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ご訪問いただきありがとうございます。大人の女性向け、オリジナルのBL小説を書いています。興味のない方、18歳未満の方はご遠慮ください。
BLの丘
原色の誘惑 11
2012-08-22-Wed  CATEGORY: 原色の誘惑
外での食事…という場面に、飛びついてこない高畠でも湯田川でもない。
いつも三人で一緒に食事をとる光景は、どこまでも伸びていくらしい。
社員食堂は当然ながら、部外者である雄和を入れてはくれないのだから、昼食は外になるのだろう。
「どこまでもお供いたします」と冗談交じりで語ってくれた湯田川に、高畠も「姫を護る騎士団」と訳の分からないことをぬかした。
由良が守りたいもの…。その意味も含まれるのだろうか。
なんとなく気付いてしまって、だけど今更声には出せなくて、いつもどおりの雰囲気を由利は保つしかない。

休憩時間になると、誰よりも先に高畠が動きだした。
「ほーら、ユーリ、さっさと行くぞ」
「そうそう。外食って時間、ないんだからさ」
湯田川も調子に乗って、躊躇う由利の腰を上げさせた。
雄和に改めてあえることは嬉しいことでもあったけれど…。
昨日の逃げ出してしまった態度とか、告げられていた言葉を本物と捉えていいのか、戸惑いもある。
なんて、声を返したらいいのだろう…。
みんながいれば尚更…。

面白半分についてきた高畠と湯田川を一瞬白い目で睨んだ由良だったが、隣にいた雄和まで完全に無視して、「ユーリ」とにこやかな笑顔を浮かべて由利の腕に絡みついてきた。
入社してから一緒に食事をした時間など、片手で数えられるくらいだろう。
それくらい、避け合って生きてきた二人だったのだ。
はしゃぐ由良の気持ちも理解できる由利だった。
会社内でわざとらしくとられる、避けられた態度は、淋しさも生み出していたから…。
「ユーリ、オムライス、美味しいお店なんだって」
「新しくできたお店だよね。行ってみたかった」
「うん、ユーリと半分こずつしようね」
いつもの会話が自然と発される。
こんな光景は出会ったことがないと、高畠と湯田川は目を剥いた。
親しい身の内は分かっていても、ここまでとは想像できていなかった。
目の前でじゃれる同じ顔は、社内の人間に見せられるものでもない。
そして、その隙間にも入れず、悔しがる男の顔も…。

双子の違いを把握できている三人でも、そのあと見せられたやり取りには、呆れを通り越して無言になるしかなかった。
たぶん、由良は雄和を煽る為、由利を由良から離す為にわざとやっているのだろう。
そして由利は、今朝見られたキス事件でどこかネジが吹っ飛んでいる。
カフェのテーブル席で、由利を真ん中に両隣りに由良と雄和が座り、目の前に高畠と湯田川がついた。
半熟卵がふわりと乗ったオムライスは、由利はトマトソース、由良はカレーソースである。
違うものを注文するのは、それはいい…。
「ユーリ。あーんして」
雛にでも食べさせるかのように、由良は甲斐甲斐しくスプーンを運んでは、「あ、たれちゃったね」と平気で零れた口端を舌で掬った。
「あ、…ゆら…」
いつもよりずっと甘ったれた声が出ていると気付けたのは、普段からそばにいた先輩たちだからなのか…。
目の前の高畠から、またもや盛大な溜め息がもらされた。
「あのー、だからね。……ここ、どこだと思ってんだよ―っ」
単なる客席の一つなのに、それだけで注目の的になっている。
雄和も目を見開いての見学場となってしまった。
そこに平然と由良が言い返している。
「どっちが先に綺麗にできるかの違いじゃん」
どこまでも由利のことを見ていろと言うことなのだろうか。
それより、この仕掛け方のほうが凄すぎる…と絶句したのは、もちろん先輩たちだった。
というか、この恋人になるかもしれない人に、人前で同じことをしろと言っているのか…。
普通はしない状況であることを、この双子は知らないのだろうか…。

「由利、この後、少しでもいいから、時間とれる?」
ふたりの仲の良さを否定もしない、雄和からの紳士的な態度がみられて、少しホッとした。
あからさまに対抗意識を燃やされるのは抵抗もあった。
その落ち着きぶりに、由良も何かを悟った感じがある。
自分よりも意識を向けたもの…。

同年の自分より、大人の雄和に委ねられること。
ふわりと包んでくれる雰囲気を持つ雄和は、一見チャランポランに見えても、芯はしっかりしている。
そのことを由利よりも由良の方が判断出来ていたのだろうか。

食べざかりの人間はあっという間に一皿を完食した。
それは同時にこの場を去っていくことを意味していた。
30歳になった男は、心配してついてきた社員の人の良さも理解できている。
「ここは…」と会計伝票をつかもうとして、高畠にさっと押し留められた。
「馬鹿言ってんなよ。五人分どうするの。ユーリと由良の分はともかく…。勝手についてきたの、俺たちだし」
興味津々だったと言わんばかり。
そう言って、ひらりと札をテーブルの上に置いて去っていこうとした。
「あ、高畠さんっ。俺も一緒にいくっ」
追いかけた由良を「おーっ。俺たちと一緒だと、ユーリだと思われるぞ」と茶化して、「あ、じゃあ、企画室に入れるかなぁ」などとふざけた事を語っていた。
セキュリティの厳しいあの場所は、ある種の憧れの地なのかもしれないけれど。
残された由利はポツンと環境の中、隣の雄和を見上げる。
クスっと笑った雄和が由利の口元に手を伸ばしてきた。
「まだ付いている…」
触れてくる全ての仕草が、やっぱり初対面の時とは全く違った態度に見えた。

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タイトル、何が『原色』?と思っている方もいると思いますが。
『ありのまま』が一応こめられたものになります。
もともとのまま…ってことですかね。うまく伝えられませんが…。

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原色の誘惑 12
2012-08-23-Thu  CATEGORY: 原色の誘惑
僅かだけ、戸惑った空気が流れた。
それはもちろん、最初に出会った時の行為が被さってのことなのだろう。
逃げ出されてもおかしくない状況なのに由利はここに座っている。そのことは雄和を安堵させるものにもなるのかもしれない。
「コーヒー、飲む?」
食後の飲み物を促されて、うん…と頷きながら、「あ、紅茶…」と慌てた。
苦い飲み物は好きではなかった。
ここに由良がいたなら、好みを知っている由良は決して間違わないオーダーをしてくれるから、自分で注文する手間などなかった。
違いを比べたら悪いだけなのだけれど…。
生まれた時から一緒と、ついこの前出会った人間の幅はあり過ぎる。
それなのに、由良と同じような…それ以上の居心地の良さを感じる…というか、求めてしまうのは何故だろう。
また、その特別感を、責められることもなくて、余計に安堵してしまう。
「由利は紅茶の方が好きなんだ」
発言の意味を理解しては確認するように覗きこまれた。
肘をついて手の甲に顎を乗せた姿は、やっぱり抱いていた軽薄なものがない。
「うん…」
どこに焦点を当てていいのかと戸惑っては、伏せた視線の中に雄和の手が流れ込んでくる。

「ごめんな…」
一瞬何に対しての謝罪なのか分からなかった。
長くなった髪をかき上げるように指先が潜り込む。
はっきりと見えた雄和の視線は、切なそうに、だけど嬉しそうに眦を下げていた。
「電話なんかじゃなくて、ちゃんと謝りたかったんだ。今日、本荘さんに無理言ったのは俺…。『ふたりにしてやるけれど、ユーリ泣かせたらぶっ殺す』って脅されてきた」
クスクスと笑う雄和だった。
最初から仕組まれたこと。
なんとなくそんな感じはしていたのかもしれないけれど、ここでも完全に由良に甘えた形の由利だった。
由良の甘えてくる仕草が嬉しかったのもあったけれど…。
最終的には自分たちの関係と、この先に生む必要性を見せつけたのだろう。
仲の良過ぎるふたり…とは散々に言われたことだけに、いつも通りの姿を見せてしまったことを、少しだけ申し訳なく思う。
高畠たちが言ったように、行きすぎた何かがあるかもしれないとは…、重ねた肌を雄和に置き換えた時に、居た堪れなさをはっきりと感じたから…。
由良とは”普通”でも他人とは”特別”になる。

「あ…、あの時のことは…」
どれだけ憎たらしかったか…。
その本人を前にしているのに文句の一つも出てこないのが不思議でもある。
「でも、俺のことを思って酔い潰れてくれたって聞けたのは、ちょっと嬉しかったかな…。そこにいられなかったのが残念だったけれど」
もう一度親指の腹が唇の上を撫でて、その指先を雄和の唇が吸った。
間接キスをするような卑猥さが見て取れて、ゾクッと背筋が張る。
しっとりとした声は、ふたりだけの空間で聞こえる程度のもので…。
耳に唇を近付けられるたびに吐息の熱さがみぞおちへと下った。
軽薄な印象があるのに、秘められた部分には真剣なものが漂う。
それが分かるから、由利もきちんとした目線で向き合おうと思える。
「あんなんじゃなくて、ちゃんと言うよ。最初見た時から、由利に囚われていたんだ。再会できたことは、本当に奇跡とも言えるかもしれないけれど、だからこそこの出会いを無駄にしたくない。本荘さんに縋っていく姿も可愛いけれど…。本音言ったら、俺だけにしてほしいかな。絶対に可愛がってやれる自信、あるよ」
…同じにはなれない…。なれないけれど…。
人前でのチューも本当はイケナイことなのだとなんとなく分かりつつ、由良の胸に甘えていた。
たぶんどこかで由利も悟る部分があったのではないかと胸の内を過るものを感じた。

由良を、解放しなければいけないのだ…。

由利の胸を問わずに、己の気持ちをぶつけてくることで、”一方的”という手段に出てくれた雄和は、短時間のうちに由利と由良の関係性まで読み解いていたのだろう。
さらに由良から受けた指令のようなもの…。
見放されるわけではない。ただ、見守ってくれる人が…、一番近くの人が変わる…というだけのこと…。

改めてその真実を知って、由利は混み上がってくる涙が押さえられなくなっていた。
一つ踏み切れなかった由利の背を、この形で完全に由良は押したのだった。
手を伸ばしてきた雄和の指先が、はらはらと落ちていく由利の涙を掬った。
「由利。もう嫌だって思われるようなことはしないから…。俺を見て…。俺だけを見て…」
兄と切り離されるわけではない。だけどそこに込められた意味は…。

気になった存在に、雄和が正直に思いをぶつけてきたように、由利も素直に表せばいいと…。
「ゆら…っ」
淋しさの中で思わず呟いてしまった声を、優しく抱きしめてくれた腕があった。
兄弟の二人とも、全てを受け止めるから…と…。

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でも3Pはないよ~(黙れオラァ(p゚ロ゚)==p)`д)グハッ)
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原色の誘惑 13
2012-08-24-Fri  CATEGORY: 原色の誘惑
頭の中で、離れていくわけではない…と何度も言い聞かせる。
今まで由良に甘えていた内容が、雄和に変わるだけなのだと。
その違ってくる部分を、由利自身が感じ取れたことを雄和は受け止めてあやしてくれる。
心を落ち着かせるには少しの時間が必要だったけれど、そばにいてくれる人がいることで、早い回復に導いてくれる。
由利を決して一人にしなかったのは、やはり由良の配慮なのだろう。
濡れた頬を拭ってくれながら、雄和は笑みを浮かべた。
「本荘さんは由利のことが本当に好きなんだよ。でも俺も覚悟決めてるから」
「覚悟?」
「本荘さんに殺されてもいい覚悟。だから、もう由利を泣かせるようなことはしないよってこと」
由利を可愛がることには自信があるらしい。
由良と雄和では取り合う意味も違うだろうに、茶化してくれるのは、少しでも由利の気を和らげたいからだろうか。

涙を押さえた由利に、「いーこいーこ」と言うように頭を撫でてくれた。
お昼の休憩時間ももうなくなってくる。
メンテナンスという職業に、どれくらいの自由時間があるのかは疑問だったが、会社の前まで送ってくれる。
「点検は定期的に来るから。そしたらまたご飯、一緒にしよう。あ、あの連中は抜きで」
フフフと笑って見送ろうとしている。
どこまで本気なんだか…。
高畠と湯田川を邪魔もの扱いして、もちろん由良も含まれていなくて、『ふたりきり』ということを強調される。
きっと由利が安心している姿を由良に見せたい意味合いもあるのだろうが。
「うん…」
頷いて、また頭を撫でられる。
会社の前で、こんなスキンシップを図ることが、恥ずかしいと思えた。
由利の存在は、部署が違ってもそれなりに知られていたため、振り返る人間も多い。
まぁ、それを察して優越感に浸っている雄和の内情までは気付かなかったが。

「また後で連絡する」と言葉を残して、雄和は去っていった。
由利はそのまま由良に会いに向かう。
由良の隠された思いを悟れれば、やっぱり直接伝えたい気持ちが湧いてくる。
何より、ぎゅっと抱きあいたかった。
在庫管理室のデスクが並ぶ事務所におどおどとした由利が踏み込むと、まだ休憩中の雰囲気を漂わせていた社員たちが寝ぼけた表情で戸惑いを浮かべた。
「あの…由良…は…?」
一番近くにいた男に問いかけると、「へ?由良?…ってことは弟っ?!」とあからさまに驚かれた。
その態度だけで、由良がまだ戻っていないことを知る。
…ということは、あのまま高畠たちとどこかに出向いてしまったのだろうか…。
いつもであればカンだけで居場所がつかめたのに、こんなふうに迷子になったのは初めてのことだった。
たったそれだけのことに、引き離された感じがして、また涙が浮かびそうになる。
ただでさえ、潤んでいた瞳を持つ由利を見ては、問われた社員のほうが焦りを浮かべたくらいだった。

「あ…と、本荘…は…、えーと…」
「い、いいです。僕から電話するから…」
あからさまな動揺を見せつけられては、くっつくことのなかったふたりの存在に、今朝の噂といい、社員のみんなが興味を向けているのが分かる。
自然と寄り添ってしまう人間、これまで故意的に避けられたのは、全ては甘える由利を一人立ちさせようとした由良の策でもあったのか…。

由利が携帯電話を取り出した時、いいタイミングで由良が戻ってきた。
「ユーリ?」
少し驚いた顔で、慌てて近寄ってくる。
「あ、由良…」
顔を見ただけでホッとしてしまうのだからまだ依存度は高いのだろう。
事務室の前、廊下で突然始まってしまったやりとりに、寝ぼけていた連中の脳が一斉に動き出した感があった。
凝視…とはまさにこのことだろう。
「どうしたの?高畠さんたち、もう戻ったよ」
「うん…」
由利のはっきりしない態度、由良はすぐさま感づいてくれる。
雄和に預けた心があることも…。
淋しがる気持ちも全部認めて理解して、尚も由利を支えてくれようとしてくれる。
ただそれは、”主”から”影”に変わったと判断出来た上で…。

「由良…」
縋りつきたい気持ちを無理に隠したら、「もう…」とぎゅっと腕に包んでくれた。
何を望まれているのかなんて、全部お見通しなのだ…。
この瞬間、こみ上がるものは押さえられなくなる。
「ゆらぁ…」
「言ったじゃん。俺はユーリから離れないよ。何か勘違いしている?」
優しい言葉が胸に染み込んでくる。
“いつでも戻って来い”…。
でもそれは、由良の幸せを遮るものになってしまうんだと由利は自分を奮い立たせた。
だから強がりの言葉も零れた。
「知ってる…。分かっているよ…。だから、由良も…」
“好きに生きてほしい”と、その願いは口にしなくても伝わっていく。
由利のために、ずっと耐えさせていたものがあったのかと…。
「ユーリ、好きだよ…。大好きだよ…」
由利に負担をかけないための言葉。
由良が自分の意思で由利のそばにいたのだと、どこまでも守ってくれる。
耳元で囁かれたその声は、絶対に他の人には届いていないだろう。
雰囲気だけで悟られること。
涙を零した由利に、由良は安心させるための、今日二度目のくちづけを落とした。
人前でも何も関係ない。
“ありのまま”の自分たちなのだ…。
こうして自分たちは生きてきた。

『最後だよ』…。
体を重ねた時に言われた言葉の意味をはっきりと理解できる。
離れた次の瞬間から、委ねた者はもう変わり、新しい人生を歩むように導かれていた。
何もかもを知っていた人に、感謝の気持ちを向けてあげるべきなのだろう。

「ユーリ。もう仕事の時間だよ」
離れた唇の先で囁かれる。
「うん…」
何を言葉にしなくても分かる。
背中を見送ってくれる姿。そのタイミングを、由良は間違わない。
更にどこまでも見ていてくれると、そばにいてくれる。
単純に接触するだけだと思っていた二人の雰囲気の影に、慟哭のようなものがあると何人の人間が気付けただろうか。
見た目に惑わされるもの。
当たり前だが、その日一日、事情を知らない人たちから、ありとあらゆる情報が錯綜したのは言うまでもない。

企画室は再び悩ましい情報に翻弄された。
高畠が「チュー、禁止っ」と喚き立てる。
湯田中が「新しい企画より、”本荘企画”で何か作れるんじゃないの?」と”くっついたイメージ”を早速思い浮かべていた。
でも…”二色ボールペン”とかもうすでに存在しているし…と、由利は新しいものがないと否定する。
文具メーカーの想像力は果てしない。

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アンケート、間もなく1000票、ありがとうございます。
8月いっぱいで由利由良を終わらせたいと思います(←かなり疑問形)ので、その後になにか…。
ダントツ一位みこっちゃんなので、みこっちゃんの10歳離れた兄弟話でもいいですかねぇ???
あぁ、あと、忘れていたような伊佐と津和野のセンセイコンビもありましたね。(読者様すごいです)
恋愛話になるのか??????という疑問は…さておき…(←オイ)
栗本センセは譲原一筋なんだけど、優しすぎて患者さんに言い寄られて、アッチのお手伝いもしてあげたことがあったのかないのか…(むかーしむかーし)
皆様のご意見に刺激されて、カラッポ頭は、勝手に伸びていく雑草のごとく、養分を吸い取って成長しております。

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原色の誘惑 14
2012-08-25-Sat  CATEGORY: 原色の誘惑
今まで隠していた二人の関係…とでも言うのだろうか。
自然と寄り添えなかった過去が払拭されてしまえば、割り切った気分になれたのは由利だけではなかった。
故意的に避けられてきたから興味を惹かれる対象になったのだとも、悟ることができた。
ベタベタ…するわけではないが、見慣れれば他の社員も意識を削がれていく。
つまり、周りにいる他の社員と同じ存在になっていくのだった。
何かあるごとに視線を向けられる回数も…減った気がする。

お昼休みになれば、食堂にいた由利と高畠たちに、「ユーリ」と声をかけてくる同じ顔があって、やはり由良の同僚の新庄瀬見(しんじょう せみ)がくっついてくる。
まぁ、由利にとっての高畠と湯田川のような存在だろう。
良くも悪くも由良を分かってくれている立場の先輩であった。
またこの新庄も高畠たちと同期ということで、あまり顔は見たことがなくても馴染むのは早い。
いつしか、必ず三人が揃う食堂の席だった場所は、五人が揃うことになり、見慣れれば他の人間も興味を失う、というものだろう。
そんな日々の中、時々、由利は外に出掛けていた。
出会う相手が誰であるのかは、全員が知ったことであって、もちろん止める人もいない。
ほんの短時間でも会いたがる他社の人間に、「由良が門限なんかつけるからだろー」と嫌味混じりの高畠の声がかけられる。
湯田川は「まさか、本気で守ってるのっ?!」と唖然としていた。
そこに新庄も、「本荘君は”お兄ちゃん”に従順なんだよ」と笑みを加えてくる。
兄の言うことが正しい…と教えられた意識は、なかなか抜けないらしい。

同じ顔がふたつ揃わなければ、そこにいるのが由良だと気付き始めた人間も多かった。
隣同士に並べば訳が分からなくなると言うのに、一人だけになると、なんとなく気付くものがある。
故意的になのか、伸ばしっぱなしだった由利の髪は、由良と同じくらいに切り揃えられていて、それがますます二人揃うと混乱を招いた。

待ち合わせをしているわけではないのに、自然と寄り添ってくる由利と由良で、何も言わずに「由良の分」などと由利は別の品を先に選んでいたりする。
それは由良も同じことで、先に辿り着いたものが、もう片方のオーダーまで済ませてしまっているのだ。
本当にそれが食べたかったかどうかは周りの人間には分からないが、嫌な顔をすることは決してない。
さらに平気でわけあって「あーん」とかしてくれるのだから…。
眼福ものなのか溜め息の嵐なのか…。少なくとも同テーブルは後者だった。
必ず由利と由良は隣同士に座る。由良を真ん中にして反対側には新庄だった。
前にいつものように高畠と湯田川が収まる。見慣れた光景の出来上がり。
「おまえたちの”普通”は、常識じゃ、通用しねーんだよっ」
呆れかえる高畠の言葉もどこ吹く風の態度。
「べつにいいじゃん。高畠さんも湯田川さんにしてあげればいいんだよ」
「由良、それ、キモ過ぎ…」
挙句の果てにはお互いの味を確かめるかのようにチューまで披露してくれるのだから…。
もう、そのサービスはいらない…と何人の人間が思ったことだろう。
どこで覚えたのか(←)色気をたっぷり含んで甘えていく姿の由利は、特に下半身に非常に良くない。
気付く訳もない由利は、そのあとで、躊躇うような仕草を含めながら、「あのね、由良…」と口を開いた。
言いづらいことがあるのだな、というのは、誰もが分かる態度である。
「あのね、あのね…」
黙ってその姿を見つめる人がいるのに、一つの溜め息をついただけで、由良は由利の頭を撫でていた。
「うん、いいよ」
全く会話が見えない…のは、いつものことなのだろうか…。
ふたりだけで会話をされている。
“知りたい”…。でもそこに踏み込んでしまっていいのだろうかという、躊躇いも確かにある。
いつでも何でも分かってくれる由良に、由利はまだまだ甘えていた。
周りなんてどうでもよかったのだ。
自然と振舞える環境が、居心地の良さを生み、余計に由利を奔放にさせているのかもしれない。

意味が通じていない新庄が、由良を覗き込む。
「なに?」
突っ込んで聞けるのは同僚という気を許した関係だからなのか…。
由良は一瞬躊躇いつつも、ニコリと笑みを浮かべては「うーん。ユーリのお泊まり?」とさり気なく現状を教えてしまった。
途端に恥ずかしがったのは由利である。
今後の予定を、一言でバラされた気分だ。
本当に、由良とはなんでもできるというのに、他人だと何故こんなに恥ずかしさが湧きあがるのだろう…。
「ゆら…」
「いいんだよ、ユーリ」
にこやかに微笑まれては、由良とのことを振り返られるようで、落ち着きが広がるのだから、これも不思議だ。
抱きしめてくれた由良の胸元に縋っては「うん…」と小さく返事をする。

「おまえら~っっっ」
「(高畠)萩生、怒るなよ。ってことは、由良は今夜一人か。飲みにでも行く?」
由利のように淋しがることはないとしても、気遣ってくれる存在は大きいだろう。
湯田川の誘いに、新庄もノってきた。
「いいね。由良はあまり出掛けること、ないからな~」
同僚としても付き合いが少なかったとは、一緒にいた人が一番良く知っている。
その影にあったのは、由利がいたから…とは誰も気付いてはいないだろう。
由良はいつも待っている人だった。
「誘われちゃった~。当然おごりだよね」
「ゆ、ゆら…」
他人に向けてはしゃぐ由良の姿も珍しい。図々しいことを平然と言ってくれる兄に、由利は戸惑うものの…。
見回した三人は、「ハイハイ」と寛容に受け止めてくれる。
由利と由良、ふたりの間に漂ったぎこちなさを、こうやって収めてくれている。
「ユーリも楽しんでおいで」
気にしなくていい、という態度に、先程まで抱えていた躊躇いがふわっと消えていった。
雄和と出掛けることの後ろめたさを払拭してくれる。
お互い一緒にいなくても、楽しめる空間がある…というのであれば、由利の心も軽くなった。
「ありがと…」
やっぱり抱き合ったふたりに、もう返す言葉などあるはずがない…。

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うちのパソコンも調子が悪くなっちゃったよ~っ.・゜゜・(/□\*)・゜゜・
外部記憶のデータを読み込んでくれない惨事に…。
慌てて書きなおしていますが。


暇だったらあっちもいってください。別宅
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原色の誘惑 15
2012-08-26-Sun  CATEGORY: 原色の誘惑
由利と雄和が外で会っていたとはいっても一線を越えるには至っていない。
由利の中には由良に対する後ろめたさがあったし、雄和も由良の機嫌を損ねたくない感情があった。
ちょっとずつ近寄りながらも、今一歩のところで避けられてきた関係が、「大丈夫」と口にした由利の台詞にこの先が含まれてくる。
一晩を一緒に…。
別に由良の存在に脅えていたわけではない雄和だったが、依存度が確実に高い相手を敵には回せなかった。
由利自身が判断したことでようやくもぎとった…ともいえる夜の空間…かもしれない。
由利を傷つけたら、この先、決して近寄らせてなどもらえないだろう。
由利が由良を思うのと同じように、たぶんそれ以上に由良は由利を大事にしていることを、雄和は自然と感じ取れていた。

この日、仕事上がりのあと、外で一緒に食事をとった。
明日はお互いに休みで、特に用事などないと確認し合っている。
お洒落なイタリアンレストランで、今度こそ飲み過ぎないようにと、由利はワイングラスを傾ける手を緩めていた。
その後、雄和の自室に誘い込まれて、由利は少し戸惑った。
由利と由良が住む場所ほど広くないからだろうか。
1DKの部屋には、奥にベッドなのにソファ代わりとなるものが鎮座している。
手前のラグに座って雄和がいつも時を過ごすのだとは、いくつか転がっているクッションからなんとなく感じられるものがあった。
一人で使うには充分だと思われるテーブルがあって、その先にテレビやパソコン、オーディオといった機械類が並んでいる。
由利では何に利用されるのか分からないコードやこまごまとした道具も所狭しと散らかって(?)いて、雄和らしい、と思わせてくれる空間だった。
想像は働いても、実際使われる世の機械類には、全く疎い由利である。
仕事の差…なのか…。
由良と過ごす日常よりも狭いのに、そばにいられる思いが溢れて、嬉しくもなった。
由良とはどこにいても一緒にいる感覚があったが、雄和は離れるだけで不安を呼びこんでくる。
“そばにいる”という意識が全く異なっていた。
人が違うのだから当然のことなのかもしれないけれど…。
不思議と一つになれずにいた。

「由利、座っていて。紅茶でいいかな?」
飲み物を用意してくれようとする姿に、「うん…」と頷きながら、でも一人だけ座りこんでいるのも悪い気がして、由利もキッチンに立つ雄和の隣に並んだ。
由良とはいつもこうやって並んで立つのに、なんだか新鮮な感じがして胸の奥がくすぐったくなる。
同じことを一緒にする…。それだけなのに…。
五歳の歳の差にうろたえてもいいはずなのに、仕事からの繋がりがどこか奔放にさせてくれるのだろうか。
それとも最初の”痴漢男”に対する印象があるのか…。
由利はかしこまったような言葉使いをすることはなかった。
それはささやかでも二人を近付けてくれる感覚がある。
もちろんそのことを雄和は嫌がっていない。微笑んで受け止めてくれる。

「アールグレイなんてあるんだ…」
ティーパックではなく、きちんとした茶葉があったことに由利は驚かされた。
茶葉の入った小さな瓶を手にしながら、電気ケトルに水を入れて湯を沸かす雄和を見上げた。
ふわっと笑みを浮かべた雄和は、「由利が紅茶が好きって言ったから、少しだけお勉強しました」と誤魔化してくる。
少しでも由利の好みに近づこうとしてくれる姿勢には、ますます惹かれていくものがある。
曖昧にしない態度はまっすぐに向かってきてくれることを表していて、由利の不安を払拭してくれるものにもなった。
自分のそばにいてくれるのだと…。

「雄和さんは…?」
「コーヒーにする。濃いやつ。少し頭、スッキリさせないと、何、しでかすかわからないから」
それは痴漢行為の続きか…。
言いながらも、横に並んだ由利の腰をつかまえていた。
密着した体はスッと影を作り、覆いかぶさるようにくちづけが降ってきた。
最初は優しく触れる程度で…。やがて舌が差し込まれて、逃げられないようにと顎を手のひらが覆った。
キスは由良と何度もしたのに、それとは全く違う雄の匂いがする。
返す舌は絡め取られ、上顎をくすぐられ、いつの間にか激しい動きに、グンと腰にきた由利は、立っているのが辛くなって膝を落としそうになった。
両手で必死に雄和の腕を掴んで縋りついた。
その瞬間を雄和は見抜いてしっかりと抱きとめてくれた。
同じ時間に、湯が湧いた音を立てる。

「紅茶を飲むより、由利のを飲む方が先かも…」
首を傾げる間もなく、またくちづけが降ってくる。
片腕はしっかりと腰を支えてくれているけれど、もう片方の手は項から首筋をたどり、シャツのボタンを外して胸の蕾を撫でた。
「は…っふ…っ」
唇の隙間から声を漏らす。
いつ崩れ落ちてもおかしくない体は、支えを求めるように両腕が雄和の首に伸びた。
より密着する体は、沸騰したお湯よりもずっと熱いかもしれない。
「由利…」
「あ…、雄和…」
堪えることを知らない由利の体は、本能のまま動こうとした。
その積極さにおどろかされたのは雄和のほうだったか…。
「由利…?」
一声で、浅ましい姿を見せたと、後悔が襲う。
慌てて体を離そうとしたが、すでに囲われた体は自由にはならなかった。
羞恥で、それだけで体中が沸点に達していく。
「や…っ」
捩った体がよりつかまえられて雄和の熱を浴びた。
「由利、可愛い…」
耳元で囁かれた声がジンと鼓膜から背筋を辿って下半身に響く。
生まれたまま、本能のまま、そのままの姿を向けてくれる誘惑に、雄和は何の文句もなく喜んだ。

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