外での食事…という場面に、飛びついてこない高畠でも湯田川でもない。
いつも三人で一緒に食事をとる光景は、どこまでも伸びていくらしい。
社員食堂は当然ながら、部外者である雄和を入れてはくれないのだから、昼食は外になるのだろう。
「どこまでもお供いたします」と冗談交じりで語ってくれた湯田川に、高畠も「姫を護る騎士団」と訳の分からないことをぬかした。
由良が守りたいもの…。その意味も含まれるのだろうか。
なんとなく気付いてしまって、だけど今更声には出せなくて、いつもどおりの雰囲気を由利は保つしかない。
休憩時間になると、誰よりも先に高畠が動きだした。
「ほーら、ユーリ、さっさと行くぞ」
「そうそう。外食って時間、ないんだからさ」
湯田川も調子に乗って、躊躇う由利の腰を上げさせた。
雄和に改めてあえることは嬉しいことでもあったけれど…。
昨日の逃げ出してしまった態度とか、告げられていた言葉を本物と捉えていいのか、戸惑いもある。
なんて、声を返したらいいのだろう…。
みんながいれば尚更…。
面白半分についてきた高畠と湯田川を一瞬白い目で睨んだ由良だったが、隣にいた雄和まで完全に無視して、「ユーリ」とにこやかな笑顔を浮かべて由利の腕に絡みついてきた。
入社してから一緒に食事をした時間など、片手で数えられるくらいだろう。
それくらい、避け合って生きてきた二人だったのだ。
はしゃぐ由良の気持ちも理解できる由利だった。
会社内でわざとらしくとられる、避けられた態度は、淋しさも生み出していたから…。
「ユーリ、オムライス、美味しいお店なんだって」
「新しくできたお店だよね。行ってみたかった」
「うん、ユーリと半分こずつしようね」
いつもの会話が自然と発される。
こんな光景は出会ったことがないと、高畠と湯田川は目を剥いた。
親しい身の内は分かっていても、ここまでとは想像できていなかった。
目の前でじゃれる同じ顔は、社内の人間に見せられるものでもない。
そして、その隙間にも入れず、悔しがる男の顔も…。
双子の違いを把握できている三人でも、そのあと見せられたやり取りには、呆れを通り越して無言になるしかなかった。
たぶん、由良は雄和を煽る為、由利を由良から離す為にわざとやっているのだろう。
そして由利は、今朝見られたキス事件でどこかネジが吹っ飛んでいる。
カフェのテーブル席で、由利を真ん中に両隣りに由良と雄和が座り、目の前に高畠と湯田川がついた。
半熟卵がふわりと乗ったオムライスは、由利はトマトソース、由良はカレーソースである。
違うものを注文するのは、それはいい…。
「ユーリ。あーんして」
雛にでも食べさせるかのように、由良は甲斐甲斐しくスプーンを運んでは、「あ、たれちゃったね」と平気で零れた口端を舌で掬った。
「あ、…ゆら…」
いつもよりずっと甘ったれた声が出ていると気付けたのは、普段からそばにいた先輩たちだからなのか…。
目の前の高畠から、またもや盛大な溜め息がもらされた。
「あのー、だからね。……ここ、どこだと思ってんだよ―っ」
単なる客席の一つなのに、それだけで注目の的になっている。
雄和も目を見開いての見学場となってしまった。
そこに平然と由良が言い返している。
「どっちが先に綺麗にできるかの違いじゃん」
どこまでも由利のことを見ていろと言うことなのだろうか。
それより、この仕掛け方のほうが凄すぎる…と絶句したのは、もちろん先輩たちだった。
というか、この恋人になるかもしれない人に、人前で同じことをしろと言っているのか…。
普通はしない状況であることを、この双子は知らないのだろうか…。
「由利、この後、少しでもいいから、時間とれる?」
ふたりの仲の良さを否定もしない、雄和からの紳士的な態度がみられて、少しホッとした。
あからさまに対抗意識を燃やされるのは抵抗もあった。
その落ち着きぶりに、由良も何かを悟った感じがある。
自分よりも意識を向けたもの…。
同年の自分より、大人の雄和に委ねられること。
ふわりと包んでくれる雰囲気を持つ雄和は、一見チャランポランに見えても、芯はしっかりしている。
そのことを由利よりも由良の方が判断出来ていたのだろうか。
食べざかりの人間はあっという間に一皿を完食した。
それは同時にこの場を去っていくことを意味していた。
30歳になった男は、心配してついてきた社員の人の良さも理解できている。
「ここは…」と会計伝票をつかもうとして、高畠にさっと押し留められた。
「馬鹿言ってんなよ。五人分どうするの。ユーリと由良の分はともかく…。勝手についてきたの、俺たちだし」
興味津々だったと言わんばかり。
そう言って、ひらりと札をテーブルの上に置いて去っていこうとした。
「あ、高畠さんっ。俺も一緒にいくっ」
追いかけた由良を「おーっ。俺たちと一緒だと、ユーリだと思われるぞ」と茶化して、「あ、じゃあ、企画室に入れるかなぁ」などとふざけた事を語っていた。
セキュリティの厳しいあの場所は、ある種の憧れの地なのかもしれないけれど。
残された由利はポツンと環境の中、隣の雄和を見上げる。
クスっと笑った雄和が由利の口元に手を伸ばしてきた。
「まだ付いている…」
触れてくる全ての仕草が、やっぱり初対面の時とは全く違った態度に見えた。
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タイトル、何が『原色』?と思っている方もいると思いますが。
『ありのまま』が一応こめられたものになります。
もともとのまま…ってことですかね。うまく伝えられませんが…。
いつも三人で一緒に食事をとる光景は、どこまでも伸びていくらしい。
社員食堂は当然ながら、部外者である雄和を入れてはくれないのだから、昼食は外になるのだろう。
「どこまでもお供いたします」と冗談交じりで語ってくれた湯田川に、高畠も「姫を護る騎士団」と訳の分からないことをぬかした。
由良が守りたいもの…。その意味も含まれるのだろうか。
なんとなく気付いてしまって、だけど今更声には出せなくて、いつもどおりの雰囲気を由利は保つしかない。
休憩時間になると、誰よりも先に高畠が動きだした。
「ほーら、ユーリ、さっさと行くぞ」
「そうそう。外食って時間、ないんだからさ」
湯田川も調子に乗って、躊躇う由利の腰を上げさせた。
雄和に改めてあえることは嬉しいことでもあったけれど…。
昨日の逃げ出してしまった態度とか、告げられていた言葉を本物と捉えていいのか、戸惑いもある。
なんて、声を返したらいいのだろう…。
みんながいれば尚更…。
面白半分についてきた高畠と湯田川を一瞬白い目で睨んだ由良だったが、隣にいた雄和まで完全に無視して、「ユーリ」とにこやかな笑顔を浮かべて由利の腕に絡みついてきた。
入社してから一緒に食事をした時間など、片手で数えられるくらいだろう。
それくらい、避け合って生きてきた二人だったのだ。
はしゃぐ由良の気持ちも理解できる由利だった。
会社内でわざとらしくとられる、避けられた態度は、淋しさも生み出していたから…。
「ユーリ、オムライス、美味しいお店なんだって」
「新しくできたお店だよね。行ってみたかった」
「うん、ユーリと半分こずつしようね」
いつもの会話が自然と発される。
こんな光景は出会ったことがないと、高畠と湯田川は目を剥いた。
親しい身の内は分かっていても、ここまでとは想像できていなかった。
目の前でじゃれる同じ顔は、社内の人間に見せられるものでもない。
そして、その隙間にも入れず、悔しがる男の顔も…。
双子の違いを把握できている三人でも、そのあと見せられたやり取りには、呆れを通り越して無言になるしかなかった。
たぶん、由良は雄和を煽る為、由利を由良から離す為にわざとやっているのだろう。
そして由利は、今朝見られたキス事件でどこかネジが吹っ飛んでいる。
カフェのテーブル席で、由利を真ん中に両隣りに由良と雄和が座り、目の前に高畠と湯田川がついた。
半熟卵がふわりと乗ったオムライスは、由利はトマトソース、由良はカレーソースである。
違うものを注文するのは、それはいい…。
「ユーリ。あーんして」
雛にでも食べさせるかのように、由良は甲斐甲斐しくスプーンを運んでは、「あ、たれちゃったね」と平気で零れた口端を舌で掬った。
「あ、…ゆら…」
いつもよりずっと甘ったれた声が出ていると気付けたのは、普段からそばにいた先輩たちだからなのか…。
目の前の高畠から、またもや盛大な溜め息がもらされた。
「あのー、だからね。……ここ、どこだと思ってんだよ―っ」
単なる客席の一つなのに、それだけで注目の的になっている。
雄和も目を見開いての見学場となってしまった。
そこに平然と由良が言い返している。
「どっちが先に綺麗にできるかの違いじゃん」
どこまでも由利のことを見ていろと言うことなのだろうか。
それより、この仕掛け方のほうが凄すぎる…と絶句したのは、もちろん先輩たちだった。
というか、この恋人になるかもしれない人に、人前で同じことをしろと言っているのか…。
普通はしない状況であることを、この双子は知らないのだろうか…。
「由利、この後、少しでもいいから、時間とれる?」
ふたりの仲の良さを否定もしない、雄和からの紳士的な態度がみられて、少しホッとした。
あからさまに対抗意識を燃やされるのは抵抗もあった。
その落ち着きぶりに、由良も何かを悟った感じがある。
自分よりも意識を向けたもの…。
同年の自分より、大人の雄和に委ねられること。
ふわりと包んでくれる雰囲気を持つ雄和は、一見チャランポランに見えても、芯はしっかりしている。
そのことを由利よりも由良の方が判断出来ていたのだろうか。
食べざかりの人間はあっという間に一皿を完食した。
それは同時にこの場を去っていくことを意味していた。
30歳になった男は、心配してついてきた社員の人の良さも理解できている。
「ここは…」と会計伝票をつかもうとして、高畠にさっと押し留められた。
「馬鹿言ってんなよ。五人分どうするの。ユーリと由良の分はともかく…。勝手についてきたの、俺たちだし」
興味津々だったと言わんばかり。
そう言って、ひらりと札をテーブルの上に置いて去っていこうとした。
「あ、高畠さんっ。俺も一緒にいくっ」
追いかけた由良を「おーっ。俺たちと一緒だと、ユーリだと思われるぞ」と茶化して、「あ、じゃあ、企画室に入れるかなぁ」などとふざけた事を語っていた。
セキュリティの厳しいあの場所は、ある種の憧れの地なのかもしれないけれど。
残された由利はポツンと環境の中、隣の雄和を見上げる。
クスっと笑った雄和が由利の口元に手を伸ばしてきた。
「まだ付いている…」
触れてくる全ての仕草が、やっぱり初対面の時とは全く違った態度に見えた。
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タイトル、何が『原色』?と思っている方もいると思いますが。
『ありのまま』が一応こめられたものになります。
もともとのまま…ってことですかね。うまく伝えられませんが…。
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由良が どんなに雄和を煽っても 乗って来ない大人な態度に感心する!
由良も これで本当に 由利を委ねられると安心したでしょうね。
それに 由利には どんな感じで接すればいいか、分かったようですし♪
雄和は、甘えん坊さんな由利を きっと可愛がって(色んな意味で←エッ! )くれるだろうなぁ~
タイトルの「原色」は、そんな意味が込められていたんですね!
素敵なタイトルです♪(*⌒ー⌒*)...byebye☆
由良も これで本当に 由利を委ねられると安心したでしょうね。
それに 由利には どんな感じで接すればいいか、分かったようですし♪
雄和は、甘えん坊さんな由利を きっと可愛がって(色んな意味で←エッ! )くれるだろうなぁ~
タイトルの「原色」は、そんな意味が込められていたんですね!
素敵なタイトルです♪(*⌒ー⌒*)...byebye☆
けいったん様
こんにちは。
> 由良が どんなに雄和を煽っても 乗って来ない大人な態度に感心する!
> 由良も これで本当に 由利を委ねられると安心したでしょうね。
ムキになってこないところに由良も安心したのでしょう。
最初の印象が、何せ"痴漢"ですからね。
冷静な判断を下せると認められたこと。
アレは本当に一時的なことだったのだと、由良も納得したのか…。
> それに 由利には どんな感じで接すればいいか、分かったようですし♪
> 雄和は、甘えん坊さんな由利を きっと可愛がって(色んな意味で←エッ! )くれるだろうなぁ~
由良ってば、さりげなく由利の扱い方を、雄和に教えていますね。
分かってしまう、その判断力の良さに、安堵したものもあるのかしら。
雄和はどんなふうに由利を可愛がるのかしら。
そりゃ、もう甘えん坊さんだもん。
お兄ちゃんから引き離すためにも必死になるだろうね(←)
> タイトルの「原色」は、そんな意味が込められていたんですね!
> 素敵なタイトルです♪(*⌒ー⌒*)...byebye☆
タイトル付けは本当に苦労です。
仮面をかぶった人たちが、生まれたままの姿に戻っていく…。
由利由良はもちろん、雄和も最初の印象とは違って、「本当はこんなふうに接したかったんだ」と表していきます。
本音、を、原色、と表現、変えてしまいました。
ご理解いただけてうれしいです。
コメントありがとうございました。
こんにちは。
> 由良が どんなに雄和を煽っても 乗って来ない大人な態度に感心する!
> 由良も これで本当に 由利を委ねられると安心したでしょうね。
ムキになってこないところに由良も安心したのでしょう。
最初の印象が、何せ"痴漢"ですからね。
冷静な判断を下せると認められたこと。
アレは本当に一時的なことだったのだと、由良も納得したのか…。
> それに 由利には どんな感じで接すればいいか、分かったようですし♪
> 雄和は、甘えん坊さんな由利を きっと可愛がって(色んな意味で←エッ! )くれるだろうなぁ~
由良ってば、さりげなく由利の扱い方を、雄和に教えていますね。
分かってしまう、その判断力の良さに、安堵したものもあるのかしら。
雄和はどんなふうに由利を可愛がるのかしら。
そりゃ、もう甘えん坊さんだもん。
お兄ちゃんから引き離すためにも必死になるだろうね(←)
> タイトルの「原色」は、そんな意味が込められていたんですね!
> 素敵なタイトルです♪(*⌒ー⌒*)...byebye☆
タイトル付けは本当に苦労です。
仮面をかぶった人たちが、生まれたままの姿に戻っていく…。
由利由良はもちろん、雄和も最初の印象とは違って、「本当はこんなふうに接したかったんだ」と表していきます。
本音、を、原色、と表現、変えてしまいました。
ご理解いただけてうれしいです。
コメントありがとうございました。
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