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BLの丘
あやつるものよ 12
2011-11-23-Wed  CATEGORY: あやつるものよ
ひょんなことから知り合った関係。この地で初めて友達になれた…。そんな喜びだ。
メールを送っては、時間を開けて返信されたり、時にすぐに返されたり…。
仕事を持っているのだから、当然のこと。相手の都合もあるのだろう。
弥富葉栗(やとみ はぐり)と名乗った男はくだらない会話にも付き合ってくれていた。
近所のことも詳しく教えてくれる。
『今度一緒に出掛けてあげるよ』という誘い文句に、車を持たない千種は甘えたい気分もあった。
岡崎に負担をかけたくないからだ。
千種より二つ年上というのだが、気安く近寄ってくる態度は客に対してともまた違っている。
年上の岡崎とも平然と会話するようになった昨今、弥富にも親近感が持てる触れ合いがあった。
そんなふうに素で対応されるのは、千種にとっても堅苦しさを持たせない、温かなものとなっていた。

「飲みに行こう」と誘われて、家に籠るばかりだった千種は心を躍らせた。
岡崎に夕食は用意しておくから、と伝えると、突然湧いた『友達』の存在に不機嫌な声が発される。
『いつの間に?千種、昼間、何しているの?』
電話の向こうで明らかに変わった声音に、ただの店員がこんなにも千種の中に入り込んでいることが信じられない様子である。
「あ…、と…。ちゃんと就職活動してるし…」
『仕事していないことを責めているんじゃないよ。相手の人は信用があるわけ?むやみにホイホイついていくのが危ないって言ってるの』
「そうだけど…」
咎められるかと思いきや、結局は千種の言い分を尊重してくれる。
『まぁ、千種が地域に馴染んでくれるのはいいことだけどね。あとでまた連絡ちょうだい』
心配はあるのだろうが、好きに放り出してくれるのも岡崎ならではというべきか…。
こうやって地元に親しんでいくことは悪いとは言われない。
自分は仕事で繋がりが持てるが、全く見知らぬ世界でひとりぼっちでいることを、岡崎なりに気にしていたようだ。
行く先々の連絡を入れることで納得してくれる。
千種が今の環境を受け入れようとしていることは岡崎にとっても嬉しい出来事であるようだった。

弥富はマンションの前まで迎えに来てくれた。
家を教えるのもどうかと思ったが、仕事先が割れている人物なので危険なことはないだろうと思う。あとは触れあった人柄の良さに信頼を置いているのもある。
自分を晒すことでこちらのことも信用してほしかったのかもしれない。
車で現れた弥富に、「飲みに行くのに車なの?」と疑問が湧いた。
「帰り、代行使えばいいし。ちょっと離れているからね」
これが地元ならではの普通のことらしい。
本当にどこまでも車社会なんだ…と改めて感心してしまう。自分が車を持っても、その手間がかかってくるのだと教えられた気分だった。
とはいえ、酔った体を家まで運んでくれるのはありがたいことであるのだろうか…。

駅近くにある繁華街の中、こじんまりとした居酒屋に入り込んだ。どこにでも駐車場があるのが、また感心できることだ。
中はこあがりの席が通路を挟んで両側に並んでいる程度の狭さである。
奥にカウンター席が幾つかあって正面に従業員の姿が見える。
こあがりの一角、六名の男が寄ったテーブルから、「はぐ~」と声がかかってくる。弥富を呼んだらしい。
てっきり二人で飲むのかと思っていたが、状況は違うようだ。
四名が座れるテーブル席はつなげられて、一つの宴会席に変えられていた。
「おぉ。お待たせ。あ、この人、千種くん。最近、こっち来たんだって」
弥富がみんなに話しかけながら千種を紹介した。
いきなりの初対面に抵抗する気持ちが湧きはするが、聞かされた連中は『転校生来ました』状態だった。そんな出入りは日常茶飯事だったことを伺わせてくる。
「あ、そうなの?俺、赤羽根(あかばね)。はぐとは小中高って腐れ縁なの」
すでに生ビールのジョッキを傾けていた短髪の男が気兼ねなく千種に話しかける。
すっかり手足を伸ばしている姿は、まるで我が家で寛いでいる気安さがあった。
隣にいた体格の良い男も「俺、葉栗さんの後輩っス」と、その場にいる人たちが、近所の幼馴染だと伝えてくる。
こうして時に集まりの場を持つとのこと。
この場、千種を口実に組まれた席なのだと知るのはほんの数分後のことだった。
一番端に弥富と正面に向かい合って座り、突然の宴会に動揺するものの、一同は全く気にした様子を見せず、すんなりと千種を受け入れてくれる。
千種の人付き合いのなさを、こんなところでカバーしてくれようとした弥富の思いやりが見えた。
後輩だと言った犬山(いぬやま)は千種と同じ年だと判明すると驚声をあげた。
「うわー。いや、安城(あんじょうちぐさ)さん、若すぎっしょ」
「田舎もんと都会もんの違いだろ」
「やべっ。俺、お洒落の仕方でも習うかな…」
「農作業の合間で、どこで色気撒くんだよ~」
軽口はさりげなくその渦の中に千種を誘いこんでくれる。現に犬山はつなぎ姿で仕事上がりであることを漂わせていた。
千種が身につけていた服のセンスは、こちらとは少々異なった感覚だったようだ。
まぁ、久し振りのお出かけに”張り切った感”はあったのだが…。

こんなふうにみんなでワイワイとする時間を失っていた。
初めて出会うのに嫌な雰囲気一つ見せず、受け入れてくれることに心の中がほんわりとしてくる。
飲んでいるアルコールも硬かった気持ちを解してくれた。
上下関係のない『友達』という輪にどんどんと馴染んでいく。
後輩と言いながら犬山の態度は周りに対して怖じけることなく、そのことも千種の心を砕いた。
「『安城さん』…って、千種でいいし…」
「あ、じゃあ俺も。天白(あまは)って呼んで」
千種の申し出に犬山も答えてくる。
畏まった呼び名をお互いに言い変えてくれと望む。その近さが実にいい。
「携番!!メアド!!ちょーだいっ。俺のこれ~」
犬山は颯爽と取り出した携帯電話を千種に押し付けた。続いて他の人間も「何かのときに」と理由をつけて教えてくれる。
人がこんなに身近になることを初めて知った気分だった。
人と人との繋がりを、改めて感じさせられた。突然のことであったのに、弥富の配慮にまた胸が熱くなるのと、この地の人の温かさがじんわりと染み渡ってくる。

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コメント

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No title
コメントけいったん | URL | 2011-11-23-Wed 10:06 [編集]
新妻も友達が欲しいよね!
ママ友~♪・・・じゃ、ないか(笑)

夫は、今頃 心配で心配で仕事が手につかないだろうけどね...
(*`艸´)ウシシシ♪...byebye☆
管理人のみ閲覧できます
コメント | | 2011-11-23-Wed 20:54 [編集]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
No title
コメント甲斐 | URL | 2011-11-23-Wed 22:24 [編集]
千種クンにいいお友達ができてよかったです
誰も知らない土地に来て、家を買い(旦那さま?が、だけど)地域で友人ができて
ここで始めた新しい暮らしがしっかり根付いてきているという感じですね

岡崎さん、なんかお父さんモードですよね
年頃の娘を持ったお父さん
知らない人について行っちゃいけないとか心配でしょうがない?
ほんとはどこにも出したくない!
箱入り娘に育てたい!
でもそれじゃいけないよなーという葛藤が聞こえてきす
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-24-Thu 07:00 [編集]
けいったん様
おはようございます。

> 新妻も友達が欲しいよね!
> ママ友~♪・・・じゃ、ないか(笑)

新しいお友達、登場~♪
井戸端会議に参加です。
きちんと○○(←なんだろう?笑)デビューできましたね。

> 夫は、今頃 心配で心配で仕事が手につかないだろうけどね...
> (*`艸´)ウシシシ♪...byebye☆

寝耳に水、で慌ててるでしょうね。
落着きはらった岡崎があたふたするのも見物かも?!
コメントありがとうございました。

Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-24-Thu 07:07 [編集]
レ様
おはようございます。お久し振りです。
いつもありがとうございます。

> お久しぶりです。いつも読んでますよ!
> なんとなくバカなコメントする雰囲気じゃなかったんで、読みに徹してました。

暗い始まりでしたからね~。
いえいえ、なんでも書きこんじゃってください。

> 知らない土地でこんなにすんなりと暖かく迎えられると嬉しいですよね。
> 根を下ろすには友達は必須です!
> 岡崎的にはヤキモキでしょうけど。

近所付き合いとか友達は大事ですよね~。
少しずつでも知らない土地になじんでいってくれたらいいです。
きっと周りの人も新しい出会いが楽しいのだと思います。
岡崎、複雑な気持ちでしょう。
でも千種のためにも踏ん張りどころ。

> ところで今回の名前は愛知県ですか?
> 気づいた報告がてらのコメでした m(__)m

はい♪
今回一気に出てきたのでお気付きの方も多いかと思います。
でも別に愛知での話じゃないですからね~。
架空のお話です(笑)
コメントありがとうございました。

Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-24-Thu 07:14 [編集]
甲斐様
おはようございます。

> 千種クンにいいお友達ができてよかったです
> 誰も知らない土地に来て、家を買い(旦那さま?が、だけど)地域で友人ができて
> ここで始めた新しい暮らしがしっかり根付いてきているという感じですね

えぇ、周りの人も良い人たちでよかったです。
こうやって徐々に地元の人たちと仲良くなってほしいです。
話し相手がいるのといないのは生活していて大きく違いますから。

> 岡崎さん、なんかお父さんモードですよね
> 年頃の娘を持ったお父さん
> 知らない人について行っちゃいけないとか心配でしょうがない?
> ほんとはどこにも出したくない!
> 箱入り娘に育てたい!
> でもそれじゃいけないよなーという葛藤が聞こえてきす

まだ慣れない知らない土地だけに心配はつきないのでしょう。
相手とも、なんてったって出会いが突然だし。
でも大胆な行動を起こす千種であるのも承知済みだしね。
そこは信用して放牧します。
コメントありがとうございました。

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