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BLの丘
ただそこにいて 26
2011-09-19-Mon  CATEGORY: ただそこにいて
不安がる俊輔に向けられるのは落ち着かせようとする笑顔だ。
伊佐はスッとベッドを降りて行った。
残された俊輔はこの後をどうしたらいいのかと戸惑う。なにより呆然とした意識が、何から考えていいのか分からなくなっていた。
そんな俊輔を宥めるかのように、大きな掌が髪を撫でた。何かを諭してくるような雰囲気すらある。
「障害を負った体になるんじゃないよ。体の傷はすぐにでも癒える。君が抱えているのは精神的なことなんだ。…覚えているかな。ゆうべ、すごくうなされていたこと。その人に会った時、俊くんは今までと同じように話したり手を触れたりできると思う?」
誰のことを言われているのかはすぐに理解できた。
夢だったのか現実だったのかもはっきりしなかった言動は、伊佐の台詞を持って、伊佐が故意的に吉賀になりすましたのだと知ることができた。
俊輔に触れることで極端に反応し恐怖心を宿すこと、だけどその半面で本当は誰かに縋りたい弱さを持っていることを眠りという無意識の中で簡単に引き出してしまった。
痛みを伴う何かをされた時、確実に俊輔は相手を拒絶する…。
そのことは、もう吉賀とは元通りになれないと言われているようにも感じられた。
同じように、職場でどう顔を合わせたらいいのか…。同じ環境で働けるのか…。
いや、自分の意思以前に吉賀に、すでに嫌われているのではないか…。
『手を触れる』…という台詞だけで、体がズクリと軋んだ。
伊佐が言いたいことは、この俊輔の反応のことなのだろう。
吉賀のことが好きなはずなのに、甦ってくる痛みを思い出して、今まで以上に受け入れられなくなる自分…。

「…せ、ん、せ…?」
漏れたのは疑問なのか甘えなのか、…脅えから救ってほしい願いだったのか…。
「だからやっぱり少し時間を置こう。会社のことは知名に任せればいい。すぐに戻ることは考えるな」
優しい口調でありながら、最後は完全なる命令形だった。
俊輔が勤める社内の内情など知るはずのない伊佐が自信を持って発言できるのは津和野がいるからなんだろうか。
決して二人とも俊輔の負担になるようなことはしないと、無言で伝えられているようだ。
たとえ何日休むことになっても…。それよりどちらも問題解決するまで俊輔を出社させることなどしないのだろう。

俊輔は一気に拠り所を失った気になった。
これまでは仕事一筋だった。家族を支える、働かなければ…。その意識があったからがむしゃらに頑張ってこられた。
それが今…、全て取り上げられていた。
何を支えに生きていけばいいのかが全く見えてこない。
家族の行方は確かに気になったけれど、今の今、すぐに危険な状況に陥るわけではないことは、俊輔の方が知っていたのかもしれない。
無理な追い立てがあるわけではなかったから…。
どこも1、2カ月なら充分大人しく待ってくれる。
それこそ、自身を甘やかす最終兵器のようなものだった。

これまで以上に俊輔は考える力をなくした。もうどうでもいいと、なにもかもが投げやりになった。
自分に何が残るのかと、ついこの前考えてしまった思いも再び襲ってくる。
言われるがまま働き、自分の自由も切り詰めて同世代と違う道を耐えてきた日々。
順調に動いていたバネが伸びきって使い物にならなくなった状態だ…。

「もうひと眠りする?ご飯食べる?」
伊佐はこれまでの話題を振り切るかのように、『日常』の続きを聞いてくる。
もう、どちらの気力もない…。
「寝る…」
ぽつりと呟いた声はきちんと伊佐に届いていたようだ。
「そう…。…おなか空いたら話しかけて。これ、置いていくから」
そう言いながら伊佐は枕元にアンテナの立った小型の機械を置いた。
なんだろう、と首を傾げる俊輔に、「お願いを叶えてくれる魔法の機械」と微笑まれて誤魔化される。
冗談半分に告げられることを、俊輔は大して本気に聞いていなかったのかもしれない。

伊佐が出ていった後、呆然とした俊輔は、眠るより涙を零した。
何もかもを失ってしまった気分だったのだ。
本来いるべきではない、がらんとした広い部屋。狭い寮の中では、自分の居場所がそれとなくつかめたのに、ここには何も近付けるものがない。
俊輔にしてみたら完全な『異空間』だ。

俊輔の嗚咽はしっかりと伊佐の耳に届いていた。
伊佐が置いた機械、それが離れた場所でも音が聞ける集音機だったとは、俊輔は知らなかった。

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ちょっと余談です。(別宅にもチロリと飾ったのですが、来客者数が違いすぎて意味がないと……突っ込まれた?! あっち(別宅)一日3~4名様、こっち(本宅)300~400名様近いお客様…)

J庭関係で色々と本が作られているようですが。
ある方に言われて、『淋しい夜~』を本にしてもらえないかと…。
正直、長すぎて手直しする気分にもなれていないのですが、紙媒体にしたときに読みたいという方はどれくらいいるものでしょうかね。
もしご希望者様がいるようであれば、来年くらいを目指して(延びる可能性大いにあり)いじり始めようかな~と…。
おだてられて木にでも登ろうか…な気分でいるところです。

ちなみに作っても本編(泣く声)と続編(果て)だけになりますが。
二つ合わせて20万字を越えているのでかなりの訂正が入ると思います。
本当は英人視点だけでなくあちこち視点を混ぜてみたいのですが…(そうすると受け止め方が変わるかなぁ)。
(同じものを書いて金をもらうのはどうかと思って…。というか、あとは金額もありますよね…。その、とある方は2冊になるね~とおっしゃっていましたが…。)
あくまでも本までしてほしいかの希望を聞きたいだけなのですが…。
どうやって意見を聞こうか…を悩んでおります…。
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コメント

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No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-09-19-Mon 09:25 [編集]
拍手コメP様
こんにちは。

>大賛成です。通販(携帯対応)をしていただけると。家族がありますのでJ庭に行けない…表紙もそれと分かりにくい物なら嬉しいです!

早速反応いただきましてありがとうございます。
こちらにも書籍で読まれたい方がいらっしゃったのですね。嬉しく思います♪
本にしてしまえばもちろん通販はするつもりでいますが…。
そこまでして欲しいのかな?というのが私の疑問でした。
ご意見参考にさせていただきます。
コメントありがとうございました。
No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-09-19-Mon 09:47 [編集]
拍手コメち様
こんにちは。どうやらご一緒していた模様です。

>切ないお話ですね。俊輔が吉賀に頼りたい、頼れないって気持ちが本当に切なくて。甘えて良いのに。甘えたって弱くなんかならないんだよって言ってあげたくなります。吉賀もきっと傷ついてますね。二人とも不器用さんで愛しい。けど、ちょっとイラつく(笑)

我が家定番の焦れ焦れな話しの進め方です(笑)
俊輔は家族のことを考えるより吉賀で埋め尽くされちゃう自分になるのが怖いんだと思います。
それが弱さになると思っているんでしょうね。
暴走した吉賀、今頃何を考えていることやら…。
コメントありがとうございました。
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