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BLの丘
あやつるものよ 13
2011-11-24-Thu  CATEGORY: あやつるものよ
「こっちさ、都会に出ていく人間も多いし。そんな奴らから戻ってきた時に希薄な暮らし具合を聞いちゃうとね…。せめてここに来た人には住みやすいって思ってもらいたいな~と…」
地域一帯の人たちが、似たような考えらしい。
だから気安く話しかけてきてくれたり、こうして自分たちの輪の中にもすんなりと入れてくれるのだろう。
人を疑ってかからない人柄がじんと心に染みた。
そのきっかけを作ってくれた弥富には頭が下がる。
千種自身、かつての暮らしでは会社と自宅の往復で終わっていたようなものだ。
近所の人の顔を知っている程度は、地域に根付いているとか馴染んでいるとは言えない。

数時間、散々に騒いでタクシーに乗せられて帰宅の途についた。
話を聞けば、この店は天白の伯父が経営しているとのことで、何かある時には利用するらしい。
「ま、俺も結構な頻度で来ているからさ。千種も暇だったら顔を出せよ。連絡くれりゃぁ、迎え行ってやるし」
ありがたい天白の誘いは、すっかり親しくなった関係となっていた。
それも申し訳ないので、次の時があるなら自力で足を運ぼうと思う。
駅前の店なのでバスもそれ相応にある。
というより、手間暇をかけさせて面倒な存在になりたくなかったのだ。
うざったいと思われたらせっかくの出会いが無になるような気がしていた。
交通機関のことを告げると、「変な気ぃ、使わなくていいから」と笑われる。

久し振りに人と会話ができてはしゃげた空間は、千種の気を良くしているものに変わりはなかった。
マンションに帰宅すると、すでに岡崎の車が停められていて、帰宅していることを知る。
一時は「迎えに行く」と言っていた岡崎だが、いつお開きになるのかも分からない席、仕事上がりの岡崎に好きなアルコールを待たせるのはあまりにも不憫で、日常の当たり前である行動を促していた。
リビングに入ると、いつもの姿、いつもの姿勢で千種を迎えた。
「おかえり」
「ただいまぁ~ぁ」
千種の悦びは前面に溢れ出ていたのだろう。
機嫌の良さにソファから身を起こした岡崎が、よろけながら寄ってくる千種の体を支え、抱えて隣に座らせた。
その様子だけで、千種が楽しんできたのだと理解できたようだ。
「随分飲んでいそうだな」
「…んー…。ここにきて一気に酔いがまわったかも…」
岡崎の顔を見て、どことなく張っていた気分が一気に緩んでいった。
「気を許されているのは嬉しいことに変わらないが…」
少々困惑気味の表情を浮かべつつも、岡崎は柔らかな笑みで千種を抱きこんでくれた。
へら~と笑う千種の髪を撫でながら、「楽しかったのか?」と聞いてくる。
千種は気付かなかったが、こちらに引っ越ししてきてから初めての本当に楽しげに笑みを浮かべる千種に、岡崎はささやかな嫉妬を隠したのだった。
それだけ、溜めこんできた何かがあるのだろうと悟ってくれていた。
岡崎を気遣う余裕は今の千種にはない。
「ん。みんないい人だった~」
「みんな?」
スーパーの店員の存在は知るが、その他大勢と言うような発言には岡崎の眉間が寄る。
「あ、葉栗さんの友達とか、その他とか~ぁ」
帰ってきて安心したからなのか、眠気を纏った千種の言い分はイマイチ的を射ていない。
だがその流れからして、二人きりでなかったのは伺えたし、別段危険もなかったのだろうと岡崎は判断することができた。
根本的にゆったりとした心構えでいてくれるこの地の人情は、勤めるだけに知れるところもある。
なにより一番岡崎の頬を緩めているのは、躊躇いもなく岡崎の胸元に体を寄せてくる姿だった。
時折気の強さを見せる千種が、こんなふうに無防備に縋りついてくるのは珍しい。
ただでさえ、こちらに来てから、千種は岡崎の負担にならないようにと構えているところがあった。
ここに着いた最初の夜、一緒に寝るのだと気にかけた千種がアルコールの飲み過ぎで奔放になったことを思い出す。
それはまさに、岡崎にしてみたら拷問にも近い無防備さだった。
さすがに酔った人間を襲うほど大人げない態度は取れないでいる。ちょっとした、見栄…だろうか…。
アルコールで内面を晒すのは胸の内を知れて良いことなのだが、とはいえ、飲ませすぎは問題だ…と岡崎の内心で思われていることなど、千種は露知らず。
心地良い眠りの世界に落ちていった。

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コメント

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No title
コメント甲斐 | URL | 2011-11-24-Thu 10:01 [編集]
岡崎さん”オオカミの群れ”じゃなかったことには安堵しながらも、気のおけない新しい友人たちとの出会いに妬いちゃいましたね
でもねぇ、好きな人とか一番いいところを見せたいと思う相手には
緊張もするし気も使いますよね、必要以上に
♪新婚さんだもん
そばにいて当たり前でいないと変だと思えるようになるにはまだまだだと思うな~

いろいろあって緊張していた千種クンにはいい環境が整いつつあるけど、だんな様の心配の種にはなりませんように…
Re: No title
コメントたつみきえ | URL | 2011-11-25-Fri 06:59 [編集]
甲斐様ま
おはようございます。

> 岡崎さん”オオカミの群れ”じゃなかったことには安堵しながらも、気のおけない新しい友人たちとの出会いに妬いちゃいましたね
> でもねぇ、好きな人とか一番いいところを見せたいと思う相手には
> 緊張もするし気も使いますよね、必要以上に
> ♪新婚さんだもん
> そばにいて当たり前でいないと変だと思えるようになるにはまだまだだと思うな~
>
> いろいろあって緊張していた千種クンにはいい環境が整いつつあるけど、だんな様の心配の種にはなりませんように…

待っている旦那さんはヤキモキとヒヤヒヤをいっぱい抱えていたようです。
でも無事帰って来たし、なおかつ甘えてくれている可愛い姿で全て許してしまいます。
いいところ、見せたいですよね~。だから寛容であろうとするのです。
自由に動き回れることと拘束、微妙ですね。
あとはお仕置きで…(←?!)
コメントありがとうございました。
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