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BLの丘
想―sou― 一夜物語 10
2010-06-19-Sat  CATEGORY: 『想』―sou―
神戸は『宮原』という野崎の恋人の男に興味津々だった。
まさに弾丸のように、二人のなにやらを聞いている。
それこそ恋人(バーテンダー)もそっちのけであるが、彼も聞き耳を立てているのは全員が知っている。
それに、それくらいでは嫉妬の対象にもならないのだろう。

答えに窮するのは野崎で、平気で答えるのは宮原のようだ。
話相手もいなければ自然と耳に入ってしまう会話。
驚いたことに、野崎は丁寧な言葉使いをするけれど千城よりもずっと(?)年上で、宮原は神戸と千城の一つ上だという。
姉さん女房なのか…と一葉の中でも知っている単語が飛び交った。
野崎の立場上を思うのか、神戸の口調なのか、どちらが年上なのか分からない発言ばかりだったが、すぐに気を緩めた宮原はこの店に溶け込んでいた。
たぶんもともとの性格もあるのだろう。
「こんなに素敵なお店を持っていたとはね…」
「僕のプロデュース。いいでしょ?」
「美琴さんのセンスも結構いけますよ」
「またまたぁ。自慢してくれちゃってぇ」
「ちょっ…っ(////)えいっ…っ!!!」
『美琴さん』という可愛らしい名前にも惹かれたが、見た目とは全く異なる反応も微笑ましかった。
聞いていれば飽きることはないけれど、やっぱりどこか身が縮む。

どうでもいいように英人と千城は寄り添っていたし、一人残された一葉は、何度も携帯電話を眺めていた。
あれから那智からの連絡はなく、いつまでも待たされるのなら帰りたいという思いさえ生まれた。
この店には愛が溢れまくっていて、さみしかったのだ。

そんな時、スッと注文もしていない甘い香りを漂わせるカクテルが目の前に置かれた。
バーテンダーが静かに首を倒す。
「どうせ今日は売上なんか発生しない日だから飲んで。まだ待ちそう?余計なことだけど、迎え、呼んでおく?」
以前、那智と待ち合わせて、高柳も合流して、見事に酔い潰れて、安住に抱えられて帰宅したことがある。
それをこのバーテンダーは覚えていたらしい。
かぁぁぁっと恥ずかしくなりつつも、当然のようにふるまう姿に癒された。
何も間違ったことはしていないと言われているようだ…。
そして含まれる『迎え』が愛しい人というのももう知られている。
そこには『好きな人と過ごしてほしい時間』というものも感じられた。
たぶん、先程神戸と交わしていた、『友達同士の時間』というものもからんでいる。
遠慮せずに甘えればいい、と励まされているようだった。
一葉の中で生まれている感情。なによりあいたい。
「うん、呼びます…」

先程、英人が素直に千城に甘えている姿にも影響されているのかもしれない。
愛に包まれる空間に一人放っておかれるのは辛かった。
こういった席にはまず顔を出すことのない安住だけど、たぶん、この場に安住が訪れても那智が嫌がらないのは一葉が良く知っている。
見せつける結果になったとしても、那智には待たせた罰だと言いたいくらいだ…。

携帯電話を耳にあて、短いコールのあと、すぐに安住の声が聞こえた。
「那智、まだ終わりそうにないし…」
一葉が家を出てから相当な時が経過しているのは安住も承知していた。
『ずっと一人で待っていたの?!』
「ん…。店員さんが相手してくれた…」
『すぐ行くから』
その答えがうれしかった。

家を出る前に聞いたはずなのに、凄く懐かしい気がする。
自然とほころぶ顔を見てバーテンダーも笑った。

この店には優しい匂いがする…。

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いつまで続くんだ?オイコラって感じになりました…(汗)
早めに切り上げたい。
一葉のお迎えが来るならそこで終了?!えっ?だめ?まだ続くの?この夜は…。書き続けていても大丈夫かなぁ…。
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想―sou― 一夜物語 11
2010-06-20-Sun  CATEGORY: 『想』―sou―
(カウンター着席順 奥から宮原、野崎、千城、英人、いっこあいて、一葉、です…。)

安住の到着が先か、那智が仕事から解放されるのが先か…と悩める時間はそう長くはなかった。
先に辿り着いたのは那智で、「ごめんね~」と明るい声で英人がいる反対側の一葉の隣に座った。
一葉はバーテンダーから与えられた”無料”のカクテルを半分ほど飲みほしたところだった。
「やっと来たね、那智ちゃん」
陽気な声がカウンターの中からかけられて、那智も驚いている。
まさか、人見知り激しい一葉が店員(?)とこんなに仲良くなっているとは思ってもいなかったという感じだろうか。
神戸が「お疲れ様」とおしぼりを那智に差し出した。
何事?と咄嗟に一葉を見る那智に、神戸から「一葉ちゃんとお友達になったんだ。だから那智ちゃんともお友達ね」と明るく答えられる程度で済まされる。
…安住が呼ぶ『さくらちゃん』もなんだけど、那智ちゃんっていうのもどうなの…????

奥の方に座っていた野崎が、入ってきた那智に鋭く目を止めた。
それに気付いた隣の男、宮原が眉間を寄せる。
「なに?知り合い?」
小声でも誰に向けられているものかは理解できるし、ほぼ全員の視線が宮原と那智の間を往復する。
那智の美貌故のことかと思っていれば、それも違ったようだ。

「どこかでお会いしていますよね…」
「まぁた、野崎さん、そんなナンパの常套句みたいなのつかっちゃったらだめだってぇ」
「長流っ!!」
「野崎がナンパなんかするかぁ?!」
「じゃあ千城はするの?」
「英人以外に声をかけることはない」
好き勝手に繰り広げられる会話の中、那智は一葉の隣に腰を下ろすものの、一番最初に声をかけてきた野崎を見ていた。
思い出したくても思い出せないといった感じだ。
営業という職の中で、やるせなさもあるのだろう。

「あ…、えと、…あの……、………」
困惑して声も続かない那智に、神戸が『気にしなくていい』という態度を見せた。
一葉との待ち合わせなのだし、野崎もはっきりと分からないのだから、考えることはない、と。

そしてすぐ隣(はるか、あっち)では、那智に目を向けた云々で痴話げんかが始まったし、「かわいい子だね」と呟く英人に「おまえがすべてだ」と囁き唇を寄せる光景がある。
目を点にする那智に比べて、この時ばかりはすでに馴染んでしまった一葉だった。

やっぱり『慣れ』とは恐ろしい。
すでにこの店の色に侵されていた一葉は、繰り広げられる何やらにも驚かなくなっていた。
痴話喧嘩だろうが、小競り合いだろうが、愛の囁きだろうが…、

「ね、何どうなっちゃってんの?」
一葉の隣に座った那智が、小さい声ながらかなりの疑問形で一葉に囁く。
これまでの一葉の性格を良く知る那智だからこそ、湧く疑問なのだろう。
こういった店で、店員や客と触れあえる性格ではなかったと、一葉だって思う。

「偶然がいっぱい重なっちゃったの…。安住さんに紹介してもらった篠原さんの画廊、ここの神戸さんが知ってたんだ…」
一葉も小声でカウンターの中にいる神戸に視線を投げ、事情を説明すれば、聞き耳を立てていたと言わんばかりの野崎が振り返った。
あちらで続いていた会話が不自然に途切れる。
「思い出しました。重機部に訪れていた方ですよね?」
野崎の耳とはどんな作りをしているのだろうかと思った。
そして記憶力はどれほどのものなのだろう。
頭の回転が速くて勘が鋭いとはすでに知ってはいたが、一葉たちが交わした会話の何かがきっかけで咄嗟に判断したようだ。
何よりも野崎の言葉には、『直接は会ったことがない』と含んでいた。

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コメレス全然書けずすみません。昨日ちょっと体調を崩して寝込んでいたもので…。
ストックがあって良かったです。
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想―sou― 一夜物語 12
2010-06-21-Mon  CATEGORY: 『想』―sou―
一度見た顔は忘れない、と野崎の視線は語っていた。
神戸の言葉でさりげなくそらされていた那智と野崎の間を、並んで座った客の全てが眺めている。
「重機部?」
千城が野崎に確認を取るように繰り返した。
「え…?」
那智から小さな、反芻する声が漏れるものの、これだけの会話では「わからない」という状況は変わらない。
那智の扱う職種から、なにかしらつながる部分があるのだとは一葉でも理解できたが、具体的な糸を手繰れない那智以上に、一葉が思いを巡らせても導き出せる答えはなかった。

「はい。うちの社で取引のある会社の方です。直接のご挨拶はしておりませんが、社内でお見かけいたしました」
社長と秘書のやりとりに、なにやら難しい言葉が混じってきて、神戸が眉間を寄せた。
「いくら千城や野崎さんでも、仕事の絡んだ話なら出ていってって言いたくなる。那智ちゃんもこんな遅くまで仕事に付き合いたくなから」
「あ、…いや、おれは…」
売り上げが取れる場所と分かってのところであれば時間外活動も納得の一葉だったが、神戸はその全てを拒絶した。
あくまでも、一葉との時間、と位置付けた神戸にとって、どんな事情でもこの店の中で堅苦しい空間は持たせたくない思いがひしひしと伝わってくる。
困惑する那智を、神戸が宥めるように「飲んで」とバーテンダーの作ったカクテルを差し出した。
あれほど那智を心の中で呼んですがったにも関わらず、こんな状況になってしまえば、助けるのはどちらなのだろう…と思ってしまう。

神戸に諭されても那智は「はい」とは答えられなかった。
営業として納得できないのだろう。

疑問をまとう人間がずらりとカウンターにならんでいた。
どれだけ神戸にひきとめられようと、詳しい事情を聞きたい人は多かった。
たった一人、野崎だけが理解している現実に、一番疑問を持っていたのは千城だった。
「仕事の話をするほど野暮じゃない。ただの挨拶だ。それに英人と一葉君が親しくなったのに、彼をのけものにするわけにはいかないだろう。名刺の一枚くらいあるだろう?」
そう言って那智を促した。
向けられる視線に逆らえるのは神戸くらいだ。
仕事帰りの那智が素早く名刺を取り出し差し出せば、納得したような千城の姿があったが、この場では特に興味はないような態度だった。
本気で仕事の話をする気はないらしい。

ただ、野崎から『榛名建設』と名の入った名刺を2枚(社長の分と)貰った那智はそうはいかなかった。
当然肩書きも入っている。
「うっそ…」
目を剥いて固まってしまった。
その価値は一葉では分からなかったが、「だから嫌なんだよ~」という神戸の態度を見れば、いかにすごい会社なのかと思わされる。
隣同士で並んで飲んでいては良い『仲間』ではなかったようだ。
”不思議なつながり”がまた一つ増えた。
あれほど那智を求めてあげ続けた心の叫びは、今度は那智があげる番となってしまった。

緊張でぎくしゃくしながら深々と頭を下げる那智に、神戸からキツイ一言がかかった。
「これ以上仕事のこと考えちゃだめっ!!」
今はプライベートな時間なのだ…とその言葉は伝えてきた。
那智だけでなく、カウンターに座る全員に告げられている言葉と言ってよかった。
そして激しく千城と野崎を睨んでいた。

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想―sou― 一夜物語 13
2010-06-22-Tue  CATEGORY: 『想』―sou―
今日はちょっと長めです。気合入れて読んでください。2部に分けてもよかったかな~。でも区切れない。


世の中は狭い…。狭すぎる…。
一葉の勤める画廊が神戸の知り合いなら、隣にいる『社長』は那智の会社の取引相手だそうだ。
神戸が口をすっぱく「仕事話厳禁」と言ったこともあるし、千城と野崎も言い分は分かるようでそれ以上何も言ってくることはなかった。
今後も直接会うようなことはないらしいが、会社の全てを取り仕切る社長と秘書がそばにいては緊張するなと言う方が無理だ。
よーく考えれば、英人は『社長夫人』という存在なわけで、そんな人間と『友達』になってタメ口で話をしていたと振り返った一葉も冷汗が流れた。
「一葉ってば、こんなにすごい人と平気で話してたの…?」
「だって知らなかったもん…。『社長』とは聞いてたけどさ…」
それこそ、耳元に両手をあてて囁き合う一葉と那智である。
そして帰ろうにも、まるで逃げ出すようで立ち上がることもできない状況になっていた。

そんな時、一葉が呼んでしまった安住が入ってきた。
「あ…」
声をかけようとしたが、こういう時に出遅れるのはいつも一葉である。
素早い動きで真っ先に立ち上がったのは野崎だったし、千城までもがスツールを降りれば何事かと思う。
さらに二人が丁寧に頭を下げれば、全員が黙るしかなかった。
まさか”あの”千城が恭しい態度に出るとも想像できなかった一葉は、思考能力を完全に奪われ、呆然と見つめていた。
誰に対しても横柄な『社長』だと思い込んでいた。
その光景は一葉だけでなく、その場の全員が度肝を抜かれたようだ。

「ご無沙汰をしております。先日は野崎についてのご面倒な件をお願いしてしまいまして…。お力添え、ありがとうございました」
「いえいえ。先方も早期解決という方向に、早いうちに判断を下してくださいましたから手間もかかりませんでしたよ」
安住は柔らかな口調で非常に落ち着いていた。
一葉では全く意味の分からない会話の内容だったが、立ち上がっている3人が、面識があるのは確かだった。
「今日はお一人ですか?」
「いえ、一葉が…」
安住が「おまたせ」と一葉ににっこりとした視線を送ってくれば、驚愕の眼差しが次々と届いた。
「さくらちゃん、久し振りだね。一葉から連絡をもらって来てしまったけど…。僕がいない時もあるからうちにも気軽に寄って一葉の相手をお願いね」
那智に掛けられる言葉を聞けば、一葉と那智と安住が親しい関係にあるのは誰もがすぐに理解した。
バーテンダーなど、自分が『呼んだら?』と声をかけただけに、どんな存在の人間か承知している。
那智も慣れた安住には少しだけ緊張から解放されてホッと頬を緩ませた。
安住の登場で一瞬にして立場が変わった。

一度一葉と那智に視線を向けるものの、安住はまだ立っている千城と野崎に席に戻るよう促した。
「榛名さんたちもこちらにいらしていたとは。一葉に呼ばれなければ知りませんでしたよ。もしかしてさくらちゃんはこのお店を榛名さんに紹介してもらったのかな?」
顔を向けられ那智は俄かに首を振ったが、千城たちの手前があるのか、それ以上の言葉が出て来なかった。
千城は一葉の隣のあいたスツールをさりげなく安住にすすめ、3人が共に座ったことで、話を引き継いだ。
「それが全くの偶然なんです。彼らとお会いするのも、今日が初めてでして。桜庭さんの会社と当社で取引があることも先程知ったばかりなんですよ」
「そうなんですか。そうですね。部門も違いますから榛名さんとはお会いする機会もなかったでしょうし。いえ、実はね。『金谷建機』の名を『榛名グループ』へと最初に耳にさせたのは私なんですよ」
「え?」
千城と野崎が目を見張るのを見て、安住が少しだけ困った顔をした。
「私の知人が彼の会社で働いていまして。もちろん、何かの強制をさせたわけではないですよ。『こういった会社がある』程度のお話しかさせていただいておりません。多くの業者が出入りする『榛名』の会社ですからね。選択する社は幾社にも及ぶでしょうし、最終的に双方同士で折り合いがついた結果と思っております」
千城がチラリと野崎に視線を送った。そこには無言の会話があった。
「社長も私も、一度も安住弁護士のお名前を重機部の方から伺うことがなかったとは、金谷建機様の実力と存じます。当社にとっても利益のある企業をご紹介いただきまして御礼申し上げます」
「でも良くここでさくらちゃんをわかりましたね」
「野崎が居合わせたおかげです。一度お見かけしたことがあったらしく、記憶の中に残っていたようです」
「さすが、デキる秘書殿ですね」
安住はクスクスと笑うだけだった。
一度会話が切れるのを待って、安住が飲み物を注文すれば、「仕事の話はするな」と散々言い続けていた神戸が、千城に無言の視線を送っていた。
どういった知り合いなのか聞きたがっている。
今となって、神戸は「仕事じゃない、挨拶だ」と言いたげだった。

一葉がやっと自分の順番になった…と、そっと安住の耳に顔を寄せようとすれば「なぁに?」と身体を傾けてくる。
「ここで仕事の話をすると神戸さんに怒られちゃうの…」
安住は「?」と一瞬眉根を寄せたが、すぐに神戸から「一葉ちゃんっ(////)」と声が上がれば、カウンターの中と、奥に座る二人のバーテンダーから失笑が漏れた。
小さな声で話しかけたつもりだったが筒抜けだった。
ぷぅと膨れる神戸を見てしまえば、今度は一葉が「?」だ。
安住に教えておいてあげようとしただけなのに…。
同時に店員から親しげに名前を呼ばれることが、安住には不思議だったようだ。

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(すごーく振り返ったら、那智が『榛名』の名を聞かされた時、すでに中條はこの話を手にしていて、そして取引もはじまっていましたね。『策略10』あたりから何やら書いてありますが、かなり曖昧な記述なのでふかーく読まないと見逃しそうです。…汗。千城が言う『野崎の件』って、ええ、野崎の件ですよ。夢のような吐息まで飛んでください。そして今後会話が増えていきます。誰が誰か分かるかな~?いつでも質問受け付けますからね。(ってかちゃんと書けよ…)平伏)
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想―sou― 一夜物語 14
2010-06-23-Wed  CATEGORY: 『想』―sou―
一葉が一人で待つ間のことを、安住に電話で『店員に相手をしてもらった』とすでに伝えていたことが安住の頭の中にはあったようだった。
それでもこんなに親しくなっているとは思ってもいなかったという感じだろうか。
一葉の囁いてしまった言葉に、ばつの悪そうな神戸にかわって、バーテンダーがこれまでの偶然の出会いの数々をかいつまんで安住に話して聞かせた。
「この店の雰囲気を大事にしてくれているんです。取引相手の方がいるということで緊張感を持たせたくないからと」
『榛名』と那智の立場は安住が一番良く知っている。
そしてこの店に入ってしまえば『人を癒す空間』であることを肌で感じる。
それを安住も素早く理解したようだ。

「確かにそうだね。分別はつけるものだ」
神戸の考えに安住もどこか嬉しそうな表情を浮かべた。
神戸がどれだけこの店を大切に思っているのか、それはバーテンダーを想う気持ちの表れでもあった。
それからあまりにも良くできた”偶然”の話にとても驚いていた。
並んで座る組み合わせも納得していたようだ。
たぶん、はっきりと表情には表さなかったが、野崎にも相手がいたということが一番の驚きだったらしい…。

安住が気を許してしまえば神戸が語り始めるのも早かった。
「篠原さんの画廊にお勤めと聞いてもびっくりしましたけど、まさか一葉ちゃんと千城の間にまで繋がりがあったとは…」
「世間とは何かと狭いものです」
「本当ですね」
神戸は、「これもなにかのご縁。今後もご贔屓を宜しく」としっかり営業活動に出ている。

安住が間に入ったことで、さっきまでのピリピリ感がだいぶ薄れた。
何よりも安住が親しく話す那智との会話が、この場を和ませているのだと思う。
安住のもつ温和さなのだろう。そこに神戸の明るさがプラスされる。

神戸が邪魔をしない程度に(バーテンダーに言わせれば充分口出しをしているとのことだが)興味を示してくる。
「12歳?!そんなに離れていたんですか?」
「もったいないくらいだよね」
「いえいえ。一葉ちゃんの性格を考えるとちょうどいいと思いますよ。一葉ちゃんと同じ年だっていうのに、うちのはホント生意気で」
「長流っ」
「同じ年?」
「ええ。あと英人君もね。そう、最初の話はそこから始まったんですよ」
「ということは当然さくらちゃんもだよね」
「そう。この中で一番可愛げがない」
「もうっ!余計なことは言わなくていいからってっ!」
カウンターの中でのじゃれ合いが始まってしまえば、笑いはあちこちから零れてくる。
お互い憎まれ口を叩くのを耳にしながら、一葉がまたそっと安住に耳打ちした。
「でもすごく仲がいいんだよ、あの二人。それで享利さんに電話しちゃったの…」
「一葉を一人にしてしまって悪かったと思っているよ」
静かに返ってくる声に、こんなところでそんなことを言われては一葉が真っ赤になるだけだった。

「一葉が安住さんを呼んでいるんだったら俺もヒサに声をかけておけばよかった…」
少しだけむくれたような那智が一葉を睨み見る。
このお店にはやはり、人を恋しく思わせる雰囲気がつまっているのだと再度感じた。
こんな可愛く不貞腐れられたら高柳も放っておけないだろうと思う。
「あぁ、連絡しておいたよ。さくらちゃん、お仕事が終わらなくて忙しそうだったからね。勝手に申し訳なかったけど。もうすぐ来るんじゃないかな」
安住が笑顔で那智に答えれば、途端にぱぁと那智の笑顔が浮かんだ。
英人の隣から「さすがですね、安住さん。うちの野崎よりも気が回るんじゃないですか」と声がかかってくる。
「まさか。野崎さん以上の方はいないでしょう」
「恐れ多いお言葉です」
「千城は野崎さんをもうちょっと大事にしてあげなよ。英人君まで拗ねらせてさ」
「拗ねらせたの?え?美琴さん、何しているわけ?」
「変なご想像はしないでください。ご心配されるようなことはなにもございません」
「別に拗ねてなんかいないもん…」
「英人…」

あちこちから上がる愛の囁きに慣れたはずの一葉も安住を目の前にすれば一層顔を赤らめるばかり。
何故ここの人たちはこうも平然と感情をストレートに表せるのだろう。
それらを微笑ましげに安住は見ていた。
一葉にはそっと視線を送ってくるだけで、それは那智の手前だからなのか…。
とにかく高柳が早くきてくれればいいな、と一葉は心の底から思っていた。

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セリフ、わかりますか~?

書き終わりました~!ってことで今週いっぱい。あと4日分あります。でも、もしかしたら(しなくても)追加が…。目標数を数話上回る程度で収まって良かったです。
最後まで読んで「たんないっ!!」って言う方には、途中でヒントが隠されていますので、そちらをリクエストください。
(ただし、会話集になるか、連載になるかは不明)


【甲斐様宛への私信】
鳥籠計画でちょっと思ったんですけど、一葉が美味しいコーヒーを入れられるようになったら、このバーは半喫茶店としてやっていけますかね。
採算度外視な営業時間にブーブーな日野も少しは納得するかな~。
安住は今まで以上に安心な(お見合い話も来ないし)保育所に預けられるし。
千城の組む壮大な鳥籠政策は、神戸と安住まで巻き込むのか?!
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