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BLの丘
過ぎてみれば 13
2012-03-01-Thu  CATEGORY: あやつるものよ
別に西春に言われたから…ではないが。
思い出すことはありもする。
以前、同僚だった一宮にも指摘されたことは、吉良が特別に千種を可愛がっていた…という内容だった。
そんなことは気付かなかった千種だ。
吉良は誰に対しても人の良さを見せていた…と思う。端から見たら違いが分かったのか。
アパートまで来てくれて切符を渡された時ですら、深い意味など知ろうともしなかった。
まぁ、あの時は精神的に落ち込んでいたから…という言い訳をつけたにしても。
でも周りの人間は気付くのだろうか。つまり…、自分は鈍感だと言われている気分である。
「あまり深く考えなくていいよ。可愛いと思う子は世の中、たくさんいるものだし。そりゃ、懐かれてくれたら嬉しいに越したことはないけどね」
すでに西春の口調は、弟でも見るような様子に変わっている。
チャンスがあれば狙うが、見込みがなければすんなりと諦められる性格なのだろう。
『懐く』の意味も、話しやすく、親しみやすい人が職場内にいる…という意味だろうと捉えられる。
後に残るのは、気持ち良い雰囲気を継続していければいいといった感じのもの。
部署が違うので深く関わることはないだろうが、それでも色々な方面に人脈を持てるのは悪いことではない。
「はぁ…」
何と答えたらいいのかと一瞬考えてしまった千種だったが。

すんなりと切り替えてくれるところは、後に引きずらない点で本当に良い。
そして緊張が続いていた千種にとって、今更隠すものもなくなったプライベートを知られたことで、余計に気が抜ける人に変わった。
同じく、社内で自分自身を晒せる、という緊張感からも解放された気分だ。
午前中の事務所内の雑談も追い打ちをかけてくれた。
毎日気負って過ごしてきた部分が、ふっと抜けて、午後の仕事の最中、瀬戸の雰囲気も柔らかくなった気がした。
千種が張り詰めたものを纏っていたから、瀬戸も気が緩められなかったのではないか…。
これこそが、瀬戸が作り上げてきた”場所”なのだろう。
そんなことを思って終業時間を迎える。
改めて会社の良さと人の良さを知り、機嫌良く家に帰れるというのは浮くような気分だった。

家でいつものように夕食の準備をする。
瀬戸が本格的に退社してしまったら千種の帰宅も遅くなるだろう。
それでも吉良ほど遅くなるとは思えない。
今現在吉良がどれほどの仕事量を抱えているのかは知らない。一切仕事の話をしないのは気遣いだとすでに知ったことだが、過去の職場で一緒に働いていた時の状況は分かる。
「吉良に夕飯の用意しろって、無理だよなぁ~」
ぽつりと呟いた声が鍋をかきまわすキッチンに響く。
今までどんな暮らしをしていたんだ?と思わず疑問に思ってしまうくらい、無頓着な面を見せる。
千種がいるから、などと先日はほざいていたが、いざとなっても何もしないような気がしてしまう。
まぁ、吉良の経済状況を考えたら、やっていけなくはないのだろうが…。
これまでも作りおきやら買いおきで誤魔化してきた自分もあまり強くは言えないが、少しくらいできるようになってほしいものだ。
「仕事はあんなにできる人なのにね~」
一人でいる時間が多かったせいだろうか、誰もいない空間に話しかけるのもお馴染みの光景となった。
聞かせられない内容もこんな時にはポロポロと零れてくる。
「あーっ、風呂掃除しなきゃー。あー、もうっ、吉良~っ」
思いついた途端に発されてしまうのはもう性分なのか。
休日ぐうたれて過ごしたおかげで、すっかり溜まった家事である。
正確には”連日”を投げ出した吉良と言うべきか…。
恨みがましい思いも混じって普段は聞かせられないような声が響くのと同時に玄関ドアの開く音がした。
玄関からまっすぐに入ってくるリビングダイニングなのだが、さすがに外まで聞こえるような声は出していない。
「ただいま。…さっき呼んだ?」
「へっ?…まさか…」
帰宅早々一番の質問に少々戸惑う。この人の勘も時には恐ろしい。
今日は意外と早い帰宅だな、と気付いたのもその後だった。
まだ夕食の準備が揃いきれていないのは、キッチンに立つ千種の姿で分かるだろう。千種も帰りが遅かったのだと。
二人が同じような時間に帰宅する日もあるのか…とふと思いながら、このチャンスを生かさない手はなかった。
「ねぇ、吉良。ご飯、まだ時間かかっちゃうんだけど…」
「あぁ、いいよ。先に一杯やってるから」
「……そうじゃなくて…。お風呂掃除してきてほしいんだ…」
座らせたら最後だ。あの重い腰は上がらない、と千種は内心で呟く。
千種も働いてきた。今も家事をしている。片方だけ先に休まれるのは納得がいかない。そここそ、『家事分担』だ。
などと思っていると気付くのか、一瞬の沈黙があったが、理解したように吉良が一つの溜め息を吐き出して了承した。
「分かったよ。風呂掃除は俺の担当。それでいいんだろ?」
「別にそこまで言わないけど…」
一応控え目に答えてみて、上目遣いに吉良の反応を伺う。
千種のことを思っても、嫌な顔はされなかった。
もともと”分担”は吉良が言い出したことだし、今現在も動き続ける千種の姿を見ては断れないものもあるのだろう。
「着替えて、やってくるよ」
廊下へと出ていく吉良の背中を見送りながら、『よっしゃーっ!!』とガッツポーズをした千種の顔は、万遍の笑みに溢れていた。

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そろそろ終わりに近づけるかなぁ。
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コメント

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終わるの?
コメントちー | URL | 2012-03-01-Thu 18:44 [編集]
わーん、もう終わりに近づいてるんですか?
折角、千種の旦那改造計画が始まったのに?

でもね、千種って案外小悪魔ちゃんですね。上目遣いはダメらしいですよ、可愛い子のは。

まあ、このカップルってどっちもどっちかもしれませんね。
吉良さんが家事まで完璧にこなしたら、千種捨てられちゃうかもよー(笑)
Re: 終わるの?
コメントたつみきえ | URL | 2012-03-02-Fri 09:46 [編集]
ちー様
こんにちは。

> わーん、もう終わりに近づいてるんですか?
> 折角、千種の旦那改造計画が始まったのに?
>
> でもね、千種って案外小悪魔ちゃんですね。上目遣いはダメらしいですよ、可愛い子のは。
>
> まあ、このカップルってどっちもどっちかもしれませんね。
> 吉良さんが家事まで完璧にこなしたら、千種捨てられちゃうかもよー(笑)

吉良旦那の改造計画は徐々に進行中です。
まぁ、持ちつ持たれつってところじゃないですか。
上目遣い戦法で攻撃(?笑)
吉良に捨てられる?! まずありえないですね。
つか、その前に吉良、家事しないし。
やってもらって愛情を感じるのが吉良ですから、千種のやる分は残しておきますよ。
「吉良には自分が必要なんだ~」って千種に思わせるところも、なんですが…。
それでやる気を出しちゃう千種も…。
どっちもどっち。うん、当たっていますね。
コメントありがとうございました。

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