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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
Door of fate 6
2011-03-21-Mon  CATEGORY: Door of fate
虎太郎をかろうじて押し留めていたのは、取引先相手という立場だった。
営業のような表面的な付き合いが虎太郎は苦手だったから、お互いのプライベートを曝け出せる会話は気分の悪いものではなく楽しい。
頭の中に『顧客』という文字がなかったら、すぐにでも親しい間柄へと落ちていける。
だが、そんな態度はあつかましいと捉えられるのではないだろうか…と…。
一人暮らしになって友達と呼べる存在も少ない。
仕事と趣味が似たようなものの虎太郎は、仕事だけでも充実した日々といえた。
久々に過ごした楽しい時間を、この場だけで終わりにしてしまうことが惜しくなっていた。
完全に気を許しているのは自分自身が一番良く分かっている。
だけど、あくまで凛は顧客であって、深く関わってはいけないのだと思いこませようとした。
そうでなければ、彼の人柄の良さに甘えてしまいそうになる雰囲気を凛は持っている。
歳がたった一つ違うだけなんて、どちらが年上でも年下でもいいように思えた。
それに一般常識のような知識的なものは凛のほうがずっと詳しいし、悔しいなどと思う前に尊敬の眼差しが浮かんでしまう。
『惹かれる』という言葉は、こんな時に使われるのかと思うくらいに、凛の隣は心地よかった。

店内が趣を変えると、一葉の勤務時間も終了のようだった。
「ごゆっくり」と挨拶をされて一葉の姿が見えなくなると、全く知らない店に来た気分になる。
バーなどという店よりも、大衆居酒屋のほうが馴染みのある虎太郎だった。
「凛さん、こういうお店、慣れてそうだよね」
「その『凛さん』っていうのどうにかならない?あくまでも俺の方が年下なんだし」
「でもなんか…」
「俺が図々しいことを言ってるんだよね。でもこういうところでそう呼ばれると寛げないっていうか…」
凛が自己主張しているようにも聞こえるが、裏を返せば虎太郎の真意を汲み取っているのだろう。
どことなく気を使っている虎太郎の戸惑いを全て取り払ってしまおうという配慮。
そうやってさりげなく自然体へと持って行かせようとする術は見習いたいくらいだ。
『寛げない』と言われるのは虎太郎だって本意ではない。
「図々しくないよ。有り難いっていうか…」
「変な壁、ない方がいいでしょ」
虎太郎の考えと自分の考えが同じものなのだと言いたげに、凛はニコリと笑う。
実際の繋がりは、恵亮と営業所であって、自分は関係ないのだと言われているようで虎太郎の心も軽くなる。
「凛…くん…?」
戸惑いがちに呼び名を変えれば、「凛でいい」と最早返された。
「えーっと、でもそれはさー…」
「分かった。譲るよ。虎太郎君って呼んでもいい?」
交換条件を拒否できるはずもなく…、いや、そんな押しつけがましいものではなく、凛が心の底から虎太郎を受け入れてくれているのが伝わってくる。
嫌味とか、命令とかで相手をねじ伏せる態度とは明らかに違って、近寄ってくる親しさだ。
凛に呼ばれる何にもむず痒さは感じるが、自分が呼べない以上反論もできない。
「うん、俺は何でもいい」
年齢を知らなかったらきっと年上だと思ってしまう。
見た目はともかく、気の回し方と話題の豊富さ、全てを覆う態度。
ふんわりと包んでくれる仕草。
ただ、心に唯一引っかかっている、『特別』な相手…。
自分が同じ立場になることはないのだと、思うことで、必要以上に寄り添いたくなる精神を押し留めることができた。
それを残念だと思ってしまう自分はどこかおかしくなってしまったのだろうか。
揺らめくグラスの液体が、自分の心みたいだ。
初めて会ったと言えるくらいの人に何を求めるのか…。
こんな心地よさを、虎太郎は知らなかった。
知ってしまえば溺れたくなる。
都会の中で、趣味と仕事だけに生きた日々に加えられるスパイス。
たとえ、『友人』という枠に収まることができたとしても、こんな夜がすごせたらいいのに、と、願わずにいられなかった。

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大変遅くなりました~。
朝から村の調子も悪くて記事UPできずにいました。
目指せ10話でいますが、どうなることやら…。

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Door of fate 7
2011-03-22-Tue  CATEGORY: Door of fate
どれくらいの酒量を口にしたのだろうか。
決して酒に弱いとは思っていなかったが、バーテンダーの手管によって自在に作られるカクテル類はのど越しが良かった。
他愛のない会話。だけど、くすぐられるものは多くて、突き進んで聞いても嫌な顔一つされない。
少しずつ知れる凛の姿にまた引き寄せられる。
ますます近付いてきた存在に、意識を向けてはいけないと押さえていた感情が再び沸き起こった。
頬杖をつきながら、見た先には優しい笑みを浮かべた姿がある。
「大丈夫?飲ませ過ぎちゃった?」
「へーき。…この前、待ち合わせてたっていう人、恋人じゃないの?」
スラリと出てしまった言葉が失言だったと気付くまでに時間はさほどかからなかった。
ピクっと表情を強張らせた姿を認めて、静かに目を閉じる。
…何言ってんだ…俺…。
チクリと痛む心があったのも本音だった。
こんなふうに共に過ごす時間はたたの暇つぶし。
偶然の出会いの上に何を重ねようというのだろうか。

「ごめん、俺、迂闊なこと口走った…」
「別にいいけど。何と勘違いしてるのかな?」
目を閉じたのは考えた仕草だったのか…。
「勘違い?車のメンテしに来た日、迎えにきてもらったって言ってたじゃん」
「あぁ、あれ~」
ふわりと微笑む姿が呆れたように微笑んだ。
それくらい凛にとって意識していなかったことであり、逆に自分が気に止めてしまったことだったようだ…。
「同僚とちょっとね。迎えとデートは違うでしょ。というか、俺、それらしいこと言ったっけ?」
完全に虎太郎の勘違いだと言いたそうな口端がスゥと上がる。
たまには息抜きをしようと言い訳を付けた『外回り』らしかった。
どことなく後ろめたさを感じたのは社に向けられない、そのあたりのこともあったからなのか…。
あからさまに、気にしていたのか?という態度に虎太郎は何と答えていいのか分からなくなってしまった。
意識していたつもりはないが…、今となってはそう捉えられてもおかしくない…。

「虎太郎君って無垢だよね…。ってこっちこそ、失礼な発言だ…」
「別に、俺、そう言うの気にしないけど…」
寧ろ遠まわしに誤魔化されることの方を嫌う。
言いたいことがあるのならストレートに言ってくれた方が、悪口でも何でもスッキリ聞けた。
無垢…は、決して褒め言葉ではないだろう。
なのに凛が口にするとスルリと飲み込めてしまう、嬉しさに匹敵するのは何故なのか…。
他愛のない会話が続いた。
昼間話したようにプライベートに突っ込んだ会話は多くありはするものの、『恋人』という存在には全く触れない。
喉奥にひっかかる小骨を取れないまま、闇は深くなる…。
初めて知ったバーの夜は、酷く心地よく、また、隣の存在のありがたみまで知った。
一人で訪れたい場所ではなかった…。

「また一緒に過ごせたらいいな」
別れ際、ビルの外で名残惜しそうに囁かれる姿にドキンと鼓動が高鳴る。
どう、受け止めていいのだろうか。
躊躇う虎太郎の手が、そっと引かれた。
建物の間に身を滑らせた身体が、熱をもったものに掬われた。
近付いた吐息が唇の上を撫でた。
「初めて見た時から、気になってたんだ…。恵亮に感謝してる。わざとらしく同僚のこと、告げたのも、いい種まきになった?」
かぁぁぁっと頬が熱くなった。
最初から自分の気を惹かせるための行動だったなんてこれっぽっちも思わなかった。
あの場で、『待っている人間がいる』と故意的に言われなければ、意識もしなかったはずだ…。
一目惚れだと淡々と語る口調に驚愕し、マジマジと正面から視線を合わせてしまう。
「うそ…」
「うそ?こうやって会えたことだけでも偶然って言う奇跡を感じるのは俺だけなの?」
しっとりとした声が鼓膜を襲う。
近付いた唇が額と耳朶を撫でた。
日々の労働で鍛え上げられたはずの筋肉すら、凛の体格とは異なっている。
抵抗すれば撥ねつけられるはずの体なのに抱きしめられた時、力が抜けた。
『孤独』…。
趣味と仕事が一緒だった日々。
これだけで充分だと思い続けたところにやってきた情。

家族とも離れて淋しかった…。
頑張っていた日々が、『それだけじゃない』と告げてくる。
「りん…」

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昼ドラにも間に合わない~。
更新遅くなってスミマセン。なんとか毎日書けたらいいなぁぁぁの状態です。

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Door of fate 8
2011-03-23-Wed  CATEGORY: Door of fate
抱きしめられた身体が熱くなった。
アルコールを飲んだから…だけじゃない。
「りん…」
名を呼べば、その唇を塞がれた。
柔らかく、温かく、啄ばむような静かな動き…。
傷つけない心の温かみが染み透ってくる
人の肌の温もりを感じて、その心地よさに酔いが深まっていく。
触れられることは嫌じゃない。むしろ気持ちいい。
「なんで、俺…???」
空いた隙間から脳裏を横切る素朴な疑問が口をつく。
出会ってまだわずか。話をしたのだって、今日が初めてというのに、この落ち着きはなんなのだろう。
遠くの世界で出会って、巡り合ったような錯覚。
頼れる存在はじんわりと虎太郎の中に潜り込んできていた。
「理由、欲しい?」
からかうような口調が、とても一つ違いの年下とは思えない。
そこに悔しさも浮かばないのが、凛の作りだす世界なのだろうか。
「べつに…」
抗っても落ちていく世界は同じだと感じれば、無駄な抵抗もなくなる。
それどころか、嫌われたくないという思いが発生して、凛自体を受け止めたかった。
いや、受け止めてもらう方なのだろうか…。
人肌が、ただ心地よい…。

「虎太郎君、まっすぐだ。やりたいことをしてのびのび生きてる。俺にとって憧れに近いかも。どちらかというと閉塞感の中に居るような気がしていたから」
「やりたくない仕事…ってこと?」
「そうじゃない。成果が出ることでやりがいはある。でも趣味がそのまま仕事になった虎太郎君とはちょっと違うかも」
「俺、甘えてんのかな…」
「そんなんじゃないって。生き生きしているところが良いんだよ。初めて見た時から『生きてる』姿に惹かれた。理由、それじゃだめ?」
「理由なんか、そんなの…」
素直に『嬉しい』と言えば済むことなのに、拗ねる自分はやっぱり精神的に凛に敵っていない。
俯く虎太郎の顎先を凛の指が撫でる。
…この手がほしい…。

孤独の中で生きてきたとは思わない。
自分はやりたいことをずっとやり続けて来られた。
それだけで満足していたはずなのに、欲を求めたらきりがなくなる。
初めて触れた人肌は、幼いころに抱き締められて『大事』にされた感情を生みだす。
欲しいというおもちゃを与えられて機械の中で育ってきた虎太郎にとって、人の温度はまた違った優しさと安堵を刻んだ。
いつから人の温もりより、機械を求めてしまったのだろうか。
一度手にしたら抜け出せない泥沼に落ちていくような恐怖。
脅えていたのは、きっとその思いだ。
身捨てられる時の怖さを感じたくなくて、裏切らない『機械』に委ね続けた。
父も母も決して虎太郎を裏切ることなどなかったのに、いつ、『人』が怖いと思い始めてしまったのだろう。
心底落ち着ける空間は、作業とはまた違った。
「りん…」
再び呼んだ先ににこりと笑う姿が見える。
「人、としての心を失わないで。支えになれたら嬉しい」
僅かな会話の中で汲み取ってしまった凛の洞察力に感心しないわけがない。
委ねる心と体…。
『顧客』という必ず身元が分かる存在だから余計に安心するのだろうか。
そっと倒れた身体を、強い力が抱きしめてくれる。

もしかしたらずっと…、こんな時を求めていたのか…。

磯部が撒き散らす、『幸せのオーラ』をなんとなく理解できた。
憧れていたものだったのかもしれない。
そのあいだに存在する一葉の姿も…。
『役立たず』と散々に磯部は口にしたけれど、偶然にしろ故意にしろ、彼からもたされる『出会い』は侮ることなどできない。
彼がいてくれるからこそ、繋がる人々。

「今日出会えてよかった…、好きだよ、虎太郎…」
完全に主導権を握った男の声を、打ち寄せる波のようにただ受け止める。
回りくどくなく刻んでくる術は彼なりの手法なのだろうか。
塞がれる唇は、嬉しさを宿す。
絡め取られてジンと身体が熱くなる。
「りん…」
返した言葉が、受け止めた証拠だと感づかれる。

…欲しい。この手と温もり…。ゆるぎない想い…。

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毎日お待たせしております―。
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Door of fate 9
2011-03-24-Thu  CATEGORY: Door of fate
ビルの陰に隠れた二人は、通り過ぎる人の声にハッとさせられる。
重なった唇は次第に深いものへと変わり、互いの熱と求めているものを感じさせた。
真綿のような温かさに酔い、およぶ行為に浸っていたから、まともに正面から顔を合わせて、一気に照れくさくなる。
微かに届く街頭のあかりなのに、自分が真っ赤になっているような気がして、足元に視線を落とした。
「ごめん。がっつき過ぎだな、俺…」
吐息に混じって後悔の声が耳元を掠めた。
溺れていくのは虎太郎のほうなのに、決して咎めることなく己の責任と捉える心遣いには、ただ頭が下がるだけだ。
同じくらいの年月を生きてきているのに余裕の違いは、人付き合いの少なかった虎太郎と明らかに違う点なのだろう。
小さく首を振って、凛だけが責められることはないと訴えると、笑った顔が見えた。
「ありがとう。嬉しすぎてどうかしたみたい。いっぱい虎太郎君と話せたし、知ることができたから。どんな口実作って再来店しようか考えてたんだけど」
凛とは直接的な繋がりがない。
口実を考えるとすれば、弟である恵亮の車を使うくらいだろうが、メンテナンスだって頻繁にしなければならないほど乗りまわしてもいないだろう。
そこまでして会いたかった思いとは…。
『偶然』という運命を強く感じる。
凛が言うように『理由』なんてどうでもいいのかもしれない。
心地よい空間、それを知ることができた今に感謝の気持ちが生まれた。

抱きしめてくれる腕の強さは変わらない。
幾度も名残惜しそうに凛の唇が瞼の上や頬を掠める。

…もっと知りたい…、もっと感じたい…

身体の奥から生まれてくる欲求は大きくなっていくばかりで、たぶんきっと、凛も同じことを感じているのではないかと、自惚れた感情が湧いた。
人に大事にされる、ということが、こんなに熱を持つものだったとは…。
凛の背中に回した手が離れたくないという思いを伝えた。
「虎太…?」
人に見られない空間を虎太郎は一つしか思い浮かべられなかった。
「うち…、近いから…」
何を意味するのか、凛はすぐに察してくれる。
まるで自分から誘うような台詞に、直後、益々赤くなったのだが、凛は気にした風もなく、虎太郎の手を取って通りに出た。
つかまえたタクシーになだれ込み、僅か車で5分という距離を進む。
決して広くはない1DKの部屋は、贅沢な育ちの凛に見せるにはあまりにもお粗末だと思ったが、必要以上に物がない部屋を「整理されている」と褒めてくれる。
積み上げられている本は車関係の雑誌ばかりだし、かつて受けた試験の本も片付けられないままで放置されていた。
「本当に好きなんだね、こういうの」
呆れているのか感心されているのか、さっと視線を流しはしたが、凛のまっすぐな目が虎太郎に向いてくる。
部屋の真ん中にあるテーブルの前に凛を座らせて、何か酔い覚ましになるような飲み物を…と冷蔵庫に向かう虎太郎の腕が引かれた。
「いいからここにいて…。もっと虎太郎君を感じたい…」
ストレートな物言いは、回りくどくなくていい。
直接染み込んでくる感情が人の温もりを教えてくれる。
思うことは同じであるように、求められては答える肌があった。
抱きしめられて、口付けられて、熱を孕んだ身体が乾きを訴えて潤してくれるようにと強請り始める。

「りん…」
「こーた…」
組み敷かれた腕の中で、何の邪魔もない時を二人は噛みしめた。

…待っていた…と、きっと二人が思った。
凛はどう推し進めようかと画策し、虎太郎は縋れる世界を夢見ていたはずだ。
『心地いい』…
何度この言葉を口にすればいいのだろう。
出会えてよかった、と改めて感じる。
人の温もりを教えてくれたこの腕を、失いたくないと、虎太郎はしがみついた。
「いつか一緒に、車中泊、しよ…」
誘われる言葉は未来を想像させる。
この先を共に生きていく言葉…。

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次回こそは最終回を…。
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Door of fate 10(最終話)
2011-03-25-Fri  CATEGORY: Door of fate
R18 微妙に性描写が含まれます。閲覧にはご注意ください。

決して広いとは言えない部屋の中、嫌でも寝具は見える。
朝(昼?)出るときは、人を伴って帰宅するなどとは想像もしていなかった。
みっともなく乱れたままの布団は虎太郎の羞恥心に余計火を付けた。
シーツも洗っていなければ干してもいない。
そこに行こうとする凛の手を押し留めてしまう。
「どうして?」
先の行為に進みたい凛の気持ちも、興奮する自分の意思も分かるが、全てを曝け出すような躊躇いを今更ながらに感じた。
「だって匂うかも…」
「こーたのでしょ?他の誰かと寝た後、とか言う?」
「そんなわけなっ…っ」
「じゃあいいじゃない」
あり得ないことを口にされ、咄嗟に否定すれば、凛はそれすら喜々として受け止めたようだった。
逆らいようがない…。
「いい子だから」
「俺の方が年上なんですけど…」
組み敷かれた腕の下で微かな反抗心が漏れる。
完全にリードを奪われて、だけどそんな態度も嫌味ではなく心地よく感じてしまうのだから…。
『兄』という立場は自分とは全く異なっているようだった。

啄ばむ口付けの下で、動く手は器用に服を脱がしにかかっていた。
恥ずかしさと甘えたい感情を、凛は一身に受けてくれる。
人の温かさに益々酔いしれる。
虎太郎が何を望むのか、察してくれる洞察力にはただ感心するばかりだ。

「こーた、綺麗な身体してるね」
日々動きまわり衰えることのない筋肉を目の前にして、胸から腹へと掌を這わせた凛がうっとりとしたように溜め息を吐いた。
無駄なぜい肉はない方だと自分でも時々思うことはある。
「そ、んなっ、見んなって」
「あぁ、ごめん、俺も脱ぐからちょっと待ってて」
あまりにもあっさりと衣類を剥いだ凛の身体は、想像していたものよりずっと筋肉質だった。
長身の体に比例したようなイチモツまで見せられると、凛の中に恥ずかしさはないのか、と虎太郎の方が慌てる。
「なーなーなーっ」
「なに?どうしたの?」
「ムカつく、その落ちつき…っ」
「やっぱ、こーた、無垢だ」
年甲斐もなく、経験値の少なさを改めて露呈したようで、顔が火照った。
今更隠すこともできないくらい、機械に溺れてきた体なのだから否定のしようもない。

耳朶に寄せられる唇や、肌の上を這いまわる掌、触れてくる全てが官能の波を呼び起こす。
舐められてさすられて、息が乱れて…。
感じまくる肌が恥ずかしいのに、気持ち良さのほうが勝っていく。
肌を触れ合わせることは、こんな快感をもたらすのか…。
「りん…凛…」
漏れる呼び名を唇で受け止められ、硬く閉じた孔を突かれる。
「はぁぁ…」
充分に昂られた身体は、次から次へと襲ってくる快感に翻弄されていた。
「キツいね。初めて?」
「ん…」
「嬉しいよ、俺…」
虎太郎も初めてが凛で良かったと思った。
優しさに満ち溢れた彼に全てを包んでもらえる。
裏切らない情を、凛なら惜しげもなく自分に向けてくれるだろう。
今日だけで感じたことは全てではないかもしれない。
それでもそばに居てほしいと願えるほど、人という温もりの良さを感じさせられた。
初めて惹かれたのは凛かもしれないが、惚れたのは虎太郎の方だろう。

ツーっと体をずらし、下肢に顔を埋めた凛の舌先が、小さな蕾の上を舐めとった。
「はぁぁぁ…」
初めての行為にあえかな吐息が零れ落ちた。
こんなことまでできる…、凛の愛情を感じずにはいられない。
自分の全てを差し出す代わりに凛をもらおう…。

運命の扉が今、開かれる…。


―完―

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え?!Σ( ̄□ ̄;)ここで終わり?!…的ですが…終わりです。m(__;)mm(__;)mペコペコ
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