無し様。
拍手コメを残してくださいましてありがとうございます。

>正直本編の二人よりもこのカプが気になる!!また続きを書いてほし~!

なんだかいっつも意味ありげーなものを書いて読者様を翻弄させているような気がします…(反省)
野崎のストレスの捌け口として用意したところなんですけど、余計にストレスがたまったかな…?
野崎編としてはまたいつか書きたいです。
次はどんな展開になるのか…。
コメントありがとうございました。
Re: 恋よりもプライド?
コメントきえ | URL | 2010-03-26-Fri 11:37 [編集]
甲斐様
こんにちは。

> ん~確かにオトナすね。
> 何から何まで。

開き直っている…というか割り切っている…というか。
野崎のライフスタイルを書いてみました。(常にこんなのかよ?!って言われそうですが…)

> 愛はなくても、すっきり綺麗に処理した後はさっさと忘れて、いつものように完璧なビジネスモード。
> けど空しいぞ、やっぱり空しいぞ。

むなしいですよね~空しいっ!!
まぁ、いずれ、野崎には恋でもさせてやりたいところなんですけど…。
それこそ、お仕事そっちのけで没頭するくらいの…何かを…。
社長も秘書も仕事を放棄したら、会社がつぶれるなぁ。
そしてパパも怒るんでしょうね。
二人して本邸に呼び出しくらいますよ。

> 水谷さんにはたまの気まぐれやつまみ食い、野崎さんには気分転換で、恋も愛も今のところいらないってことですか~。

利害が一致した時間でした。
コメントありがとうございました。
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