ビルの陰に隠れた二人は、通り過ぎる人の声にハッとさせられる。
重なった唇は次第に深いものへと変わり、互いの熱と求めているものを感じさせた。
真綿のような温かさに酔い、およぶ行為に浸っていたから、まともに正面から顔を合わせて、一気に照れくさくなる。
微かに届く街頭のあかりなのに、自分が真っ赤になっているような気がして、足元に視線を落とした。
「ごめん。がっつき過ぎだな、俺…」
吐息に混じって後悔の声が耳元を掠めた。
溺れていくのは虎太郎のほうなのに、決して咎めることなく己の責任と捉える心遣いには、ただ頭が下がるだけだ。
同じくらいの年月を生きてきているのに余裕の違いは、人付き合いの少なかった虎太郎と明らかに違う点なのだろう。
小さく首を振って、凛だけが責められることはないと訴えると、笑った顔が見えた。
「ありがとう。嬉しすぎてどうかしたみたい。いっぱい虎太郎君と話せたし、知ることができたから。どんな口実作って再来店しようか考えてたんだけど」
凛とは直接的な繋がりがない。
口実を考えるとすれば、弟である恵亮の車を使うくらいだろうが、メンテナンスだって頻繁にしなければならないほど乗りまわしてもいないだろう。
そこまでして会いたかった思いとは…。
『偶然』という運命を強く感じる。
凛が言うように『理由』なんてどうでもいいのかもしれない。
心地よい空間、それを知ることができた今に感謝の気持ちが生まれた。
抱きしめてくれる腕の強さは変わらない。
幾度も名残惜しそうに凛の唇が瞼の上や頬を掠める。
…もっと知りたい…、もっと感じたい…
身体の奥から生まれてくる欲求は大きくなっていくばかりで、たぶんきっと、凛も同じことを感じているのではないかと、自惚れた感情が湧いた。
人に大事にされる、ということが、こんなに熱を持つものだったとは…。
凛の背中に回した手が離れたくないという思いを伝えた。
「虎太…?」
人に見られない空間を虎太郎は一つしか思い浮かべられなかった。
「うち…、近いから…」
何を意味するのか、凛はすぐに察してくれる。
まるで自分から誘うような台詞に、直後、益々赤くなったのだが、凛は気にした風もなく、虎太郎の手を取って通りに出た。
つかまえたタクシーになだれ込み、僅か車で5分という距離を進む。
決して広くはない1DKの部屋は、贅沢な育ちの凛に見せるにはあまりにもお粗末だと思ったが、必要以上に物がない部屋を「整理されている」と褒めてくれる。
積み上げられている本は車関係の雑誌ばかりだし、かつて受けた試験の本も片付けられないままで放置されていた。
「本当に好きなんだね、こういうの」
呆れているのか感心されているのか、さっと視線を流しはしたが、凛のまっすぐな目が虎太郎に向いてくる。
部屋の真ん中にあるテーブルの前に凛を座らせて、何か酔い覚ましになるような飲み物を…と冷蔵庫に向かう虎太郎の腕が引かれた。
「いいからここにいて…。もっと虎太郎君を感じたい…」
ストレートな物言いは、回りくどくなくていい。
直接染み込んでくる感情が人の温もりを教えてくれる。
思うことは同じであるように、求められては答える肌があった。
抱きしめられて、口付けられて、熱を孕んだ身体が乾きを訴えて潤してくれるようにと強請り始める。
「りん…」
「こーた…」
組み敷かれた腕の中で、何の邪魔もない時を二人は噛みしめた。
…待っていた…と、きっと二人が思った。
凛はどう推し進めようかと画策し、虎太郎は縋れる世界を夢見ていたはずだ。
『心地いい』…
何度この言葉を口にすればいいのだろう。
出会えてよかった、と改めて感じる。
人の温もりを教えてくれたこの腕を、失いたくないと、虎太郎はしがみついた。
「いつか一緒に、車中泊、しよ…」
誘われる言葉は未来を想像させる。
この先を共に生きていく言葉…。
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次回こそは最終回を…。
8← →10
重なった唇は次第に深いものへと変わり、互いの熱と求めているものを感じさせた。
真綿のような温かさに酔い、およぶ行為に浸っていたから、まともに正面から顔を合わせて、一気に照れくさくなる。
微かに届く街頭のあかりなのに、自分が真っ赤になっているような気がして、足元に視線を落とした。
「ごめん。がっつき過ぎだな、俺…」
吐息に混じって後悔の声が耳元を掠めた。
溺れていくのは虎太郎のほうなのに、決して咎めることなく己の責任と捉える心遣いには、ただ頭が下がるだけだ。
同じくらいの年月を生きてきているのに余裕の違いは、人付き合いの少なかった虎太郎と明らかに違う点なのだろう。
小さく首を振って、凛だけが責められることはないと訴えると、笑った顔が見えた。
「ありがとう。嬉しすぎてどうかしたみたい。いっぱい虎太郎君と話せたし、知ることができたから。どんな口実作って再来店しようか考えてたんだけど」
凛とは直接的な繋がりがない。
口実を考えるとすれば、弟である恵亮の車を使うくらいだろうが、メンテナンスだって頻繁にしなければならないほど乗りまわしてもいないだろう。
そこまでして会いたかった思いとは…。
『偶然』という運命を強く感じる。
凛が言うように『理由』なんてどうでもいいのかもしれない。
心地よい空間、それを知ることができた今に感謝の気持ちが生まれた。
抱きしめてくれる腕の強さは変わらない。
幾度も名残惜しそうに凛の唇が瞼の上や頬を掠める。
…もっと知りたい…、もっと感じたい…
身体の奥から生まれてくる欲求は大きくなっていくばかりで、たぶんきっと、凛も同じことを感じているのではないかと、自惚れた感情が湧いた。
人に大事にされる、ということが、こんなに熱を持つものだったとは…。
凛の背中に回した手が離れたくないという思いを伝えた。
「虎太…?」
人に見られない空間を虎太郎は一つしか思い浮かべられなかった。
「うち…、近いから…」
何を意味するのか、凛はすぐに察してくれる。
まるで自分から誘うような台詞に、直後、益々赤くなったのだが、凛は気にした風もなく、虎太郎の手を取って通りに出た。
つかまえたタクシーになだれ込み、僅か車で5分という距離を進む。
決して広くはない1DKの部屋は、贅沢な育ちの凛に見せるにはあまりにもお粗末だと思ったが、必要以上に物がない部屋を「整理されている」と褒めてくれる。
積み上げられている本は車関係の雑誌ばかりだし、かつて受けた試験の本も片付けられないままで放置されていた。
「本当に好きなんだね、こういうの」
呆れているのか感心されているのか、さっと視線を流しはしたが、凛のまっすぐな目が虎太郎に向いてくる。
部屋の真ん中にあるテーブルの前に凛を座らせて、何か酔い覚ましになるような飲み物を…と冷蔵庫に向かう虎太郎の腕が引かれた。
「いいからここにいて…。もっと虎太郎君を感じたい…」
ストレートな物言いは、回りくどくなくていい。
直接染み込んでくる感情が人の温もりを教えてくれる。
思うことは同じであるように、求められては答える肌があった。
抱きしめられて、口付けられて、熱を孕んだ身体が乾きを訴えて潤してくれるようにと強請り始める。
「りん…」
「こーた…」
組み敷かれた腕の中で、何の邪魔もない時を二人は噛みしめた。
…待っていた…と、きっと二人が思った。
凛はどう推し進めようかと画策し、虎太郎は縋れる世界を夢見ていたはずだ。
『心地いい』…
何度この言葉を口にすればいいのだろう。
出会えてよかった、と改めて感じる。
人の温もりを教えてくれたこの腕を、失いたくないと、虎太郎はしがみついた。
「いつか一緒に、車中泊、しよ…」
誘われる言葉は未来を想像させる。
この先を共に生きていく言葉…。
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次回こそは最終回を…。
8← →10
s様
コメントレス、大変遅くなってスミマセン。
>稟さんって、さりげなく?策士ですね。テンポがはやそうでとても楽しみです。(余談で、どうでも良いことですが、第5話の冒頭では”花園稟(はなぞのりん)”だったのに、次から”凛”になってるよ~!。たぶん…(^^ゞ。間違っていたらごめんなさいm(__)m。 )
策士です。ずいずいと進めていくとんでもないやつ…。
名前~っ!!!すみませんm(__)mペコペコ。
指摘されるまで全く知りませんでした(どんな作者だ…)
りん凛です(゚∀゚)冷汗
いや、なんかこのあとも間違いが出てきそうだ…。
風邪大丈夫ですかー?
昼ドラに間に合ってくれると嬉しいです。
必死で書いてますが…
コメントありがとうございました。
コメントレス、大変遅くなってスミマセン。
>稟さんって、さりげなく?策士ですね。テンポがはやそうでとても楽しみです。(余談で、どうでも良いことですが、第5話の冒頭では”花園稟(はなぞのりん)”だったのに、次から”凛”になってるよ~!。たぶん…(^^ゞ。間違っていたらごめんなさいm(__)m。 )
策士です。ずいずいと進めていくとんでもないやつ…。
名前~っ!!!すみませんm(__)mペコペコ。
指摘されるまで全く知りませんでした(どんな作者だ…)
りん凛です(゚∀゚)冷汗
いや、なんかこのあとも間違いが出てきそうだ…。
風邪大丈夫ですかー?
昼ドラに間に合ってくれると嬉しいです。
必死で書いてますが…
コメントありがとうございました。
Σ(・ω・ノ)ノ!虎太がお持ち帰りですか?!(爆)
(δ(・ω・`)ウーン…多分ですが、きえさんの作品で受け君が(虎太は受けと思っている。。。)お持ち帰りってなかったような気がする。。。(笑))
虎太にそういうところがあったなんて。。。
ビックリです。
続きは甘々になる。。。んですよね?( ´艸`)ムププ
(δ(・ω・`)ウーン…多分ですが、きえさんの作品で受け君が(虎太は受けと思っている。。。)お持ち帰りってなかったような気がする。。。(笑))
虎太にそういうところがあったなんて。。。
ビックリです。
続きは甘々になる。。。んですよね?( ´艸`)ムププ
らぅら様
おはようございます。
> Σ(・ω・ノ)ノ!虎太がお持ち帰りですか?!(爆)
> (δ(・ω・`)ウーン…多分ですが、きえさんの作品で受け君が(虎太は受けと思っている。。。)お持ち帰りってなかったような気がする。。。(笑))
> 虎太にそういうところがあったなんて。。。
> ビックリです。
虎太郎は私も受けと思ってますが…。
受け君でお持ち帰り………神戸くらいかな…
意外とはっきりした性格の子ですね。
まぁ磯部にもいけしゃあしゃあと口答えするような子だし。
思いが分かれば躊躇しないんじゃないでしょうか。
(無駄な時間かけてられない、イクところは一緒だ ←オイ)
> 続きは甘々になる。。。んですよね?( ´艸`)ムププ
ハッピーエンドですから(`・ω・´)ノ
コメントありがとうございました。
おはようございます。
> Σ(・ω・ノ)ノ!虎太がお持ち帰りですか?!(爆)
> (δ(・ω・`)ウーン…多分ですが、きえさんの作品で受け君が(虎太は受けと思っている。。。)お持ち帰りってなかったような気がする。。。(笑))
> 虎太にそういうところがあったなんて。。。
> ビックリです。
虎太郎は私も受けと思ってますが…。
受け君でお持ち帰り………神戸くらいかな…
意外とはっきりした性格の子ですね。
まぁ磯部にもいけしゃあしゃあと口答えするような子だし。
思いが分かれば躊躇しないんじゃないでしょうか。
(無駄な時間かけてられない、イクところは一緒だ ←オイ)
> 続きは甘々になる。。。んですよね?( ´艸`)ムププ
ハッピーエンドですから(`・ω・´)ノ
コメントありがとうございました。
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